バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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男だらけの野営大会

 

「いやーモングレルさんいて助かったよー。普段ゴリリアーナさんが居ない時は内臓もほとんどその場で捨てちゃうことも多いからさぁー」

「それはもったいねえな。クレイジーボアはうめーのに」

「スキルの威力があっても荷物運びの力があるわけじゃないからねぇー……」

 

 ウルリカが仕留めたクレイジーボアは二匹。

 一発は最初に見つけた泥遊び中の奴で、もう一匹はその後弓の練習中に見つけた小ぶりな個体だった。

 こっちの小ぶりな奴はウルリカも強撃系スキルを使わずに仕留めていたな。なんでも“強射(ハードショット)”は魔力の減りが大きすぎるし、慣れると良くないのだそうな。確かに弱点を狙う必要もないくらいの大威力だったし、スキルに甘え過ぎると後々痛い目を見そうだもんな。次に生えるスキルにも良くない影響が出そうだし。

 

「おー、解体も手際良いもんだな」

「慣れてるからねー。ほら、うちって畜産やってたから。小さい頃から解体作業だけは結構やらされてたんだー」

 

 小川の流れにクレイジーボアの一部を晒しつつ、脂肪の分厚い皮に手際よく刃を入れていく。

 俺は吊るさないとまともに解体作業できないから手際良い人のこういうのは曲芸に見えてくるな。

 

「あ、肝臓はこうして切り込み入れて水に晒すと良いよー。血を抜いておくと美味しいんだー」

「ほほー。知らなかった」

「うちのやり方だから好みだとは思うけどねー。モングレルさん、残滓捨てるのやってもらって良い?」

「もちろんそのくらいのことはやるさ。じゃあ解体は任せちゃって良いかね」

「じゃ、分担しよっ」

 

 クレイジーボアの使わない内臓類は全て地中深くに埋めて捨てる。

 これは掘り返されて食われないようにするのが主な理由だ。深い土の中で腐らせておけば諸々の面倒事も起こらないからな。

 しかしこの深く掘るって作業がこの世界においてはかなりの大仕事だ。小型のスコップを持ち歩いてる人なんてほとんどいねーからな。残滓を適当に捨てている人は慣れている狩人でも多い。そうせざるを得ない状況ではあるんだけども。

 

 

 

「いやー……二人なのに獲りすぎちゃったなぁ。一日で二匹も仕留められるとは思わなかったよ。モングレルさんいなかったら往復で運ぶことになってたかもね。えへへ」

「食肉を運ぶだけならまだいけるぜ。明日も含めもっと仕留めても良いんだぜ?」

「いやー卸す先に困っちゃうからねぇ。ほどほどが良いよぉ」

 

 クレイジーボアの肉はチャージディアよりも高く売れる。

 毛皮の価値はブラシとかそこらへんの利用ばかりで重さほど価値も無いのだが、上質な脂の乗った肉は街でも結構な人気だ。そのまま焼いて食うだけでも美味い肉は原始的な世界ではより好まれるらしい。

 今回ウルリカが仕留めた二匹の脚肉や肋肉などが主な換金アイテムとなるだろう。とても今夜だけじゃ食いきれるはずもない。帰りは天秤棒に吊るしてプラプラさせることになりそうだ。

 

「でもやっぱりあれだねっ。モングレルさんみたいな近接役が居てくれると安心するよ。二匹目の小型のボアも、モングレルさんが抑えてくれてたから落ち着いて撃てたしさー」

「普段俺が一人でやってることだしな。時間稼ぐだけならいつもより楽でいいや」

「えへへ。私達……わりと相性良いのかもねー」

 

 タンク役に徹するだけっていうのは返り血のことを気にしなくて良いから素晴らしいね。

 ウルリカなら誤射する心配もないだろうし。

 

「じゃ、今回はウルリカ先生への感謝も込めて。俺が肉を調理させていただきますんで……」

「やった。えへへ、お願いしまーす」

 

 今回のクレイジーボアははっきり言って策を弄する必要はない。

 焼くだけで美味い肉は焼いて食うのが一番だからだ。こういう時、俺は塩派の皮を被ってタレ派に石を投げ始める。

 

 クレイジーボアを仕留めた時に何よりも美味いのは、なんといっても(タン)だろう。顎を外してジョキジョキ切り出すと、デロンと想定以上に大きな肉塊が出てくる。こいつを程よい厚みに切って焼くと美味いんだよな。

 あとは欠かせないのがレバーとハツ。レバーはタレがないことが悔やまれる……まぁ焼いて塩をかけるだけでも美味いんだけどさ。今回はレバーを脂で揚げてしまおうと思う。こうするとタレがなくても比較的美味しくいただけるんだ。

 ハツに関しては多くを語ることもないだろう。焼いて塩かければ優勝だ。

 あと肉らしい肉を食いたいなーとなったら、背ロースから優先して食う感じかな。美味いのもそうではあるけど、解体した後に独立する肉は持ち運びもめんどいしさっさと片付けたいという気持ちもある。

 

「あー、いい香り。……アルテミスでもたまに野営はするけど、なんだかこういう豪快に焼いていくのって新鮮かも」

「そうか? 普通に焼いてるだけだけどな」

「うーん、なんかねー、一つ一つ大きい?」

「あ、ちとサイズでかかったか。もっと細かくするか?」

「ううん平気平気。こうやってガブッて齧りつくの、私結構好きだから」

 

 まだ空は明るい。解体作業も全ては終わってなかったが、少し遅めの昼食ってことで先にモツ系をいただくことにした。

 今日はもう拠点を動かない感じだな。こういうキャンプ的なまったりした過ごし方も嫌いじゃないぜ。

 酒がないことだけが悔やまれるが……。

 

「まぁこの鉄板の上に乗せておけばな、脂も良い感じにグツグツなるし。隣で肉も焼けるし良いもんだぞ」

「おーっ……良いねぇーこれ! 使いやすそー」

「ただの鉄板だからな。洗う時は川辺でガシガシやれば良いから適当に使える」

 

 解体中に削ぎ落とした脂を小鍋に入れつつ、切ったレバーに小麦をまぶして入れていく。

 パチパチと音を立てて揚がっていくレバー。実に罪な香りだ。

 

「んーっ! 美味しいっ! なんかこう、濃厚で……」

「だろー? 良いよな肝臓は。栄養もあるし身体に良いから……」

 

 そんな話をしていると、少し離れた茂みで音が聞こえた。

 

「……」

 

 俺も反応したが、ウルリカの方が早かった。

 さっきまでレバーにご満悦だった表情をすっと研ぎ澄ませ、背中の弓を取り出し構える。それまでのタイムラグがほとんどない。やっぱ慣れてるわ。

 

「……あ、ダートハイドスネークだ……」

「なんだヘビだったか……ああ、あの茂みの。こっちを狙ってるわけじゃないし無視しても良いんじゃないか?」

「……ううん、私狙う。仕留めるよ。見てて……」

 

 蛇肉も悪くはないが、それを上回るボア肉が今大量にあるからなぁ……という俺の贅沢な悩みをさておいて、ウルリカはほとんど迷うこと無く矢を放った。

 スキルもなく放たれた矢は太身のダートハイドスネークの中程に突き刺さり、その痛みによってか矢に絡みつくように暴れまわる。捕まったアナゴを思わせる暴れっぷりだ。

 

「トドメは任せておけ。ほいっと」

「ありがとーモングレルさん」

 

 あとは首を落として終了だ。……それでもまだ身体部分がビチビチと暴れ回るんだからすげー生命力だよ。なんとなく生きてる時よりも気色悪い。こいつはこのまま尻尾から吊るして放血だな。

 

「……ねね、モングレルさん。せっかくだし、蛇も食べちゃおーよ」

「おー、まぁこういうあっさりした肉も食っておくか……しかし短い間にすげー量が獲れたもんだな。脚なんか一口も食ってる暇なさそうだぞ」

「私が食べきれなかったらモングレルさん食べてね?」

「おいおい、そこは言い出しっぺが責任持って食うもんだろ」

「あははは。良いじゃんお願いー」

 

 とにかく今日は肉天国だ。ひたすら焼いて食いまくるぞ。

 

 

 

 タンを食って、レバー揚げを食って、ハツを食って。それに飽きてきたら蛇肉を齧って。

 申し訳程度に野草を素揚げしてつまんだりするも、ほとんど肉食の晩飯となっている。俺達のこの食事風景を菜食主義者が見たら全身から血を吹き出して死ぬかもしれんな。

 

「私の出身はドライデンの奥の方の村でさー、うちは屠殺業もやってたんだよねー。私の最初のスキルが手に入ったのも、多分その頃の経験があったんじゃないかなーって思ってるんだ。ほら、屠畜する時ってやっぱり苦しくないように早く仕留めなきゃいけないからさ。……このスキルのおかげで猟に出られるようになったし、人生ってわかんないもんだよねー」

 

 日も落ちて暗くなった頃、ウルリカが手の中の矢を揺らしながら語っている。

 

「……その頃村にいた代官の人が変態でさー。村にいる小さな男の子を強引に……なんていうか、自分のものにしちゃうような人でさー。今は捕まったって聞いたけど……うちの親はその代官に目をつけられたくなくて、私を女として育ててたんだよねー」

「へえ、そうだったのか。……しかしひでえ役人もいたもんだな」

「ねー。聞いた話だと私以外にも同じような育てられ方してた子はいたみたい。その頃はまだ私も小さかったけど、なんだか気持ち悪い人だったなぁー……」

 

 少年趣味っていうのかね。まぁどの時代にもいるというか……むしろ昔の方がやたら目につくんだよな、こういうのって……。

 

「まぁでも私はこういう格好するの好きだし、お姉ちゃんも可愛がってくれたからさっ。昔からちっとも嫌ではなかったんだよね。お店とか行っても男の子よりも金額まけてもらえるしねー。あはは」

「悪いやつだなぁ」

「にひひ。……そういうこともあって、今じゃこういう振る舞いも板についちゃったってわけ」

「なるほどな。ウルリカも苦労してそうな人生歩んできたんだなぁ」

「そりゃしてますよー。18歳ですからー」

「若い若い」

「モングレルさんっていくつだっけ?」

「俺は29。だけど夏に30になるな……」

「あはは、モングレルおじさんだ」

「だな、30はもう言い訳のできないおじさんだわ……」

 

 最近こう、脂のとろけるようなボアの肉よりもあっさりした蛇肉とかのほうが美味しく感じる瞬間も増えてきたしな……歳ってのはつれえわ。

 ダートハイドスネークおいちい……ウルリカはボア肉ばっかり食ってやがる。胃袋が若々しすぎる。

 

「でもモングレルさんも全然若く見えるよ」

「あー、老け顔じゃないのは両親に感謝だな。これがいつまで保つか……」

「……ご両親のこと、覚えてる?」

「そりゃもちろん覚えてるさ。……ああ、死んでるけど遠慮はしなくていいぞ。両親とはいえ、悠久の時を生きるおじさんにとってはもう遠い思い出話だからな」

 

 細かい骨だらけになったダートハイドスネークの残滓を焚き火に放り込む。

 

「ウルリカには以前も話したか。俺のいた開拓村じゃとにかく金が無くてな……とにかく子供でもなんでも、働けるようなら働かせる。そんな村だったんだ。……まぁ五歳にできる仕事なんて畑の雑草を抜いたり、小石を一箇所にまとめておいたりとかそんなんばっかりだったが」

「忙しかったんだね、開拓村って……」

「俺はその時から働き者だったけどな。家のちょっとした修理もやったり、小道具の直しもやった。今から思い返しても手のかからないガキだっただろうな」

 

 そりゃ生まれて少ししたら現代人の自我が芽生えてきたんだ。手なんてほとんどかからないガキだったことだろう。

 まぁ俺としたら未知の言語習得で必死だったけども。忙しそうな両親の手をわずらわせることのない良い子だったのは間違いない。

 

「それまではろくに誕生日……というか誕生祭か。そういうのを祝われることもなかったんだけどな。六歳になって一番近くの町に連れて行って貰った時に、武器屋の表に出てた籠に入った安売りの剣に一目惚れしてよ。それをプレゼントしてもらったのが初めてかな。あれは嬉しかったな」

「あはは、モングレルさんは六歳からもう剣士だったんだね」

「そうだぜ? まぁその中で一番短い剣を選んだんだけどな。結局その時はまだまだ長すぎるもんだから、背が伸びてからのお楽しみってことになったわけだ」

 

 俺は自家製の革鞘からバスタードソードを取り出し、焚き火の火に刀身を照らした。

 

「……もしかして、それが?」

「ああ。安売りの剣だけどな、俺の中ではなんていうか……このくらいの長さが“剣”って感じがして好きだったんだよ。それは今でも変わらない」

 

 前世の記憶がある俺にとって、この世界のロングソードはちっとばかし長すぎる。

 その点バスタードソードは丁度いい。小さい頃でも身体強化してれば難なく使えたしな。今でも変わらず俺の相棒だ。

 

「……思い出の武器だったんだね。モングレルさんの」

「まぁな。……っと、そろそろ寝る支度しようぜ。腹もいっぱいだし、眠くなってきたわ」

「うん……そうしよっか」

 

 寝る前に肉を取られないよう保護し、肉の匂いに釣られてこないよう魔物除けを気持ち多めに焚いておく。

 あとは三角テントでぐっすり……と思ったんだが。

 

「……なんか言いたそうな顔してるなウルリカ」

「あれー、わかる……?」

「……ライナに聞いただろ。いやわかったよ、良いよ別にお前も中で寝ても。奥の方な? ギリギリ二人ならいけるし」

「やった! ありがとモングレルさん!」

 

 ライナもそうだけどテント好きすぎだろ……。

 いや、この中は雨風防げるし結構暖かいから気持ちはすげえわかるけどさ……。

 

「男二人で並んで寝て何が楽しいんだか……」

「んー……私は結構こういうの……好きだよ?」

「ウルリカお前いびきうるさかったら叩き出すからな」

「あはは、怖ーい。……寝相はちょっと良くないかもしれないけど、それは少しくらいは許してね……?」

「殴ったり蹴ったりしなきゃな」

 

 こうして俺は薪ストーブから漏れる火を眺めつつ、男と横並びで寝ることになった。

 ……まぁむさ苦しい奴じゃないだけ良いな。ウルリカじゃなかったら外で寝かしてるところだ。

 

「……モングレルさん、大丈夫? 身体とか暑くない……?」

「別に暑くはねえよ。さっさと寝よう」

「はーい……」

 

 その夜はお香も働いたのか、近くを魔物が通ることもなく済んだ。

 ウルリカの寝相は前フリがあったわりに大したことはなかったが、起きたらウルリカが腕にしがみつきかけていたので引っ剥がしておいた。

 男のくせにちょっと良い匂いさせるんじゃない。

 

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