「イキスギィ! イクイク! ンアーッ! マクラガデカスギルッス!」
「ちょっ、トゥーちゃん! なんて言葉覚えてるんスか!? マズいっスよ!?」
「ケーケケケー!」
朝っぱらからトゥーちゃんは元気全開らしい。昨夜のなんぞを盗み聞きしていたのか、あまり健全でない言葉を覚えてしまったようだ。顔を真っ赤にしたライナに追われている。
「……まあなんだ。同居人も新居に慣れたようで何よりだぜ」
結婚式に披露宴。諸々のイベントが終わった後は、俺の新たな生活が始まった。
人生の墓場というには結婚というのは希望に満ち溢れすぎているが、何も変わらないかというと全然そんなことはなく。新しい住居で新しい同居人と一緒にやっていくのだから、激変と言っても良いだろう。
俺とライナと、あとはペットのトゥーちゃん。これからは二人と一羽で暮らしていくのだ。
結婚するにあたって、俺とライナだけでなく“アルテミス”の方とも連携を取ることになった。
ライナは別に“アルテミス”を辞めたわけではないんでね。これからも弓使いメンバーとしてやっていくつもりだ。
任務の参加はいつも通り。規模の大きな依頼などでは“アルテミス”全体の方針を優先して行動する。ただし細かい任務やちょっとした討伐などからは離れて、こちらの家のことを優先して動くようになるようだ。具体的には一階で店やってる時なんかがそうだな。ライナにも色々と手伝ってもらう必要があるんでね……。
逆に、俺が“アルテミス”と一緒に行動する機会も今後は増えることになった。
長期の任務や少し危ない任務などでは俺も追随していく感じね。なんかもうほとんど俺も“アルテミス”所属みたいな感じになっちゃってるが、今更感はある。
「はあ、はあ……トゥーちゃんこっちの家にきてから……超元気っスね……」
「オッスオッスウッス!」
ちなみに、狩猟圧から解放されたトゥーちゃんはかなり元気になったらしい。
鳥にストレスは厳禁ってのがよくわかるな……。
さて。
俺はこの新居一階部分を店にすると言い続けてきたが、それもようやく形になりそうである。
一国一城の主にして、経営者である。……ブロンズ3のギルドマンからえらい出世をしたもんだぜ。
店は結局喫茶店……カフェを経営することになった。
とはいえコーヒー豆がどこにあるかもわからないので、出すのはお茶だったりタンポポコーヒーだったり麦コーヒーだったり。お茶屋さんである。
けど料理も出すし、在庫にあれば少量なら酒も提供する。だが常に飯を提供するのはあまりにも面倒臭すぎるので、飯を出さないこともある。
つまり……謎の店だ。今のところライナ含めほとんどの人から“どういう店かはっきりさせろ”と言われており、あまり理解を得られていない。悲しい。
その点、ナスターシャはあまりその辺り突っかかってはこなかった。
「モングレル、氷室に氷を納めてきたぞ」
「おお、ナスターシャ。もう出来たのか、ありがてえ。いやほんとこの時期マジで氷高すぎてな……舐めてたわ。マジでありがとう」
「気にするな。ライナの結婚祝いだよ」
地下にある氷室には、ナスターシャが魔法によって氷を充填してくれた。
今は秋。冬前に全国的に氷室の氷が消費され、どこに行ってもまともに氷を買えない時期だ。しかしナスターシャのような魔法使いであれば話が別で、季節を問わず魔法によって氷を補充することができる。
ナスターシャによると魔法の氷はあまり食用に適さず、保ちも悪いとのことだ。それでも今から冬までの間、温度を低く保ってくれるだろう。それだけでも大助かりだ。
……後から聞いた話になるが、長期間解けない氷を生み出すのは水属性を専門とする魔法使いでもかなり大変なのだそうだ。ナスターシャはその辺り非常に優秀な力を持っているらしい。マジでありがとうございますナスターシャさん……。
「氷室にはモングレル先輩が獲ってきた獲物とか野草とか、とにかく色々な食材を入れるみたいっス。私も余裕があったら鳥肉とか入れたいっスね!」
「ケ!?」
「そうか。個人の家としてはかなり大きな保存庫だが……本気で店を経営するのだな?」
「おうよ。おかげさまで食材の保管はクリアできそうだ。オープンしたらナスターシャたちも来てくれよ? 金は取るけどな」
「えー、お金取るんスか」
「それはそれだからよ……もちろんサービスはするぜ」
「ふ。それは楽しみだ」
ナスターシャはカウンターテーブルをやけに妖艶な手つきで撫で擦ると、ライナに微笑んだ。
「ライナ。お前はモングレルを愛しているか?」
「えっ! いやまあ、もちろんっスよ! ……なんかこういうの、改めて言わされるのは恥ずかしいっス」
「よく聞こえなかったわ。何の話してたんだ?」
「先輩今の絶対聞こえてたでしょ!」
「ふ……そうか。それならば何よりだ。では、私はそろそろ退散しよう。ライナ、こちらでの仕事も頑張るようにな」
「あざっス! 頑張るっス!」
「ありがとうなー」
ナスターシャだけではなく、様々な人の協力があって、店は段々と形になっていった。
食材の仕入れ先だとか、燃料の仕入れ先だとか、食器類、家具類、金物、消耗品……。
考えなきゃいけないものは多岐にわたって存在するのだから、まー大変だった。もうちょっと適当にやれないこともないんだけどな……性分なのかね。ついつい全部に凝ってしまうんだ。
それでもまあ妥協できるところは妥協して、スタートアップってことで大目に見てもらおうと思う。
バロアの森で脂の乗ったボアを狩り、捌いて肉を持ち帰っては氷室にぶち込んで、森で食えそうな野草を見つけては普段以上に景気良く毟っては持ち帰り、市場で良さそうな食材を見つけては大人買いして……。
なんかこう、一人分以上の食材を買い込んで集めるのって面白いもんだなあと、新たな発見を楽しんだりする今日このごろ。
そこに今度は、自前の風呂が加わるわけですよ。
「よし……焚けたぞライナ!」
「マジっスか! やっとっスか!」
「ああ、本当にやっとだよ……やっぱり薪代高く付くなぁこれ……」
「個人用のお風呂なんてすごい贅沢っスよ」
ついに俺の家の薪風呂が完成し、ボイラーも……まぁ多分問題なく稼働したと思う。多分だが。
決して少なくない量の燃料を投じて沸かす必要があるので、結局毎日入ってさっぱりなんてお大尽な真似はできないが、入浴以外にも桶一杯分のお湯で身体を清めたりだとか、ちょっとした洗濯物なんかの時にも活躍してくれる設備ではあるはずだ。
これから色々と頑張ってもらうぜ……。
「……えっと、じゃあ……冷めたらあれだし……一緒に入ります?」
いや、やっぱり風呂が一番だわ。風呂最高。風呂は風呂として楽しまなきゃ駄目だよな。
「よし、それじゃ一緒に入ってさっぱりするか」
「……はい」
自分で言っておきながら恥ずかしがるライナを連れて、いざ一緒に風呂へ。
浴槽の素材の断熱性も完璧ではないから、前世の風呂よりも結構冷めるのが早い。
誰か一人が入って、その後もう一人が……というのは、意外なほど湯の温度を損ねるものだ。追い焚きも気軽にできないしね。
それに、二人一緒に入ればお湯の量が少なくても済む。その分かけ流すために使えるので、そういう意味でも誰かと一緒に風呂に入るというのは悪くないと思う。
もちろん、一緒に気兼ねなく風呂に入れるような者同士って前提条件こそあるけどな。
「いやー、極楽極楽……」
「あー、良いっスねぇ……」
浴槽で足を伸ばす俺の上に座る形でライナが入っている。
ライナは小柄だからこういう入り方でも全く問題ないのが良いな。
「どうだいライナ、“アルテミス”の風呂と比べて」
「んー……こっちはこっちでお湯がぽかぽかするような……気がするような……いやわかんないっス。お風呂はどっちも気持ちいいっス」
「まぁそりゃそうだな……風呂ってだけで最高だもんな」
「鳥もあるし……」
「鳥好きだなぁライナ」
「むふふ……」
湯船に浮かべた木製の鳥人形を指先でつつきながら、満足そうな笑い声を漏らすライナ。
楽しんでもらえて何よりだぜ……今度スノウコーン号も浮かべるから一緒に海上バトルしような……。
「……そういえば今度、街道警備やるじゃないスか。先輩今度は“アルテミス”と一緒のとこ行かないスか」
「おう、もうそんな時期だったか。わかった、一緒に行こうか」
「あっさりっスね」
「そりゃあな。こういう時くらいライナと一緒に行動しなきゃ、なんか結婚して早々関係が冷え込んだ夫婦みたいで嫌だろ」
「ちゃんと熱々なのはわかってるから大丈夫っスよ。……今も、ほら……お尻に、当たってるし……」
うん。狭い風呂で裸で密着してるんだ。そりゃ君……なるさ。究極完全態グレートモングレルが攻撃表示によ……。
「ここの壁、薄いからあまり声は出せないんだよな」
「……ん。なんで今、そんなこと言うんスか……」
後ろからライナの身体を手で擦って洗いつつ、滑らかな肌を堪能する。
嫌がっている様子は無い。何度か共に夜を過ごすうちに、ライナもこういった行為に悦びを見出してきたようだ。
正直……何も知らない初心な子に一からじっくりと教え込んでいくのは、男として至上の愉しみだと思う。
「ねえ……声、出せないように……塞いで……」
「喜んで。お姫様」
「んっ……」
しばらくの間、お湯が激しく波打つ音だけが、狭い風呂場に響いていた。
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