この世界にはスキルと呼ばれる異能が存在する。
これはギフトとは別。魔法と同じように魔力を消費して発動するもので、それよりはもうちっとだけ習得しやすい異能ってとこだろうか。
サングレール聖王国では神から下賜される力であると云われているし、ハルペリア王国ではそこまで厳格ではないが、神の世界の技術を人が修めた……とかなんとか、そういう納得のされ方をしている。神様にそこまで思い入れを持っていないハルペリアでも“神”と結び付けられるあたり、どこでもスキルはそこそこ特別視されているってことだな。
特徴は、発動に際して目が光る。光り方は人やスキルによって様々かな。赤とか青とか、黄色とかピンクとか。魔光と呼ばれるこの世界特有の発光現象で、昼だとあんま目立たないくらいの光量だ。
対して魔法の発動時は目は光らず、魔法を扱う杖とか手とかが発光する。そういう部分でもスキルと区別されている。些細な事だけどな。
些細なことなんだけども、いざスキル持ちの犯罪者とかち合ったりするとかなり重要な部分でもある。相手が物騒なスキルを使おうとするとわかるので、強烈な不意打ちを打たれないためにも相手の目を見ておくのは重要だ。戦闘が長引けば光り方で次の動きも読める。人の目を見れない陰キャは悪い人に狙われたらすぐに死んじゃうぞ! 気をつけような!
スキルの習得頻度は、よくわからん。
巷ではスキルはひとつの習得に10年かかると言われているが、早い奴は5年でひとつ習得するって話も聞くし、逆に15年でようやくって奴も珍しい訳では無い。
個人差が大きいからはっきりとした事は言えないが、まぁ大雑把な目安で言えば俺の場合は3つ持っていてもおかしくないってことだな。まともなスキルじゃないから参考にならんけど。
で、ここまで言っといてなんだが、これらは全てギルドマンや軍人に限った話になる。
一般人はスキルを持たない奴も多い。何故か。それは多分、スキルのほとんどが戦闘系に偏っているせいだろう。
俺の知る限り、スキルは戦わない限り身につくものではない。それも動物ではなく、魔物と呼ばれる相手との戦いでなければ……俗っぽい言い方になるが、“経験値”とか“熟練値”みたいなものが溜まらないんだと思う。
だから屠殺を生業にしている畜産農家だからって、すぐにスキルが生えてくるわけではない。人間には制御できない魔物と戦ってようやく、スキル習得の一助となる……んじゃないかな。多分。
そのせいか生活魔法じみたスキルは全然ない。
鍛冶スキルだとか木工スキルだとかも当然無い。個人的にはあってくれたほうが世の中もっと平和だった気がするぜ……。
いや、一部の暴力的な人間に支配される世界になるのかな……わからんな。
スキルは戦闘系のみ。だが、その種類は色々ある。
刀剣、短剣、棒、槍、弓、鈍器、盾、あるいは格闘術だったり、補助技だったり……ギルドの資料室にこういうスキルの名前と効果の一覧がまとめられているから、暇な時に読むと結構面白い。いずれどこかでスキル持ちの人間と戦うかもしれない……というか戦うことになるから、是非ともさっさと覚えておくべきだ。俺はやってないゲームでも攻略本だけを読むのが好きなタイプだったので、ギルドマンになってからすぐに頭に叩き込んだ。
けど本にまとめられていないスキルもたくさんあるらしいから、覚えても覚えてもキリがなかったりする。相手がどんなスキルを使っても良いように身構えておくのが大切ってこったよ。
これらのスキルはそれに対応する武器を装備し、戦闘に使うことで“熟練度”みたいなものが上がっていく仕様……と言われている。
一定の熟練に達すると、頭の中にスキルの名前と発動方法が閃くのだそうだ。
ソード系を長く使っていれば『
だから変に武器をコロコロ変えてバラバラにスキルを覚えるとすげー苦労することになる。弓も覚えて剣も覚えて槍も覚えて……そういう奴は器用かもしれないけど、結果的に戦いの幅が狭くなるから要注意だ。
この世界にはスキルでもギフトでもインベントリだとか無限収納なんてヤベー代物は存在しないからな。あらゆる武器を持ち運ぶ奴なんていないのだ。
スキルは武器種を絞って戦い、習得。
……この熟練度を上げるような成長方法。まるでゲームのようだ。
正直何度もここがなにかのゲームの世界なんじゃないかと疑ってきたが、それにしてはこう……華が無いんだよなぁ。
作り物のファンタジー特有の華やかさというか、ストーリー性というか……魔物はいるし定番のドラゴンだっているけど、あいつら最強種族ってわけじゃないし。ハルペリア国内に出現する最強モンスターはライオンです。いや強いけどさ……。ちなみにサングレールの最強モンスターはデカいクラゲです。もはやお前は強いのか……? 原作がゲームだとしたら全く盛り上がる気がしない。
別大陸には人間とそっくりの魔人とかいう知的種族もいて、昔は人間と争おうとしたこともあったらしいんだが……お互いに食性が別物すぎるせいか相手の土地の作物を一切食えず、自分たちの大陸の作物を向こうで育てることもできないことが判明してからは細々と交易するだけの関係に落ち着いている。そもそも人間は同種族同士での争いが絶えないし、魔大陸は魔大陸でクソ強モンスターがいるらしく、遠方の人間に関わっていられるほど穏やかではない。壮大そうな世界設定してるくせに何も起こらん。てか魔大陸が遠すぎて船がアホみたいに沈むらしい。新天地のくせに旨味が無さすぎる。
耳の長いファンタジー定番のエルフもいるっちゃいるけど、別に寿命長くないし……人間より20年? くらい長いそうだけど……なんか食生活とかそこらへんで生まれてる誤差って感じがするんだよな……。
森に住んでないし野菜しか食べないわけでもないし特別弓が得意なわけでも魔力量が多いわけでもない。なんなん君たち。たまに行商人でエルフが居たりするけど種族的な注目を浴びることはなく、ほぼ空気である。なんなら耳が長いのがちょっと変な扱いされてるせいか普通の人間よりも見た目の人気は低く、娼婦も安めらしい。そんな残念な扱いをされてるエルフを見たの、俺ははじめてだよ。
ゲームっぽいような、そうでもないような。
この世界は何をもとにして作られたのか。また、神はいるのか。……それに俺の転生は関わっているのか。
転生者は複数なのか? 過去にも似たような人間はいたのか?
神はいるのか? 神がいるとして、その目的は何なのか?
この世界は純粋に異世界なのか? 別の銀河の異なる惑星なのか? ゲームなのか? ラノベなのか? アニメなのか? 漫画なのか? あるいはWEB小説なのか?
もし何らかの作品だとして俺は主人公なのか? モブなのか? 人気が出ないと打ち切られるのだとして、その場合この世界は唐突に終焉を迎えてしまうのか……?
「……雨、やまねえなあ」
外は雨。
宿屋でのんびりしていると、色々なことを考えてしまう。
他人には絶対に相談できない、俺の頭の中だけに閉じ込めておくべき考え事だ。
窓の外ではマントを羽織った衛兵が、小走りで屯所のある方へと向かっている。
どこにでもいる通行人。街の衛兵さん。
だが彼には名前があって、二十何年くらいかのしっかり本人が語れるだけの厚みの人生があって、それがあと数十年あとも続いていくのだ。
それは決して作り物ではないし、アニメや漫画では語り尽くせないほど膨大で、モブと一言で片付けられるほど陳腐な代物ではない。
仮にこの世界が何らかの土台の上にある存在だったとしても、他人事ではいられないリアリティがあるんだよ。
少なくとも、通りすがりに絡んできたチンピラを迷いなく半殺しにはできない程度にはな。
「……アニメ、かぁ」
もしこの世界がアニメだったら。で、仮に俺が登場人物だとしたらよ。
「俺の声優、誰にやってもらおうかな……」
そん時は俺の声優を大御所にやってもらいたいね。声だけで人気が付くくらいの、そうだな、落ち着いててちょっと渋い感じの声なら言うこと無しだ。
デザインも美形にしといてくれ。バスタードソードももうちょっとピカピカにしといてくれると嬉しいな。
任せたぜ、制作スタジオ。まだ見ぬ大御所声優……。
そんで俺にキャラ人気が出てな。人気投票で上位になったりしてな。色々と出番が増えたり、優遇されたりするわけよ。少なくとも途中で雑に殺されたりしないポジションを獲得するわけよ。
で、現パロかなんかで学園に通ったり、いや俺の場合先生ポジションになったりしてな。
そうしたら……そうしたら俺を、その現パロ世界で暮らさせてくれ。
そんなに人気の出ないスピンオフでも構わないから……頼むわ。