ソードアート・オンライン Re:紫紺の剣士   作:仮面大佐

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第20話 伝わる想い

 第3回BoBが終了し、一度待機空間に戻されてログアウトするまでのカウントダウンが表示される。

 それが0になった途端、私の意識は現実世界に戻って来た。

 エアコンに電源は付いていて部屋の中は暖かかった。

 しかし、照明は付けていなかったため、部屋の中は真っ暗だ。

 アミュスフィアを外してベッドから起き上がり、部屋の照明を付ける。

 念のために室内からキッチン、ユニットバスまで人が隠れられそうなところを隅々まで探したが、誰もいなかった。

 窓や玄関のドアの鍵をチェックしたところ、鍵はしっかりかかっていて、部屋に侵入した形跡は特に見られなかった。

 もちろん、玄関のドアにある電子ロックを破って入り込んで来た死銃の共犯者が、部屋の中で携帯端末機を使って大会の中継を見て、死銃とその仲間たちが全員負けたとわかると同時に逃亡したという可能性もある。

 その場合、現実世界にいる共犯者はこのアパート付近にいるに違いない。

 エターナル…………石動君、そしてキリトとカルムとミトの3人が呼ぶであろう警察が来るまでに、まだ時間がかかる。

 1人では心細く警察……特に狩野君には早く来てもらいたかった。

 その時、キンコーンと玄関のチャイムが鳴り響いた。

 私は反射的にビクッと反応し、ドアを凝視した。

 更に2回同じ音が鳴り響いた。

 

――もしかして死銃の共犯者が……。

 

恭二「朝田さん、居る? 僕だよ、朝田さん!」

 

 聞き覚えのある声。

 レンズを覗いてみると、ドアの前にいたのは新川君だった。

 

詩乃「新川君?」

恭二「あの……、どうしても、優勝のお祝いが言いたくて……。コンビニでだけどケーキを買って来たんだ。」

 

 新川君はケーキが入っていると思われる小さな箱を掲げて見せた。

 

詩乃「で、でもずいぶん早かったね……。」

恭二「実は近所の公園で中継を見てて、決着が着くとすぐにコンビニに行って買ったんだ。シノン……朝田さんなら必ず優勝するって思っていたからさ。」

 

 待機空間での待ち時間を入れても、大会が終わって5分弱しか経ってないけど、それなら納得がいく。

 

詩乃「ちょっと待って、今開けるね。」

 

 ドアのチェーンを外し、電子ロックを解除すると、新川君を部屋の中へと入れた。

 もちろん、チェーンと電子ロックどちらもかけ直した。

 部屋に戻ると新川君のためにクッションを用意する。

 新川君をそれに座らせ、私はベッドに腰を降ろした。

 

恭二「あの……優勝、本当におめでとう。凄いよ、朝田さん……シノン。とうとうGGO最強ガンナーになっちゃったね。でも、僕にはわかってたよ。朝田さんならいつかそうなるって。朝田さんには、誰も持ってない、本当の強さがあるんだから。」

詩乃「あ、ありがとう……。でも、優勝って言ってもエターナルと同時優勝だったから……。」

恭二「そうだったね。後でエターナルにも優勝のお祝いをしないといけないね。」

詩乃「うん。エターナルには色々助けられたから、今回の本当の優勝者はエターナルかな。」

恭二「その……エターナルのことで、ちょっと気になることがあるんだけど……。中継で、砂漠の、洞窟の中が映ってて……。」

詩乃「あ、あれは……。」

 

 あの時は、エターナルに抱きついて散々泣いたり喚いたりしていた。

 それを新川君に見られたと思うと恥ずかしい。

 なんて説明したらいいのか考えていると、新川君が言葉を発した。

 

恭二「あれは……エターナルとあの3人に脅されたんだよね? 何か弱みを握られて、仕方なくあんなことをしたんだよね?」

詩乃「え?」

 

 石動君/エターナルとの関係を聞かれると思ったが、予想もしていなかったことで唖然としてしまう。

 

恭二「脅迫されて、エターナルの戦ってる相手の狙撃までさせられて……。 でも、最後はあの3人を相討ちにするように誘い込んで、エターナルを油断させて、グレネードに巻き込んで倒したよね?だけど、それだけじゃ足りないよ。もっと思い知らせてやらないと……。」

詩乃「あ……ええと……。」

 

 絶句してから、懸命に言葉を探して、新川君の誤解を解く。

 

詩乃「あ、あれは脅されてたわけじゃないの。エターナルは確かに無愛想で口も悪いけど、根はいい人なのは新川君も知っているでしょ。それに、あの3人はエターナルの知り合いで悪い人じゃないから……。実は大会中に例の発作が起きそうになって、エターナルに助けられたの。なのにエターナルにきつく当たっちゃって……。酷いことをしたのは私の方。後で謝らないと……。」

恭二「そ、それで、朝田さんはエターナルのことは特に何とも思ってないんだよね?」

 

 突然そんなことを聞かれて答えられなかった。

 

恭二「朝田さん、僕に言ったよね。『待ってて』って。」

 

 確かに大会前、近所の公園で新川君にそう言った。

 しかし、それは『何時か自分を縛るものを乗り越えてみせる』、それができて『ようやく普通の女の子に戻れる』という意味で言った。

 

恭二「言ったよね。 待ってれば、いつか僕のものになってくれるって。だから、だから僕……。」

 

 ここは正直に自分の本当の気持ちを伝えなければならない。

 私は石動君/エターナルが好きなんだ。

 これで新川君を傷付けてしまうことになってしまうかもしれない。

 それでも言おうとしたが……。

 

恭二「言ってよ。エターナルのことは何でもないって。嫌いだって。」

詩乃「ど、どうしたのよ。急に……。」

 

 新川君の様子がおかしい。

 すると、新川君が立ち上がって、こちらに近づいてくる。

 

恭二「僕がずっと一緒にいてあげる。エターナルに頼らなくても。僕がずっと、一生、君を守ってあげるから……。朝田さん、好きだよ、愛してる。僕の朝田さん、僕のシノン。」

詩乃「や、やめてっ!」

 

 何か悪霊に憑りつかれたような感じの新川君が怖くなって突き放す。

 新川君は尻もちをついた。

 その拍子に彼が買ってきたケーキが入った小さな箱ガテーブルから落ちる。

 

恭二「だめだよ。朝田さんは僕を裏切っちゃだめだよ。僕だけが朝田さんを助けてあげられるのに……。」

 

 新川君は怖くて動けなくなっている私にゆっくり近づいてきて、ジャケットに右手を差し込み、何かを取って私の脇腹に付きつけてきた。

 

詩乃「し、しん……かわ……くん……?」

恭二「動いちゃだめだよ、朝田さん。これは無針高圧注射器っていう注射器なんだ。これに入っているのは《サクシニルコリン》っていう薬で、これが身体に入ると筋肉が動かなくなってすぐに肺と心臓が止まるんだよ。」

 

 注射器、薬。

 それは、キリト達が言っていた事だ。

 これらを使い、ゼクシードを始めとする4人を殺害したのではと。

 それに、新川君の家は大病院。

 万が一に備えて、家に入れるようにマスターキーがある。

 そして、薬を何らかの方法でそれらを手に入れるのは可能だ。

 

詩乃「じゃ、じゃあ……、新川君……君が、現実世界にいる死銃の仲間なの……?」

恭二「へえ、凄いね。 死銃の秘密を見破ったんだ。そうだよ、僕は死銃の1人だよ。今までは《ステルベン》を操って2人のプレイヤーを撃ってたんだよ。だけど、今日だけは僕の現実側の役をやらせてもらったんだ。だって朝田さんを、兄さんや兄さんの友達に触らせる訳にはいかないからね。」

 

 そういえば、新川君には、病弱な兄がいると言っていた。

 

詩乃「もしかして、君の……お兄さんは、昔SAOで殺人ギルドに入っていたの?」

恭二「へぇ、そんなことまで知ってるんだ。うん、そうだよ。ひょっとしたら、兄さんも朝田さんのことを気に入ったのかもね。でも、安心して、朝田さんは、誰にも触らせないから。本当は、やめようと思ったんだけどね。なのに、あんな男と……………。騙されてるんだよ、朝田さん。あいつが何を言ったのか知らないけど、すぐに僕が追い出してあげる。」

 

 新川君はそう言って、注射器のボタンに手をかける。

 それに、まだ注射器のボタンを押さないってことは説得させることもできるかもしれない。

 そっと極力穏やかに言葉を発した。

 

詩乃「まだ……まだ間に合うよ。やり直せるよ。やり直せるよ……………お医者さんになるんでしょ?」

恭二「もうそんなのどうでもいい!親も学校の奴らもどうしようもない愚か者ばっかりだ!だから、僕はGGOで最強になれればそれでよかった。なのに、なのに……ゼクシードのクズが……AGI型最強なんて嘘をっ!GGOは僕の全てだったのにっ!現実を全て犠牲にしたのにっ!シュピーゲルもエターナルより強くいられたハズなのにっ!畜生っ……!!」

 

 それでゼクシードたちを……5人のプレイヤーを殺したっていうの……?

 

恭二「これでもう、こんなくだらない現実に用はない。さあ、朝田さん。一緒に《次》に行こう。GGOみたいな…… ううん、ALOみたいなファンタジーっぽいやつでもいいや。そういう世界で生まれ変わってさ、結婚して一緒に暮らそうよ!一緒に冒険してさ、子供も作ってさ、きっと楽しいよ!」

 

 もう、こんな現実は嫌だ。

 ごめんね……エターナル、カルム、キリト、ミト。

 あなた達に助けられたのに、無駄になっちゃう。

 とある事を思い出した。

 それは、4人がこちらに向かっているという事だ。

 今の新川君に鉢合わせたら、4人も危険に晒される。

 

 ーーだからって、どうにもならないよ。

 

 そう塞ぎ込んでいると、肩に手を置かれた。

 そこにいたのは、GGOの私、シノンだった。

 

 ―― あなたは1人で頑張ってきた。

 せめて最後にもう一度戦ってみようよ。

 私も一緒にいるから大丈夫だよ。

 そして彼にもう一度会って今度はちゃんと自分の想いを伝えよう。

 だから、さあ行こう。

 

 シノンは暗闇の世界にいる私を連れて光に向かって上昇し始めた。

 意識が現実世界へと戻る。

 新川君は私が着ているトレーナーを上半身から引き抜こうとしていた。

 隙を見て身体を左に傾けると注射器の先端が滑り、体から離れる。

 すぐに注射器を抑え、掌底と股間への蹴りへの蹴りを行う。

 その技は、京水先生が教えてくれたものだ。

 

京水『良い?もし、人が襲ってきて、相手が男だった場合、掌底と股間への蹴りを行いなさい。そうすれば、大抵武器を落とせて、怯ませる事が出来るから。』

詩乃『……………なんで、教えてくれるんですか?』

京水『そりゃあ、護身術の基本だからよ。そういうのは、覚えていて損は無いわ。』

 

 京水先生、ありがとうございます。

 その隙に新川君を蹴って振り払い、玄関に向かって走る。

 急いでドアの鍵を全て開けてドアを開けようとしたのと同時に、右足を冷たい手がぐっと握って私を引っ張ろうとする。

 振り向くと魂の抜け落ちた顔をした新川君が両手で私の足を捕えていた。

 幸いなことに、注射器は手に持っていない。

 必死に抵抗するが今度は振り払うこともできなく、どんどん奥へと引き戻される。

 そして新川君の身体が圧し掛かってきた。

 

恭二「アサダサン!アサダサン!アサダサン!アサダサン!」

 

 怖くなって悲鳴をあげそうになった時だった。

 ドアが開かれ、誰かが入ってきて新川君の顔面に膝蹴りを喰らわせた。

 何が起こったのか後ろを振り向くと新川君を取り押さえている男性の姿があった。

 それは、石動君だった。

 

克己「大丈夫か、朝田!」

詩乃「石動君……………!」

 

 石動君が来ていたのだ。

 すると、新川君が完全に理性を失った叫び声を出す。

 

恭二「お前……………お前だなああああっ!!」

克己「っ!?」

 

 新川君はそう叫んで、石動君に掴み掛かる。

 石動君は、何とか新川君に抑え込まれずにいた。

 

克己「胸騒ぎがしたから、来て正解だったな!まさか、あの時のお前が、死銃の仲間のうちの一人だったとはな!」

恭二「貴様……………!何故分かった!?」

克己「簡単な話だ。仲間が教えてくれたんだ。お前が医者の子供だって事、死銃のアバター名であるステルベンは、ドイツ語で死を意味する事!それらを加味したら、簡単にお前に繋がった!」

 

 石動君はそう叫ぶ。

 恐らく、京水先生が教えてくれたのだろう。

 あの二人、知り合いみたいだから。

 もしかしたら、あのルナは、京水先生なのかもしれない。

 

恭二「だったら何だって言うんだ!朝田さんは本物なんだ!本物のハンドガンで、悪人を射殺したことのある女の子だって!それを聞いてからずっと憧れていたんだ!」

朝田「えっ……………!?じゃあ、それが理由で話しかけて来たの……………?」

 

 私が驚く中、そう聞くと、新川君は狂ったように叫ぶ。

 

恭二「そうだよ。本物のハンドガンで、悪人を射殺したことのある女の子なんて、日本中探しても朝田さんしか居ないよ!本当に凄いよ!僕はそんな朝田さんを愛しているんだよ!」

詩乃「そ、そんな……。」

 

 新川君は、家族以外では京水先生と同じくらいに心を許せる存在だと思ったのに…………。

 彼の危うさに関しては、気づいていたのに……………。

 私の心の中は、新川君の本質に気づけなかった後悔に染まる中、石動君が口を開く。

 

克己「本物だと…………?笑わせてくれるじゃないか。」

恭二「何……………!?」

克己「お前はただ、朝田に自分勝手な理想を押し付けているだけに過ぎない!それは、決して愛しているとは言わない!」

 

 私が新川君の言葉にショックを受けている中、石動君はそう言う。

 すると、それを聞いた癇癪を起こしたのか、新川君は更に叫ぶ。

 

恭二「うるさい!お前に何が分かるんだ!!僕のアサダサンを返せぇぇぇぇぇっ!!」

克己「分かるか、お前の事は。だがな、これだけははっきりと言える。お前には悪党の極意が足りない!罪を罪として認めている者にそんな想いで近づくことも烏滸がましい!そんな意地も誇りもない貴様が、詩乃を…………俺から奪うだと?この……………ゲス虫野郎!」

 

 新川君がそう叫ぶ中、石動君はそう吐き捨てて、回し蹴りを行う。

 それを食らった新川君は、ベッドのフレーム角にめり込み、気絶する。

 石動君は、一息ついていた。

 

克己「ったく。……………大丈夫か、朝田。」

詩乃「え、ええ……………大丈夫。」

克己「そうか。…………あいつは大丈夫か?」

 

 私は石動君にそう言われて、新川君の右手首に手を当てる。

 どうやら、ただ単に気絶しているだけだった。

 

詩乃「……………ありがとう。来てくれて。」

克己「気にするな。アイツらが依頼人を介して、警察を呼んだ。もう時期来る筈だ。」

詩乃「そう……………。」

 

 私の言葉に、石動君はそう返す。

 すると、突然、両眼から溢れる物があった。

 

詩乃「あ…………あれ…………?」

 

 頭の中は、真綿を詰められたようにぼうっとして、何も考えられない筈なのに、涙が止まらない。

 石動君も、無言のままそこから動こうとしなかった。

 遠くからパトカーのサイレンが聞こえてくる中、私は泣き続けた。




今回はここまでです。
今回は、オリ主であるカルムは、登場しませんでした。
まあ、警察を手配してくれたので。
次回で、ファントム・バレットは終わります。
感想、リクエストは絶賛受け付けています。
現在、Re:紫紺の剣士で、そーどあーと・おふらいんの話をやろうかなと考えています。
もし、質問やこういう話をやってほしいというのがあれば、下記から受け付けています。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=300335&uid=373253

アリシゼーションでのカルムの武器はどうするか

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