バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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狩人たちの散歩

 

 一緒に森デート……なんか浮わついた空気は開始一時間ほどで霧散した。

 

「ギャッギャッ」

「先輩、ホブゴブリンっスよねアレ」

 

 小川沿いに歩いている途中で、ゴブリンの集団と遭遇したのである。

 せっかくの綺麗な剣が開始早々に汚れることが確定した瞬間であった。

 

「体格がちょっと大きめだし、ホブかもな。二、四……六体か」

「なんか獲物仕留めたのを全員で食べてるみたいっスね」

 

 ゴブリンたちの小集団は川辺の一角に固まり、クレイジーボアらしき中型魔物の死体を漁っているようであった。俺とライナは林の奥から先んじて発見することができた。距離は三十メートルってところかな。川沿いは拓けてるから索敵しやすくて助かるぜ。水場だから獲物との遭遇率も高いしな。

 ……まぁゴブリンと遭遇したところで、食いようがないからあまり嬉しくはないんだが。見つけたからには討伐しなきゃならない。

 

「まずはライナに撃ってもらって減らしてもらうか」

「っス。スキルを使えばこの位置なら……一射で二体()れると思うっス」

「すげー……じゃあ俺は気付いたゴブリンに駆け寄って仕留めればいいか」

「あ、でも多分一射だけじゃ位置バレないかもしれないから、二射目もいけるかも。気付かれるまではここで息を潜めているのが良いんじゃないスかね?」

「そういうもんなのか……じゃあそれでいこう」

 

 ライナ主導の作戦が決まると、ライナは矢筒から三本の矢を取り出して、足元の藪に置いた。次弾をあらかじめ取りやすくしているのだろう。

 

「遮蔽はあるんで、撃ったら隠れるようにするっス」

 

 一本の矢を弓に番え、構える。……この狩人をやっている時のライナの真剣な表情は、普段より随分と大人びて見えるから不思議だ。

 

「“照星(ロックオン)”……“貫通射(ペネトレイト)”」

 

 照準を合わせるスキルと、貫通力に優れた射撃スキルが続けざまに発動する。

 静かに放たれた矢は風を切り裂いて、川原の死体を漁る無防備なゴブリンの後頭部に到達した。

 

「ブギャッ」

「ギェッ!?」

 

 一体のゴブリンは背後から喉を貫かれ、弓矢はそのまま勢いを落とさずに向かい側のゴブリンの心臓に突き刺さった。

 

「ギャッ!?」

「ギャギャッギャッ!」

 

 一体は即死。心臓に刺さった方も長くは持たないだろう。ゴブリンたちは仲間の突然の死に慌てふためき、周囲を強く警戒しているようだ。

 顔を出せないから気配を探る程度しかできないが……こちらに走り寄っている様子はない。だったら大丈夫だ。居場所が割れていなければ二射目もいけるだろう。

 

「こういう時シーナ先輩だったら隠れたまま曲射で狙えるんスけどねぇ……」

「チーターじゃん」

「なんなんスかそれ……よし、そろそろ撃ってみるっス。今度はバラけてるんで一体、強そうなホブを狙うっス」

「任せた。そしたら俺は後詰めだな」

 

 バスタードソードを準備し、すぐに飛び出せるよう構えておく。剣が汚れるのは嫌だが、ライナの安全のためには仕方ない。生き残ったゴブリンたちは速やかに処理しておこう。

 

「穿て……“貫通射(ペネトレイト)”!」

 

 再びライナがスキルを発動させ、凄まじい速さの矢がゴブリンを貫いた。

 頭部を破壊された大柄のゴブリンは声を出すこともできず、そのまま派手に倒れ伏す。

 ライナの弓は速度もそうだが、正確さが驚異的だよな。最近のライナが矢を外しているところ全然見てない気がするわ。

 

「ギャッギャッ!?」

「ギィイッ!」

 

 さすがに二射目ともなればゴブリンたちも出どころに気づくようで、生き残りの三匹がこちらに向けて吠え始めた。

 俺はライナが見つかる前に、自分から茂みを抜け出して川の前へと躍り出る。あわよくばこのまま注意を引きつけて、もう一体くらいライナに仕留めてもらえるかもしれん。

 

「ようゴブリンども。今の狙撃はな……俺がやったんだぜ!」

「めっちゃ嘘ついてる……」

「ギャッギャッ!」

「ゴブリン相手でも手柄を取られてるみたいで複雑っスね……良い隙ができてるけど……」

 

 ゴブリンたちは仲間の仇討ち……なんて考え方はしないだろうが、各々棍棒を持って襲いかかってきた。

 俺もライナの射線に入らないよう、ついでに川を汚さないように森側からやや回り込み気味に近づいていく。

 

「お前らが見つけた獲物、どこらへんにいたのか教えてくれよ。俺等もそこで狩りすっからよ」

「ギャッギャッ!」

 

 棍棒を持ったゴブリンが突撃してくるが……子供みたいな体格のゴブリンと剣を持った人間とでは、そもそもリーチの差が大きすぎる。

 

「まず一匹」

「グギッ……!?」

 

 強く踏み込んで頭部に鋭く一突き。レイピアのように突き出した切っ先はゴブリンの額から脳を破壊し、速やかに絶命させた。

 

「今日のテーマは“洗い物上手”だ。なるべく先端だけ使って、手入れの手間を省いてやるよ」

「ギャギャギャァッ!」

「舐められてるのはなんとなくわかってんのかね?」

 

 二体目のゴブリンもやってきたが、今度は棍棒を狙ってバスタードソードをぶつけ、斬りながら抉る。

 

「ギッ!?」

 

 するとバスタードソードに絡め取られたように棍棒がゴブリンの手を離れ、地に落ちる。盾持ち相手に強引にやる技だけど、棍棒相手でも結構やれるもんだな。

 

「ほい、二匹目」

「ガッ……」

 

 武器を失ったゴブリンの脳天も同じようにサクッと刺して、終わり。

 

「ギャッ!?」

「わーお、ナイッショー」

 

 最後に残った三匹目は、ライナの矢に仕留められたのであった。

 数はそれなりに多かったが、終わってみればかなりスマートにいったんじゃないだろうか。

 

 

 

「ゴブリン相手だったら二回目のペネトレイトはいらなかったっスね……スキルの無駄遣いしちゃったっス……」

「そう落ち込むことでもないんじゃねえの? しっかり確実に仕留めたってことだろ?」

「いやー。ゴブリンには別に必要ないんスよ、火力スキルは。二体抜きしないならロックオンだけで仕留めるのが一番だったっス。ちょっと反省っスね……」

「一人で反省会までやるなんて真面目な奴だな……“アルテミス”ってそういう感じなのか?」

「結構そうスね。戦いぶりを後から振り返って、良い動きと悪い動きをしっかりおさらいしとくんスよ」

「そいつはすげぇや。ライナも腕前が上がるわけだぜ」

「えへへ……」

 

 ゴブリンの死体を適当に処理してから、探索を再開する。

 元々ゴブリンという魔物はかなり無軌道でパターン化が出来ないタイプのやつらなので、この辺りに居たのがスタンピードの影響かどうかはわからない。

 持ち物も人間由来のものはなかったので、ただ偶然あの辺りをうろついていたゴブリンだったのだろう。

 

「下草と樹皮を齧った痕は残ってるんスけど、糞や足跡はちょい古めっスね。チャージディアを探すならもうちょっと奥側かもしんないス」

「ボアはいるかね」

「クレイジーボアはまだちょっとわかんないスね。今んとこいない……と思うっス

……全体的にスタンピードのせいか、古い荒れた痕跡が多くて難しいんスよね」

 

 バロアの樹木は成長が早いので、意外と外皮の食害による痕跡判別がしやすいのだとか。

 一から十まで何を言ってるのかわかんねえや。ハハハ。

 

「おっ、人だ。ギルドマンだな」

 

 なんてことを言ってると、森の中でギルドマンに遭遇した。

 数年前によそからレゴールに移籍してきた、小規模でパーティーを組んでる三人組だな。何度か酒場で話したこともある相手だ。

 向こうもこちらに気付いたようで、軽く手を上げた。

 

「よう、モングレルか。そっちはライナちゃんだっけ」

「うぃーっス。どうも、ライナっス」

「優秀な弓使いと一緒に食える奴を探してるとこだぜ。俺等はさっき小川でゴブリンを六体ほど仕留めたんだが、そっちはなんか見つけたかい?」

「こっちはフレアラットの巣穴を潰してきたとこだよ。耐火性の毛皮が二枚……これだけだと赤字だから、もう二、三見つけてってところだな」

 

 フレアラットは背中に発火する腺を持つドブネズミ大の魔物だ。

 炎はオマケ程度だが、逃げ足が早くなかなか捕まえられない魔物である。毛皮には耐火性があるので、作業用手袋の素材として珍重されている。

 ちなみにすばしっこすぎるので俺はほとんど捕まえたことがない。

 

「まだ森の中は荒れ気味だから気をつけていけよ、ライナちゃん」

「あざーっス。そちらも気をつけて!」

「またギルドでな」

 

 顔を知ってる相手だと森の中で遭遇しても安心だ。

 これが全く知らない相手だと結構緊張するんだよな。ワンチャン盗賊かもしれないから。

 

「フレアラットかぁ……罠も稼げそうではあるんスよね」

「そういや“アルテミス”はそんなに罠使わないんだっけな」

「使わないってほどでもないスけど、メインじゃないっスねー。ウルリカ先輩は色々手を出してるんで、たまに仕込んでるみたいスけど」

「ウルリカは器用だからなぁ」

 

 俺は本当に目立たせないと罠を設置した場所を忘れるから苦手だ。というか普通にバロアの森の奥地で何個かロストしてるしな。盗まれたとかじゃなく普通に設置したまま失くした。高かったんだが……。

 

「……そうだ、じゃあ今回は鳥用の罠でも仕掛けてみるか? そのくらいなら大げさな道具もいらないし、すぐに作れると思うぜ」

「いいんスか! 楽しそうっス!」

「獲ったらいけない鳥も多いから、殺傷能力のない罠じゃないと駄目だけどな」

「あ、結構そういう決まり厳しいんスね」

「鳥はなぁ。なんでかなぁ」

 

 お国柄というか、ハルペリアだけじゃなくお隣のサングレールも鳥類に関しては結構厳しい。というより丁重に扱っている印象がある。

 それにも歴史的、文化的な経緯があるんだろうが……一介の庶民にはわからないことである。

 まぁ、獲っちゃいけない鳥を獲らないようにだけ気をつけておこう。

 




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