その一撃で周囲に群がる土魔獣を一掃する、だが倒したそばから、崩れた身体を再構成して新たな魔獣が生まれて来る。だったらやる事は一つ、生まれてくるそれらすら潰すのみ。
「ギュアアアア!!」
ピクシーボブという一人で制御されているとは思えないほどに生物的且つ完全に制御された機械のように統率されたこれは途轍もない脅威。それが全方位から飛び掛かってくる魔獣たち、目の前を埋め尽くしたかと思えば地面から手が伸びて星辰を地面へと引きずり込もうとしてくる。
「クッハハハハ!!!中々やってくれるな、だが甘いなぁピクシーボブぅ!!」
「エボルテック・ホーク・バレットォ!!!チャオッ!!」
ホークガトリンガーの弾丸を全て装填すると同時にエボルドライバーの力も同時に開放した。ホークガトリンガーにそのエネルギーが流れ込んでいくとそのまま弾丸が放たれていく。オレンジ色の弾丸は的確に周囲の土魔獣へと襲い掛かっていく、土の中にいた魔獣にも弾丸に意志がある様に軌道を自在に変えながら地面へと突入して星辰を拘束していた土魔獣を撃破する。
「うっわっこれマジかニャ……」
思わず、そんな言葉を呟いてしまったピクシーボブ。土流という個性を持つ彼女からすれば土魔獣は自身が土に干渉して作り出す傀儡の魔獣。例え倒されても即座に新たに作り出せる、だが……やられた全てが頭部や胸部を撃ち抜かれているのを分かると鳥肌が立つ。
「土魔獣だから、命もない相手だからこれをやってるの、それとも……いや考えすぎよね。寧ろこの位に遠慮なしにやってくれないと合宿の意味ないし―――よ~し石動君姿変えちゃって~!!」
「了解~んじゃ、行くか!」
「如何ですかピクシーボブ、石動は」
「い~やぁ~……なんなのあの個性?」
と様子を見に来た相澤に対して素面で聞いてしまう程度にはピクシーボブは驚き続けていた。
「ラグドールのサーチでも全く分からないなんてこれまでなかった、だから私がこうして色んな魔獣をぶつけて情報を引き出そうとしている。それでも分からない、そこが知れなさすぎる」
「そうですか」
相澤も何処か困ったように頭を掻いた。この超人社会においてどんな個性があったとしても驚くには値しない、雷を起こす、地震を起こす、津波を起こすといった災害のような個性もあれば新しい概念を作るような個性もある。ならば星辰の変身のような個性でも……と言いたいが、それを当てはめるには余りにも規格外すぎる。
「だからこういう役回りをさせてしまって申し訳ない限りです」
「良いのよ別に、私自身の鍛錬にもなるから気にしないで」
そう返してくれるのは素直に有難い。プッシーキャッツの一人、ラグドールの個性:サーチ。100人まで見た人間の情報を丸わかりにするという情報系個性の最上位に位置していると言ってもいい個性、弱点も丸わかりなので合宿では大活躍間違いなしなのだが……それが通用しないのがたった一人だけいた、そう石動 星辰だ。
『―――視えない、全く分からにゃい……』
『なんと、ラグドールのサーチで分からないだと……?』
『辛うじて、変身って個性は分かるけどそれ以上が全然踏め込めない。いや踏み込んでも返ってこない』
返ってこないと表現したラグドール。ソナーで言えば反射音が全く確認できない状態、個性は確かに星辰の情報を捉えている、がそれを確認できないという異常事態。故に鍛錬と情報収集を踏まえてピクシーボブの土魔獣を絶え間なくぶつけるという最早力業としか言いようがないようなメニューしか組めなかったというのが本音である。
「それと、さ……イレイザー」
「なんでしょう」
「あの子、なんか大丈夫かな」
何処か不安げな瞳を作るピクシーボブに誘われるように改めて星辰へと目をやる、蒼炎を纏った拳を土魔獣にぶつけて粉砕している姿が見える。
「ゾンビアタックてか、良いだろう好きなだけ来い!!全てを、滅ぼし尽くしてやらぁ!!!」
「ああ、あれなら何時も通りです。あいつは個性を用いた戦いになると意図的に声を変える、それは自分のスイッチみたいなものなんでしょう」
「だと良いんだけどさ……あれってスイッチって領域を超えてると思うよ」
そう言い残すとピクシーボブは土魔獣の操作に集中し始めた。確かに言いたい事は分かる、普段の彼は品行方正な優等生で他人を思いやる事が出来るヒーローには相応しいと相澤も思う。だが……いざ戦いになるとそれが一気に変貌する。曰く、喧嘩などをした事がないので意識を切り替える事で戦えるようにすると言っていたが……
「さあ、今度はこれで如何かな!?マジもマジ、無限の土魔獣がお相手よ!!さっきまでの魔獣と思ったら一味も二味も違うから覚悟しときなさい!!」
「ハハハハッ!!!無限と来たか、良いだろうだったら無限に潰し尽くしてやる!!」
「―――変身!!」
「さあ来い!!雑魚が無限になろうが無意味、今日がお前達の死に日和だぁ!!」
「さあさあ昨日言ったよね!!世話を焼くのは今日だけだって!!」
「己で食う飯は己で作るのだ!!」
「こんな時のド定番カレー!!」
日も大きく傾き始めた夕暮れ、夏なのでまだまだ日の光はあるがそれでも暗くなってきたのは事実。夕暮れ時にその日の特訓は終わりとなってそれぞれが食事の準備をする時間となったのだが……皆、特訓の厳しさ故か元気がなく疲れ切っている。
「さてと―――やるか」
「星辰、アンタなんでそんなに元気な訳……?」
勿論星辰も草臥れている、草臥れてこそいるのだが―――
「これでも料理人だよ俺、喫茶店のシェフとしてお腹が空かせてる人がいるのに何もしないなんてあり得ないでしょ。おっこのお肉良い奴だな~……この野菜も良いな、プッシーキャッツの皆さんこっちの野菜とかも使っていいですか?素揚げとかにしたいんですけど」
何やらプライドのような物があるのか、星辰は迷う事もなく手を洗うと食材の選定に掛かった。
「キャハハハッ!!!あれだけ特訓してたのに一番元気なのってウケる~!!」
「大丈夫なの、あれだけの土魔獣ぶつけておいていうのもなんだけど」
「疲れてはいます。でも疲れているからこそうまい食事はいる」
何ともタフな子だとプッシーキャッツは思った。ある種一番厳しかった筈のメニューをこなしていた生徒が一番元気なのだから、こういう子こそ将来トップヒーローと言われるようになるのだろうなぁと思うのであった。
「おっこれも良いなぁ……B組の皆も食べるでしょ、素揚げとポテトサラダとスープかな」
「えっウチらにも作ってくれるの!?」
「勿論」
「お前……良い奴だなぁ!!!」
とB組の拳藤を始めとして驚く者も多かったが、即座に了承してくれた事に感動する鉄哲など好意的な感情を抱くものが大半だった。が……
「ハッ!!随分と余裕だねぇそれだけ施しのつもりかなぁ!?」
唯一、それに不満を漏らして真っ向から立ち向かった者がいた。物間である、体育祭でもやられているだけに星辰からのそれはプライドが許さないのだろうが……今回ばかりはB組の大半からやめろ!!という気持ちが一斉に向けられたのであった。
「んでいるの?」
「聞いているのかな君は、施しをするつもりなのかなぁ!!?」
「君にとって俺って上の立場なの?まあどうでもいいけど、君はいらないのかな」
「いやだから」
「どっち」
「だから僕は―――(グゥゥゥゥッ……)……」
「はい畏まり」
「クッ……屈辱!!」
身体は正直という奴だろう、なのでB組の全員と共に食事をする事が決定するのであった。
「あいつが女だったら女騎士みたいだったのに……!!」
と一部から如何でもいい意見も出たが、一緒に合宿をするのだから仲良くしようという方向で合致した。
「ウチも手伝うよ星辰、アンタだけにやらせるのは大変だしカレー組は手が足りてる」
「ああ、ありがとう耳郎さん」
流石に一人では時間もかかるので耳郎が手伝ってくれるのは素直に有難かった。そして一緒に作った素揚げなどはA組とB組、そして相澤とブラドキングにも振る舞われたが好評のうちに終わったのであった。
『さてと、相棒も良い感じに仕上がって来た。後は本格的にこいつだけか……まあいい、焦る必要はない。そう焦る意味なんてない……もう直ぐ、なんだからなぁ』