バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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ザヒア湖の手漕ぎボート

 

 馬車を降りた後はしばらく歩くことになる。

 ハルペリアは基本的になだらかな地形だが、ここらへんだと結構傾斜があるな。俺の自作ブーツはこういう道でも難なく進めるが、安い靴でこういう道を歩くのは現代のちょっとした登山よりも辛そうだ。

 

「モングレルさんそれ重くないのー?」

「全然余裕だよ。なんならお前らの荷物を追加で持ってやってもいいぜ。金取るけど。一つ50ジェリーな」

「うわっ、ケチだなぁー」

「自分の荷物くらい自分で背負えるっス」

 

 ここからもうちょい坂道を登っていけば湖に着くらしい。楽しみだ。

 

「ん。50ジェリーだ」

「マジかよ」

 

 楽しみにしてたらナスターシャが小銭と荷物を差し出してきた。

 俺からすればどうってことのない軽そうな荷物である。こんなんでも抱えて歩くのは嫌なのかお前。

 

「喜んで荷物持ちさせていただきます。へへへ……」

「うむ。軽くて良いな」

「ナスターシャ先輩……」

 

 でも金が貰えるなら喜んでやるよ。プロとして……。

 

 

 

 坂を登りきった時、ようやくザヒア湖の一部を望むことができた。

 周囲を高い木々に囲まれた、うねうねした湖である。思っていたより結構デカい。少なくとも池って規模じゃないな。

 ここなら良い感じに魚を釣れそうだ……!

 

「ここから見下ろすだけで結構水鳥がいるわね。リードダックかしら」

「良いね良いねー。リードダック狙うの久しぶり……あ、フレッチダックもいる!」

「マジっスか。良い矢羽が採れるんスよね。是非狙いたいところっス」

 

 俺はこの眺望に結構感動していたんだが、アルテミスの弓使い達は早速獲物を見つけてテンションを上げている。狩人だなぁ。基本的に俺は鳥を狩れないから見てもあまりテンション上がらないんだよな……。

 じゃあナスターシャとゴリリアーナはどうなんだって思ったら、二人は既に坂を下り始めているところだった。

 

「舟を借りよう。無ければ水鳥など狩猟できまい」

「狩人の人気はなさそうなので、借りられないということはなさそうですね……」

 

 どうやらこの先に湖の管理棟みたいなものがあるらしい。

 舟かー。舟釣りも悪くねえよな。この世界のあまり信頼できない舟でやりたくはないけども。偏見だけど一時間も乗ってたらズブズブ沈んでいきそうな気がする。

 

 

 

「あー、ええよええよ。近頃連中がガァガァ喧しくてな。一発ええの叩き込んでやってくれ。それと、もしリードダックが獲れたらこっちにも分けてくれんかね? 何日かここらに逗留するなら鳥だけじゃ味気なかろ? 色々食材あるんでね、かわりに持ってってくれ」

 

 管理棟には六十代くらいの爺さんがいて、暇そうにコーンパイプを銜えていた。

 この湖の入口には幾つか民家があり、彼はここで暮らす一人らしい。小さな畑と舟貸しで生活してるのだとか。表には作ってる途中の舟らしき木材もあったので、ちょっとした船大工でもあるのだろう。

 

「まぁ、ありがとうございます。リードダックを仕留めたら必ずお持ちしますね」

「悪いねぇ。ああ、舟は裏にあるんでね、好きなの選びなよ。あ、一番左のはボロいから乗っちゃいけんよ。沈んじまうからね。ヘッヘッヘ」

 

 ヘッヘッヘじゃないよ爺さん。そんな恐ろしいのさっさと解体しといてくれ。

 

 

 

「どっせい」

 

 ゴリリアーナと一緒に舟を桟橋に運び込み、それぞれを進水させた。

 舟は二人乗りで、オールが二つついている。まぁよくある普通の手漕ぎボートだな。

 管理棟の爺さんは左のがボロくて使えないって言ってたけど、他のボートも結構古い。俺の目からすると正直どれも怖いよ。二時間くらい乗ってたらズブズブ沈んでいきそうな貫禄というか年季を感じる。

 

「いくつか浜とか桟橋があるんスよね。そこまで行ってポイントを見つけたいところっス。こっちの民家のある岸はさすがに獲物も少ないっスから……」

「なぁ、舟浮かせといて今更だけど、歩いてそういうポイントまではいけないのか?」

「道があまり整備されてないからねー……それに、モングレルさんの釣り竿なんか枝にひっかかって大変になっちゃうよ?」

「ああそうか」

 

 湖の周囲は自然が深い。とてもじゃないが快適に歩けないだろうな。

 釣り竿の事を考えると歩くのは面倒か。

 

「ひとまず舟に乗って考えましょう。どうせ奥の岸までは行かなければならないのだし」

「っス。えっと、どういう乗り方が良いんスかね」

「はーい。私ゴリリアーナさんの舟に乗る! 漕ぐの楽そうだし!」

「私はシーナと舟に乗ろう。ライナはモングレルと乗れ」

「あ、うっス」

「手漕ぎボートか。ボロいからぶつけないようにしないとな」

「弁償したくはないわね。各自気をつけて乗るように」

 

 そんなわけで俺はライナと一緒の舟に乗ることになった。

 荷物を真ん中に置いて、二人で向き合うような体勢だ。まるでカップルみたいなシチュエーションだな。まぁここが井の頭公園のアヒルボートならともかく、弓を持った女とキャンプする気満々の男の舟に色気もクソも無いんだが。

 

 

 

「なんでモングレル先輩弓持ってこなかったんスかぁ……」

「いやー、持ってこようかなーとは思ってたんだけどなぁ。どうしても荷物が嵩張っててよ」

「練習は大事っスよー」

 

 漕ぎ役は俺。方向指示はライナに任せといた。隙あらば舟から水鳥を狙おうという魂胆もライナにはあるようだが、そんなマヌケな水鳥は近くにはいないらしい。弓を持ってはいるが矢筒から矢を取り出そうともしていなかった。

 

「ていうかここ湖だろ? 矢を外して湖に落ちたらどうすんだよ。俺みたいなヘタクソがやったら十分もせずに矢筒が空っぽになりそうなんだが」

「矢は落ちても水に浮くっスよ。今回は鏃も軽いやつっスから」

「ああ木だからそうか」

「でも広い湖で一本の矢を探すのは結構しんどいスから、基本は当てたいっスねぇ。何本も失くしたらそれだけで大赤字っス」

「矢も安くねぇからなぁ。そう考えると水鳥って割に合わないかもな」

 

 湖の上に浮かぶちっこい矢を手漕ぎボートで探す……あまり考えたくない作業だな。今生では俺も力があるからこういう漕ぐのも苦じゃないが、前世だったらしんどい作業になっていただろう。

 

「ライナ、お先に」

「わぁ」

「あ、なんかズルいぞお前らそれ」

「力の有効活用よ」

 

 俺がギィギィ漕いでいると、その横からシーナとナスターシャが颯爽と抜き去っていった。

 どうやらナスターシャが杖を水中に突っ込んで、何らかの水魔法を使っているらしい。自分たちだけファンタジー動力活用しやがって……。

 

 

 

 うねうねした湖を進んで奥まで見て回った結果、三箇所ほどのめぼしいポイントが見つかった。らしい。俺にはよくわからんけど。

 

 1つ目は湖の真ん中に浮いている離れ小島のような場所。こういう場所良いよな。ボロいけど桟橋もあって気軽に舟を留められるようだ。湖の多くを見渡すことができるので単純に狙いやすい。

 

 2つ目は一番奥にいったところの岸辺。杭とロープがあって舟を留められるようになっている。ある程度切り開かれているので過ごしやすそうだ。

 

 3つ目は管理棟からは死角になっている砂浜。ボートをそのまま砂地に上げれば問題ないだろう。周囲に木々が少ないのでキャンプには丁度いい。人目につかないからか水鳥の影も濃いようだ。

 

「シーナ先輩は小島のとこ取ったみたいっスね。先輩なら色々狙えそうで良い感じのポジションっス」

「ライナはどこにするよ? そっちまで漕いでいくぜ」

「んー、モングレル先輩は今回も天幕張るんスよね。だったら拠点にしたい所をベースに狩りをやってきたいところっスね」

「おお、それは助かるな。じゃあ岸辺の所にするか」

「了解っス。……一応、天幕はできるだけ岸の奥の方にしてもらえないスか。鳥に気配を悟られないようにしたいスから」

「なるほど、そういうことも気にしなきゃいけないわけか。魔物みたいに向かってくるなら楽なんだけどなぁ」

 

 しかし昔の「鳥」って映画みたいに集団で襲われるのは怖いな。

 剣があれば手こずるわけでもない相手だとしても、ホラーはホラーだよ。

 

 

 

 舟を岸辺につけて、荷物を地面に降ろした。ここをキャンプ地とする。

 言われていた通り湖の水質はすげー良さそうだから、水は普通にここのを使うことにしよう。煮沸すればどうとでもなりそうな綺麗さだ。透き通っていて良い感じ。

 

「モングレル先輩は釣りやってくんスよね?」

「おうそうだぞ。ライナもやるか?」

「やりたいっスけど……また釣りの道具失くしちゃったらちょっと……」

「あー前のことまだ気にしてたのか? 良いんだよあれくらい。あの時は浅かったししょうがないさ。今回はまぁ多分大丈夫だから、やりたかったらどんどんやろうぜ。予備もあるしな」

 

 今回はケースに一通りのルアーや針、錘やウキ、糸の予備を用意して持ってきている。何度かロストしても大丈夫だ。今回の俺は釣って釣って釣りまくってやる。ヒットしたら脚でジェノサイドカッターみたいなポーズ決めて飛び跳ねてやってもいい。そのくらいの意気込みで来てるんだぜ。

 

「……じゃあ、えと。獲物が近くに寄って無い時とか、やらせて欲しいっス」

「おうおう、良いぞ良いぞ。一緒にでかい奴釣り上げような。湖のヌシみたいなやつ」

「ヌシっスかぁ……こんくらいのサイズになるんスかね」

 

 ライナは40センチくらいのジェスチャーをしてみせた。かーっ、最近の子供は夢がねえな!

 

「ヌシっつったらもうこうよ、こう!」

「そんなでっかい魚いるんスか!?」

「いるだろー多分、湖だし。大抵こういう水場にはしぶとく生き続けてる長老みてーな奴がいるもんなんだよ。そいつをガッと釣り上げてね、焼いたり蒸したり揚げたりってな具合にね、いきたいっすね」

「良っスねぇ……」

 

 まぁ俺としてはまずライナに魚がヒットした時のビビビって感じを楽しんでくれりゃ良いんだけどな。

 エビとかカニも良いけどやっぱ魚も体験すべきだろう。

 

「鳥に魚……今日の晩飯は豪華になりそうじゃねーか」

「まだ一匹も捕まえてないっスけどね……むふふ……」

 

 わかるけどな、こういう皮算用してる時が一番楽しいもんなんだぜ。

 

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