バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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世直しモングレルさん

 

 王都からやってきた熟練パーティー、「若木の杖」はレゴールのギルドで注目を浴びた。

 魔法使いを何人も擁しているというだけでも話題性に事は欠かないのに、それが“王都”だとか“出戻り”だとかが尾ひれに付くだけでも話題は盛り上がる。

 

 それはだいたい、悪い意味ではない。

 三年前にはレゴールを拠点としていただけあって顔なじみも多く、“よく戻ってきたな”という反応が大多数だったおかげだ。逆に“誰だコイツら”扱いするようなのはモグリ扱いを受けている。

 

 だからこそギルドの酒場では「若木の杖」たちが屯するスペースも自然と生まれるし……それによって居場所を追われる連中も、また生まれるのだった。

 

「いまさら王都の連中がなんだってんだ」

「都合の良い時だけレゴールに戻ってくるのかよ……」

 

 時々、酒場ではそんな話を聞く。まぁ陰口というか、やっかみだな。

 自分たちがレゴールで地道にやってきたところを、戻ってきた連中が我が物顔でギルドに居座る……それが気に入らないのだろう。

 正直なんのこっちゃと思うのだが、ギルドマンはそういうところが結構ある。ホームとしている街がシマというか縄張りというか……実際ヤクザじゃねえんだから勝手なこと言ってるだけなんだけども、気持ちとしてそういったものを抱く奴は少なくない。

 

 特に「若木の杖」は構成員のほとんどが魔法使いらしい。

 弓使いはおらず、近接役が数人いるだけ。最初から最後まで完全に魔法で圧倒するという、“理想を突き詰めればそうなるんだろうけどそんな魔法使いいねーよ”って現実をせせら笑うような厨パだ。

 地元の武器屋でユニクロ装備揃えてちまちま成り上がってこうぜってやってる最中に廃課金装備の連中が乗り込んできたような状況に近い。

 話しかけるのも結構躊躇するだろうし、向こうも王都生活が長かったせいか垢抜けた雰囲気もあって……どうにも親睦を深めづらいようだ。

 嘆きたくなる気持ちはまぁ、わからないでもない。

 そんな雰囲気が蔓延しているせいか、「若木の杖」はレゴールのギルドで孤立気味だ。

 

 ……けどなー。だからといって、それで嫌がらせの標的にするっていうのはどうかと思うぜ。

 

 

 

「なぁ、あんたってさ。あの“若木の杖”の魔法使いなんだろ?」

「俺達と遊んでくれよ」

「どこ住んでんの?」

「え……あの……」

 

 ギルドの外で、どこか不穏な会話が聞こえてきた。

 どうやら三人組の男たちが、一人の女の子相手に絡んでいるらしい。

 

 ギルドの近くもそこそこ治安が良いはずなんだが、建物を出て人通りの少ない通りに入ったところに狙いを付けたのだろう。

 男たちが現れたのは絶妙に衛兵のいないような、いわばちょっとした悪いことをするのに丁度良い場所だった。

 

「可愛い子じゃん」

「もしかして前言ってた子か?」

「そうそう」

「え、えっ……」

 

 ……俺も最近はギルドに顔を出す時間が少なかったが、男連中はあまり見ない顔だな。

 というか多分、あれだ。たぶんこいつらも他所の街から来た連中だわ。

 奴らの履いてる靴と手袋の質感に見覚えがある。隣街のベイスンから来た奴らだな? 良いよなその装備、安いし質が良いもんな。

 

 でも寄ってたかって一人の女に絡むのはどうなんだ。

 

「ゴールドランクの人のパーティならお金持ってんでしょ」

「王都出身だとレゴールの街とか詳しくないでしょ。俺達が街中のガイドしてあげるよ。大丈夫、安くしとくから」

「……おいおい、逃げるなって。ははは、何嫌そうな顔してるんだよ」

 

 “若木の杖”相手なら多少の狼藉は許される。

 ちょっかいを掛けて文句は言われないだろう。多分、そんな軽い気持ちでやってんだろうな。

 

 ……でもな。

 俺はそういう、変に理屈こねて弱い者いじめをする連中が一番見ててイライラするんだわ。

 

「やめなよ」

「ああ?」

「なんだあいつ」

「うるせーな」

 

 俺はバスタードソードを肩に預け、路地裏に躍り出た。

 ……おかしいな。俺の姿を見たら普通“あっ、やべっ”とかなるもんだけど。こいつら少しも怯まないな。

 

 ひょっとして君たち、春からこっち移籍してきた感じの人かい?

 

「なぁ遊ぼうよ。いいだろ?」

「……やめてください……」

「良いじゃん遊ぼうぜ」

「怯えた顔も可愛いじゃん」

 

 あれ? 俺無視されてる?

 そういうの良くないよ? かっこよく登場した相手に完全無視はいかんよ?

 

「あーそこの“若木の杖”の君。ここは俺に任せて、さっさと帰りなさい。こっち通って帰ればいいから」

「おい、何勝手に……あっ、こらっ」

 

 俺がすぐ脇の場所を指差すと、絡まれていた子は幸いとばかりに駆け出して抜け出していった。

 ……こういう咄嗟の隙を突いてポジション移動できる感じを見ると、ああやっぱ魔法使いでもしっかり動けるんだなって思えるね。

 さすがはサリーのパーティーだ。

 

「おい待てや!」

「待つのはお前らだぞ」

「誰だよてめぇは!」

「俺の名はモングレル。このレゴールで一番強いギルドマンだ」

「知らねえよ白髪交じりのブロンズ野郎が」

「死ねよモングレル」

「女が逃げたじゃねえか。どうしてくれるんだ、あ?」

 

 男たちは……ブロンズを馬鹿にしたわりに二人がブロンズ3、もう一人だけシルバー1か。

 だが三人ともロングソードを持っている。腕に自信はあるんだろう。俺に対して怯む様子は全く無い。

 

「女を口説くなら囲まず一対一でやったらどうなんだ? 男が三人……」

「うるせえ」

 

 ぐへっ。ちょっと格好良いこと言おうとしたのに顔殴られた。

 

「ってぇ……なあ、これ鼻血出てる……?」

「弱いぞこいつ。痛めつけてやれ」

「任せろ」

「俺達に歯向かえないようにしてやるからな」

「いやちょ、グヘッ」

 

 言葉の応酬をもっと楽しもうとしたところで、襟を掴まれて殴られた。

 しかも三人で囲んでだ。膝で腹突き上げたり脇腹抉ったり、容赦の欠片も感じられねえ……。

 

「こいつ、固くねえか……?」

「もっとボコボコにしてやるよ、へへ……おい、顔上げろ」

 

 あ、前髪掴まれた。

 

「髪には触るんじゃねえよ」

「グエッ」

 

 髪を掴んで顔を上げようとしてきた男に、思わず容赦を忘れたボディーブローを決めてしまった。

 一発で胃液を吐いてダウンしたが、まぁ仕方ないだろこれは。三十近い男の髪を粗雑に扱うんじゃねえ。

 

「お、おい……」

「やりやがったな!」

「あまりレゴールのギルドマンを舐めるなよベイスンの新米共。レゴールのブロンズがどれだけ強いか教えてやろう。しかも無料でな」

 

 向こうはまだ剣を抜く雰囲気ではない。なら良し。このまま穏やかな喧嘩で決着をつけようじゃねえか。

 でもここからエスカレートすると向こうが躍起になって抜剣してくる可能性も無くはないから容赦なく速攻で決めさせてもらう。

 

「くたばれおっさん!」

 

 まず素人丸出しのテレフォンパンチを額で受けて相手の拳を痛めつける――つもりだったが普通に頬を殴られて超仰け反ったわ。いてぇなオイ。

 

「はは、そのまま倒れ……」

「ターン制だオラ」

「ぐぼッ」

 

 殴って決まったと油断した相手の腹にトーキックを刺す。うずくまる男が一人追加だ。

 いや、しかしやっぱり格好良く闘うのって難しいな。

 俺に格闘技のセンスはないらしい。わかってはいたが……。

 

「な、お前……!」

 

 あ、剣に手をかけた。いかんいかん。

 

「抜剣キャンセル!」

「ぶべッ」

 

 刃傷沙汰は駄目だ。それをやったらマジで犯罪だからな。

 この蹴りは俺の情けとして受け取ってくれ。

 

「もう二度とこの街で姑息な真似はしませんって誓え。誓えないなら立ち上がってもう一度俺に立ち向かってこい。何度でも相手してやるぞ」

「……」

「は、はぁ……はぁ……!」

「……ぐ……!」

「休憩時間じゃねえぞこれは」

「ぐえッ」

 

 眼光鋭くこっちの隙を窺っていたシルバークラスの奴を蹴っ飛ばす。

 ……堅い手応えだったな。強化してたとこをこっちのパワーで抜いた感じだ。

 

 だがその重い蹴りで俺の力量はわかったらしい。

 

「わ、悪かった……! もう卑怯な真似はしない……あんたにも喧嘩を売らないよ……」

「もう勘弁してくれ……」

「なんでこんな奴がいるんだ……」

「俺が気に入らないならもう一度三人で殴りかかってきて良いぞ。さっき俺が殴られた分はまだ返せてないからな。正直もうちょっとだけお前らをボコボコにしたい気分だし」

「! も、もう何もしないって! 行くぞお前ら!」

「ほんと、すんませんした……!」

「ま、待ってくれっ! 置いてくなよっ!?」

 

 ちょっと凄んでやると、男たちは慌てて路地から逃げ去っていった。

 ……やれやれ。なんか俺今すげえ主人公みたいな人助けしちまったな?

 

 ……ここで助けてあげた子が戻ってきてお礼を言ってくれるシーンがくる……と思ったら帰ってこない。

 どうやら完全に徹底して逃げに入ったようである。堅実な子だ……。でも悪い男がいる路地に戻ってくるのは危ないから正解だぜ。

 ヒロインがわざわざ危ない場所に立ち入って無駄にピンチになる展開ほど無駄なものはないからな……。

 助けに来たヒーローに全面的に任せるのが一番だ。

 

「……鼻血は……出てないか、良かった」

 

 俺はバスタードソードの鈍い刃に自分の顔を映し出し、そこにいつもの顔がニヤついているのを確認すると、路地裏から出ていったのだった。

 

「あっ」

「あれ? なんだよ結局戻ってきたのかお前」

 

 と思ったら、路地裏を出て表通りに入ったところでさっきの子がスタンバイしてるところだった。

 賢いヒロインかと思ったらピンチに飛び込む系ヒロインだったか……まぁ情があって良いとは思うけどさ。

 

「あ、あの……どうも、ありがとうございました。困っていたので……助かりました」

「気にするな。団長のサリーに“モングレルが助けたから貸し一つ”とでも伝えておいてくれ」

「サリーさんに貸し……は、はいっ」

「しばらくは横着せず大通りを歩くようにな」

 

 なんか最後に説教臭くしちゃったが、まぁこれでいいか。

 

「……本当に、ありがとうございました」

「おー」

 

 “若木の杖”はこんなつまらないことで足踏みして良いパーティーじゃない。地盤固めくらいさっさと済ませてもらうのが一番だ。

 そうすればレゴールもギルドも、これからの開拓事業や大規模工事に集中できるはず。

 

 まずはそこからだ。そこからガンガン街を発展させていって……更に人を増やし、生産能力を高める。

 そうすりゃ、ケイオス卿の商品開発を請け負えるだけの店が更に増えるはずだ。

 

 もっともっと住みやすい街になってくれよ、レゴール。

 あとできれば衛兵の巡回も増やしてくれ……。

 

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