バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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小さな結婚計画

 

 森での狩猟はさっさと終えて、俺たちはレゴールに帰ってきた。

 ライナの身体を労って、一日ほど長めにとってからの帰宅である。すまねぇライナ……。

 とはいえ、恥ずかしがったり不満そうな顔をしていたのは最初だけで、それ以降のライナはずっと上機嫌そうであった。

 

「むふ……また今度、次は先輩も弓持ってきて一緒に狩りしたいっスね!」

「弓かぁー……そうだな、またライナから教わるかぁ」

「あんましやる気なさそうな返事っス!」

「いやいや、やる気はあるんだよ。それなりにさ……」

「なんか最近はチャクラムとダートで済ませておこうって日が増えてる気がするっス!」

「良い観察眼してるなぁ……さすが“アルテミス”の有望株だぜ、ライナ」

「褒めても笑顔しか出ないっスよ」

「笑顔は出るのか……」

 

 猟の成果は微々たるもので、結果としては持ち出しの食料の分赤字ってことになる。

 だが久々にじっくりと二人きりの時間を過ごせたのだから、良い遠征だったと言っていいのだろう。

 続きがあるとしたら、それは街でだな。

 

「……家の工事が終わるの、待ち遠しいっスね」

「だな。相当力入れてやってくれてるらしいから、今度様子でも見に行くか。差し入れでも持ってさ」

「あー、良いっスねぇ」

「そんで家の近くをブラっと散策してみて、どっか店見つけたらそこで飯でも食おうぜ」

「楽しそうっス!」

 

 ……しかしこの上機嫌なライナがクランハウスに戻っていったら、“アルテミス”の皆には一発で何かがあったってバレるんだろうな……。

 仕方ないこととはいえ、さすがにちょっと気まずいぜ……。

 

 

 

「モングレルが結婚か……まさかまさかの、だな」

「若い子捕まえたんだろ。良かったじゃねぇか。女は若いのに限るからな」

「ジョスランさんは相変わらずデリカシーに欠けてんなぁ……腰の調子が悪いのもそのせいかい?」

「うるせえ、本当に痛えとそんな気も起きねえよ」

 

 街に戻って早々、俺はレゴール在住のおっさんたちと酒を飲んでいた。

 製材所のトーマスさんと鍛冶屋のジョスランさんである。同業のギルドマンというわけではないが、何年も前からお世話になっている人たちだ。こういうところでも結婚報告はちゃんとしておかなければならない。あわよくば酒も奢ってもらえるからな!

 

「俺んとこは製材所だし、ジョスランとこと違ってギルドマンの客なんてのも来ねえからな。ライナって子も見たことねえ。どんな子だよ」

「なんかこう、子供みたいに小さい子だよ。見た目はな」

「そういう趣味か? 意外だな」

「話とか波長の合う相手がたまたまちんまりしてただけさ。ああ、あと酒も強いぞ。俺達三人にライナ一人で飲み勝てるくらいには強いんだ」

「化物じゃねえか」

「俺より強いのか……とんでもねえ女を嫁にしたなモングレル……」

 

 それだけ聞くと確かに畏怖の対象ではあるが……ジョスランさんも結構飲めるしな……。

 

「式は神殿か?」

「いや、あんまり本格的なもんじゃないんだ。ギルドマンはギルドで格安でやってもらえるんでね、そこに神官さんを呼んでもらって、お祝いの食事と酒を振る舞って……みたいな軽い感じだよ。ギルドマンたち中心に祝ってもらうのさ。どうしてもギルドマンって故郷から離れてやってきてる人らが多いからさ、自然とそういう繋がりができるんだ」

「そう言われてみると、そうか……けど俺らみてぇなギルドと関係ない奴は入れねえのか? モングレルの祝いの席なら俺も顔出したいぞ」

「酒場に入れるくらいは……といっても、限界はあるからなぁ。ギルドの偉い人に聞いたところによると、十人か二十人ってとこかね。……でもそれ自体はギルドマン中心でやるお祝いみたいなもんだから、悪いけどそっちはジョスランさん出ないほうがいいよ。マジでギルドマンばっかりだからさ。ジョスランさんらはまた別の機会にお祝いしてくれよ。そん時はまた別にちゃんとしたのやるからさ」

 

 ギルドにやってもらうパーティーは酒場を活用したあくまで最低限のものであるため、外部から大勢の人を招くのは少し難しい。俺の場合はジョスランさんの他にも色々知り合いが多いからな……ジョスランさんだけってわけにもいかないし、難しいところなのだ。

 だから今回は申し訳ないが、ギルド関係者に限定してやらせてもらうことにする。街の人々とは、別の日にデカい飲み会をやって祝ってもらうつもりだ。

 

「モングレルよ。ライナちゃんの……向こうの家の人間とは話したのか」

「いいや。向こうも訳アリでね。そもそも故郷が嫌で出奔してきた子なんだよ。挨拶に行ったらそれだけで反対されるだろうし、家の都合で強引に歳の離れた男とくっつけられそうになってるから、ライナも絶対に呼びたくないってさ」

「なるほどな。モングレルは……家族はいなかったか」

「いないいない。だからひっそりとで良いんだよ。仕事関係の、ギルドマンたちに祝って貰えればそれで良しだ」

「そうか。そういうことなら難しいことはねえな」

 

 俺ももう何度もギルドの酒場で結婚式を目にしているので、内容は完璧にわかっている。いつもよりほんの少しだけギルドの皆がおめかしして、良い食事が出て、ちょっとだけ良い感じの吟遊詩人が来る。いや吟遊詩人は誤差だわ。

 ギルドの酒場はいつだって賑やかなもんだが、そういう祝い事がある日は特に明るく盛り上がるものだ。

 

「……ふん、それじゃあ俺らが何もしないままってわけにはいかねえな。新築祝いも兼ねて、ちょっとした家具の一つでも作ってやるか」

「え、マジで」

「俺だって金物の一つや二つ、良いもんくれてやるぞ」

「おいおい……え、いいの?」

「こういう時くらいはな。別れても二度目は作ってやらんぞ」

「祝いの鋏でも作ってやるよ。なに、色々世話になってる礼も込みでな」

 

 ……結婚。するのは俺も初めてだからな……わかんねえや。こうして祝ってもらえるのもなんか、不思議な感覚だ。

 

「……ありがとう。嬉しいわ」

「おい見たかジョスラン、モングレルの顔」

「見た見た」

「え、なんだよ」

「こいつ初めて“三十歳です”みてえな顔しやがったぜ」

「ガッハッハ! ジジイだと思ってたが、こういうとこはまだまだ小僧だったかモングレル!」

「おい正真正銘俺は三十一……あ、もう三十二だったわ……」

「落ち込むなよ小僧。お前はまだ若ぇよ」

「結婚前のまだまだこれからのガキだろうが。老け込んでる場合かよ。忙しくなるぜぇ、これからは」

 

 ……人生の年長者はこういう話題の時はイキイキしてんなぁー……。

 まあ、事実初めての結婚だし、しょうがねえけどさぁ。

 

 

 

 

 

「ただいまーっス!」

「あら、ライナ……随分と嬉しそうにしてるわね。……モングレルと一緒の狩りだったけど、何か良いことがあったのかしら」

「えっ!? ええー……いやぁ、なにかっていうとぉ、なんていうこともなくもないんスけどぉ……えへへ……」

「……今回は詳しくは聞かないでおくわね」

 





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