バスタード・ソードマン   作:ジェームズ・リッチマン

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休息日の爺さんたち

 

 レゴールに帰還して早々にバタバタしたが、その後は宿に戻って熟睡した。長旅は精神的に疲れるんだよな。

 しかし良い遊びにはなった。リフレッシュできたというか、楽しむだけ楽しんだというか。護衛はたらたらしてて億劫だが、釣りついでに遠出するのも悪くないもんだ。

 

 

 

「おーいモモ、頼まれてた例のデータ取り、やってきたぞー。あとこれ足ヒレ返すな」

「モングレル! 仕事してきましたか! やりましたね!」

「やりますよプロですから。ほれ、一応井戸の水で洗っておいたぞ」

「あら、これはご丁寧に」

 

 ギルドで「若木の杖」のメンバーに聞いてみたところ、モモはクランハウスにいるということだったので出向いてやった。

 さすが王都でブイブイ言わせてたパーティーだけあって、新築のクランハウスはなかなか様になっている。まだ一部は工事中だが、既に暮らすだけなら問題無さそうに見えるな。

 

 俺のような客を迎える部屋も準備されていて、何故かモモはそこでミセリナと一緒にお茶を飲んでいた。勉強の合間に休憩でもしていたのかもしれない。

 

「ふむふむ……ミセリナさん、どう思いますか。モングレルの報告はこう書いてありますけど……」

「……字が汚いですね……あ、ご、ごめんなさい」

「いや事実だから良いよ。すまんね下手な字で」

「重要なのは内容です。……もっと撓った方がいいというのは?」

「材質、もしくは厚みだな。今回のはちょっと厚みがあった気がするぜ。でもそこは長さである程度カバーできると思うんだよな」

「……うーん、長さですか」

 

 まぁ俺も何十分か泳いだだけだし素人意見で恐縮なんだけどな。

 けど俺の記憶じゃやっぱりもっと足ヒレに長さがあったと思うし、せめてそういう記憶に似せていったほうが結果は伴ってくるとは思うんだわ。

 

「材質はこういうのもあるぞ。クジラの髭なんだが」

「……ほほー、これは……!」

「は、初めて見ます。キリタティス海のものでしょうか」

「らしいぜ。どんなクジラなのかまでは知らないけどな。大帆船で仕留めたって話だ」

「……おお、弾力があるのですねこれは。削って整えればあるいは……!」

「まぁ一例だよ。それよりは虫系の魔物から適当に甲殻をもいできた方が安いし確実かもしれんね」

「虫……うーん」

 

 この世界の虫の魔物はやけにデカいからな。探せば似たような弾力を持った素材は見つかるかもしれない。

 

「……ミセリナさん、どう思います? 魔法を使った試験では確かにこの試作品で丁度良い固さだと思われてましたけど……」

「ん、んん……水流と固定器具で実験したけど……やっぱり足に装着した時と使用感は違うという事なのだと思います……多分……」

「弱りましたね。弾力……それを求めるとなるとなかなか……」

「まぁ、なんとなく泳ぎが補助されたような気はするよ。素潜りと浮上はちと大変だったが。これは慣れかもな」

「……」

 

 モモはしばらく考え込んだ後、はっとした顔になって俺に頭を下げた。

 

「助かりました、モングレル。改良の方向性が見えてきました」

「おう、役に立てたなら良かったぜ」

「次こそはヴァンダールさんをあっと驚かせる道具に仕上げてみせますよ。モングレルも次の機会があればまた手伝ってくれますか?」

「ま、暇な時なら構わないけどな。金じゃなくても良いから報酬は用意しとけよ。タダ働きはごめんだぞ」

「わかってます」

「あ、これお土産の鮭とば……じゃない、ハイテイルのジャーキーな。パーティーの皆で食べてくれ。評判は良かったぞ」

「え、くれるんですか? ありがとうございます!」

「わぁ……あ、ありがとうございます。いただきます……」

 

 これでひとまず足ヒレのおつかいクエストは終了だな。

 第二弾があれば今度はもっと良いやつをくれ。その時は海を泳いでみるのも悪くねえなぁー。海の魔物は怖いから迂闊な泳ぎはできないけども。

 

 

 

「いやー腹減った腹減った……お? なんだトーマスさん。それにジョスランさんもいるじゃないか」

「おう」

「なんだぁモングレル。仕事はどうした仕事は!」

「そりゃこっちのセリフだっての……」

 

 注文すれば勝手に飯と酒がスッと出てくる居酒屋が恋しくなったので“森の恵み亭”に足を運んでみると、そこには見知った二人がいた。

 製材所で働いているトーマス爺さんと、鍛冶屋のジョスランさんだ。

 トーマスさんは冬に薪割りで何度か一緒に仕事したし、ジョスランさんからもまぁ……砥石とか買った気がする。それだけだな。滅多に研ぎにも出さないからあまり出向かないんだよな。むしろ鋳造やってる娘のジョゼットの方が絡みあるくらいだ。

 

「席そこ座って良いかい」

「勝手に座りゃ良い。俺の席じゃねぇ」

 

 カウンター席が空いているので、トーマスさんの隣に座ることにした。

 トーマスさんは今日もコーンパイプでタバコをふかしている。まぁ、この世界の人が癌で死ぬのはどうしようもないし言ってもしょうがない部分もあるから良いんだが。腰をいたわるのもいいけど、内臓もちゃんと気遣ってやってほしいね。

 

「すんませーん、マレットラビットの塩焼き3つとエールひとっつー」

「ハハハ、ケチケチせず一気に頼みゃ良いだろうモングレル」

「あのねジョスランさん。俺は焼きたての美味い串焼きを食うのが好きなんだ。一気に頼んじゃ途中で冷めて台無しになっちまうだろ?」

「一気に食えばいいんだそんくらい! お前もギルドマンならもっと食って身体デカくしとけよなぁ」

「うるさい爺さんだぜ。なぁトーマスさん」

「ふ、知るかよ。両方うるせえ」

 

 おお、きたきたウサギ肉。こいつは後ろ足だけじゃなく前足の肉もボリュームがあって美味いんだ。食ってるものが良いからかウサギにしては脂も乗ってるしな。

 それにエール。冷えて無くても夏場は常温で十分うまいぜ。

 

「……ぷはー」

「相変わらずジジくせえなぁお前は」

「モングレルは会った時からジジくせえ奴だしな」

「今月30歳だよ俺は。ジジイ言うな。オッサン言われることすら心にくるってのに」

「30だぁ? もう40になるかと思ってたぜ!」

「ジョスランの親父はまた随分騒がしいな。飲みすぎるとまた娘さんにどやされるぞ」

「良いんだよ今日は! 俺だっていくらか飲む量減らしてんだ。俺なりの計算でな!」

 

 職人のどんぶり勘定はそういうところがアテにならねーんだよなぁ。

 

「それよりあれだ。前にトーマスさんから貰った竿材。あとジョスランさんの娘さんに作ってもらった釣り竿の部品。あれで仕上げた釣り竿でよ、湖まで行って魚釣りしてきたんだよ」

「なにぃ? 湖ってどこだ。ドライデンの方か?」

「ザヒア湖か」

「よく分かるなぁ」

 

 二人共知ってるのか。さすが爺さんと爺さんなりかけの二人だ。詳しいな。

 

「釣り竿なんてろくなもんがとれんだろ。あんなもんお遊びだぞぉ?」

「なんか居たのか。あの湖は鳥ばっかだろ」

「それがな、こーんなでかい魚釣れたんだよ」

「もっとマシな嘘つけバカ野郎」

「本当だって! 嘘じゃないもん! ハイテイルいたもん!」

「ハイテイルっつーのか、そいつは」

 

 追加で塩豆と肉を注文しつつ、胸元の羊皮紙に簡単なスケッチを描いていく。

 

「ほれ、こんな魚だ。見たことあるか?」

「無い」

「ほぉーう、干物かなにかになってるわけでもなさそうだなこいつは……随分派手なヒレしてんな。それこそこいつが鳥みてぇだ」

「すげー引きだったぜ。竿も壊れるギリギリだった。糸が保ったのは奇跡だな……最後に一緒に来てた弓使いが仕留めなかったら逃してたかもしれん」

 

 ジョスランさんは俺のスケッチを見て絵を近づけたり遠ざけたりしてる。別にそんな見方するほど緻密な絵ではないつもりなんだが。

 

「仕留めて、食ってみたのか?」

「もちろん。酢で和えたり、塩焼きにしたり、燻製にしたり色々だな。ほら、ちょうど持ってきたのがあるんだ。ジョスランさんもトーマスさんも一本ずつ食ってみてくれよ」

「おっ! おいおいモングレルー、そうこなくっちゃなぁオメェー」

「ほう、良い色してんな。もらっとこう。どれどれ……」

 

 二人は鮭とばじみたハイテイルジャーキーをパクリとくわえ、しばらくそれを味わうように咀嚼した。

 

「……おーい、エールおかわり」

「……こっちにも頼む」

「な? 良いだろこれ?」

「こいつは酒が進むじゃねえか、良いぞ良いぞぉモングレル。もっとあれば買ってもいい。いくらだ?」

「売るほどはねえって。街の知り合いに細々と配ったら終わりだよこんなもん」

「俺の気に入らねえ奴には渡さんでいいぞ!」

「……ジョスランさんってこういう所ほんと良くねえよな」

「ああ、本当にな。みみっちいぞジョスラン」

「おいぃ! ったく冗談だよ、冗談!」

 

 全然冗談に聞こえなかったがな。酒好きはこれだから困るぜ。

 

「だったらせめてうちの娘にも持っていってやれよモングレル。部品を作ったのはそもそも俺じゃなくてジョゼットだ。土産ってんならあいつに渡してやれ」

「おー、それもそうか」

「ついでに俺の分も少し、な?」

「な? じゃねえよ。結局それじゃねえか」

「グヘヘヘ。……しかしこういう魚も悪くないもんだな。俺はあまり干物が好きなタチでもなかったが、こいつは良い」

「モングレル、この魚は市場に出回るもんなのか?」

「いやー全く見たこと無いな。俺も図鑑で見たから知ってたってだけだしさ。一応海にもいるらしいぞ」

「そりゃ魚なんだから海にもいるだろうよ」

「違うぜジョスランさん。普通は魚ってのは川みたいな真水としょっぱい海水とじゃ住む所が違うもんなんだよ」

「なにぃ?」

「ほう、勉強になるな。クックック、まるで爺さんのようじゃねえかよ」

「ガッハッハ! 確かになぁ! 俺の爺さんも物知りでそんな感じだった!」

 

 こ、この年上二人組は……。そりゃ前世もカウントすりゃ二人より年上ではあるがよ。

 

「俺はもう怒った。二人の前でジャーキーを美味そうに食いながらエール飲んでやる。すいませーんエールおかわりー!」

「あっこいつ! 酷いことしやがる! 大人気ねえぞモングレル!」

「ジジイだからな俺は! ジジイは恥を忘れていく生き物だ!」

「フッフッフッ」

 

 その日、俺は久々にエールをたくさん飲んで、爺さん連中と一緒にダラダラと雑談を楽しんだのだった。

 




当作品の評価者数が2600件を超えました。

なろう掲載版の方でも良い感じで良い感じになってるそうで大変嬉しいです。

いつもバッソマンを応援いただきありがとうございます。

お礼ににくまんが歌います。


( *・∀・)プゥープリンー♪


( *-∀-)スヤ…

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