「今日まで本当にお世話になりましたリューキュウ」
「いいえ此方こそ、すっかり厨房を任せちゃって本当にごめんなさいね。皆貴方の料理に釘付けになっちゃってね」
遂に終わりを告げた職場体験。今日を持ってそれを終了されて星辰は雄英へと戻る事になる。そんな日には事務所の所員総出で見送りが行われる事になった。
「うぅぅ……さらば美味な夜食……!!」
「あんな健康的な三食食べた事無かったわぁ……」
「あと一週間、いや三日だけでもいいからウチにいてくれよエボルぅ!!」
と完全にリューキュウ事務所の面々は完全に餌付けされてしまったのか、去ってしまう星辰の事を酷く残念がっていた。例えそれが食事目的だとしても自分の事を此処まで思ってくれるのは嬉しい限りである。
「そうだよ~もっと一緒に居ようよ~……ねっねっ!?」
「貴方もですかセンパイ……」
「ねじれ……」
思わずリューキュウが頭を抱えた。餌付けされたのは勿論ねじれも同じであった、特に後輩先輩と呼び合って仲が良かっただけに一緒に居られなくなるというのもあって一番ダメージが大きいと思われる。
「ちょっと迷惑かけちゃ駄目よねじれ、ホラッ」
「ムッ~……!!」
「雄英でならまた会えるじゃないですか、インターン以外の日の日程くれればその日にはお弁当作ってきますから」
「えっ本当!?やった~また後輩君のご飯食べれる~!!」
笑顔になって跳ねまわる姿を見て本当に現金なんだから……とリューキュウが苦笑するが星辰はこんな姿こそねじれだなと何処か満足気に頷くのであった。
「貴方さえ良ければインターンも是非ウチに来て欲しいわね。指名は絶対に送らせて貰うわね」
「ええ、来て良いのなら絶対きますよ」
「やった~後輩君と一緒にインターンだ~!!」
もう気が早いんだからと思いながらも、星辰はこの事務所で何処か自宅のような居心地の良さを感じていた。所員とはまるで家族のように接する事が出来るし食事の支度も楽しかった。そんな所から離れるのは少しばかり心苦しい気もする。
「それじゃあ、また来ますね」
「貴方のこれからの健闘を祈るわ―――仮面ライダーエボル」
「ええ―――それじゃあ……CHAO!!」
そう言われて笑顔を見せながら決め台詞のように言葉を告げながら去っていく彼を見送る、リューキュウとしても名残惜しいがそれは今度のインターンまで我慢しようと思うのである。そしてリューキュウ事務所は普段の業務に戻るのだが……
「あれ、リューキュウこのお弁当箱ってな~に?」
「えっ?変ね、まだ頼んでない筈だけど」
普段出前で取る弁当置き場に既に置かれている弁当の山。何時もは頼んでから受付でそれを受け取ってから置く事になっているのだが……そして一番上の弁当には封筒が置かれていた。ねじれから受け取って開けてみると……
『今日の分のお弁当です、皆さん頑張ってくださいね。それと俺のレシピも同封してきます、今度は一緒に料理しましょうね。仮面ライダーエボルこと、石動 星辰より』
「粋な事しちゃって……」
そう言いながらもリューキュウは星辰レシピを見つめながらもこのレシピをマスターして一緒に料理するのも悪くないかと頬を緩めながらも今日のお昼が今から待ち遠しくなってきてしまった気を引き締めるのであった。
「「ダハハハハハハハッッッマジかよ爆豪!!!!」」
「笑ってんじゃねえぞ殺すぞ……!!癖付いちまって洗っても戻らねぇんだよ……!!何時までも笑ってんじゃねぇ!!マジで殺すぞ!!」
「「やってみろや8:2坊や!!アハハハハハッッ!!!!」」
トップヒーローが一人、ベストジーニストの所に職場体験に行った爆豪は如何も満足の行ける体験が出来なかったらしい。寧ろ髪形を変えられたり色々と散々だったらしく、その上で瀬呂と切島に大爆笑されてキレ気味である。
「ヴィラン退治までやったの!?良いな~」
「基本後方支援とか避難誘導がメインだったから交戦まではしなかったけど」
「それでも凄いよ~」
「私もトレーニングとパトロールばっかりだったわ、一度隣国からの密入国者を捕まえた位かしら」
「「それ凄くない!?」」
矢張り教室で話される話題と言えばそれぞれの職場体験先の事ばかり、それも当然だろう。ヒーロー候補生である自分達が実際に活躍しているプロの現場に行ったのだから。
「星辰、リューキュウの事務所はどうだったの?」
「そうそう!!何せトップヒーローの一人だもんね、是非聞かせて~!!」
「ケロ、私も是非聞きたいわ」
そんな時に星辰は耳郎から話を振られた。何処か瞳が鋭いような気がするが……気のせいだと信じよう。
「基本は事務所での事務処理とかがメインだったかな、後はパトロールにトレーニングもそうだったし」
「やっぱり基本は同じな感じ?」
「そうだね、後は厨房を任せられたかな」
「ケロ?キッチンを任せられたって事かしら」
職場体験に行ってヒーロー事務所のキッチンを任せられるというのも妙な話なので食いつきがあった。
「リューキュウ事務所って忙しいから基本出前らしいんだ、それだと栄養バランスも取れないし折角立派なキッチンがあるのに全然利用されてなかったんだ。だから職場体験中は基本俺がご飯作ってたよ」
「へ~石動って料理出来るんだね」
「まあね、家はカフェやってるから」
「カフェ!!?」
それを聞いて芦戸が目を輝かせた。
「ねえねえ美味しいスイーツとかあったりする!?」
「勿論。ケーキにアイスにドーナッツ、色々あるよ。最近も新作のエクレア出したし」
「良いな~!!ねえねえねえ石動~お金出すから今度持って来てよ~!!」
そう言って軽く後ろから抱き着くようにしながらもスイーツを強請る芦戸、それに峰田は目を限界まで見開いて血の涙を流しているが、それよりも耳郎の視線が更に鋭く黒くなっていった。
「ケロ、耳郎ちゃん如何したの?」
「えっ!?い、いやなんでもない、ほら甘い物って言われたらちょっと気になって……」
「そうね、私も弟妹がいるからその辺りは気に掛けちゃうわね」
そんな風に誤魔化しつつも耳郎は良いでしょ~と強請る芦戸を強く見てしまった、やっぱり自分よりもスタイルが良い彼女の方がいいのだろうかとか色々な事を考えてしまっている。が、星辰は照れる所か一切顔色を変えなかった。
「お金なんて出して貰わなくても今度作って来るよ、カフェ nascitaのシェフとして腕を振るわせて貰うよ」
「えっマジでいいの!?」
「スイーツ系も俺の担当だからね、そんな風に望まれたら作らないわけにはいかないからね」
「やった~!!流石体育祭優勝者話が早くて助かる~!!」
「それ関係あるのかしら?」
恐らく関係ない。
「それにしても、石動ちゃんってお料理の他にお菓子作りも出来るのね。女子力が高いのね」
「単純に料理を作るのが好きなだけだよ、それに……料理ってヒーローと似てるしね」
「えっ似てんの?」
「似てるよ、ヒーローは困ってる人を笑顔にする。料理は食べに来た人を笑顔にする、ほら一緒」
そんな風に語る星辰の表情は酷く澄んで嬉しそうにしていた。それを聞いてきっと星辰はヒーローとしての適性が無かったとしても料理人として大成した事を伺わせた。
「折角だから今度ウチに来る?期末試験も近いしさ、勉強会って名目でウチに遊びおいでよ。父さんの珈琲と一緒に俺特製のスイーツでお出迎えさせて貰うよ」
「スイーツ!!行く行く絶対行く~!!梅雨ちゃん達も行こうよ~!!」
「楽しそうね、それなら私もお邪魔しちゃおうかしら?」
「ウ、ウチも行く。スイーツって言われたら気になっちゃうし」
「それじゃあ決まり~!!」
そんな風に友達が家に遊びに来ることが決まって星辰は思わず、花が咲いたような笑みを浮かべるのであった。何故ならば……前世では友達が殆どいないボッチ状態だったからである。居る事にはいたが、家に友達が遊びに来たと言った事はなかったので思わずワクワクしてしまっている。
「(せ、星辰の家……ど、どんな感じかな。カフェって言ってるしやっぱりお洒落な感じでジャズとかそう言うのが掛かってる系の家とか……あっまずい今お洒落な服とかなかった……!?洋服とか見に行かないと……!?)」
「それじゃあ何時行く~?アタシは何時でもいいよ~」
「私も大丈夫よ、石動ちゃんはカフェの事情とかあるからそれ次第かしら?」
「いやカフェは基本父さんと姉さんだから問題ないよ、今度の日曜日とかどう?」
「それじゃあ日曜日に決まり~!!」
「(今度の日曜日!!?服見に行く時間が……こうなったら土曜日の帰りに見に行くしかない……!!)」
と、耳郎は人知れずに百面相をしながらも何かを決意したような顔をするのであった。