バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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君だけの飛び道具を選ぼう

 

 釣り旅行への出発まではまだ数日ある。

 この間に俺は釣り道具の備品を加工したり、市場でスカイフォレストスパイダーのたっけぇ糸を購入したりと、着々と準備を整えていた。旅行前の支度をしてる気分だな。俺はこういうのが結構好きなタイプだ。

 

 あとは向こうで使う金を稼ぐために、少し心許なくなった財布を厚くしてやろう。

 そんなノリで何か適当な任務でもするかーとギルドに顔を出してみると、テーブルを囲んでいた連中が一斉に俺の方を見た。

 

「モングレルさんだ」

「聞いてみる?」

「けどモングレルさんだぜ? 聞いてもなぁ……」

「一応聞くだけ聞いてみようよ」

「そ、そういう言い方は失礼になってしまうのでは……」

 

 入り口から入ってすぐのテーブルに陣取っていたのは、成人になってるのかなってないのか程度のガキの集まりだった。

 見た感じ所属するパーティーもバラバラで、中には「若木の杖」のミセリナの姿もある。ジョブもバラバラな連中が集まってるってのは結構珍しいな。

 

「なんだなんだ。このベテランギルドマンのモングレル様に何か聞きたいことでもあるのか」

「……どうする? この人に訊くのか?」

「後でお金を請求されたりするんじゃないかしら……」

「しねーよ! 俺のことを何だと思ってるんだテメェらは」

「……」

「……」

「……」

「いや、言っちゃいけないことを自分の喉元で留めておくのは良いぜ? でもその沈黙がもう……いややっぱり良い。ここはお前たちの大人な振る舞いを褒めるだけにしておくぜ……」

 

 見てみると、テーブルの上には幾つもの装備品が転がっていた。

 まるでギルドでたまにやってる中古市みたいだな。……しかしどれも同じジャンルの武器ばかりだ。

 

「投擲武器か」

 

 テーブルに広げられたのはどれも飛び道具ばかり。

 投げるのにちょうどいい金属製の礫だったり、小さなナイフだったり、ダートだったり。よくもまあこんな色々と揃えたもんだな。

 

「そうなんだよモングレルさん。俺達みんな剣士か魔法使いなんだけど、それでも幾つか飛び道具は持ってたほうが良いなって話になってさ。ほら、俺も剣士だけどその時によっては相手に近づけなかったりするし。そういう場面だと何か投げられるもんあったほうが良いかなって」

「ふーん、まぁ殊勝な心がけじゃないか。ウォーレンだったっけ。お前は何使ってるんだよ」

「俺はこれ! 投げナイフ!」

「まぁ普通だな」

 

 投げナイフは普通のナイフよりも取っ手が簡素で、少々コンパクトになった飛び道具だ。いざという時普通のナイフとしても使えるから結構便利である。飛び道具以外の使い道があるっていうだけでもありがたいよな。

 

「あの……私のはこれです。あまり多くは持てないので、一本だけしか持ってないですけど……」

「ダートか。軽いからミセリナみたいな魔法使いにとっては悪くないんじゃないか」

「は、はい」

 

 気弱そうな魔法使いのミセリナはダートを使っているらしい。

 ダートは名前のまま、現代のダーツを大きめにしたような投擲武器だ。使い方も概ね同じ。投げることで標的に突き刺す。手槍の軽量版って感じだな。

 金属資源に乏しいハルペリアではこういう大部分が木材で必要な箇所だけ小さく金属を用いている武器は安くて使いやすい。失くしてもあまり懐が傷まないからな。

 

「俺はこれを使ってます。手斧です! 重いしかさばるので一個しか持てないですけど、一撃は重いし便利なので愛用してるんですよ!」

「フランクは手斧かー、似合ってるな。名前とか」

「名前?」

「いやなんとなくな」

 

 前世ではフランキスカという手投げ斧があった。フランクと名前が似てるし運命的な何かを感じるな。

 史実でも結構強かったはずだ。斧が飛んでくるんだぜ? そりゃまぁつえーよな。

 

「私はこのダガーを使ってるわ!」

「ミセリナさんの使ってるダートとは違う、もうちょっと長いやつを僕は使ってます。針が長いので獣相手にも十分刺さってくれる……はずです、多分」

 

 それからは続々と自前の飛び道具自慢が始まる。どうやらテーブルの上の武器たちはこいつらの持ち寄った自慢のアイテムだったらしい。

 

「……もしかしてお前らのしてる話って、どの飛び道具が一番良いかって奴かい?」

「よくわかりましたね、モングレルさん」

「そうなんだよ! 俺は投げナイフが良いと思うんだけどなぁー。一番普通だしさ。上手く刺さるとかっけーし……」

 

 かっこいいのはわかる。だいぶ前にバタフライナイフっぽいナイフアクションやろうとして手を怪我してからやってないけど。

 

「でも魔物に投げて刺さった後、半矢で逃げられちゃうこともあるでしょ? そういう時に高価な武器だと損するじゃない!」

「そりゃぁ……一撃で仕留めるさ!」

「やっぱり手斧ですよ! 一撃で相手を殺せば問題ありません!」

「こ、怖いですけど、それも真理ですよね……しかし、やはり重すぎる装備は負担になりますし……」

 

 そうだな。殺傷力、利便性、携行性、経済性。いろいろな兼ね合いがあって難しいよな、こういうサブウェポン選びは。

 けどそれだけに自分に合った装備を選べるっていうのは面白いもんだ。それにほら、サブだと若干自分のロマンに寄っても良いしな。うん。

 

「なあモングレルさんはこの中ならどれが良いんだよ! 教えてくれ!」

「……まぁ持ち運びできる体力とかそういう問題もあるし、目的に合わせて個人の好きにした方が良いってのはあるんだが……そういう回答は望んでない感じ?」

「えー? 一番強いやつを決めてくれよぉ」

 

 最強厨かよお前ぇー。しょうがねえな選んでやるよ。

 

「えーロマンのない結論を言わせてもらうぞ。こん中で一番強いのは手斧ですわ」

「ほらきました! やはりモングレルさんはわかってますねぇ」

「マジかよぉ」

「強いのはわかりますけど……」

「単純に威力が強いからな。ゴブリンを一撃で殺せるのは当然として、上手く刺さればクレイジーボアやチャージディアも仕留められるかもしれないってのがデケェよ。他の武器だとそうはいかないしな」

 

 テーブルの手斧を持って軽く上に投げ、キャッチする。この普通の斧とは少し違う絶妙な重心。良いよね。

 

「ただ重いから持ち運びは面倒なのは事実だ。野営の時に薪割りしたり解体する時には便利かもしれないが、それは全員が持ってても仕方のない性能ではあるしな。あと木の上にいる鳥を狙ったりできないのも辛い。射程が無いから気軽に使えないのは残念なポイントだな」

「ぐ……まぁ、そうですが……」

「でもまぁ一番強いよ。パーティーメンバーで一人くらいは持ってたほうが良いんじゃねーの」

 

 次に手に取るのはダート。手投げデカダーツだ。

 

「鳥も狙えるって意味ではダートが使いやすいな。本当にいざって時は魔法使いが接近戦にも使えるし、軽いし安い。こっちを選ぶのも間違ってはいないぜ」

「よ、良かった……自信が無くなってました……」

「まぁできれば毒を仕込めるタイプが良いかな。針は長くてもこれだけじゃ殺せないことも多いし」

「毒、ですか……はい……」

 

 次に手に取ったのはウォーレンの投げナイフ。まぁまぁ、これはこれでいいよ。

 

「投げナイフは場所取らないしダメージもそこそこあるし、使い道は色々あるし良いよな」

「だろー?」

「でも普通にナイフとしての役目のほうが多くて投げる機会あんま無いんだよな……」

「……」

 

 沈黙は肯定。そう、投げナイフの使い所ってあまりないんだよな。

 刺さってもクレイジーボアとか相手だとダメージあまりないし。むしろ刺さったまま逃げられる場合のロストが怖いからあまり投げたくないし。滅多に逃げない相手ではあるが……。

 でもまぁ、結局剣士にとっては飛び道具は全部牽制みたいなもんだしな。何使ってもいいんじゃねーの。

 

「……そういうモングレルさんは結局何を使ってるんだよー?」

「俺も気になります」

「盾も持たないのに飛び道具は持ってるのかしら」

「弓が下手っぴだって聞いたよ」

「普段弓を持ち歩いてるわけじゃないのにね」

「見せて見せて」

 

 うるせー奴らだ。飛び道具か。俺はあんまり普通の狩りでは使わないんだが……。

 

「んー、俺はいつでもどこでもバスタードソードだけでなんとかするギルドマンだからな……何かあったかな……」

「……荷物の奥の方を探すような飛び道具ってなんだよ」

「全然使ってないじゃん!」

「うるせー! あ、そうだこっちに入れてたな」

 

 荷物の前ポケット。そこを補強も兼ねてスッと差し込んでおいた薄型の武器。これこそが……今俺が持ってる唯一の飛び道具だ。

 

「じゃーん、旧ハルペリア軍で制式採用されてたチャクラム!」

 

 俺が取り出したのは薄いリング型のカミソリ。前世ではチャクラムと呼ばれていた飛び道具だ。三枚だけ入ってる。

 穴が偏っていて真円ではないが、おかげで投げた時に不規則な回転を見せるため、ちょっとだけ刺さりやすくなっている。……らしい。

 

「あーこれ聞いたことある! 昔使われてた飛び道具だ!」

「絵本の挿絵とかでもあるやつだ。古いなぁ……ちょっと煤けてる。使い込まれてるのかな……」

「……モングレルさん、これって使えるんですか?」

「……」

「なぜ沈黙してるんですか……」

 

 そりゃまぁ、うん。

 

「いや……俺もこれをな、骨董屋で買ったは良いんだが……ちゃんと研いだぜ? 研いだけどこれあんまり刺さってくれなくてな……」

「……使えないんだ」

「なんで荷物に入ってるんだよそんなの」

「そんなに邪魔にはならないからな……」

 

 普通に投げてもあまり刺さらない。形が丸すぎるせいだろうか。少なくともスパッと木の枝を切ってくれるようなものではない。あと持ちづらい。……そう考えると正直褒めるところがあんまりない武器だな? なんで昔の軍はこんなもん採用してたんだと真剣に悩むレベルである。

 

「あ、でもこいつ野外で燻製する時に燻製器の枝を結束させるのに使うと良い感じになるぞ。紐を使わなくていいから楽なんだ。こう、ねじるようにな」

「投げナイフ以下じゃねーか!」

「煤けてるのってそんな理由だったのね……」

「チャクラム以外ならどれも便利そうに見えてきた……」

 

 まぁコレに関して言えばそうだな。俺のチャクラムが悪いな。断じてこいつらにオススメできる武器ではないわ。

 いやでもほんと隙間にスッと入れておけるから……いつのまにか入ってる飛び道具って意味では優秀なとこもなくはないから……うん……。

 

 それに俺だったらチャクラムを上手く扱えるし……一応……。

 

 

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