バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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空を泳ぐクラゲたち

 

 レゴールでは春にも大きな祭がある。

 精霊祭という、月だか自然の精霊を祝うお祭りだ。

 毎年春になるとどこからか湧いて出る空飛ぶクラゲ型の魔物が街中にまで入ってくるようになるので、ちょうどその頃がシーズンだ。

 

 空飛ぶクラゲというとなかなかファンタジーな生き物だが、実態はクラゲではなくスライムらしい。

 名前はジェリースライム。空をふわふわと漂いながら、半透明な体に突っ込んできた虫なんかを捕まえて消化するという、食虫植物みたいな生態をした魔物だ。

 消化能力が中途半端で人体にもほぼ害は無く、街中に現れても小鳥とかそこらへんの動物と同じ扱いを受けている。

 

 傘をゆったりと広げて空中を泳ぐさまは神秘的で、月の精霊と同一視されているというのもなんとなく納得できる奴だ。

 しかし街の人は祭になるとこの月の精霊モドキに対してゴテゴテと飾り付けしたり、子供がふざけ半分で捕まえてぶつけ合いごっこをしたりだとかで、畏敬の念が足りてなさそうな光景がよく見られる。ジェリースライムかわいそう。ハルペリアの銀貨の図案にもなってるのに扱われ方が雑すぎる。

 

「こういうのはな、ちゃんと壊さず捕まえなきゃ駄目なんだぜ」

「モングレル先輩、なんスかその袋」

「これはな、俺が開発したジェリースライム捕獲ネットだ」

 

 長い棒の先に穴の空いた袋をつけただけの虫取り網みたいなもんだが、これがなかなか空飛ぶジェリースライムに対して滅法強い。

 ほとんど逃げることもないジェリースライムをバンバン捕まえて大袋の中にぶち込めている。

 今日のノルマは30匹だから、もう少しだな。月の精霊の化身様だ。丁重にお捕まえしてあげよう。

 

「ライナはアイアンクラスの頃にやってなかったか? ジェリースライムの捕獲任務」

「いやー、私この時期は狩猟がいくらでもあるんで、全然やったことないっス。任務であったんスね。知らなかったっス」

「あるぞー。捕まえたやつをまとめて下水道に解き放って、空気と水質を改善するんだ。時間はかかるが掃除しなくても結構綺麗になっていくらしい」

「へー……」

 

 まぁ俺は下水道の任務やらんからビフォーアフターわからんけど。

 

「あとはまあ、祭の演出に使う分もあるからな。ほら、色水を注入したカラフルなジェリースライムが一斉に空に放されるやつ、見たことあるだろ?」

「ああ、あれっスか! あるっス! あれ綺麗っスよね……ああいう色したジェリースライムがいるわけじゃないんスか」

「人間が手作業で色入れてるんだぜ。まぁ一日くらいすると色も浄化されて消えちゃうんだけどな」

 

 大した金額にはならない仕事だが、街中でもやれるなんか楽しい作業だ。

 ゲーム感覚でできるメルヘンなクラゲ集め。結構癒される。

 

「ライナは祭はアルテミスと回るのか?」

「えっ、あー……どうなんスかね。いやまだ全然予定とかは決まってないっスね。モングレル先輩はどうなんスか」

「俺も決まってないな。無料で振る舞われる酒と、クラゲの塩漬け。あれが出てきてからが本番だしな。それまでは適当に見て回るよ」

 

 精霊祭ではレゴール伯爵が酒や料理を景気良く振舞ってくれる。

 酒はいつものうっすいエールではなく、ビールのようなやつだったり、ワインだったりする。結構お金かかってそうな酒なのに気前のいいことだ。

 それと海沿いの地方で獲れたクラゲを塩漬けした美味しいつまみまでサービスしてくれる。ソルトビネガーの風味とコリコリとした食感がなかなか美味い。ちなみにこっちの食べられるクラゲは普通のクラゲな。ジェリースライムは食べられない。

 

「じゃあ私も祭、一緒に回っていースか? 先輩」

「おう、良いぞ。でもそっちは忙しい時期だろ。アルテミスの任務が入ったら遊ぶわけにもいかないんじゃないか」

「任務なら大丈夫っス。うちらは祭に出すお肉を獲って寄付するだけスからね。その後はお休みっス」

 

 なるほど寄付か。毎度毎度アルテミスは気を利かせているな。

 貴族相手の任務をこなしたり、祭にも積極的に寄付したり……シーナはどこまで出世しようとしてるんだか。王都に移るのか? にしてはあまり王都を意識してるようにも思えないんだよな。なんとなく。

 

「そういえばモングレル先輩、まだアルテミスのお風呂は使わないんスか」

「あー、二回目の約束が残ってるやつな。あれは夏場に行かせてもらおうと思ってたんだが。ひょっとしてさっさと入れと思われてる?」

「いやそんなことはないんスけど。夏っスか……遠くないスか」

「夏場に入る風呂は気持ち良いぞー。本当なら毎日でも入りたいところだぜ」

「……だったらアルテミス入ればいいのに」

「それは嫌だ」

「なんなんスかもう……」

「面白そうな任務の手伝いならしてやるけどな」

 

 春は色々な魔物が現れるおかげで退屈しない。

 生活を脅かす連中も多いし凶暴な獣も増える季節だが、ファンタジー世界で生きてるって実感が強くて飽きないんだよな。この歳でも。

 ただ俺は魔物を見つけるのが下手くそだから、そういう時斥候役をやってくれる奴が一緒にいると心強い。スマートに討伐をこなせば日帰り報告も夢じゃないしな。

 

「……じゃあ今度、弓で鳥系の魔物とか狩りにいくのどうスか」

「弓かー、練習にはちょうど良いかもな」

「私教えるんで、今度やりましょうよ。モングレル先輩は弓の練習兼近接の護衛ってことで」

「良いな。久々に鳥捕まえてみっか」

「ちょっとした狩りスから、アルテミスと一緒じゃなくても良いスよ」

「おお、それは助かる。人が多いと集中できないしな」

 

 そんな感じで次の狩りの予定なんかを立てて、ライナと別れた。

 

 鶏肉か……鶏ガラスープでも作ってみようかね。

 コンソメ作るほど時間かけたくはないが、多少のスープを楽しむくらいはできるだろう。そうなると麺が欲しくなるな……中華麺でも作るか? 

 鶏ガラ塩ラーメンに昆布出汁きかせて……ああクソ、醤油が欲しい。

 ポーションの失敗作を作ると醤油になったりしねーかな。

 

 

 

「ジェリースライム30体、うむ確かに。綺麗に捕獲できてるな。こいつらは飾りつけするのに良さそうだ」

「本当かい? それは嬉しいね。モングレルの名前入りで街を飛ばしてくれよ」

「ガキどもの良い標的にされそうだな。ガッハッハ」

 

 解体場でジェリースライムも引き渡し、札をもらう。後ろから続々と討伐完了組が戻ってきてるから、さっさと手続きを済ませないとギルドで渋滞になりそうだ。

 

「おおそうだモングレル、ジェリースライム10体ごとにこれを1本やらなきゃいけないんだ。ほれ、3本分もらってくれ」

「お? あー飾り花か」

 

 解体のおっさんから受け取ったのは、3本の花だ。

 森のちょっと辺鄙なとこに行くとこの時期生えている、茎の長い薄黄色の花である。ギフト用とか花束作る時に向いているので、街中でもよく売られている。

 この祭の準備期間中は精霊祭に関係する任務をこなすことで花をもらえるわけだ。別にこれがあったからってどうなるわけではない。めでたい行事だから部屋でもなんでも彩ってくれってことだろう。

 前世は墓参りくらいでしか花を買うことなんてなかったが……こういう文化は嫌いじゃない。

 

「ありがとな。目立つとこに飾らせてもらうぜ」

「もっとジェリースライムをつかまえて、良い女に花束でも作ってやったらどうだ」

「街からジェリースライムが消えちまうよ」

「ガッハッハ」

 

 しかし3本だけの花をもらっても、細身の花瓶に立てて終わりな数なんだよな。

 そもそもよく考えたら俺の部屋には花瓶がない。そういやいつも宿屋の受付けにある花瓶に差しまくってたな。去年は花瓶が開店記念の花みたいになってたのを思い出したわ。最終的に花瓶のくびれたとこが割れておかみさんに怒られたっけ……。

 

「そっち逃げたぞー!」

「捕まえろー!」

 

 通りを歩いていると、子供たちのはしゃぎ声が聞こえてくる。

 どうやら呑気に道の低いところを漂っていたジェリースライムを追いかけ回しているらしい。

 

「ちょうどいいな。ようよう、そこのお嬢ちゃん」

「えー? なにおじさん」

「この花お嬢ちゃんにくれてやる」

「え! いいの!?」

 

 俺は3本の花を手ごろなサイズに切り詰めて、女の子の黒髪にぷすりと挿してやった。

 

「ほーら綺麗になった。似合ってる似合ってる」

「本当!? へへーありがとう!」

「おいルミア、こっちから追い詰めるぞ!」

「あ、行かなきゃ! ばいばい!」

「おー、気をつけろよー」

 

 元気な子供たちがばたばたとジェリースライムを追い回す。

 狙い通り、俺が頭に挿してやった黄色い花はここらで一番目立っていた。

 

 祭は近い。クラゲ料理が楽しみだぜ。

 

 

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