バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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帰宅と次の遠征計画

 

 レゴールに戻ってくると、空に向かって大あくびしていた門番が“おう”とやる気なさげに出迎えてくれた。

 

「ん? モングレル七日も外に居たのか?」

「ああ。奥の方で色々取って食ってを繰り返してたよ。見ての通り、獲物はほとんど毛皮ばっかりだ。食えるもんは全部食っちまったよ」

「おー、肉かと思ったぜ。その膨らんでるの全部毛皮かぁ」

「食えるもんじゃなくて悪いね。ハルパーフェレットのジャーキーなら作ったけどいる?」

「不味いやつだろそれは。いらねえよ、さっさと通れ!」

「へーい」

 

 処理場で毛皮を預け、なめし料を支払う。何の処理もしてない毛皮を持って帰ってきただけでは金にならないのだ。皮なめしの代金を払って出来上がった物をどうにかして、そこでようやく俺の収入になってくれる。

 今回はハルパーフェレットの皮がまとまった数取れたから良い金になるぜ。金持ち向けの高級毛皮として需要が高いんだ。冬物の襟元とかによく使われるらしい。確かに良いかもな。

 

 

 

「あれ、モングレル先輩。なんか久しぶりっスね」

「ようライナ。ちょうどさっき野営から戻ってきたところだ」

 

 宿に荷物を預けてからギルドに顔を出してみると、何やらライナが年下の男女に弓の引き方を教えているところだったらしい。

 いっちょ前に先輩してるなこいつも。しかし背丈が低いせいでライナの方が年下に見えてしまう。

 

「ええと、じゃあこれから先は、ギルドの修練場でやった方が良いスから……」

「ありがとう、ライナさん!」

「教えてくれてありがとうございました!」

「っス」

 

 礼儀正しいガキ共だ。ああいう子たちは犯罪奴隷にならずに済みそうだな。俺の偏見だけど。

 

「……野営って、バロアの森に行ってたんスか?」

「おお。ゴブリンはっ倒したり、イタチを仕留めたりな。あとはだいぶ前に作りかけになってた迷惑なかまどがあったからぶっ壊して遊んだりしてたぞ」

「なんか楽しそうなことしてたんスね……」

「破壊は良いぞライナ……破壊は己の心を癒やしてくれる……」

「貰えるもんなら私も破壊力のあるスキルが欲しいっスよー……」

 

 どうやらライナは自分のスキルのことでお悩みらしい。

 そういや団長のシーナから二個目のスキルが生えてくるまで昇格は禁止って言われてたらしいしな。本人としちゃ焦る所もあるんだろうか。

 

「おーいすいませーん、エールふたつー」

「はい。ですけどそれよりモングレルさん? 先に帰還の報告が先なのでは?」

「おっとそうだった。忘れてたわ。すんませんすんません」

 

 今回の自由討伐の成果、つまり処理場で認められた討伐記録を提出し、任務は終了。

 張り出されている依頼ではないこういったフリーでやる討伐は、ほとんどの対象について報酬が低く設定されている。

 それでもまぁ無いよりはマシなので貰うんだけどな。この金でエールと何か適当に買ってっつーところだよ。

 

 お金とエールを貰ってテーブルに戻ると、ライナは小さく頭を下げた。

 

「ほらよ。まぁ飲め」

「あざっス」

「すげー不味いジャーキーもいいぞ」

「ええなんスかそれ……」

「ハルパーフェレットのジャーキーだ。あいつらそのまま焼いて食っても不味いしジャーキーにしても不味いんだ」

「マジっスか……どれどれ……いや普通の肉……うぇえ……」

「ほらな不味いだろ?」

「ハッキリ言ってこれは毒っスよ……」

「マジでハッキリ言うねえ」

 

 まぁまぁ、食い物なんてどれも経験だから。味の良いものを食いたいだけなら牛と豚と鶏で終わっちまうんだから、こういうのを味わっておくのも人生は大事だぞ。

 

「で、スキルがなかなか習得できずに焦れてるって感じだな」

「……まぁ、はい。一応ちょくちょく外に出て鳥相手に射ってはいるんスけどね……大型の魔物とか仕留めないと駄目なんスかねぇ……」

「どうだろうな。けど時期的にはそろそろなんだろ?」

「一個目は早かったんで、そろそろのはずなんスけど」

 

 スキルは自身の経験によって習得できるものが決まる。

 剣を振るう者には剣のスキルを、弓を扱うものには弓のスキルって具合だ。

 ライナは俺みたいに装備で変な浮気はしないし、サブウェポンだってほとんど使っていないはずだ。意識的に弓をバンバン使って狩りもしているし、次こそは補助以外のスキルが来て欲しいところなんだろう。

 思春期らしく頭を抱えうーうー唸っている。真面目な悩みだなぁ。

 

「あんまり思い悩むなよ。スキルなんて数年に一度の気が長いものなんだから。アレが欲しいコレが欲しいなんて思ってたって、何年も嫌な気分で仕事するハメになっちまうぞ?」

「うう……わかってるんスけどねぇー……」

「たまには別の場所で狩りをしてみるとか、気分転換になって良いんじゃないか」

「気分転換……あ」

 

 ライナが顔を上げた。

 

「そういえば今度アルテミスで遠征に行くことになったんスよ。ドライデンの方に」

「ドライデンか。護衛任務だな」

「っス。で、そのついでに向こうのザヒア湖近辺で狩りをしようかと思ってるんス」

「湖か。涼しげで良いじゃないか」

「まぁそんな大きい湖じゃないらしいんスけどね。外から来る人が言うには」

 

 ザヒア湖といえばドライデンのもうちょっと奥に行った所にある湖だな。ドライデンはここから流れ出る水を生活用水として活用している。

 俺はそこまで行ったことはないな。

 

「……モングレル先輩も一緒に行かないスか。ザヒア湖」

「んードライデンかー遠いからなー」

 

 それにアルテミスと一緒ってのがなー。

 

「でも湖だし釣りとかできるっスよ」

「お」

 

 そっか湖で釣りか。こりゃ良い。

 

「じゃあ行くわ」

「早っ! 釣れるの早すぎじゃないスか!」

「釣りと聞いたらすかさず食らいつく。レゴール支部のブルーギル・モングレルといや俺のことよ」

「なんすかブルーギルって」

「わからん。結構前に見た怪しい魚図鑑に乗ってた気がする。針だけで釣れるぞ」

「簡単な魚もいるもんスね……」

 

 湖なら水深もあるしそこそこの魚もいるだろう。水鳥がいるなら尚更だ。

 よしよし、良いぞ良いぞ、面白くなってきた。楽しみじゃないか、ザヒア湖。

 

「ライナも一緒に魚釣りしてみないか? いくつか竿持ってくから」

「えー……またこの前みたいに疑似餌失くしちゃうと申し訳ないんスけど……」

「大丈夫大丈夫、失敗なんていくらでもするもんだ。それに今回はいくら失くしても大丈夫なくらい予備を持っていくからな。一緒に湖の主を釣り上げようぜ。そんで美味い魚料理食わせてやるよ」

「魚料理っスかー」

 

 なんだその態度は。腕組んで悩んでるけど。

 

「ライナは魚はお好きではないと?」

「んーそんなことはないスけどねぇ……美味しいんスよ? けど食べるのが面倒なわりに食べる場所が少ないというか……」

「そりゃ干物のせいだ。任せておけ、俺が本当に美味い魚料理を作ってやるからな」

「モングレル先輩の魚に対する情熱はどっから来るんスか……」

「ここだ」

「心臓スか」

「だいたいそんなとこだ」

 

 まー本当は川魚じゃなくて海の魚のが良いんだけどな。刺し身にできるし。川魚の刺し身は寄生虫が怖すぎるというかアウトだ。

 それでも癖のない淡白な川魚の味わいは魚初心者にはうってつけだろう。自分で釣った魚となれば美味さも格別のはずだ。

 

 竿は新しい試作も合わせて三本あるから……もう一本はウルリカにやらせてみよう。

 

 考えてるとなんか楽しくなってきたな。こうしちゃいられねえ。帰ったら早速釣り道具のメンテとルアーの増産をやっておかねえと……。

 

「……メインは私の水鳥狩りっスからねー?」

「わかってるわかってる」

「本当にわかってるんスかねぇ……」

 




当作品の評価者数が2300を突破しました。すごい。

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(廃棄*・∀・)ァアアアア

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