バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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淡水魚の塩焼きとムニエル

 

 ルアー釣りは海に出てやるべきだったかもしれん。ちょっとここらへんの魚を相手にするにはデカすぎたかな。

 ライナの釣り上げたラストフィッシュも丁度針だけに食いついていたから上手くいったようなもんだし……。

 

 そういうわけで疑似餌のサイズを落とし、針も小さめのに付け替えてみたら……まぁ掛かる掛かる。さっきと同じくらいの小魚が。

 

「来たっス! また釣れたっス!」

 

 ライナは続けざまに二匹を釣り上げてみせるし。

 

「わっ、ぶるぶる震えてる……! へー、この感触、結構楽しいかも……! わっ!?」

 

 ウルリカもなんか中型の奴を釣り上げた。

 名前はなんだったかな……ええと、ギルドの魚図鑑でヘタクソな絵で見た記憶がある。

 乳白色の大きく固い背びれ、黄色と白のグラデーション……。

 

「……ああ思い出した、アベイトって魚だ。鳥に食われそうになると固い背びれで自分を守ろうとするってやつだな。良かったな、食える魚だぞ」

「アベイト……へー……うわわ、すごい暴れてる」

「さっさと締めて内臓抜かないとっスね」

 

 釣り初体験なのにきちんと締めと内臓取りに頭が回る系女子の集いである。

 生ぐさーいとか、気持ちわるーいとか、全くそんな事を言う気配もない。釣った奴は全て獲物。全くワイルドな連中だぜ……俺はちょっと生臭いの嫌なのに……フローラルな石鹸が欲しい。

 

「……あっ。釣れた……釣れましたッ!」

「わぁ! ゴリリアーナさんやったっスね!」

「すごいすごい! あ、これもアベイトって魚だねー!」

「マジかよおめでとう。え、釣れてないの俺だけかよ」

「ぷぷぷ、モングレルさん釣り竿持ってるのにまだ釣れてないんだー」

 

 このガキ……煽りやがって……。

 

「……よーし、今日はウルリカの南蛮漬けじゃぁああ!」

「きゃー! 襲われるーっ!」

「ナンバンヅケってなんなんスかねそれ……」

「料理だと思いますけど……」

 

 

 

 枝を持ってちょっとウルリカを追いかけ回して遊んだ後、無駄に疲れた俺は釣れた魚を調理することにした。

 今は昼過ぎ。朝は宿で軽食を摂ったが、腹の空く頃合いだ。

 

 石を組んだかまどに火を付け、羽根を毟った水鳥の産毛をパチパチと焼きつつ、とりあえずラストフィッシュを串刺しにして遠火で焼いていく。普通の塩焼きだな。内臓を取って鱗とヌメリを落とし、塩をゾリゾリなすり付けてじわーっと焼くだけの簡単料理だ。川魚は背から焼くんだっけ? うろ覚えすぎる……。

 レゴールでは生魚なんてほとんど流通が無いし、あっても金持ち向けの高級料理店くらいだろう。それも多分わざわざ氷を使って鮮度を保った海の魚とかになるはずだ。こういう新鮮な川魚っていうのは珍しいんじゃねーかな。

 

「あ、シーナ先輩達こっちに来てるっス」

「ほんとだー……って、うわぁ。すごい量の水鳥……」

 

 小島の方からシーナとナスターシャの舟までこっちにやってきた。

 またファンタジーな魔法動力で動かしてんのか。羨ましい……と思ったのも束の間、船が遠目にも鳥を満載しているのが見えてきた。やべえな。十羽くらい仕留めてやがるあいつら。

 

「皆して魚釣りなんてやって……鳥はどうしたのよ」

「仕留めたっス! 三羽スけどね。水鳥が近づいたらちょくちょく撃ちに行ってるっス」

「私は五羽仕留めたよー、割れ矢が切れてやめちゃった」

「あら、そっちも大猟ね……ちょっと私達の獲物の羽根毟り手伝ってもらえるかしら。あまりにも数が多すぎてね……」

 

 なるほど、血抜きはしているが羽根毟りにまで手が回らなかったらしい。

 こんだけ撃ち落とせば当然ではある。撃って回収してをやっているうちに手一杯だろう。

 

「シーナさん、わ、私が毟ります……」

「おー、じゃあ俺も毟るわ。今日はもう鳥の羽根毟りのプロになりそうだぜ」

「あ、じゃあ私も手伝うっス」

「ならその空いた釣り竿は私が使わせてもらおう。気になってはいた」

 

 結局全員がこっちの岸にやってきてしまった。

 あるところでは羽根を毟り、あるところでは釣り竿を振り……うん、実にレジャーを堪能している。だがやることが多くてなんだこれ、すげー忙しいぞ。

 

「やっぱりシーナ先輩は良い当て方っスね。首から頭をちゃんと射抜いてるっス」

「そ、そうですね。処理がとても楽になります……すごいです……」

「これってなんでわざわざ前とか後ろから撃つんだよ。投射面積狭くて当たりづらいだろ。横向きの時に撃てば良いんじゃねえの?」

「モングレル先輩知らないんスか。水鳥は動くから横向きだと難しいんスよ。縦方向に向いてる方が予測もしやすくて楽なんス」

「あー、そういう」

 

 なんかこう落下予測とかゼロインとかどーたら……なるほどな、そういうあれね。

 ミリタリーっぽい知識だ。いや、弓もまんまミリタリーだったか。

 

「見ろシーナ。この小魚の模型は水中で糸に引っ張られることで、実際の魚のような揺れ方をしている。獲物はこの動きに釣られてくるのだろう」

「へえ、面白い。餌じゃなくて飾りの動きで引っ掛けるのね」

「だが常に巻き取る必要があるな。能率の良い漁業とは言えん」

「モングレルの作った道具なんでしょう。そんなものよ」

「お客さーん、聞こえてますよー」

 

 毟り終えた辺りで程よく魚が焼き上がった。

 ぶくぶくと身から泡が出ず、ちょっとカラッとした感じになれば頃合いだ。

 なんなら安全のために焦げてるくらいでも全然良い。

 

「ほれほれ、三人とも食ってみろ」

 

 三人とはもちろん釣り上げたライナとウルリカとゴリリアーナさんの分である。

 俺の釣り竿を馬鹿にしたお偉いさんにはあげません。

 

「んむんむ……んー、ほくほくしてて美味しいっス」

「んっ……良いねー。皮のところしょっぱくて美味しー」

「……」

 

 ゴリリアーナさんは黙々と食べている。食うのすげー早い。

 まぁ川魚の串焼きなんてそんなもんだ。一食分にも足らないおやつみたいなもんだな。

 

「アベイト解体してみるわ。見てみるか?」

「モングレル先輩、魚の解体のやり方知ってるんスか? 本当に料理人みたいっスねぇ」

「おお、まぁなー。故郷の父親がそういうの得意でな。教わったこともあるんだよ」

「……そうなんだ……あの、モングレルさんっ、私もやり方見させてもらって良いかな?」

「おー見とけ見とけ。つっても初めて捌く魚だから間違ってるかもしれないけどな。やりながら教えてやるよ」

「おっス、お願いしまっス」

 

 まずはなるべくまな板っぽい木材を自然の中から探して用意します。

 今回はそんな都合のいいアイテムが落ちてなかったのでバスタードソードの力で無理やり作り出しました。

 

 で、魚を置きましてー、からの……。

 

「まぁ既に鱗は落としてあるから、次は頭を落とす。エラのところから中骨に向かってこう、で反対からもこう。これで落とす」

「ほー、頭は食えないんスね」

「どうだろなー、頬の所とか額に近い部分は結構美味い肉もあるけど、少ないからな。で、まぁこいつの場合ちょっと背びれが鋭いし固くて邪魔だから切り落とします」

 

 てかナイフで魚おろすの難しいな……包丁が欲しくなる。

 

「あとは内臓を……魚の肛門のところからザクッと開いて取り出す。ついでにこの色の濃いエラも取り除く。中はできれば指で洗っといた方が良いな」

「おー、結構あれっスね。獣と同じ感じなんスね」

「ほんとだー。でも骨が全然違うからなぁー」

「骨はこう、魚の中心を通っている中骨に沿うようにナイフを動かして、まずは腹から尻尾に向かって刃を入れていく……」

 

 あー蛤刃なのにどうしてナイフってこんな使い辛く感じるんだろう……どこを刃先が通ってるのかわかりにくいなこれ。

 

「あとはこっちの背側からもザクッと入れて、中骨に沿うように尻尾に……でいいかなこれ」

「なんか皮を剥いでるみたーい」

「あー感触は似たような感じだよ。こんくらいの小さいサイズだと特にな。ほら、片面はこうなる」

「おー」

 

 ひとまずこれで一枚目。

 

「そしたら反対側の方も同じように中骨に沿って刃をいれていけば……ほれ、三枚になった」

「お、おおおーっ」

「真ん中の邪魔な骨を残すやり方なんだね。へー、なるほどなー」

 

 現代知識チートみたいな啓蒙してるけど、まぁ多分海沿いの現地人だったらだいたいこのくらい知ってるしできそうな気はするけどな。レゴール近辺出身だと料理人くらいじゃないとわからないかもしれん。

 

「あ、最後にこの腹骨をすき取っておいた方がいい。こいつは縦に生えてる骨とは違って、内臓を覆うようにある肋骨みたいな形してるからな。今の切り方だと身に残ったままなんだ。これを削るようにして取ればまぁ終わり。こうして俺達のもとに届けられる……」

「はぇー」

 

 血合い骨とかは知らん。てか俺も魚捌くの得意じゃないし詳しくない。だいたいこんなもんなんじゃねえのかな。

 

「……ねえねえライナ、今の私達で一回やってみよっか。もう一匹アベイト残ってるしさ」

「良っスね!」

「おう頑張れよー」

 

 さて、二人がチャレンジしてる間にこっちは料理を作っていよう。

 魚料理……色々と考えた末に俺が出した結論は……まぁ刺し身は無理ってことだ。川魚じゃしょうがない。ムリムリ。

 

 なので今日はムニエルを作ります。

 

「つっても味がわからんなこいつ。まず皮に切れ込み入れるか……」

 

 丁寧に三枚おろしにはしてあるので、このまま調理していけば問題はないはず。

 切れ込みを入れたら塩と胡椒っぽい謎スパイス(名前わからない)を身に擦り込んで小麦粉をまぶす。

 で、次にどこかバックラーに似た顔をしてる自作フライパンの上に、今朝方ドライデンで買っておいたバターを投下。ついでにローリエも。

 小麦粉をまぶした切り身をべちっと置いて、皮の付いてる片面をまずはざっと焼く。からの、ひっくり返してから今度はじっくり焼いていく。小鍋で軽く蓋をしておこう。隙間多いけどまぁないよりはマシだ。

 

「バターの良い匂いがするな」

 

 働かないくせに飯だけねだりに来たかナスターシャ。後でお前にはこのバターで汚れた食器を洗ってもらうぞ。

 

「そして蒸し焼きにしたものがこちらになります」

「わぁー、良い感じにできてるっス!」

 

 あ、そっちの三枚おろしも終わったのね。……うん。まぁ最初にしては上手いよ二人とも。そうだよな。身がなんかギザギザになっちまうよなこれ。ナイフが悪いんだナイフが。

 

「あとはこっちの焼き上がった魚を木皿に移してーの」

「……モングレル貴方、本当に一式持ってきたのね……」

「そりゃそうよ。で、あとはこっちのフライパンに残ったバターで適当に何か炒め物をする」

「あ、キノコあるっス」

「ダックも入れちゃおうよー!」

 

 いや水鳥の肉いれたらムニエル負けそうな気がする。それは勘弁してくれねえか。俺的には肉相手だと勝てないよムニエル。

 

 というわけでざっとキノコだけ炒めてから、ムニエル二枚をそれぞれナイフで三等分に切り分ける。試食の始まりだ。味は俺も知らん。食える魚ではあるが……。

 

「どれ、いただこうか」

「私も一口もらいましょう」

 

 団長と副団長がパクリ。毒見役になってくれてありがてえ。どう? 生臭くない? チキってローリエ入れちゃったけど。

 

「うん……うん、美味しい。良い味ね。食感も良い」

「悪くない」

「私も食べたいっス!」

「いいぞ、ほれお食べ。そっちの切り身もムニムニしちゃおうねぇ……」

「んーっ、モングレルさんこれ美味しいよー!」

「……! これは、良いですね……! 普通に塩焼きにしたのとはまた違います……!」

 

 そうじゃろうそうじゃろう。美味しかろう美味しかろう。

 まぁムニエルとはいえこの国のありふれた素材で作る料理だ。別にオーパーツってもんでもない。似たような魚のバターソテーはどこにでもあるしな。新鮮な淡水魚で作るってのが珍しいだけだ。

 

「んー……このバターと魚の美味しさの染み込んだキノコ、良いっスねぇ……」

「良いよな、バターが染み込んだキノコ……」

 

 バターもドライデンならそこそこお求めやすいしな。この地方の名物にしても良いかもしれん。いや、別にドライデンの町おこしには興味ないけども。

 


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