バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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爆ぜていない種子

 

 屋外炊事場で小鍋と向き合っている。

 弱目の火と浅く敷いた油。そこに目当てのものを散らし、長くじっくりと調理してはいるのだが……そこはかとなく駄目そうな気配が既に漂ってるのは多分俺の気のせいではないだろうな。

 それでも都合良く奇跡が起こらねーかなと、かまどにぶち込んだ薪一回分の火が消えるまでの間は馬鹿みたいにじっと待ってしまう。無駄な時間だぜ……。

 

「おい、かあちゃん、そんなゆっくり回してたら焦げちまうよ」

「うるさいねえ、だったらあんたがやんなさいよ。うちはずっとこれでやってきたんだから」

「そんなに酷い言い方しなくたっていいじゃないかよ」

 

 少し離れたかまどを見ると、どこぞの家族がかまどで仔羊の丸焼きを作っていた。

 豪快な料理だ。作るの面倒臭そうだし自分ではやりたくないが、ちょっと羨ましい。

 ああ、でもタレがない。やっぱりタレがねえんだこの世界には。

 

 ……けど大丈夫。こいつは塩さえあれば美味くいただける料理なんだ。タレなんて必要ない。バターと塩さえあればそれだけで充分に完成形と言える……はずなんだが、一向に出来上がる気がしない……。

 

「モングレル先輩、何作ってるんスか?」

「お? ライナと……ゴリリアーナさんか、久しぶり」

「……どうも、こんにちは。モングレルさん」

 

 通りかかったのはライナと、相変わらず女には見えない巨躯と顔をした剣士、ゴリリアーナさんだった。

 珍しい組み合わせだなーと思ってよく見ると、ライナの手には羽根を毟り終えた鳥が握られている。どうやらさっきまで小規模な狩りに出ていたようだ。

 

「これな、まぁ新しい料理を作ろうとしてたんだが……上手くいかなくてな。このままやってても無駄だろうから、かまど使いたかったらここ使って良いぞ」

「……なんなんスかねこれ。コーン……に見えるんスけど」

「コーンだよ。乾燥させたやつ。それを油で炒めてる」

「ええ……粉にしてないやつをっスか」

「俺の完璧な計画ではこいつが十数倍に膨れて美味しくいただけるはずだったんだがな」

「モングレルさんの中でコーンはどんな穀物なんスか……」

 

 俺が目指していたのはポップコーンだ。

 作り方はよくわからないけど、乾燥したコーンを油で熱してやればまぁいけるだろと思ったのだが……なんか普通に焦げるだけ。誰がどう見ても失敗である。

 香りはそれっぽいんだけどなぁ……香りだけじゃなぁ……食感が9割9分9厘の食い物だからなぁ……。

 

「では……あの、かまど……お借りしますね……」

「ああ、好きに使ってくれ。なんならこの油も有効活用してくれていいぞ」

「あざっス! 助かるっス! モングレル先輩にもお肉お裾分けするっス」

「おっしゃ。損失を取り戻した気分だぜ」

 

 ポップコーンは作れなかったが、鳥のソテーをいただくことはできた。

 変わり映えしない食べ慣れた料理ではあるが、まぁ肉は肉だ。美味いもんだよ。

 

 

 

「アイアンとブロンズの昇級試験か」

「そうっス。ゴリリアーナさんはこれからブロンズクラスの昇級を見ることになってるんスよ。私はアイアンの弓使いの審査のお手伝いっス」

「ライナもついに試験官をやるようになったかぁ……感慨深いね」

「補佐するだけらしいっスけどね。緊張するっス」

 

 軽く肉を食った後、俺たちはギルドに向かっている。

 ライナとゴリリアーナが試験官をやるってのも面白そうなので、ついでに見ていくつもりだ。

 

「……上手くできるでしょうか……不安です……」

 

 ライナも緊張してるようだが、ゴリリアーナさんのほうがもっと酷い。

 相変わらず見た目と性格が合致してない人だわ。

 

「ついでにモングレル先輩も試験受けて良いんスよ」

「嫌だ。俺は観客になる」

「昇格すればいいのに……」

「まぁ俺は良いんだよ。それより新人たちを上手く導けるようにならなきゃな。試験官のせいで合わない奴が上に登るってのも不幸な話なんだぞ? 誰にとってもな」

「……そう言われると、また緊張してきたっス!」

 

 ギルドマンはブロンズからシルバーに上がってすぐに大怪我したり死んだりなんてことも珍しくないからな。

 状況や相手が変わって戸惑っているうちにやられるパターンだ。試験を全力で受けて合格しても、その気力やコンディションを毎回の任務で発揮できるかは別問題だ。そういう部分も試験官は見なくちゃいけない。

 

 ま、ある程度の試験のマニュアルみたいなもんはあるから、それに従って篩にかければ良いだけなんだけどな。

 

 

 

「うぉおおおおッ!」

「……単調、次」

「はい! いきます……はぁあああっ!」

「……まぁ、よし……次」

 

 ギルドの修練場で、ブロンズのひよっこ剣士達がゴリリアーナさんと打ち合っている。

 互いに練習用の木製剣を使っての闘いである。ゴリリアーナさんだけ部分的に軽鎧を身に纏っているが、まぁひよっこの数も数なんでね。実力差があるとはいえ防具なしでやってるとバシバシ打たれてしんどいから仕方ない。

 

「じゃ、投げるっスよー」

「はい!」

 

 ライナの方は近距離で動体を撃つ試験をやっている。横から投げられる円盤を狙い撃ち、なるべく中央を射抜くと良い成績になるらしい。ゲームみたいでちょっとやってみたい。距離も近いし当てようと思えばワンチャン当たるかもしれんな。

 

 待てよ。俺も弓使いになればブロンズ3くらいの今の状況でピッタリになれるんじゃねえか? 

 そうすればガミガミ言われることもなくなるはず……いや待て、無理だな。そもそもブロンズ級の弓の実力が備わってるかというと全く自信無いわ。

 剣士しかねぇかやっぱ。

 

「■■■■■■■■ーッ!!」

「うおっ、びっくりした」

 

 突然猛獣のような咆哮が上がったかと思えば、どうやらゴリリアーナの上げた声だったらしい。

 昇級試験自体はもう終わったようで、今は木製のモーニングスターを両手に握ったゴリリアーナが新人達の群れの中で大暴れしているところだった。

 

 ビジュアルは完璧に討伐しなきゃヤバい蛮族そのものである。

 なんかこう……正気を失っているようでいて戦闘技術は損なわれてない的な……。

 

「くっ……近づけねえよ……!」

「柄を斬れ! それで終わりだろ!?」

「無茶言わないでよ!」

 

 連携は取れてない。ゴリリアーナの振るうモーニングスターの柄さえ斬ればそれで終わりだが、彼女もシルバーに見合わない膂力の持ち主だ。モーニングスターを二刀流してあの動き。アイアン2だか3だか知らないが、そこらへんのガキじゃ近付くことも難しいだろうな。

 

「ゴリリアーナ先輩、容赦ないっスねぇ……」

「お、ライナの方は終わったか」

「はい、まぁ手伝いだけだったんで。……近接役の人の試験っていっつもあんな感じスよね」

「あんな感じって?」

「めっちゃ厳しくないスか」

「いや、あんなもんでいいんだよ。ゴリリアーナさんはちょうどよくやってるさ」

「あれでっスか?」

 

 あれとは今まさにゴリリアーナさんの横薙ぎしたモーニングスターが一人を吹っ飛ばした感じのことかい? 

 あんなの普通だぜ。俺は技量重視で戦ってやるけどな。

 

「実際のサングレールの星球兵はみんなあんな感じで戦ってくるぞ。なんだったらもっと野蛮に振り回すし、なんか聖句叫びながら捨て身で特攻してくる奴もいる」

「めっちゃ怖い奴じゃないっスか!」

「怖いぞー、信仰に篤い奴は特にな」

 

 そういう奴ほど重要な戦線にぶち込まれるから尚のこと厄介だ。

 別に必死に戦って死んだら来世で楽しくやれるなんて教義でもなかったはずなんだがなぁ……。

 

「ふぅーッ……終了、です。……今の模擬戦で柄を攻撃できた二名には加点しておきます……」

 

 おっと、バーサーカーモードは終了か。

 死屍累々って感じだな。模擬戦で良かったよほんと。戦場なら倒れてる奴は全員ミンチなんだからな。

 

「……モングレル先輩は戦争に巻き込まれたこと、あるんスよね。多分」

「おー、そりゃあるよ。シュトルーベの方でな。ギルドの徴兵で戦場に行ったりもしたしな」

「マジっスか」

「ライナは北のドライデンの方だから大人から話を聞くことも少ないのかもな。ほとんどの戦場は睨み合いで終わるんだけどよ。本格的にぶつかる場所に割り振られると地獄を見るぜ。特にシルバーで弓使いなら重用されるしな。これからランク上げる時は気を付けろよーライナ」

「……やっぱり怖いっスね、戦争は」

「ああ。人同士の殺し合いだからな。怖いよ」

 

 何が怖いって、俺たちみたいな下々にとってはなんで攻められてるのかもわからないし、徴兵された時になんで攻めるのかもわからないってところが怖いんだよな。

 士気を上げるために指揮官は有る事無い事言って檄を飛ばすが、どこまで本当なんだかわかったもんじゃない。

 んで、そんなふわふわした理由に命をかけなきゃいけないわけだ。やってらんねえよ。

 

「よし! 俺は当てたぞ! 昇級と加点だ!」

「へへへ、俺たちは一足先に兵士になれるかもな!」

 

 ……まぁ。特に理由なんてものは必要とせず、ただ相手が敵だから殺すって考えで戦う奴がほとんどなんだけども。

 なんなら兵士として見込まれたい、軍に入りたいって奴も多い。

 ……そういう部分が温度差を感じるんだよなぁ、この世界というか、国は。

 

「……モングレル先輩は、サングレールと戦うの、嫌だったりするんスか」

「え?」

 

 なんか遠慮がちに訊かれたな。ああ、俺の人種がこんなだからか。

 

「嫌じゃないっていうと嘘になるけど、別にサングレール人だからってわけじゃないぞ? 俺は人との殺し合い自体が嫌なんだ。ほら、俺って人相手の任務は受けないだろ。そういう感じでな」

「あ、確かに。そうっスよね」

「ライナも嫌だろ?」

「嫌っスねぇ……あんま大きい声じゃ言えないスけど」

「そんなもんだよ、皆」

 

 戦争は忌むべきもの。という意識は前世なら日本に蔓延しているが、この国はそうでもない。

 非戦派はむしろ風当たりが強いくらいだ。なかなかこういう話をする相手も少なくて困る。

 

「戦争、起きなきゃいいんスけどね……」

「だな」

 

 ハルペリアとサングレールの戦争は散発的に繰り返されている。

 今は平和だが、これからどうなるかはわからない。種植えしたばかりの今頃に戦争を仕掛けるってことはないと思いたいが……それも俺の希望でしかないしな。

 

 ほんと戦争ってのは、下々の都合なんて何も考えちゃくれないものだ。

 

 




当作品の評価者数が1900件を越えました。

「バスタード・ソードマン」を読んでいただきありがとうございます。

これからもよろしくお願いいたします。

ヾ( *・∀・)シ フニッフニッ
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