「おおっ~随分と早かったじゃん、予想よりもずっと早い」
そんな風に呟きながら笑っているピクシーボブの視線の先には森の木々の間から、姿を現してくる1組の生徒達の姿があった―――が、全員もれなく疲労困憊でフラフラとなっている。タフネスな爆豪ですら爆破の使い過ぎで腕を庇うようにしながら歩き、焦凍も疲労を隠しきれていない。
「……流石に、俺も疲れた……」
エボルに変身している星辰も例外ではないのか、到着と同時に変身が解除される。だがそれでも他よりも疲労の度合いが楽なのか、肩を貸している耳郎や芦戸などを落とす事はなく、彼女らを気遣う余裕があった。
「お~一番タフなのはそこの変身君かな?」
「これでも疲れてるんですよ……俺だけ異様に狙われてたし……」
というのも土魔獣は尋常ではない数が絶え間なく襲い続けて来た。中には翼を持った魔獣までいたので空中対応が可能な星辰は色んな意味で八面六臂の活躍だったが……中でも他の物に比べて大きかったり頑丈だったり素早かったような土魔獣は集中して星辰を狙いに来ていたような感じだった。その対応にボトルを使いまくったり、戦闘力が高くないメンバーに武器を渡したりもしたのでフル稼働状態だった。
「石動、さん……此方のバイク、お返しいたしますわ……有難う御座いました……」
「ああ……そうだった……」
とプッシーキャッツと相澤が目を引いていたのは八百万が乗っていたバイク、後ろには個性の使い過ぎで吐きそうになっていた麗日が休んでいた。そこからのそのそと二人が降りたのを確認すると星辰はマシンエボルダーのボタンを押した。
バイクフルボトルを吐きだしながらも元のスマホへと戻って星辰の手元へと戻るのを見てプロヒーロー達は目を丸くしたのであった。
「おい石動、なんだそれ」
「えっ……?ああ、俺の個性で作ったボトルを活用したアイテムです……こいつにはバイクの成分が入ってます……連絡手段と移動手段の合体?みたいな……」
「……成程、合理的だな」
素直にそんな感想を述べた。プロヒーローとしても移動系の個性でも無ければ移動手段の確保は急務であるし連絡手段も確りしておきたい、プロヒーローならば緊急事態の交通違反は容認されるのでそう言った手段を持つ者は多い。だが、一々それを取りに行くのではなく常に持ち歩くであろう携帯がそれになる。色んな意味で合理的、合理的だが……
「(改めて、石動の個性は何なんだ?あれも変身の範疇内なのか……?)」
そもそもが変身という個性自体も謎だ。変身する為にそのバイクのボトルとやらも必要だから作れるのか、だとしたらその受け皿となってバイクとなるスマホは何なんだと色々と言いたい事はあるがこんな風に悩むのは合理的ではないと自分を律しながらもバスから荷物を降ろすように指示をした後は、食事を取って入浴しさっさと寝ろと指示を出した。
そんな事があった翌日の午前5時半、前日の疲れもたっぷりの睡眠などによって疲れも十分に取れたA組は早朝に全員集合していた。尚、星辰は酷く何処か眠そうにしており、舟を漕いでいる。
「星辰アンタ大丈夫?すっごいフラフラしてるじゃん」
「ヴァァァァッ……ごめん夢見が悪くて……」
「どんな夢見たらそうなるの?」
「ヴァァァァッ……それは―――」
「おいそこ、うるさい静かにしろ。これから本格的な合宿を始める」
そんな騒ぎを抑えながらも相澤が合宿の開始を宣言した。手始めとして身体能力把握テストにて行われたハンドボール投げを爆豪が行う事になった。入学から3か月、USJやら体育祭やら職場体験などで自分達も成長している、さぞかしとんでもない記録が出るんだろうと皆が期待する中で爆豪が叩き出したのは709.6m、テストの時からほんの少し伸びている程度でハッキリ言って期待外れに近い結果。
「確かに君達は成長したことだろう、3ヶ月間様々な事を経験して成長しているのは確かな事だろう。だがそれは主に精神面や技術面、後は体力面が少々と言った所で個性そのものは今通りで成長の幅は狭い。今日から君達の個性を伸ばす、死ぬほどキツいが……くれぐれも死なないように―――……」
何処か不気味な言い方をする相澤に全員に鳥肌が立ち、思わず喉を鳴らした。死なないように気を付けなければいけない訓練がこれから待っている……そう思うと色んな意味で怖い。
「それじゃあ早速始めるぞ」
と相澤が言葉を切った途端にその隣に4つの影が降り立ってきた、一糸乱れぬ動きで降り立った影に思わず全員が身構えた。現れたのは……。
「煌めく眼でロックオン!!」
「猫の手、手助けやって来る!!」
「何処からともなくやってくる……!!!」
「キュートにキャットにスティンガー!!」
『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!!!』
と先日マンダレイとピクシーボブが行ったポーズに二人を加えた本来のフルバージョン、ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツの本来の状態とも言える。一人だけ、女性たちの中に屈強な男性である虎が混ざっている事についてはセンシティブなことに繋がりかねないし恐らく突っ込んではいけないのだろう、多分きっと恐らく……。
「筋肉は負荷をかけて壊し、超再生させる事で大きくなるように個性も同じように負荷をかけ強くなる。つまり、使い続ければ強くなり、使わなければ衰える。故に林間合宿ではそれぞれが個性の限界を突破する事で更なる個性の強化を図る。限界を超えて鍛えるんだ。それでは皆さん、宜しくお願いします」
いよいよ始まろうとする林間合宿、それぞれが個性に合わせられたメニューが準備される中で星辰は如何するのだろうかと思った時に相澤に肩を叩かれた。
「石動、お前は既にメニューの一端を味わってるだろう」
「―――もしかして、土魔獣が凄い群がって来たのって……」
「良い勘だ、説明が省けて結構」
つまりそう言う事だ。これから行われる星辰の訓練は……休憩時間以外は基本的に変身し続ける事で変身に起きるであろう負担の軽減と持久力や戦闘力の向上を図る特訓。
「1時間おきに形態も変えろ」
「えっとコブラ、ドラゴン、ダイナソーって感じにですか?」
「そうだ。お前はコブラを基本としているな、逆に言えばそれは基本が使いやすく安定している事に甘えている事にも繋がる。其処も直せ、そしてアイテムもだ。その扱いと戦い方を構築しろ、以上だ」
「分かりました……ってわぁっ!?」
頷いた直後、背後に100を超える様な土魔獣が今か今かと襲いかかろうとスタンバっていた。なんという物量作戦……これをたった一人で相手にしなければいけないのか……普通ならば嫌がるというか絶望するだろうが……星辰は違っていた。直ぐに好戦的な笑みを作った。
「この位の数だと?甘いな、もっと用意してくれないとこのエボルには生ぬるいな……変身!!」
「さあ来い魔獣共、テメェら程度じゃ俺は倒せないって事教え込んでやる!!」
「ネコネコネコネコ!!良い威勢だね,それじゃあ試して上げるよぉ~!!」
星辰が特訓に入った時、他のメンバーも当然のように入るのだが……耳郎はピンジャックを鍛える特訓を始めようとしていたのだが……星辰の言葉が如何にも気になっていた。
『どんな夢見たらそうなるの?』
『ヴァァァァッ……それは―――なんか、違う星で戦う夢を見た……』
「(何で、胸騒ぎがしてんの……よくある事じゃん、夢ってよくわかんないのばっかりなんだし……)」
そう、夢とはそういう物だ。規則性なんてない、極めてランダムで常識では測れない事ばかりが起こる夢の世界……例えSFチックな夢を見ても可笑しくない……可笑しくないのに、耳郎は何故かそれを忘れられなかった。