バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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売られた喧嘩

 

 

 さて。前にも言ったかもしれないが、俺はハーフだ。

 ハルペリア王国とサングレール聖王国。二つの国の男と女が夜に励み、で、俺が生まれたってわけ。

 

 ハルペリア人とサングレール人は、現代でいう白人と黒人ほどではないにせよ、そこそこわかりやすい人種としての違いがある。

 顔立ちはそこまで変わらないんだが、顕著に出る違いと言えば髪だろう。

 

 ハルペリア人の一部は夜のような黒髪を持ち、一方のサングレール人の一部は光に満ちたような白髪を持つ。全員が全員そうでないにせよ、黒髪と白髪は両民族をわかりやすく差別する上では非常に挙げやすい要素だと言える。

 黒髪に白のメッシュがいくつか走ってる俺の姿はまさに、ハルペリアとサングレールの合いの子であることを全力で主張してるわけだ。

 

 そうなるとどんなことが起こると思う? 

 

 ヒントは「ハルペリアとサングレールの仲が滅茶苦茶悪い」だ。

 

 良い子のみんなはわかったかな? 

 

 そうだね、人種差別だね。

 

 

 

「なんでギルドにサングレール人がいんだよ」

 

 真っ昼間のギルドにて、聞きなれない男の声がよく響いた。

 モノローグ内で無音で済ませておけるその内心を声に出したのは、わざと俺に聞かせるためだろう。

 

「サングレール人の奴隷にでも産ませたんだろ」

「ジジイみたいな髪しやがって」

「ハハハッ」

 

 四人組の新顔だが、装備や立ち居振る舞いは素人ってわけでもない。護衛か何かでこの都市にやってきたのだろう。

 だがこの都市で、しかもギルド内でわざわざこの俺を名指しで侮辱するとはな。

 

 確かに俺はサングレール人のハーフではある。

 数年スパンで戦争してる敵国だしな。恨みを持つ奴が多いのもわかる。実際こうしていびられることも珍しくはない。

 

 だが、長く国境を接しているからにはそれなりに交流の歴史もあるわけで、俺のような混ざりものもてんで皆無ってわけでもないんだ。

 俺はモロに混血が髪に出ちまってるが、上手いこと生まれを隠して世間に溶け込んでいるハーフはそこそこいる。

 だからこうして公然と人種差別をするのは、この異世界の都市をもってしてもそこそこ軽率な行いと言える。あー、だからつまり。

 

「なんだ、活きの良い新入りが来たな。けどギルドマン初期講習会は今日じゃないぞ? 日を改めて、入会費を持ってきてから来てくれや」

「……」

 

 買って良い喧嘩もあるってことだ。

 何にしても、言われっぱなしのままヘラヘラしても良いことはない。

 世間に愛想を振りまくのは大事だが、こういう馬鹿に媚び諂っていると逆に人望を失うまである。

 こっちは腕っ節の仕事をやってんだ。舐められたら殺す気持ちでいるのは決して間違いではないだろう。

 

 朝の道路清掃を終えて清々しい気分でゲロマズオートミールを啜ってたっていうのに、台無しだぜ。

 

 席を立ってカウンターに目配せすると、ちょっとうんざりしてそうな顔はしているものの、止めようとはしていない。

 まぁ自己責任で勝手にどうぞってことだろう。あとギルド内ではやめろっていう圧もちょっと感じる。言われなくてもここじゃやらんわ。

 

「サングレール人の混ざりもんが、調子に乗るなよ。安っぽい剣しか持ってねえ素人が」

「俺はトワイス平野でテメェのようなサングレール人を56人はぶっ殺してやったぜ?」

「その気色悪い白髪を引きちぎってやろうか、おう」

 

 いやさすがに56人殺しは盛りすぎだろ。どこの部隊長様だよ。そんな力あるなら首から下げた銅のアクセサリはなんなんだよお前。

 

「ここじゃ飯食ってる連中に迷惑だ。やるなら外でやろう」

「上等だ」

 

 こうして俺は四人のチンピラと一緒にギルドの外へと出てきたのだが。

 

「くたばれ」

 

 建物を外に出た瞬間、すぐ横で待ち構えていた男が拳を振りかぶってきた。

 いやおま、卑怯だろそれ。集団でリンチどころか不意打ちって逆に気合い入ってんな。

 

「へっ、そうくると思ってたぜ」

 

 鈍い打撃音と共に、俺の体が路肩に転がる。

 男の放ったパンチは完全に油断してた俺の頬に見事に突き刺さり、吹っ飛ばされてしまったのだ。

 

 やだ、口の中ちょっと切ったかも……。

 

「……なんだこいつ?」

「いっ……たくねぇー、効かねえー……見た目ほど痛くねえわコレ……いやマジで……」

「ハハッ、馬鹿が。お前ら、やっちまえ」

「おうっ」

 

 弱いと見るや、男たちが一斉に襲いかかってくる。

 完全に決着を確信した勢いだけの突撃。変に警戒しながら囲まれるよりは随分とやりやすい。

 

「よくもやってくれたな雑魚共! オラァ!」

「ぐえっ」

 

 カウンターで一発腹にぶち込み、一人を沈める。

 その間にも三人が殴ってくるが、それを華麗に……避けれたら苦労はしないので、殴られながら反撃する。

 

「いでっ!?」

「なんだこいつ、強……!?」

「このモングレル様に喧嘩を売るってのがどういう意味かわかってんだろうなぁ!?」

「ぐべぇ」

 

 スタイリッシュにかわしながら一方的に相手を沈める戦闘テクニックなんてものは俺にはない。

 なので多少殴られるのを許容して、魔力をガンガン込めた身体能力ブッパで反撃する。

 

 こっちも痛いがそっちはもっと痛いだろオラッ! 

 

「や、やめてくれ、もうやめ……悪かった、謝る……」

「うるせえ馬鹿! 俺の髪を千切るっつってたよなお前! 許さんぞ!」

「ぎぃっ!?」

 

 前髪をほんの少しぶちぶちっと引き抜いて、頭突きで沈める。まずは一人。

 

「す、すまねえ、俺は何も……」

「なにが56人だ! ホラを吹くならもう少しキルスコア減らせ馬鹿!」

「うぎゃぁ!」

 

 できるだけ情けない青あざが顔に浮き出るように殴り飛ばして二人目。

 

「お、お助けぇ」

「不意打ちしたくせに許されると思うなよ! 情けねえ奴め!」

「いっだぁ!?」

 

 こいつはシンプルにムカつくし性根が腐ってそうだったので、手を殴りつけて指を折っておいた。痛みに悶えてうずくまり、三人目。

 

「わ、悪かったよ。俺らが悪かった。もうあんたに喧嘩は売らねえ……」

「お前、馬鹿にしたな」

「悪かった! 悪かったです! もうサングレール人なんて言いません!」

「お前は俺の、バスタードソードを馬鹿にしたよなぁ!?」

「えっ!? あっ!? いやしてはなぁ……い、です……!」

「喰らえバスタードソードキック!」

「ぐぼぇえっ!?」

 

 最後のリーダー格の一人の腹に蹴りをぶち込み、始末完了。

 ケッ、綺麗に清掃した道路が汚れちまったぜ。

 

「二度と俺とバスタードソードをコケにするなよ」

 

 倒れ伏す男たちに吐き捨てて、俺は静かにギルド内へと戻っていった。

 

 

 

「やるねぇ、モングレル。外から見てたよ。四人相手に怯まんとはな」

「いてぇ……超いてぇよ……ふざけやがってあいつらマジで……不意打ちはダメだろうがよ……」

「お疲れ様です、モングレルさん。任務の評価もあまり宜しくない、素行の悪さの目立つパーティでしたからね。今回のことも踏まえて、より彼らの査定を落としておきますか」

「ガンガン落としてやれエレナ……あと治療室使っていいかい?」

「いいですけど、お金払ってもらいますよ。後でで良いですけど」

「払うから頼むわ……いててて……」

 

 周りに自分の力をある程度見せつける意味も込めての今回の立ち回りだったが、痛いのは割に合わないなやっぱ。

 次があればスタイリッシュに避けながら戦う方法を考えておこう……。

 

 

 

「……モングレル、あれで昇級しないのか」

「らしいですよ。振られる仕事が好みじゃないそうで」

「はぁ。強いのにもったいないねぇ」

 

 

 

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