バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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第十五回揚げジャーキー猥談バトル

 

「“砂漠の美女亭”では今、竜人娘仕様の衣装を着た子たちがアツい……ッ!」

「――有効ッ! 流石だ、研究を欠かしていないな――!」

「有効判定だぁああああ! お高い店だから知らなかったぜ……!」

「竜人娘仕様……なんていかがわしい響きなんだ!」

「へへっ……! 臨時収入はいくらでもあるんだ……今まで燻っていた分、大きく舞えるってもんだぜ……!」

「くっ、やるじゃないですか先輩……けどね、俺だっていつまでも軟弱な新入りではないんですよ……!? 受けて立ちます! “新店舗「リースの芳香」では金髪の美人さんがノリノリで相手してくれる”!」

「なにっ!? お、俺の店よりも新店舗だとォッ!?」

「――勝者、ロラン!」

「くっそぉおおおお!」

「っしゃあ!」

「――金髪もイイ。ノリノリなのも、さらにイイ……――」

 

 はい、本日も開催されていますいつものやつ。

 “収穫の剣”が中心になってギルドで文字通りの乱痴気騒ぎである。

 

 相変わらず受付嬢や女性陣からは白い目で見られているこのイベントであるが、慣れてきた男性陣の中にはパーティー外からも参加しようという奴がそこそこいたりする。

 まぁ、ちょっとはわかるけどな。男の子はいつだって下ネタ大好きだからよ……。

 

「クロバルも参加しなよ。アタシと勝負しようぜ」

「やだよ! バレンシアこういう話すげぇ強そうだもん! ていうかディックバルトさん絶対バレンシアに甘い判定出しそうだもん!」

「――俺は公正を約束するが――?」

 

 公正なのは自分の下半身に対してであって、発言者で左右されることはすげぇありそうなのは俺でもなんとなくわかるぜ……。

 

「今日もギルドは平和っスね、モングレル先輩」

「平和かなぁこれ。まぁ今はギルド内が戦場と化してるからこっち座っとけよライナ。ほれ椅子」

「あざーっス」

 

 ガシッと椅子を受け取って、ライナはそのまま俺のすぐ隣に着席した。

 ほとんど密着するような真隣である。付き合って婚約を公言してからは、今まで以上にこういう距離感を遠慮しなくなったようである。とはいえ、さすがに恥ずかしいのか人前で甘ったるい雰囲気を出そうとしたりはしないようであるが。

 そうしてもらえると助かるぜ……俺は前世から人前でイチャイチャするのが好きなタイプではないからよ……。

 

「ッカァ~! モングレルがここぞとばかりに見せつけてきやがってよォ~!」

 

 と思ったらすぐ隣に座るのもチャックの中ではアウト判定らしい。

 バトルの司会進行役をやっている最中、新しいエールのジョッキを持って俺達のテーブルまで絡んできた。相変わらず寂しい奴である。

 

「見せつけるも何も、普段とあんま変わんねえだろこれ……」

「まーたスケベな話やってるんスかチャック先輩……」

「だがよォ……? ケケケ……くっつきたてのお二人じゃあよォ~……こんな大勢がいる場所ではお得意の猥談も披露しにくいよなァ~!? えぇ~モングレルさんよォ~!?」

「わかっちゃいたがやっぱりそういうセコい真似で勝利を掴みにきやがったか……」

「勝ちゃ良いんだぜ勝ちゃァよォ~! あ、ライナはこれ婚約祝いにエール奢ってやるよ、ハイ」

「あざーっス! チャック先輩最高っス!」

 

 良かったねライナ。今度改めてちゃんとお礼するんだぞ。

 

「モングレル先輩、せっかくチャック先輩が誘ってるんスからちゃんと勝負に乗ってあげなきゃ駄目っスよ」

「俺の嫁さんは酒が入ると懐が広いなぁ……」

「くっ、思わぬ後押しが入っちまったぜ……! 敵に塩を贈っちまうとはなァ……!」

「贈ったのは完全に酒だったろ」

 

 まあいいさ。俺もジャーキーの揚げ物はちょっと気になってたしな……。

 席を立ち、こちらもエールを一杯注文する。この勝負はシラフじゃやってらんねえからな……。

 

「ヘヘ……準備はできてるようだなモングレルさんよォ……! だがなァ! こっちは臨時収入で色々な店を巡ってきたんだ! このチャック様を今までと同じだと思ってると火傷するぜェ!?」

「感心するほど様式美をなぞっていくお前には一周回って敬意すら覚えるよチャック……せめて苦しませずにふっ飛ばしてやるよ」

「――えっちな意味でか?」

「えっちな意味ではないです」

 

 俺とチャックがテーブルを挟んで立ち、向かい合う。

 こうしてチャックとバトルを繰り広げるのも、今日で何度目になるだろうか。

 こっちも今まで様々な下ネタを披露してきたが……まあなんというか、いい加減こっちもネタ切れ気味ではあるんだよな……。

 近頃はこの場に立ちながら“何話そう……”みたいに悩むことも多くなってきた。

 スケベ伝道師の教えも無限ってわけではないからなぁ……。

 

「今回のモングレルはどんな猥談を披露するんだ……?」

「ライナちゃんと婚約したんだろ……? この場にライナちゃんがいる前でいつもみたいにスケベ伝道師秘伝の奥義を出せるのか……?」

「さすがに今回ばかりはモングレルも全力を出せまい……俺達は目撃するのかもな、巨星が落ちる瞬間を……」

 

 オイオイ、外野も随分と失礼な盛り上がり方をしてくれるじゃねえのよ。

 巨星墜つだぁ? 俺も随分と甘く見られたもんだな……。

 

「ぼーっとしやがってよォ! だったら先攻はいただいていくぜ!」

「チャックさんの先攻だ! 一気に決めるつもりだぞ!」

「さすがチャックだ……先攻を握った時のチャックの勝率は……いや、勝率はともかく先攻を取ったチャックの勢いは凄まじい。これは大番狂わせを見せてくれるかもしれないぞ……!」

 

 うかうかしてたら先攻取られたけど、これやっぱりあんま勝敗に関わらないよな……?

 

「いくぜッ! “「金杯の蜂蜜酒」では湯船の中で女の子とスケベが楽しめる……! しかも風呂上がりの女の子は超可愛く見えて二度楽しい”……!」

「――有効ッ! チャックよ……お前もついに高級店に足を踏み入れたか……!」

「うおおおお! 最高級店じゃねえか! すげぇ!」

「ディックバルトさん以外はなかなか手が出ないグレードなのに……思い切りやがったな、チャックの野郎……!」

「――風呂上がりの女の子は、イイ……――」

「あ、その店俺行ったことあるやつじゃん」

「モングレルは風呂入っただけの店だろうがよォ~! よくあんな高い店で風呂入るだけで我慢できたなテメェ~!」

 

 “金杯の蜂蜜酒”は俺が昔風呂入るためだけに入った風俗店である。

 内装も綺麗だし風呂もなんかフローラルでね……じっくりと身体と頭を洗って物思いに耽って終わったやつである。

 いやまぁ女の子も可愛かったけどね……あわよくばとは考えてたけど、いざ入ってみるとそん時はなんかそういう気分にはなれなくてね……。

 

「ヘヘヘ……天下のスケベ伝道師も風呂まではカバーできねえだろうがよォ~……! 小細工なんて必要ねぇ! 高級店で真正面からぶっ潰す! それが王道ってもんだぜェ~!」

「なぁ、これって……」

「ああ……」

「チャックの勝ちだ」

 

 レゴールでも最高級の店を引き合いに出したゲージ技のブッパに、観客は既に勝負の決着を予感しているらしい。

 こいつら今まで俺とチャックの勝負の何を見てきたんだよって感じではあるのだが、まぁそれもまた高級店というブランドが生む力なのかもしれない。

 

 ……だが、ぬかったなチャック。

 

「俺はさっきまでずっと、どう戦ってやろうか悩んでいたんだが……チャック、お前のおかげでようやく決まったよ」

「ぁあン……?」

「風呂には風呂で対抗してやるって話さ……」

「な、なんだァ……? さっきから、何を言って……」

 

 “スケベ話”、そして“風呂”。

 なんともまぁ……日本人好みの舞台を用意してくれたもんじゃねえか、チャックさんよ。

 

「なあチャック……一体いつから、“スケベ伝道師は風呂プレイをカバーしていない”と錯覚していた?」

「なッ!? う、嘘だ……! そんな、そんなわけがッ……!?」

 

 ライナに酒をくれた礼だ。

 せめて楽に逝かせてやるよ。

 

「“嬢の身体と石鹸を使ったぬるぬる洗体プレイ”」

「かはッ……な、これは……!?」

「――有効」

 

 一の太刀で敵の動きを奪い、

 

「そして……“湯船の浮力で男の下半身を浮かび上がらせながらのプレイ”……がなんかすごくいいらしいよ?」

「――勝者ッ、モングレルッ!!」

「ばかなぁああああああああああッ!?」

 

 二の太刀で獲物の首を刈る。

 

 チャックは離れた場所に用意された荷物のクッションに吹っ飛ぶと、そのまま跳ね返ってこっちのテーブルの下に勢い良く倒れ伏した。

 哀れだなチャック……お前は自分の用意した戦場に殺されたんだよ。

 

「チャックさんが……高級店が負けたぁああああ!」

「ただ風呂に入るだけじゃなくて、風呂でのプレイだなんて……!」

「――洗体、そして浮力を用いたご奉仕……どちらも素晴らしいものだ――しかし、こればかりは実際に体験した者でなければ至ることのできない至高の領域……モングレルよ、やはりお前は――」

「え……そうなんスか先輩……?」

「いやいやいやスケベ伝道師から聞いただけだから。何もかも全部スケベ伝道師の受け売りだから。はいライナ、揚げジャーキー勝ち取ったからつまみに一緒に食べてみようぜ」

「あざっス! ゴチっス!」

「どれだけ幅が広いんだスケベ伝道師……まさか風呂でのスケベまで網羅してるだなんて……」

「いや、そのくらいの幅の広さ、そして経済力でなければむしろスケベ伝道師に至れないんじゃないか……? 俺は改めて考えてみて、逆にしっくりきたぜ……」

「なるほどな……スケベ伝道師はスケベ以外にも精通してる存在ってわけだ……」

「きっととんでもねえ金持ちで、知識層なんだろうぜ……でなきゃ辻褄が合わねえよ……」

 

 なんかみんなの中で架空のスケベ伝道師に対する解像度が上がっているが、こっちはどうにかライナのご機嫌を取り戻すことができた。

 揚げジャーキー、初めて食うけどどんな味だろな。いただきまーす……あ、わりと美味いわ。なんか前世のアレ思い出すね、裂きイカの天ぷら。あれほど美味いわけではないけどジャンク感が悪くないわこれ。

 

「モングレルさんヤバ。なんか超詳しいじゃん。今度アタシもやってみよっかな」

「クランハウスの風呂ではやめてくださいね!?」

「掃除するなら良いよ」

「やった! 団長大好き!」

「いやそもそもクランハウスに他所の方を入れるのはやめてくださいよ……防犯上困るので……」

 

 “若木の杖”も風呂あるんだよな……良いよなぁ風呂。風呂の話してたら風呂入りたくなってきたわ。

 夏の間に“アルテミス”の風呂チケットを綺麗に使っておかないとな……。

 

「しっかしスケベ伝道師って……このギルドじゃなんかよく耳にするけど、結局何者なんだろうなぁ。みんなが言うには妙齢の物知りスケベな女性だって話だけど」

「え……ク、クロバルさん気になるんですか……?」

「噂じゃ貴族の人も探し回ってたって話じゃんか。実際にどんな人なのかは気になるよ俺。……いや、いかがわしい意味じゃないぜ!?」

「僕もそういう話には全然興味ありませんけど、やはり知識層なんじゃないですか?」

「知識層といえば、レゴールにおいてはケイオス卿ですよねぇ」

 

 そしてうかうかしてたらこっち側のテーブルにまでスケベ伝道師の話が飛び火してきた。

 ケイオス卿に掠るの本当にやめてください。

 

「もしかしてスケベ伝道師とケイオス卿は同一人物じゃないんスか?」

「コラッ、ライナ! ケイオス卿に失礼だぞそれは! ケイオス卿のブランドに傷が付いちゃうだろ! そういう言いがかりはやめなさい!」

「えっ、はい」

「ははは」

 

 おいサリー笑うな! ケイオス卿が誰かわかってるからって笑うんじゃないよ!

 あと一口つまんで合わなかったからって食べかけのジャーキーを皿に戻すんじゃねえよ! 一本くらいちゃんと食い切れ!

 

 




2026/6/26に漫画版「バスタード・ソードマン」4巻が発売されます。
超豪華なページ数にサリーの描き下ろしエピソードもついてくるおすすめの一冊です。
店舗特典も後々発表になるかと思いますので、全裸でお待ちください。SS付きとか特典漫画付きとか色々ありますよ。

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