まだ、他の合格者がこの場に足を踏み入れていないことを考慮したとしても肝が座っているとは言えない。敵対勢力の候補生たちが正式に勢力に入る為の試験場に単身で乗り込んで来ている、愚かしい事をしている女が目の前にいる、渡我 被身子。雄英が行った林間合宿にて襲撃の実行部隊として参加し、自らを拉致する為に倒した女。
「正気かお前、俺がお前を確保しない理由はねぇぞ」
「あります。今此処で確保するよりもずっと価値がある私の使い方があるからです♪」
「俺がそれに乗ると?」
「勿論」
紅潮している表情のまま、トガは此方を見つめて来る。その瞳は狂気に染まっている、染まってこそいるがその狂気は混じりっけ無しな純粋さをも感じさせている。
「(ど~思うよ……)」
『相棒に向けてる感情に偽りはねぇって感じだな、ありゃ本気で言ってるぞ』
「(マ~ジか……)」
『マ~ジジルママジジンガ』
「(
それが即座に分かる辺り星辰も大分あれである、エボルトと此処まで話せる辺りも変わってきている。そしてそれを参考にしつつも答えを導きだす事にする。
「んで、お前は俺にどんな貢献してくれるって言うんだ?」
「聞いてくれるんですね、やっぱりエボルさんは良い人ですね♪」
「状況から判断しただけだ」
いざとなったら抑え込むだって十二分に出来るから、という判断もある。そして好意的な返事が返ってきたのに笑みを浮かべながらもトガは近づいて来ながらも満面の笑みで告げた。
「エボル様っ貴方の下に就いても良いですか?」
「―――はっ?」
『鞍替えしようってか?』
突然すぎるトガの発言に思わず目を丸くしてしまった、それはつまりヴィラン連合を裏切ってヒーローに就くという事になるのだが……何故そんな事を伝えに来たのかを問い質さなければならない。
「理由は」
「んっ~……エボル様みたいになりたいからです」
「いや理由になってねぇ」
「なってますよ?私の個性を考えたら」
首を傾げながら何か変な事言いましたか?と言いたげな顔をする彼女にツッコミを入れたくなってきた。だが、トガの個性を考えれば可笑しくないレベルにはなる。彼女の個性は血液を摂取して対象へと変身する個性、つまり星辰になりたい=星辰の血液が必要なのでもっとそばで血を取らせてほしいという事に繋がる。
「それを承諾するとでも?」
「はい、だって私がヴィラン連合に居るよりかは近くで監視できるのは明確なメリットですよね?それにこのエボルドライバーを使える人が増えるのもメリットですよね?」
『割かし正論言いやがるな』
エボルトからしてもこの提案は悪いモノではない、相手側にあったエボルドライバーを手中に収めるに等しいし相手の戦力を削ぐ事にも繋がる。
「あっでも私ヒーローのお手伝いはしませんが、エボル様のお手伝いはしますけど」
「俺の手伝いはしてヒーローの手伝いはしない?」
『つまりだ、相棒はこいつはお前自身に就くって言ってんだ。仮にお前がヒーローを裏切ったら一緒に着いてくるってこった』
それを聞いて納得したような出来ないようなかなり複雑な気分になって来た。それ程までに自分に就きたいというのだろうか、拉致されている時にヴィラン連合から如何に今の社会が間違っている云々や不満がある、というのは聞いている。勿論その中にはトガの言葉もあった、酷く生きにくい世界だから変えたいと。
「……じゃあ聞くが、仮にお前にこのままヴィラン連合に戻って情報提供しろって言ったらどうする?」
「エボル様がそうしろって言うなら従いますよ?私、結構弔君にも信頼されてますから」
ドヤ顔で答えるトガ、自らの血を摂取した事で強化された個性の事もあってトガは重宝される立場になっている。特にエボルドライバーという途轍もないオーバーテクノロジーを扱えるのもあるだろう。正直困っていると遠くから合格者たちの足音が聞こえて来た、如何するにしろ対応を決めないと自分まで疑いを掛けられない……と思っているとトガは唐突に膝付いて頭を下げて来た。
「エボル様、貴方がどう思おうが私は貴方に忠誠を誓います。これ置いておきますので好きな時に声を掛けてください―――それでは」
「あっおい待て!!」
最後に真剣な表情を一気に破顔させながらもトガは一瞬で煙幕を張るとそれに乗じて姿を眩ませてしまった、一瞬だけだったがその手にはトランスチームガンが握られているのが見えた。あれはビルド本編でよく見た煙幕撤退……まさかそれまで出来るとは思わなかった。
「ふ~……星辰アンタやっぱり早いね、でもウチも確り合格したよ」
其処へやってきたのは雄英以外の受験生、そしてその先頭に立つのは耳郎だった。彼女は星辰の姿を見ると直ぐに笑顔を見せながらもウィンク混じりに報告をして来たのでそれに対応しつつも内心でエボルトに言葉を投げかける。
「(おい、あれマジでどう思う。忠誠誓うとか言われちゃったんだけど)」
『内海みたいだったな、ある種あいつ以上だからやりづらいったらねぇな。あいつは装った狂気だがあれはマジモンの純粋培養の狂気だ』
「(これからどうなっちまうんだろうなぁ……)」
そう言いながらも先程トガが置いて行ったモノを拾ってからチラリと視線をやった、そこにあったのは連絡と思われる番号とアドレスがあった。これは如何するべきなのだろうか……と思っていると耳郎は傍まで来た時に瞳を鋭くした。
「……なんか変な匂いがする、何これ血と香水が混じったみたいな……星辰、アンタ女に迫られたりしたの」
「(えっ!?俺匂いするの!?)」
『いや全然分からねぇ、女の勘って奴だろ』
「(勘怖いなぁ!!?)」
「ねぇ星辰アンタ何黙ってんの。ウチに隠してるんじゃないの、ねぇなんなの言いなよ、何言えない事でもあったの、言いなよ、ウチとアンタの仲じゃん何震えてんの、何も怖い事なんてしないのになんで震えてんの、ねぇ何でよ言いなよ言いなよ何で言わないの言いなよ」
瞳からハイライトが消え、無表情であるのに口元だが歪んだ三日月のようになりながらの笑みを浮かべての耳郎は途轍もない凄味と威圧感があった。それは星辰が言葉を詰まり思わず震えてしまう程の物。その光景に他の受験生も硬直してしまっていた。
「いやその、きょっ響香さん俺は本当に変な事とかになってないよ!?確かに女性の受験生を組み伏せたりはしたけどそれだけだからさ!!」
「―――なぁ~んだそれを早く言ってくれればいいのにさ♪」
『……女ってこえぇな』