「……んっ今日のは中々悪くないんじゃない?」
「……まあ46点って所かな」
「ちょっと自分に厳しすぎない?」
「父さんの珈琲を基準にしたらこうもなるよ」
珈琲の香りが充満している空気を喚起する為に窓を開ける、そよいでくる風が心地よく肌を撫でる。自分の淹れる珈琲はまだ嫌いだが、この瞬間は好きだ。そう思いながらも自分の珈琲の採点をする。大分飲めるようになっているが、まだまだ不味い。響香曰く美味しくなっているらしいが、惣一の珈琲で舌が肥えている自分からすればまだまだ不味い。個人的にはインスタントの方が美味いのではないか、とすら思える。それは言い過ぎだと響香には怒られている。
「にしてもこの前の死穢八斎會の時は、星辰居たらもっと楽だったのかな。いや星辰が他の事やっててくれたからあれだったのかな」
「さあ、俺からしたら八斎會の方が分からないから何とも言えないからよ」
苦笑いを浮かべつつも誤魔化す。病院にナイトアイのお見舞いに訪れた時、ナイトアイは心から胸を撫で下ろしたと言わんばかりに息を吐いていた、それだけ自分の事を心配してくれていたという事だろう。
『兎も角君が無事だった事を喜ぼう、そしてそちらの方は何とかなったのかな』
『決着は着きました』
『そうか、それを聞いてほっとしたよ……君の事は私からも手を回してあるから安心しておきたまえ―――どうやら君が憧れるヒーローに会えたようだな』
『ええ、俺にとって最高のヒーローです。オールマイトだって敵わない位のね』
『それはいい。そうだ、個人にとっての最高のヒーローとは何者にも勝てないものだ、例えるならば夫が妻に勝てぬようにね』
それを聞いて思わず笑ってしまった、自分の笑みを見てナイトアイも笑っていた。ユーモアを大切にするナイトアイにとって、自分のトークで相手の笑顔を引き出した事は最高の報酬とも言える。
「んで星辰はどんな事やってたの?」
「あ~……ヴィラン退治、かな。最低最悪の」
「あ~成程、そっちがこっちに来ないように抑えててくれたって事なんだね。星辰がそういうって事は相当にやばい相手だったんだろうね……」
「うん、やばかったよ」
即答で返事をしてしまう。実際間違っていない事は言っていないので問題は無いのだが……取り敢えずボロが出ないように気を付けようと決意するのであった。
「にしても緑谷がマジで凄かったんだよ」
「緑谷君が?」
「そっ、ウチらは外でリューキュウと一緒に待機してたんだけど地面突き破って馬鹿でかいヴィランと一緒に飛び出してきたと思ったらそのままとんでもない殴り合いだよ。しかも背中には壊理ちゃんを乗せたままだったんだけど、なんか個性が暴走状態だったとかで相澤先生が個性を消してなかったらマジでやばかった状況でマジでカオスだよ」
話を聞くだけでも相当にとんでもない話のように聞こえる。曰く、壊理ちゃんの個性は巻き戻し。触れた生物を中心に、対象を過去の構造へと修復する個性。これだけを聞けばリカバリーガールの治癒の上位互換のような回復系の個性にも聞こえるのだが……この個性こそがミルコも受けた個性破壊弾の大本、つまり、この個性は対象の時間を戻す事も出来る。個性が発現する前の人類に戻すというのが個性破壊弾の本質であったとの事。
「それで緑谷の奴、その個性を発動させて貰いながらも常に身体を壊しまくってたんだって」
「なんつう滅茶苦茶な……」
緑谷の個性は全開で使えば確実に身体を壊す、だが壊れていく身体を修復して貰う事で戦っていたとの事。恐らく緑谷でないと絶対に出来ないような戦闘に流石の星辰も絶句した。
『あの小僧馬鹿だな……ストッパーいねぇとマジで自滅するタイプだな』
「(お前はそういう奴を破滅させるタイプだな)」
『ご名答!!』
「身体の方は大丈夫な訳?」
「リカバリーガールからは今日一日安静にしてれば問題ないってさ、明日は日曜日で休みだからもっとのんびりさせて貰うよ」
「そっか、んじゃウチはこのままこの部屋に居座っても問題はない訳だ」
「居座るって……いるのはいいけど流石に夜は戻らないと先生に怒られるよ?」
「上手くやるよ」
悪戯っ子のような笑みを浮かべる響香に肩を竦める事しか出来ない。あの時から自分の中にある彼女への反抗心というか、抵抗心という物は完全に折られている。故に彼女がそうしたいならば自分は頷く他の選択肢を持ち合わせていないのだ。
「んじゃ今日は俺の部屋でご飯食べる?父さんが自家製餃子を送ってくれたんだよ」
「自家製の餃子か、ウチ食べた事ないからちょっと楽しみ。そもそも餃子って作れるんだって所からだし」
「いやいやいや餃子の皮位は見た事あるでしょ?」
「あるけど、なんかピザモドキにばっかりしてた記憶がある」
そんな話をしつつも午後のティータイムは進んでいくのであった。そして宣言通りに夕食を部屋で一緒に取った後、研究の為に珈琲を一杯入れた後にそろそろと寝る準備をするかと着替えを行った頃の事……窓がノックされた。何事かと思ってカーテンを開けてみると―――そこには響香の姿があった。思わず椅子から転げ落ちてしまった、それを笑われるが、直ぐに窓を開ける。
「いや何やってんの!?」
「何って決まってんじゃん、泊りに来たの」
「だからってなんちゅう方法で……」
「女って男が思うより強いんだよ」
「よく知っております」
だが此処までするのか……と思いつつも彼女を部屋の中へと招き入れるのであった。が、此処である事に気付いた。ベットは一つしかない、一応布団はまだあるので自分が床で寝ればいいのかと思いつつもしまってあった布団を出そうとするのだが―――
「何やってんの」
「えっ床で寝る為の準備ですけど」
「ウチと寝るのそんなにやなの?」
「え"っ!?」
思わず声が濁った。この子は何を言っているのだろうか、本当に何を言っているのだ。嫁入り前の身で何を堂々と同衾すると言っているのだろうか。
「いやいやいや一緒になって寝られないよ!?俺が床で寝るからベット使って!!」
「それならウチも床で寝る」
「なんでさ!?」
「寧ろそっちが何で、何ウチと寝てそんなに困る訳?それともそんなに嫌なの、ねぇ、そんなにウチと寝たくないのねぇ答えてよ」
と一瞬で瞳が暗くなって詰め寄って来そうになる響香にこれはまずいと思いながらも弁解する。
「そ、そうじゃないよ!?だって、男女がそう簡単に一緒に寝ちゃまずいでしょって言ってるんだよ!?」
「大丈夫でしょ星辰となら。それとも、ウチを襲う気でもあるの?」
「め、滅相もございません!!」
「そこは多少なりとも含めろ、即答でそう言われるのもなんか傷つく」
「(えっ~何でぇっ~!?これが乙女心なのかぁ!?)」
と、結局一緒のベットで寝る事になってしまった星辰。流石に背中を向けておくのだが……同じ布団の中に女子が居る事が気になって全く眠る事が出来ない。既に彼女は寝たのだろうか、起きているのだろうか……もう気になって眠気なんて感じもしない。
「ねぇっ星辰、起きてる?」
「い、一応起きてます」
そんな時に声を掛けられてしまった。
「ごめん、いきなりこんな事しちゃって……迷惑だったよね」
「ああいやその……まあ少しは……」
「……でもさ、ウチはこうしたいの」
「っ!?」
そう言いながらも響香は星辰へと近寄るとその背中に抱き着いた。背中に感じるささやかな膨らみの柔らかさに頭の中がバグりそうになりながらも必死に理性を繕う。そんな星辰に向けて語り続ける。
「あの時、電話した時にもしかしたらもう会えないんじゃないかな……ってバカみたいな事思っちゃった、だから凄い不安だったんだ……だから、こうして少しでもアンタを感じたい……この世界に一緒に居るんだって思いたいんだ、我儘みたいだけど、うちは本当にそう思ってる……だから……居なくならないでね」
「―――っ……」
その言葉を聞いて思わず、星辰はキルバスとの戦いで考えていた事を見抜かれていたのかと驚いた。自分は必要であるならばエボルトリガーを臨界突破させてキルバス諸共消滅する覚悟だった。結局、それは不発に終わったが……やはり、女性というのは怖い存在だと感じた。そしてそんな思いをさせてしまった事に罪悪感を覚えつつも、返答する。
「大丈夫だよ、俺は何処にも行かないから。いざって時は……一緒に何処かに行っちゃおうか」
「なにそれ駆落ち宣言?でもそれもいいかもね……そんな事があればいいとは思わないけど、一緒に居れたら……良いね」
そんな言葉を掛け合いながらも夜は更けていった。気付けば二人はそのまま眠りに落ちていた……そして早朝に、相澤にばれないように響香は部屋へと星辰は送るのであった。
「今度はウチの部屋に泊まってね」
「いや流石にそれはまずいでしょ……」