バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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貸し切りの披露宴

 

 結婚式の後といえば、初夜である。

 この世界でも“男女が結婚したならやることやるに決まってるだろ、さっさとやれ”という考えが一般的なので、一通り祝われた後の男女はやることをやる。

 とはいえ、それは貴族などのかっちりした家柄の人らの話だ。庶民の結婚においてはそこまで厳格な決まりはないし、式で疲れたり飲みすぎたりでしんどいからパスということも珍しくない。

 何より俺とライナはもう既に初夜を済ませてるのでね。必ずしも結婚式の後にやる必要はないのである。

 

「むふ……」

 

 で、今は朝だ。

 ライナ? ライナは俺の隣で寝てるよ。二人とも裸でな!

 

 じゃあさっきの前フリなんだよ? やることやってんじゃねーかだって? そりゃそうさ。新婚さんともなれば燃えるのさ……。

 

「……賑やかで、良い式だったな」

 

 幸せそうに眠りこけるライナの青い髪を撫でながら、昨日の夜を振り返る。

 結婚式ではライナの希望で樽酒が用意され、ギルドマンたちはドチャクソ大量の酒によって泥酔した。

 主役のライナが一番ガブガブ飲んでいたんじゃないだろうか。それと競おうとしたギルドマンたちが何人も潰されたのを覚えている。多分今ギルドの辺りに行けば路上で寝込んでる奴が何人かいるんじゃないだろうか。凍死していないことを祈りたい。

 

 酒だけでなく、皆が俺等の結婚を祝福してくれたのは……やっぱり嬉しかったな。

 ライナの弓使いの後輩たちも泣きながら祝福してくれていたのを見た時なんかは、我がことのように嬉しかったね。ライナも先輩として慕われるようになったんだなぁって……嫁さん相手に我が子の成長を喜ぶ気持ちになっちまったよ。

 俺はレゴールのギルドで働いて長いから、顔知ってる相手もかなり多いもんだけど、こうして二人の知り合いを並べてみると、お互いにまだ知らない相手ってのは多いんだなと、変な感動も覚えた。

 慣れ親しんだ自分のホームにも、まだまだ知らん顔はいるもんだね。

 

 ……ライナは年数的にはまだまだベテランってほどではないから、これから俺と一緒に活動する中で、どんどん知り合いや友達の数を増やしていってほしいと思う。

 家族から離れてレゴールに根を張って生きていくんだ。仲間と呼べる相手の数は多ければ多いほど良いだろう。

 

 そして今日は、昨日のギルドでの式に来れなかった町の人を集めての披露宴みたいなことをやる日である。

 ギルドの式は収容人数の関係でそれ以上呼べないんでね……今日のは今日ので、レゴールにいる俺の知り合いを中心に集めたお食事会みたいなもんを行う。そこで、俺の知り合いにライナを紹介できたらいいなと思っている。

 俺の嫁さんはこれこれこういう人だよって会話を一括で済ませる会ってわけだ。ライナもいっぺんに人を紹介されたら顔と名前を覚えていられないだろうが、挨拶と顔見せだけはやっといて損はない。

 

「んん……ふぁあ……あれ、モングレル先輩……おはざス……」

「おはよう、ライナ」

 

 手櫛で前髪を整えてやっていると、ライナが目を覚ました。

 幼さを感じる小柄な嫁さんではあるが、ライナの眠そうに細められた目はどこか色っぽい……気がする。

 

「……起きたら知らないベッドで、モングレル先輩がいて、ちょっとびっくりしたっス」

「わかる。しばらくしたら慣れるのかねえ」

 

 結婚式の後、俺らはついに住居をこちらの新居に移した。

 内装工事もほぼ終わったので、ついに新生活を始めようとなったのである。

 氷室には氷が全く無いし、風呂の工事もあともうちょっとってところだけどな。つまり一番欲しい施設たちはほとんど使用できないってことだ!

 それでもベッドなどの必要最低限のものは整ったので、今はこうして二人でベッドに入っているわけだ。

 まあね、男女なんてのはね、貧しくてもベッドさえあれば満足できるのさ……。

 

「……明るいとちょっと恥ずかしい」

 

 シーツを手繰り寄せてあざとく胸元を隠すライナだったが、逆に俺はそういう恥じらう態度取られる方がグッと来るんだよな……。

 

「悪い悪い。じゃあ、そろそろ起きて準備しようぜ。今日はまた別の酒場でお祝いだ」

「ちょっと緊張するけど……楽しみっス!」

 

 そういうわけで、今日も頑張ってやっていきましょうかね。

 あんまり酒飲めねえから大変だわ……。

 

 

 

 今日の披露宴が行われるのは、南門側に新しくできた“ブルーノの酒場”という、わかりやすい名前の酒場である。

 レゴールの衛兵だったブルーノが辞めた後、まとまった金で祖母だか祖父から受け継いだ家を改装して開いた店だ。

 衛兵だった頃はたまに酒場で一緒に飲むような仲で、その度に“俺が店を開くなら”と自分の酒場を開く夢を語るような奴だった。

 で、最近になって念願の酒場を作ったはいいものの、宣伝不足だったり開店当初は仕入れも不安定だったりが続いたせいで、いまいち客入りが良くないそうなのである。

 そこで俺が声をかけて、結婚式の後日の披露宴を貸し切りでやりたいからちょっとお安くならん? と交渉を持ちかけたところ、宣伝にもなるし大助かりだと快諾してくれた。

 

 店内は広くてテーブルも多く、収容人数は多い。それに加えて樽酒、奮発して買ったウイスキー、燻製したチーズ、“アルテミス”からはお祝いにクレイジーボアを二頭まるごともらったりと、豪華な飲食物も揃えてある。

 ギルドマンにとってはボア肉はそんなに珍しいものでもないが、町の人にとっては魔物の肉はそこそこ珍しいので、楽しんで貰えると思う。ギルドマン夫婦らしい食事を提供できて何よりだ。

 

 披露宴は夕時に始まった。

 酒場には普段より多めに明かりが灯され、食事の準備もどうにか間に合って準備万端。

 町の人らは忙しい人も多いけど大丈夫だろうかと心配していた俺だったが、杞憂だった。

 参加者は次から次へとひっきりなしにやってきたのである。

 

 

「おめでとう、モングレル。早速来たぞ」

「ウフフ……私たちは隅の方に固まるとしようか。結婚おめでとう、モングレル」

「モングレル殿、おめでとうございます。今宵の宴は楽しくなりそうですね……フフフ……」

「おう、三人ともありがとな。今日は楽しんでいってくれよ。レゴールの人らばかりだから、遠慮することはないぜ」

 

 カテレイネたち旧知の三人組は一番に来て、隅っこのテーブル席に陣取った。

 昔なじみではあるが、レゴール在住の人間ではないのでちょっと居心地は悪いかもしれないが、悪い奴はいないのだ。少しは街の人らとも交流しても良いと思うぜ。

 

「おうモングレル、結婚おめでとう。……話には聞いていたが、本当に小柄だな。ライナだったな、おめでとう。二人とも仲良くやりな」

「結婚おめでとう! うわーライナちゃん若くて可愛い! モングレルさんやるねぇ、このこの!」

「うっス! あざっス!」

「ありがとう、ジョスランさん。ジョゼットもありがとう。良い嫁さんいただきましたよ」

「えへへ」

 

 鍛冶屋のジョスランさんとジョゼット。

 

「おめっとさん。テーブルはどうだい」

「最高だよトーマスさん。あれ絶対たっけぇやつでしょ」

「カウンターくれた人っスか! あざーっス!」

 

 製材所のトーマスさん。

 

「ようモングレル、非番だから来てやったぞ。ライナもおめでとうな」

「マヌエル、来てくれたのか! 忙しいのに悪いね、ありがとう。ライナ、ほらマヌエルだ。門番やってる……ヘルムないとわからないか?」

「あっ! ほんとだ門番さんっスね! あざっス!」

 

 門番や衛兵の知り合いも何人か来てくれた。

 これで酒場で事件があっても大丈夫だな! いや非番だからそうはならんか。

 

「良い嫁さんもらったじゃねえかモングレル……ほんとに若いなあ」

「ライナ、こいつはユースタス。雑貨店の店主だ」

「あっ知ってるお店っス!」

「生活雑貨、消耗品がご入用の際にはどうぞご贔屓に、なんてな。今日は二人を祝わせてもらうぜ、おめっとさん」

 

 ユースタスは普段あまり着ない礼服をだらっと着ながらエールを飲んでいた。

 

「おめでとうね、モングレルさん!」

「おめでとー!」

「おめでとう! ……ライナさんって本当に若いわね!」

「おめでとうございます!」

 

 スコルの宿の女将さん家族に、今日は別の家に嫁入りしたジュリアもやってきてくれた。

 宿屋の家族とは長年付き合ってきた仲だから、祝福の言葉もより沁みるね……。

 ……それにしても、わかってはいたがライナを見た第一声がだいたい“若い”ってのはこう、見慣れたギルドマンとは違ったリアクションで面白いな。

 

「ぬふふ、遅れてすみませんモングレルさん。お菓子が焼き上がりましたので、お持ちしましたよ……!」

「おおケンさん来てくれてありがとう! すげぇいい匂いだな!」

「超美味しそうっスね! 豪華っス!」

「祝いの席において私の菓子を超えるような縁起物はほとんどありませんからねぇ。選んで正解で……ああそうだ、お二人とも結婚おめでとうございます!」

 

 ケンさんは少しだけ遅れて、大量の焼き立てお菓子と一緒にやってきてくれた。

 木の実が入った小粒なドラジェが沢山だ。酒場のみんなに振る舞っても余るくらいだろう。豪華で良いね。味も良いからさらに良しだ。お友達価格とはいえ、なかなか良いお値段はしたけどな!

 

「や、モングレル。結婚おめでとう、顔だけ出しに来たよ」

「おーユリアか! 来てくれてありがとうな! ライナ、彼女はユリア。ジェルトナさんの娘さんだぞ。商業ギルドの方に勤めてる」

「え!? ジェルトナさんの!?」

「モングレルは最近商売関係で色々やってるそうじゃないか。これからは付き合いも増えていきそうだ。ライナちゃんもよろしく頼むぜ?」

「う、うっス!」

 

 本当に色々な人が続々とやってくるものだから、ライナは初対面の人ばかりで相当に混乱していることだろう。

 まあ、俺達も食べたり飲んだりしながら休み休みやっていこうじゃないか。

 

「……モングレル先輩、知り合いめっちゃ多いんスね」

「まあな。レゴールに居着いて長いから、それなりにいるさ。……ライナも、友達になれとまでは言わないが、名前を覚えるくらいの仲の相手は増やしておけよ。ギルドマン以外にもな」

「頑張るっス」

 

 ちょっとしたパーティーは夜遅くまで続き、散発的に新たな客が入るなどして、そういう意味ではひっきりなしに人がくる賑やかなものであった。

 俺とライナはずーっと客と話したり、ある程度落ち着いた後は弾き語りやってくれって話になって、ちょっとだけ……せっかくなのでラブソングを演奏したりなんかもした。

 前世ではなんてことのない古いラブソングだったが、そのシンプルさと洗練された曲調が刺さるのだろう。金で雇って呼んでおいた吟遊詩人たちよりも目立ってしまったせいで、詩人たちからはちょっと複雑そうな視線をもらってしまった。ちょっと申し訳ない。

 

 酒場のマスターのブルーノとその奥さんは厨房でひっきりなしに働き続け、それだけでは人手が足りないということで急遽客として来ていたはずの宿の女将さんなんかがヘルプに入ったりなんかして、なんか大変なことになっていた。

 しかし客が大入りして、地元住民たちに店が認知されたので、ブルーノはいつになくご機嫌だったように見える。

 今日ほど客が入ったのは初めてのことだったそうである。

 

 こうして、結婚式の披露宴パーティーも無事終わり、俺とライナの結婚式は無事その全てが片付いたのであった。

 

 いやぁ……楽しかったし嬉しかったけども、死ぬほど忙しいし、色々と大変だったぜ……。

 




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