いよいよ始まる林間合宿、A組の全員はバスへと乗り込んで林間合宿の舞台へと道路を突き進んでいた。バスの中は非常に騒がしく賑やかなままで相澤が注意もしないのでそのままの喧騒のままバスは突き進んでいく。それに何処か言葉に出来ないような不安を抱えている物も居たが、そんな者なんて無視するようにバスはどんどんと進んでいく。
「ねえ星辰、アンタ13号先生との授業でなんか色々とボトル使ってたじゃん。他にどんなのがあんの?」
のんびりと窓を眺めるのが基本好きな星辰はそのまま窓からの景色を眺めていようとしたのだが、隣の席に座っていた耳郎から矢継ぎ早に質問が飛んできた。麗日と共に13号先生相手に合格をもぎ取ったのは矢張り凄いと思われているらしい。
「そう、だね……色々かな、まあ有機物と無機物で色々別れるけどなんか曖昧な物あるし」
「例えば?」
「おばけフルボトルって一応有機物ボトルって扱いだけど、おばけって有機物?みたいな」
そんな感じの話を適当にしつつもバスの中で楽しい時間を過ごす事が出来ていた。しかし暫くすると突然相澤からバスから降りろという指示が飛んできた。
「ってあれB組は?何処にもいねぇな」
「つうか、なんだ此処。パーキングじゃねぇな……」
バスはとある場所で止まった。外に出つつも座りっぱなしだったので身体を伸ばしほぐしながら辺りを見渡すとそこは崖の上の何の変哲もない空き地。公衆トイレも何も無い。ただ、車が一台止まっているだけで特に何もない。特に峰田はジュースを飲み過ぎたからかトイレに行きたいと訴えるが無視される。
「やっほ~イレイザー!!」
「ご無沙汰してます」
相澤が丁寧に頭を下げた相手は小さな少年を一人連れている猫のようなコスチュームを纏った女性が二人、その二人は直ぐに視線が集まっている事に反応してノリノリでポーズを取り始めた。
「煌めく眼でロックオン!!」
「キュートにキャットにスティンガー!!」
「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!」
「という訳で、今回お世話になるプロヒーローのプッシーキャッツの皆さんだ」
見事なポーズを決めながらもヒーローらしい口上を述べる二人の綺麗な女性がそこに居た、クラス一のヒーローマニアが食いつきつつも解説が始まった。
「連名事務所を構える4名一チームのヒーロー集団!!山岳救助を得意とするベテランチームだよ!!今いるのはマンダレイとピクシーボブだぁ!!キャリアは12年にもなるあのベテランチームのプロヒーローに遭えるなんt」
「心は18ぃ!!!心はぁ……?」
「じゅっ、18ぃ!!」
『必死かよ……』
緑谷にピクシーボブのアイアンクローめいたものが炸裂する。こうかはばつぐんだ。矢張りどんな世界であろうとも女性にそう言った話題はNGなんだな……と星辰が遠い目で見ていると耳郎から何処かジト目で見られた。
「ああいうのが好きなんだ……」
「いや別に」
なんだかカオスになりつつある空間でマンダレイが咳払いをしつつ説明を始めた。
「ここら一帯は私らの私有地なんだけどね、あんたらの宿泊施設はあの山のふもとね」
『遠っ!!?』
そんな彼女が指さしたA組の宿泊施設の行方、それは鬱蒼としている森の先にあった。勘のいい者ならばここで思うだろう、何故そんなに遠い此処でバスから降りさせられたのかを。因みに星辰はもう察しがついていた、というかどうせフリーダムな雄英なんだからまともに宿泊施設にも行かせてくれないんだろうなと考えていたのでエボルドライバーを装着した。
「今は午前9時30分。そうね、早ければ12時前後かしらん。12時半までにこれなかったキティはお昼抜きね♪」
全員がまさかと……思い始めた辺りで相澤がニヤリと悪い笑みを浮かべて、意地の悪そうな声で言った。
「―――悪いね諸君、既に、合宿は―――始まってる」
直後、ピクシーボブが地面に手を当てる。そこからまるで土石流のごとく地面が盛り上がってA組を飲み込みながらそのまま崖の下へと叩き落としていく―――が、唯一星辰だけは咄嗟に跳躍したおかげか逃れていた。
「あ~あ……皆怪我してなきゃいいけど」
「あの程度で怪我する程軟な奴らじゃないのはお前が分かってるだろ石動、さっさとお前も行け」
「分かってますよ―――変身!!」
コブラフォームとなった星辰はそのまま崖から身を投げ出すかのように落下していく、その様子は投身自殺を連想させるには十分過ぎたのかピクシーボブとマンダレイの傍にいた少年の顔を青くさせて思わず崖の下を覗き込んでしまった。
「心配いらない、あれでも体育祭優勝者だからな」
相澤の言葉通りにゆっくりと降下していく姿に思わず少年は胸を撫で下ろしたが、直ぐに鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。
「ごめんねイレイザー、ちょっと気難しいっていうかさ」
「気にしてませんのでご心配なく」
「そう、んじゃ……この辺りは私有地だから個性の使用は自由だよ!!今から3時間、自分の足で施設においでませ!!この魔獣の森を越えてね!!」
改めてA組の皆にそう勧告するマンダレイ、それに思わず魔獣の森ぃ!?皆が聞き返すのも当然だろう。施設まで自力で来いというのはなんとなく察する事が出来たが森が物騒極まりない名前なのは完全に予想外であった。
「なんだよそのドラクエみてぇな名称は!?」
「おいおい冗談じゃねぇぞ……というか何で魔獣の森何だ?」
「皆無事~?」
そんな所に星辰がゆっくりと降下して着地する。如何やら全員怪我はしていない模様、落とされた先の地面は石などが全て排除されている上に柔らかく耕されているようなふわふわ感。一応怪我の防止などは考えられていたらしい。
「星辰、アンタ避けられたんならウチらも助けてくれたらいいのに」
「ごめん咄嗟だったから……お詫びと言っちゃなんだけど……」
保持されたトランスチームライフルから誘導弾が発射されて森の奥へと突っ込んでいく、すると森の木々から異様な物が飛び出してきた。それは―――巨大な怪物であった。
「な、なんだぁあれ!!?」
「あれが魔獣って事ぉ!?」
突然の魔獣に軽くパニックになるが、森へと突っ込んだ誘導弾はそのまま魔獣を背後から襲撃し大爆発した。其処らに魔獣だった物の破片が散らばっていく、そして星辰はまだ落下してきた原型が残っている魔獣を何の躊躇もなく、蹴り砕いた。
「ちょっ!?石動お前何やってんだよ!!?」
「魔獣だとしてもそれは生き物だぞ!?」
「―――何言ってるんだよ皆?」
そう言いながらも転がっていた頭を持ち上げながらもそれを一息に握り砕いてしまった、それに思わず全員が息を呑むが……直ぐに緑谷が違和感に気付いた。
「これって……もしかして土塊?あっそうか、これってピクシーボブの個性で作られた土魔獣だ!!」
ヒーローマニアであった緑谷の頭脳は当然のようにその情報はあった、ピクシーボブの土魔獣。つまりこれは生きていない、個性によって制御された生きているように見える唯の土の塊でしかないと分かると全員が何処かホッとしたような溜息を洩らした。
「あ~なんだよ吃驚したぁ!!」
「突然石動がヴィランムーブするから何かと思ったよ!!」
「……狼狽えてたみたいだから安全確保のためにやったのに、全然気づいてなかったのね……」
と落ち込んでしまった星辰。彼自身はエボルのスーツ機能で生体反応が無かったので直ぐに分かったが、皆にはそれが分からなかった。なのでそれを示そうと思ったのに……と凹んでしまうが直ぐに気を取り直す。
「如何やらこの森にはこういう奴がうじゃうじゃいるみたいだよ」
「マジか……これを3時間で突破しなきゃ昼飯抜きってきつくねえか!?」
「でもやるしかねえだろ!!飯抜きなんて絶対に断る!!」
「ならば、手段は一つ!!最短距離で正面突破です!!」
直ぐに意識を切り替えると皆が思う事は直ぐに一致した。即座に突破して昼ご飯を食べる、その為に魔獣を蹴散らして進む事。そして飯田が大声を張り上げて宣言する。
「A組、行くぞ!!魔獣の森を、強行突破する!!」
『応ッ!!』
「ハハハハッ!!如何した魔獣共、この程度の力しかねぇのかぁ!?一昨日きやがれってんだぁ!!」
「(何なんだろう、この違和感……なんか、星辰っぽくないっていうか……)」
「耳郎さん後ろ!!」
「っ!!大丈夫、この位!!」
起き始める小さな波紋、その波紋は―――何れあらゆる物を飲み込まんとする大渦と化す。