11月下旬、残暑も完璧に消え去り寒さばかりが目立ち始めてくる時期、乾燥する空気を感じる事も無く寮の中で快適に過ごしつつも星辰は戦兎から譲って貰った中身の入っていないフルボトル、即ちエンプティボトルを握り込みながら瞳を閉じて只管に集中し続けていた。
「なあ、さっきから星辰何やってんだ?」
「実験だってさ、なんか新しい事へのチャレンジ的な」
壊理ちゃんがこの雄英預かりになった、と相澤先生から聞かされた時も彼だけに寮に籠っていた。という訳にも行かないのでそこを無理矢理に連れ出して挨拶だけはさせて来たが……戻って来たすぐさまにソファに座ってまた続きをし始めていた。
「あのボトルってあいつが個性使う時に使う奴だよな」
「様々な物があると聞いている、俺達がわかる範囲で言えば毒蛇に龍、太古の王者と言った所か」
常闇の発言通りに星辰は既に多くのボトルを持っている上にボトルを作り出そうと思えば問題なく作り出す事が出来る、だがそれを敢えてせずに戦兎からエンプティボトルという受け皿を貰って行っているそれは一体何なのかと皆興味が尽きないのか、響香の隣で集中し続ける彼へと視線を向ける。
『要はイメージだ、俺がどうやってフルボトルを作り出したか覚えてんだろ』
「(……父さんの記憶)」
フルボトルは石動 惣一の記憶から作り出されている、好きな物を30個挙げろと言われて惣一は娘である美空との思い出から、娘が好きな生き物を挙げて行った。そして、次にそれらの命を破壊する物を30挙げろと言われた。だが、最初は戦車やガトリングと言った物から全く関係のない物が生まれて行った、それは惣一が娘の好きなモノを守りたいという一心で行ってエボルトに対する抵抗だった。それがフルボトルとベストマッチの真相。
そしてそれを聞いたからこそやりたい事があった―――それはレジェンドライダーのベストマッチを行えるフルボトルの創造。
「(モモタロス、ライダーカード、探偵、USBメモリ、メダル、友情、魔法使い、オレンジ、パーカーフルボトル辺り……かな無いのが。どうやって生み出せぁ良いんだってのもあるんだよなぁ……)」
『ほれ、妄想爆発させろライダーオタク』
「(やぁかましぃ!!)」
記憶から生み出せるという事は、自分の中にあるライダー作品の記憶からそれが生み出せる可能性は極めて高い。だがそれを行うのにも余りにも抽象的な成分もあるので想像を固めるのは容易ではない。
「(友情とか魔法使い、探偵って如何すりゃいいんだよ……)」
『そう言いながらもほれ、一つ出来るぞ』
「えっ嘘」
思わず手元を見てみるとエンプティボトルが変化して、エボルボトルへと変貌を遂げていた。そして生まれたのは……二つに分裂しているボトルがそこにあった。
「……えっ何これ」
「いやそれウチが今聞こうとしてたんだけど……」
思わずそんな言葉が口から出た、いや本当に何か解らない。最初は一つだった筈なのに、それがいつの間にか分裂していたとしか言いようがない。しかもこのボトルは……ゲームとドクターのボトル、という事は……エグゼイドのレジェンドマッチの組み合わせという事になる。
「予想もしてなかったのが生まれた……だと!?」
「いやその為にやってたんじゃないの?」
それはそうなのだが、まさかこれが生まれるとは思わなかった。それ程までに自分の中でエグゼイドの記憶が濃かったという事だろうか……確かに最初はその外見で大丈夫かと思ったりもしたから色んな意味で濃いと言えば濃いのだが……
『俺のせいだな、最上の野郎の一件で俺もエグゼイドは見てる』
「(ああ、バイカイザーの!!)」
謎が解けた。最上 魁星が企んだ全並行世界の支配、並行世界移動装置エニグマによって起こった事件、そしてビルドとエグゼイドの世界の衝突の危機、そこで起きた6大仮面ライダーの集結。それにエボルトは関与して戦兎にフェニックスロボのボトルを渡したりもしているので、その記憶が強いのも納得だ。
「……まあいいか、これはこれで良い結果になった」
「なら、良いんじゃない?」
「うん良かった」
兎も角、エグゼイドの力というのは喜ばしい事だ。何せ、医療に携わるライダーだ。専門はゲーム病ではあるが、ドクターボトルでカバー出来る範囲はそれなりにあるので現場での応急処置などで使う事が出来る。となるとエボルトの事も踏まえるとこれから出来やすいのは鎧武、オーズ、ゴースト、フォーゼ辺りになるのだろうか……そんなこんなのやり取りをしている間に如何やら来賓の方々が扉が開け放たれた。
「煌めく眼でロックオン!!」
「猫の手、手助けやって来る!!」
「何処からともなくやってくる……!!!」
「キュートにキャットにスティンガー!!」
『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!!!』
やって来たのは林間合宿でお世話になったプッシーキャッツであった、相澤が言っていた来賓とは彼女らの事。お土産持参でやって来た彼女性質組の皆は温かく迎える中、一人だけ虎は神妙な顔で星辰へと頭を下げた。
「済まん。守ってやれんかった」
「あの状況なら寧ろ俺一人の被害で抑えてる段階で称賛されるべきだと思います」
「アチキもその意見には賛成、悔しいけどあいつらは無理」
林間合宿でヴィラン連合の襲撃を受けてしまった折、プッシーキャッツの面々が尽力してくれたおかげで被害は最小限に抑えられた。だがその代償に星辰は攫われた、と言ってもあれに限っては如何にも出来なかっただろう。何せ、マッドローグとなった渡我にエボルトの策謀もあったのだから。
「だけど今度は負けないよ!!あれからずっと、アチキは虎の特別メニューをこなし続けてるから、並の格闘ヒーローよりは強い自信あるよ!!ファイティングキャッツ!!」
ムン!!とポーズを取るラグドール、脳無に敵わなかった事をかなり気にしているのかあれからずっと戦闘力強化訓練をし続けているとの事。それによって本来は後方支援が主だった彼女も前線に立てるようになったらしく、以前よりも活躍の幅が増えたとの事。
「そのお陰もあって、今度発表されるヒーロービルボードチャートJPでの私達の順位が26位だったの」
「確か前回は32位でしたよね」
「一気に6位も上がってんすか!?スゲェ!!!」
「いやいやいや、多分そんな事ないと思うわよ―――何せ今度からは面白いのが追加されるからね」
『面白いもの……?』
一体なにが追加されるのか、と首を傾げる中でピクシーボブが笑いながら笑顔で答えた。
「ズバリ!!次世代を担うヒーロー達のランキング、ニュージェネレーションヒーローズビルボードチャート!!つまり―――君達を対象にしたランキングよ!!」
その言葉に一瞬、全員が言葉を失った、だが直に爆発的な声が膨らんだ。現役ヒーローのみを対象にしていたのと異なり、今度の物は次世代のヒーロー達に向けたもの。
「アチキ達が出てるのは事件解決数に社会貢献度、支持率なんかを集計したものだけどそっちのは実力や個性にその使い方、戦術、期待度や将来性、インターンでの活躍なんかを調査と集計、審査した上で決められるの」
「これは現役ヒーローからすれば次世代がどのぐらい育っているかとか、サイドキックを決めようとしているヒーローにはいい指針になるのよ。まあそれだけじゃないけどね」
様々な目論見はあるだろうが、オールマイトの引退の影響と言わざるを得ないだろう。仮免でも言っていたが今社会は即戦力を求めている、それをより明白にしつつ意識の向上とそれに乗る事を目指しての切磋琢磨をもくろんでいるのは間違いないだろう。
「でもすげぇな!!俺達、もしかしたらそれに乗るかもしれないって事だろ!!?」
「十分あるわね、体育祭での活躍なんかも審査の範囲内の筈よ」
「うおおおおおっ今から楽しみになって来たぁ!!!」
「オイラがトップになる事も、あり得るって事だなぁ!!」
「あ~もう楽しみ~!!」
と既に効果は出ている。そのランキングに乗るという事は文字通り、次世代を担うヒーローとして期待されているという事。これに気合が入らないものはいない。それを聞いて笑みを浮かべた響香は隣の星辰を見る。
「じゃあ、星辰は確実に乗るだろうね」
「さてどうだろうね……そうある事を願うよ」