「よし、避難は順調……!!」
「緑谷、こっち手足りてる!?」
「耳郎さん、うん何とか!!」
避難場所の移動の手伝いをしていた緑谷の所にやってきた耳郎、彼女は彼女で捜索活動は終了してあとは救助がメインとなったので避難作業の手伝いとしてやってきた。近くではあのギャングオルカが焦凍とイナサと戦闘を繰り広げている、何処か険悪な雰囲気に包まれていた二人だったが……
「俺が合わせる!!炎で風の威力を上げろ!!」
「―――っ了解っす!!」
焦凍のその一言が切っ掛けとなったのか、イサナは焦凍へと向けていた瞳を改めるようにしつつも二人掛かりでギャングオルカを食い止めている。そのサイドキック達が扮していると思われるヴィラン達にも上手く対応しているので避難作業にも集中出来る。
「だけど問題は―――」
言葉を上げようとした時、ギャングオルカの戦闘場所とは違う位置で凄まじい爆音と共に巨大なビルに無数のクレーターのような物が刻まれていきながらも倒壊していく光景が広がっていた。二つの残像が走っていく度にぶつかり合いとクレーターが生み出されていく、そしてビルが倒壊と同時にそれらは空へと跳び上がった。その時に漸くそれを視認する事が出来た。
「あれって!!」
「星辰!?」
跳び上がった一方は星辰であった、そして其処へ猛追するように跳び上がったもう一方が凄まじい蹴りを繰り出した。それを紙一重で回避しつつも腹部へと掌底を放って吹き飛ばすのだがそんなのダメージにもならないと言わんばかりに着地すると再度跳躍、一瞬で星辰の真上を取るとそのまま落下しながらの踵落としを炸裂させて共に大地へと激突して一際巨大な爆音を響かせた。
「星辰君、たった一人でミルコを抑えてくれてるんだ……でもそのお陰でミルコは全く自由に動けてないから凄い助かってるけどあれじゃあ負担が余りにも大きすぎる……!!」
「―――っ!!」
緑谷が怪我人たちへの激励の言葉を掛けている時、耳郎は走り出していた。感情とか理性とかそんなものじゃなくてそうしなければなれないという使命感に駆られるかのように走り出していた。
「そぉらぁ!!」
一度の跳躍で距離を詰めて来るミルコ、それに驚きを覚えるがその恐怖が一瞬で別の物に上書きされていく。空中で高速回転しながらもその遠心力を加えた蹴りを放ってくる、だが此方だって負けてはいられないのだ。頭部のEVOイヤーフェイスユニットは敵の気配や僅かな動きを捉えて行動を先読みを可能とし、肩に内蔵した加速ユニットで攻撃と移動の高速化が出来る。故にそれで反応しカウンターを叩きこむ!!
「―――はぁ!!」
「っとぉ!!」
ほぼ同時、一撃と一撃が同時に互いの身体を掠らせた。攻撃に合わせた完璧なカウンターキック、廻し蹴りをミルコは咄嗟に手刀で星辰の蹴りの軌道を僅かに変えて身体を掠らせる程度に済ませた。互いの一撃は完全に命中はしなかった、着地し互いに背中合わせになった両者はほぼ同時に振り向いて同時にハイキックを繰り出した。
「「―――っ!!」」
それも互いの頬を掠らせた、互いが互いの先読みを行ってそれに対応できる動きをし続けている。互いに互いの予想を上回っている動きをし続けているという状況、そして互いに走り出した。
「クククッ……カッハハハハハ!!!こんなに楽しいのは何時振りだぁおい、おいお前本気で気に入ったぜ!!認めてやるぜこのミルコ様がな!!そして―――もっと楽しもうじゃねぇかぁ!!!」
「くっ!!!」
ドロップキックを回避、嬉々として戦い続けるミルコ。其処にあるのは混じりけなしの歓喜、戦いで此処までの喜びを表現出来る人間とはあった事がない。こういうのをバトルジャンキーというのだろうか……が、モニターに背後からの接近警報が映り込んだ。それを身体を捻じって強引に回転して一撃を回避する。
「フフフッ愉しいじゃねぇか!!!」
頭部のシステムのEVOツインアイラビットも、戦闘時の反応速度・索敵精度が高められ特殊な視覚センサーと併用する事で高い能力を発揮出来る。だがそれでもミルコの動きは速すぎる。本当に生身なのかと言いたくなる程、跳び蹴りに此方もそれを放ち、ワザと吹き飛ばされるようにしつつ距離を取る。
『なんつう女だ……エボルラビットのシステムに匹敵してやがる』
「(いや、それ以上だ……これが経験の差って奴か……)」
『経験だけで此処までやるって、どんな戦いをして来たんだ……』
思わずエボルトが呆れてしまう程にミルコには膨大な戦闘の経験値が蓄積されている、それらによって彼女は殆ど戦いにおいては思考をしない。単純に相手の次の一手や最適解を感じ取る事が出来る、プロは考えない、感じるを地で行く、それがラビットヒーロー・ミルコ。
「(好い加減に、やべぇな……)」
『掠らせる程度に済ませられてるが、それでもダメージは蓄積するからな。エボルラビットでまともに受けたら確実にやべぇぞ』
「(わかってる……!!)」
着地した時、目の前にミルコもほぼ同時に着地した。地面は陥没しクレーターとなっている、唯の着地でこれだ、それをまともに受けた時なんて……想像したくはない。
「さてと……次は如何するんだぁ?」
自分の攻撃だって幾らかは当てているだろうに全く聞いていない様にピンピンしている姿にホラー的なインパクトを感じてしまう。本当にこの人は生身の人間なのだろうか、本当は何かしらの変身アイテムで変身している姿ではないだろうかと本気で疑いたくなる。
「(くっそぉっ……如何する、如何するのが最適なんだ……!?)」
「来ねぇならこっちから―――ぐっうぅぅぅぁぁぁっ……!!?」
その時だった、自分達を包み込むかのような途轍もない爆音が放たれて来た。それを受けてミルコは思わず耳を抑えて音を遮断しようとする、一方の星辰はエボルの基本機能でそれによる被害はないが……いったい何が起きているのかと驚いた。
「星辰無事!?」
「耳郎……響香さん!?」
「応援に来た!!」
其処へやってきたのは耳郎だった、脚のスピーカーから心音を爆音にして放出してミルコに向けて放っていた。優れた聴力という物が仇となっていた、必要以上に爆音が響いてきて身体どころか脳をも揺るがしてくる。
「グゥゥゥゥゥッっ!!!やるじゃ、ねぇか……だけどこんなの何度も経験、してんだよぉ!!!」
が、ミルコは持ち前の鋼の精神力でそれに持ちこたえる所か適応したと言わんばかりにゆっくりとだが此方へと向かおうとして来ていた。
「なら、これなら如何!?」
それを見て耳郎は冷静に錫音にある物を装填した、そしてそのまま引き金を引いた。それはミルコの周囲に着弾して、自分を狙っていないとミルコは着弾地点を見ると弾丸は展開して何かを起動させたようだった。見た事がある形状だ、よく見る物―――
「まさかっ!?」
「そう、経験してるならこれは如何!?アタシのライブ、スタート!!」
そう言いながらもドレミファターンテーブルを起動させると同時に弾丸も完全に起動してそこから音楽が爆音で流れだして行く。放たれた弾丸には指向性スピーカーが仕込まれている発目の自信作。それによって全本位からミルコへと向けて一点集中の爆音が注がれていく。
「グゥゥゥゥゥ……!!!頭が、割れるぅぅぅぅっ……!!!!」
流石のミルコでもこれは苦しいのか、顔を歪ませて耳を全力で抑えている。星辰ですらこの爆音はキツい、それを集中的に受けているミルコの苦痛は途轍もないのだろう。
「これでミルコは動けない、星辰!!」
「ああっ今なら決められ―――ッ!!?」
レバーを回そうとした星辰は思わず固まった、耳郎もそれに驚いたが視線の先を見て同じように固まった。何故ならば……そこには先程まで苦しんでいた筈のミルコが酷く嬉しそうな笑みを浮かべながら、全く大丈夫そうに歩いてきている。
「な、何で!?音量は最大の筈なのに!!?」
「きょ、響香さんあれミルコの耳!!」
指を指された先にあったのは耳、そこからは赤い血が流れていたのだ。耳から流れた血は顔を伝わっていくが、それを舌で舐めながらも首を鳴らしている。
「まさか、鼓膜を……」
「破った……!?」
「正解だ」
ミルコは聞こえない筈の声に応えた、口の動きだけで何を言っているかを把握した。そして彼女は答えた、この状況を打破する為に彼女は自分で鼓膜を破った。音は聞こえなくなるがこれで最大の弱点である超爆音にも怯む事はない。だがそれを仮免試験で実行するなんて誰も思わなかった事だろう。
「これはアタシの敬意だ、お前らの力に敬服してるからこそここまでやった。さあアタシを止められるか、本気になったヴィランをよぉ……!!」
その時、静かに鋭く、重々しい殺気が一体を包み込んだ。全身を突き刺すような威圧感、プレッシャーが全身を押し潰さんとしてくる。これが本気のプロなのかと感じる中で星辰は構えを取り続けた、誰がやめる物かと示していると隣で錫音を構えた耳郎がいた。彼女も止める気なんてない、全力で止める。それだけだ。それを見てミルコは大声で笑った。
「いいぞ、なら行くぞ。見せてやるこれがプロの―――!!!」
その時、けたたましいサイレンと共にアナウンスが流れた。
『只今を持ちまして、最後の要救助者のHUCが救助されました。これにて試験を終了させて頂きます』
それは終了の合図だった。仮免試験が終わりを告げた、その時に二人は……
「ンだとこれからが良い所じゃねぇか!!っザけんなぁ!!」
様子で終了した事を悟ったのか、酷く荒れた様子で地団駄を踏むミルコを見ながらも本気で命拾いをした気分だった。そしてミルコは溜息をつきながらも引っ込もうとするのだが……その前に何やらカチューシャのような物を付けると此方に話しかけて来た。
「おい、お前とそっちの。アタシ相手に良く戦ったな、褒めてやるぞ」
「あ、有難う御座います……」
「き、緊張したぁ……でも耳大丈夫なんですか?」
「ああ気にすんな、よくある事だから」
そう言いながらも彼女が今付けたのは骨伝導式の補聴器らしい、如何やら彼女は鼓膜を昔からよく破っていたらしくその影響か直ぐに治癒するようになっているらしい。1時間もすれば直ぐに元に戻るらしいのでその間は読唇術や補聴器でコミュニケーションを取るとの事。そしてミルコは変身解除して力を抜いている星辰に首に腕を回しながらも胸へと抱き寄せた。
「特にお前は良かったぞ!マジでよかったぞ!!おい、お前インターンはアタシの所に来いよ。扱いてやるぞ!!」
「え、えっとその俺インターンはリューキュウさんの所に……」
「あぁ~ん?何か生意気な事が聞こえたような気がしたけど、何も聞こえねぇなぁ~」
「あっズルいこんな時だけ聞こえないふりしてやがる!?」
生意気な奴め~!!と更に腕の力を強めながら抱き寄せて来るミルコに必死の抵抗も意味をなさずにいる星辰。傍から見れば仲の良い姉弟にも見える光景だが……
「……」
それを見つめる耳郎は暗黒に染まりながらも鋭く暗い瞳を作り続けていた。
ミルコも良いですよね……鍛えられた肉体と褐色、そしてあの男勝りな所……