「改めて宜しくね石動君」
「此方こそ」
実技試験にはそれぞれ試験場が設定され、そこにはバスで向かう事になっている。そして試験は一斉にスタートされるので早速バスに乗車して試験場へと向かう、当然試験相手である13号先生も一緒なのは少しばかり違和感もあるが……。
「作戦会議しても大丈夫です。僕はその間耳を塞いでおきますので」
そんな配慮をしながら一番前の席に座り直す先生に頭を下げながらも一応一番後ろの席に移動して話し合う。
「でもどうしてこのペアになったんだろうね、あっ別にいやって訳じゃないよ!?寧ろ凄い心強いし!!」
「大丈夫分かってるよ。試験なんだから色々と意味があるとは思うけど……あり得ると思ったら課題かな」
このペアというのも必ず意味があるだろう、試験なので自分達にとって相性の悪い個性をぶつけてそれをいかに乗り越えるかを見ようとしているのが一番ベター。そう考えるとこの組み合わせはある種妥当……自分の行き着く先はブラックホールなのだから。様々な話し合いをしている間に試験場に到着、そこで改めて試験についての詳しい説明が行われた。
「それではルールを説明しますね。制限時間は30分、君達はハンドカフスを
「重り……えっと50キロだとしたら25キロの重り!?す、凄い重さや……」
「それだけ、俺達と先生たちの実力の差は大きいって事か……」
そう言いながら重りを装着する13号、仮に自分がコブラフォームの状態でそれを付ける場合には54キロの追加重量を感じる訳だ。これは機動力系ヒーローであればあるだけキツいハンデになる相当な物、そして自分達とはそれだけのハンデがなければ埋められないさがあるという事でもある。
「先生皆それ着けるって凄い大変そう」
「心配して頂けて嬉しいですけど大丈夫ですよ、プロヒーローならば人一人を担いで長距離を移動する事もざらですから」
「成程そう思えば問題は……あっ」
此処である事に気付いたのか、星辰は思わず声を上げた。
「如何したの?」
「いやさ、オールマイト先生も同じ重り着けるんですよね?」
「ええ。オールマイト先生の場合は……100キロオーバーですかね」
「うわすごっ!?でもそれがどうかしたん?」
「いやさ……オールマイトにそんな重りって意味あるのかな、寧ろ重みの影響で打撃の威力とか上がりそうな気がするんだけど……」
「「……確かに」」
そんな素朴な疑問に思わず二人からも同じ意見が出てしまった。オールマイトの相手は緑谷と爆豪のペア、まともに連携が出来るのかと不安が生まれるペアだがそれ以上別な不安が募って来た。
「えっそれってデク君たち大丈夫なんかな……?」
「い、いやまあ……大丈夫、じゃないかな……あの二人だし」
「……一応僕の方でリカバリーガールに注意してくださいと言っておきますね」
結果。オールマイトの試験は全然大丈夫ではなかったのだがそれはまた何れ語るとしよう。兎も角まずは自分達の試験に集中する事にしよう、13号と別れて指示されたスタート地点に立つ。
【石動、麗日チーム。演習試験……READY GO!!】
開始の合図がされる、これから30分以内にクリアしなければならない。試験場はドーム状の建物の中、十二分に広く機動力も確保出来るし麗日の無重力による三次元移動も活きる状況が整えられている。
「よしそれじゃあどんな作戦で行く、先生を捕まえるか逃げるか」
「まあ、俺との相性は分からないけど……麗日さんとの相性は最悪だよね……ブラックホールって」
「ウチもそう思う」
取り敢えず出口を目指しつつも会話を続ける。超重力の井戸であるブラックホールに無重力で浮かせたものなんて無意味、瞬時に吸い込まれて塵にされてしまう。だから何かを無重力にして相手に投げつけても効果はない、故に使える手段はかなり限られてくる。
「と言っても俺の攻撃とかも多分ブラックホールで無意味にされる……」
「後は……職場体験でガンヘッドさんの所で習ったマーシャルアーツぐらい……」
「ガンヘッドマーシャルアーツ……ブラックホールを越えられれば何とか、なるかな……?」
様々な事を思案しつつ、進んでいくと脱出ゲートとその前に立つ13号の姿が見えて来た。
「やっぱりあそこで待機か……取り敢えず―――やりますか」
「うん、やろう!!」
そんな言葉を送り合いながらハイタッチと拳を合わせてから覚悟を決めて出る事にした。相手に位置を探られないように物陰に隠れつつもトランスチームガンにスチームブレードを連結してライフルモードへとしながらフルボトルを装填する。
『さぁてブラックホールなんて親近感が湧くねぇ……相棒、どう攻略するよ』
「(さぁて……色々とぶつけてみるだけ!!)」
明後日の方向へと向けて引き金を引くがトランスチームライフルから放たれたロケット型の弾丸は正確に13号へと向かって飛んでいく。
「来ましたね、でも」
誘導弾が向かって来るのに13号は一切動揺せずに指先を向けるとそこへ周囲の空気が一気に吸い込まれていく、誘導弾は次々と吸い込まれていく。空気と共に吸い込まれていく、いや吸い込まれていく過程で既に分解が始まりかけている。そして指先に近づくと一気に分解されていく。
「こりゃマジのブラックホールですわ……アハハハッマジで如何しよう」
「石動君~!?」
弾頭の途中爆破を試みても無駄だった、これは想像以上に強い個性と言わざるを得ない。
「―――ってな感じ、大丈夫?」
「うん多分!!」
「―――いっちょ試してみるか!!」
勢い物陰から飛びだすとそのまま高速移動を開始する。飯田のレシプロバーストにすら追い付くほどの超高速移動を開始する。
「これは、流石に速い!!」
赤い残像を残すようにしながらも駆け抜けていく星辰に13号も称賛の声を出す。指を向けるが向けた時には既にそこにいない、ブラックホール自体は恐ろしいがその照準を合わせるのは人間である13号自身。しかも重りで動きが鈍い所を突こうとした。
「成程、確かにいい作戦ですね―――でもそれならこれで如何ですか!!」
右手を開きながら全ての指先で個性を発動、超広範囲での吸い込みが行われる。5本での吸い込みなので単純計算で5倍のパワーで吸い寄せられる事になり、流石のエボルもその重力に捕まりそうになり動きが一気に鈍くなる。その最中、ライフルに新しくボトルを装填しながらも後方の壁へとトリガーを引いた。
青いエネルギー弾は壁へと命中するが、なんの破壊も齎さない。一瞬13号も首をかしげるが、即座に今度は自分目掛けてトリガーを引いた。一体何をと思ったが、先程までまともに動けなかった筈の星辰が確りと立って此方を見据えて来た。
「へへっ……磁力の力ってのも強力な物なんですよ先生!!」
「壁と自分に磁力を付与したのですか……!!」
そう、使ったのはマグネットフルボトル。壁にS極、自分にN極を付与する事で星辰は自らを壁に吸い寄せるようにした。それでブラックホールの重力に対抗しているのである。
「成程、良い手段です。でも―――相方さんは如何します?」
「石動君ゴメンんんん!!」
視線の先ではもう片方の手で麗日を吸い込もうとして完全に動きを封じていていた、しかも少しずつ麗日の方へと歩いて行っている。自分の向ける個性の出力を強めながら。
「(まったく油断もしない、隠れながら麗日さんに隙を見ておばけフルボトルの一撃を加えて姿を消させるつもりだったのに……!!)」
『そう簡単には行かねぇってこった、さあ如何する?』
「だったら―――こうだ!!」
再度、ボトルを装填し直してトリガーを引いた。13号は今度は何をしてくるのかと思いながらも警戒を解かなかった……つもりだが突如として星辰の姿が完全に掻き消えた。
「えっ!?いや何処に……温度センサーにも反応なし!?完全に消えたというのですか!?」
「えっ石動君何処行ったん!?」
あり得ない、5本の指のブラックホールから逃れるなんて……しかもただ逃れるだけではない、コスチュームのセンサー類からも引っかかる事もなく完全に掻き消えたのだ。どうやって……と思ったその時、唐突に麗日が宙を舞った。
「う、うわぁっ飛んどる!?」
「何ですって!?」
一瞬の動揺、星辰の事に気が取られて引力が弱まったその瞬間に麗日は宙を待ったのだ。だが無重力ならば簡単に……違う、それをやっているのは―――
「こういう手があったんだよなぁ!!」
「どっから出て来たん!?ってあっそっか自分にやってんやね!!」
「そ言う事♪さあ決めるよ!!」
星辰だった。お姫様抱っこのように麗日を抱き上げながらも即座に作戦決行の合図を送るとそのまま麗日を投げ飛ばす。即座に麗日は自身を無重力にして浮かび上がる、それを逃がすまいと13号は指を向けようとするが―――
「そう来ると思ってましたよ!!」
それはフェイント。空中を跳ねるようにして勢いよく迫って来る星辰へと先程と同じ5本指での重力で引き寄せながらも拳を構えていた。ブラックホールを利用したカウンター、バレてもいい、バレたとしても重力に囚われた時点で回避は不可能。そのまま星辰は引き寄せられて行くが―――
「俺はこの時を待ってたんだよぉ!!まさか此処でお目に掛かれるなんてなぁ―――さあ貰うぞそのエネルギーを!!」
突如として星辰の声がエボルトの物に変わる、右腕に光を収束させていくとブラックホールを閉じられるよりも前にそれを空間へと叩きつけた。余りにも奇怪な行動に流石の13号も驚愕した。しかも空間を確りと殴れているのか、大気に罅まで入っている。
「空間を、殴った!!?」
「さあ、新たなフェーズへの引き金だぁ!!」
「そこっだぁぁぁぁぁ!!!」
完全に意識が星辰へと向いたところへ真上から無重力を解除した麗日がバトルヒーロー・ガンヘッドの元で習ったG・H・M、ガンヘッドマーシャルアーツを落下の勢いを利用しながら一瞬で13号の腕を極めた。
「ウグッ!?し、しまった!?」
「13号先生―――確保ぉぉぉぉ!!!」
そしてそのまま13号の腕にハンドカフスを掛ける事に成功した。極めて難関ではあったが二人は何とか試験をクリアする事に成功した。
「―――お見事、最初から想定していた石動君が囮になって麗日さんが僕を捕まえるという形になったという訳ですね」
「いや最初とは随分と違って完全にアドリブだったんですけどね」
照れながらも嬉しそうにしている麗日を見ながらも13号は感心していた。アドリブならば特に良い。プロヒーローは突発的に他のヒーローと協力する場面に遭遇する事もある、そこで求められるはアドリブ、つまる所対応力。それを咄嗟に出来てそれで当初の予定通りに出来たのならば言う事がない。
「しかし石動君にも驚かされました、まさか空間を殴り付けるなんて―――石動君?」
立ち上がりながらも星辰にも声を掛けようとするのだが……そこには静かに立ったまま、手の中にある何かをジッと見つめている彼の姿があった。それは何やら銃にあるトリガーにも見えるが石のようにも見える。
「石動君、如何したの……?」
おずおずと麗日が声を掛けた時、ゆっくりと星辰は麗日の方を向いた。そしてそのままゆっくりを歩きだした。その時に13号が感じたのは……異常なまでの怒りだった。ほんの一瞬、マイクロレベル時間に漏れ出たそれに13号は寒気を覚えた。
「―――下がって下さい!」
「えっ?」
その言葉が間に合う訳もなく、星辰は麗日の目の前に到達した。そして手を上げて―――
「流石麗日さん!!あんないきなり投げちゃったのによく対応で来たよね!」
「えっそりゃまあ、ほら浮かぶのなんて何時もやってるような物だし!!」
「ハハハッそりゃそうか!!」
麗日の前へと手を出しながら嬉しそうに言葉を弾ませた、そしてそのままハイタッチをして無事に切り抜けた事を喜び合った。それを見て呆然としてしまうが、先程の事で少し疲れてしまったのかな?と13号はそこまで自分が追い込まれたという事か、と納得しながらも生徒達の成長を喜んだ。
「(エボルトお前、麗日さんに何をしようとした!!)」
『……フン、折角フェーズが進むと思ったのに肩透かしを食らったんでな。デコピンでもしてやろうと思ったんだよ』
「(まさかとは思ってたけど、13号先生のブラックホールを利用してトリガーを作り出そうとしてたのか)」
『必要だろう俺達にとっては……しかも相棒、お前まで途中で邪魔しやがって……』
そう呟きながらも極めて残念がるエボルトの手の中にはそれがあった……。未完成ではあるが、破滅の引き金が確りと作り出されていた。