「本当にすいませんでした……」
「いやホントにもう良いって、あの時は本当に凄い怒ってたけどもう気にしてないから、ねっ?寧ろウチも怒りすぎたぐらいだし……」
耳郎に向けて捧げるガチ土下座、今回ばかりは本当に星辰も心から反省しており耳郎に危険な目に合わせてしまった事を心から後悔している。そんな土下座を行っている場は星辰の自室、本来ならば他の皆も放っておかないような状況なのだが、TDLでの一件もあって誰も羨ましさを込めた視線を一ミリも送りはしなかった。
「でもマジでビックリしたしエクトプラズム先生の分身に助けられてなかったら怪我してたかもしれないんだから、反省してね?」
「はい……猛省しております……」
正座したまま小さくなっている星辰、このままでは星辰もスッキリしないだろう。こういう時は思い切って罰を与えてみるのも良いと何かで読んだ気がする、悪い事をしたのに説教やら罰がないと治まりが悪い……だっただろうか。
「んじゃさ、星辰がウチに珈琲淹れてよ。アンタのオリジナルブレンドで」
「え"っ」
今まで聞いた事がないような濁り方をした声を発する星辰。冷や汗を掻きながらも明らかに狼狽えているのか視線を泳がせている。
「い、いやあのそれだけは……冷蔵庫にあるケーキを全部献上とかなら喜んでさせていただきますから……」
「それはそれでいいけどさ、それとセットで飲みたいから珈琲淹れてよ」
「それならドリップパックが」
「ウチは、アンタの、淹れた、珈琲が、飲みたい」
「―――……はい」
何度も何度も念押しされた事で渋々星辰は持っていた豆の焙煎から珈琲を淹れ始めた。耳郎はそれを近くで見ながらもあれだけ嫌がっていたので実は淹れるのが苦手なのかもと思っていたが手付きに淀みも躊躇もなくスピーディに行われていくので何が嫌なのか分からなかった。次第に部屋の中に広がっていく珈琲の香りに少しばかり心が躍った。
「……一応できたけど……」
「おっ出来た?それじゃあ注いでよ、ケーキと一緒に飲むからさ」
一応完成した珈琲だが星辰の顔色は極めて悪い、酷く渋いというか暗かった。しかし負い目もある為逆らう事も出来ずにカップに半分程度注いでそれをケーキと一緒に出す事にした。
「言っとくけど……俺が要れる珈琲はマジで不味いよ」
「またまた、アンタのお父さんのドリップパック凄い美味しかったじゃん」
「いや父さんのその才能を全く引き継げなかったんだよ俺」
きっと謙遜しているだ、そう思って手を合わせてから珈琲を啜る―――
「にっっっっっがぁぁぁぁ!!?何これ、すっごい苦いしすっぱぁ!?」
「だから言ったのに……はい、口直しの果実水」
そう言ってタンブラーに注がれた柑橘系の果実水を耳郎はがぶ飲みする勢いで飲み干して思わずゼエゼエと肩で息をする程だった、そしてそれを見てやっぱり自分の淹れる珈琲はそんなにまずいんだなぁ……と若干凹むのであった。
「ハァハァハァ……な、なんなのこれ!?」
「……俺製の珈琲です……」
「いやこれ珈琲なの!?尋常ない位苦いんだけど!?」
「言っていいよ不味いって、俺もずっと不味いって思ってるから」
「ああいや、唯苦すぎるっていうかその……」
あれだけ大声で苦いだの酸っぱいだの言ってしまっているが流石に不味いとは言いづらい、だが事実として星辰の珈琲は飲めたもんじゃないレベルに超不味いのである。
「昔からずっとなんだ……珈琲だけは全然上手く淹れられないんだ……如何してもエグい位に苦くなって不味くなるんだ……」
「だからあんなに濁ってたんだね……」
「……うん、せめてケーキを食べて口の中を中和してください……」
と新しくモンブランを出して耳郎に差し出す。一先ず口の中にまだ残っているそれをケーキの甘さで中和しつつもこれは確かに他人に出したがらない訳だと納得する。
「あ~……これさ牛乳とかで割ったらいい感じにならないかな?」
「さあ……」
「試しだよ、やってみよ」
冷蔵庫から牛乳を出してカップに注いでいく、ブラックホールが如く真っ黒だったそれは白が加わって茶色へと変わっていく。それを見届けて耳郎は珈琲を啜る……先程のように口にしたとたんに声を上げるような物ではない、物ではないのだが……
「う、う~ん……まあ飲めなくはない、かなって感じには……」
「やっぱりその位だよねぇ……」
そう言いながらもポットに残った珈琲を自分のカップに注いでいく星辰、そしてそれを一気に喉奥へと流し込んでいく。
「あっちょっと星辰!?」
「マッズ……」
矢張り相当に不味いのか星辰は顔を顰めているが、自分程ではなかった。当人からすれば一応飲める程度の物として感じているのだろうか。
「いや、子供の時からずっと後始末で自分で飲み続けてたから耐性が付いてるだけ」
「耐性って毒じゃないんだから……」
「毒みたいなもんだよ、こんなの」
兎も角肩を落としながらもシンクでポットを洗って行く星辰、その後姿は何処か煤けているように映った。耳郎もnacsitaで飲んだ惣一の珈琲は本当に美味しかった、苦味も酸味も確り感じられつつも旨味とコクがそれらも美味しさに昇華する素晴らしい物だった。それに比べたら……と思い続けているのかもしれない。
「星辰さ、これからもウチに珈琲淹れてよ。それがアンタへの罰」
「えっでも……こんなクソ不味い珈琲をこれからも飲むの?」
「そっ。でもどうせならとっても美味しいのを飲みたい、だからさ―――これからもっと頑張ってみようよ、ウチと一緒に美味しく淹れられるようにさ」
そう言いながらも隣に立ちながらも洗い物を手伝い始めた、思わず呆気に取られてしまった星辰はジッと耳郎の方を見つめてしまうが彼女は微笑んだ。
「必殺技を作るのと同じだよ、何度も何度も繰り返して作っていく。だけどアンタは一人でやってたから上手く行かなかったんだよ、だからこれからはウチが一緒に手伝うよ。味見役として」
「いやでも……」
「味見役、誰かに飲んでもらうって思えばさ、妥協せずに本気でやれるんじゃない?」
そう言われて少しばかりハッとなった。確かに自分はエボルトとなった影響で珈琲は絶対に不味くしか淹れられないと半ば諦めていて何処か適当になっていたのかもしれない。でも誰かに飲んでもらうと思えばもしかしたら……美味しく淹れられるようになるかもしれない。
「何時、美味しい珈琲になるか分からないよ?」
「良いよ別に、その分アンタの作るケーキで口直しするから」
「飽きるよ?」
「アンタのケーキなら大丈夫」
「耳郎さん―――」
言おうとした時、彼女のプラグが口を抑えて来てその先を言わせてくれなかった。
「響香、アンタにはそう呼んでほしい。だから響香でお願い」
「……分かった、響香さん」
「出来ればさん付けなしで」
「それは流石に……」
「そりゃ残念」