とある双子の奔走劇   作:すぎざき凉子

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初任補習中の警察官が見ているのを見つけた妹のほう

 

 

「えっ、みぃちゃん!?お友達は!?」

「帰ったよ。日が落ちるもん、危ないでしょ。けんじクン久しぶりだね、2ヶ月ぶりかな」

「いやー……びっくりした、久しぶり……」

 

 フェンスの向こうにいると思っていた蜜香ちゃんが、いつの間にか俺の背後まで来ていた。気配無かったんだけど。

 いつもしていたように蜜香ちゃんの視線まで腰を落とす。

 

「みぃちゃん今日はお迎えくる?」

「来るよ。お友達と遊ぶって連絡してあるし」

「そっか、じゃあ今日ももう少ししたら離れるよ。それまでお話しようか。ベンチ座る?」

「うん」

 

 とと、とやっぱり軽い足音を立ててベンチに向かう蜜香ちゃんの背を見送り、後ろを振り返る。

 

「おまえらも紹介するから来いよ」

「え、ええ……?」

 

 四人とも困惑した顔をしてるが、まあついてくるだろうと蜜香ちゃんを追う。

 

 結局四人ともついてきて、自販機横のベンチに座った蜜香ちゃんと向き合っていた。

 

「けんじクンのお友達?ハジメマシテ、渡会蜜香です」

「左から伊達航、松田陣平、諸伏景光、降谷零ね。全員俺の同期。みぃちゃんお友達になってあげてよ」

「おい」

 

 スパン、と陣平ちゃんに頭を叩かれる。蜜香ちゃんはキョトンとしていた。

 

「え、みぃがおにーさんたちのお友達になってあげるの?なってもらう側じゃなくて?」

「いやみぃちゃんみたいな美少女は男を選ぶ側でしょ」

「小学生相手に何言ってんだ萩原」

 

 班長にも頭を叩かれた。

 

「もーっ、みんなして頭叩くなよ。馬鹿になるだろ」

「んふ、仲良しなんだねぇ」

 

 くすくすと楽しそうに蜜香ちゃんが笑う。

 

「みぃちゃんなんか飲み物のむ?奢るよ」

「んー、じゃああのいちごミルク」

「可愛い〜、可愛い子は飲み物まで可愛いのか〜」

「ねえおにーさんたち、けんじクン大丈夫?警察官やっていけてる?」

「うーん、うん、まあ……」

「やってけてるよぉ!?」

 

 完全に呆れた目をしてる陣平ちゃんと降谷ちゃんの視線を受け流し、苦笑いした諸伏ちゃんが答えるけど即答しろよ。やってけてるだろ、と班長を見ると黙って首を横に振られた。

 

「ひでえ」

「蜜香ちゃん、萩原になんか変なことされそうになったら全力で逃げるんだよ」

「降谷ちゃん!?」

「んふふ、けんじクンはみぃが嫌なことはしないよ。ね?」

「そうだよ!」

 

 うんうん、と頷きながら紙パックのいちごミルクを渡すと、蜜香ちゃんは笑顔のまま爆弾を落としてきた。

 

「みぃ、おまわりさんにも誘拐されたけど、けんじクンはあのおまわりさんより気を遣ってくれてるもん」

「「はぁッ!?」」

 

 驚きすぎて一緒に買った缶コーヒー握り潰すところだった。あっぶね、蜜香ちゃんにかかる。

 

「何それ俺知らないんだけど!?」

「よく無事だったなお嬢ちゃん」

「というか誘拐犯が警察官って……」

「なんかねー、みぃがヤクザの娘って現実が受け入れられなかったんだって。おまわりさんが育ててあげるからねって言われた」

「うわぁ、正義感履違えたタイプか……」

「シンプルに気持ち悪い」

 

 ちぅちぅ音を立ててストローを吸い始めた蜜香ちゃんはあっけらかんとしていて、あまり気にしていないように見える。

 うーん、蜜香ちゃん基本的にはいい子だし可愛いし、気持ちはわからんでもないけど、それで誘拐ってのはちょっと……。

 

「みぃちゃんそれでよくおまわりさんとお話しする気になったね。俺と話すの怖くなかった?」

「みぃにとって優しい人か悪い人かはわかるよ。湯川のおじちゃまはパパとママが生きてた頃から仲良しだし、けんじクンはみぃが嫌なことしないでしょ」

「しないけどさぁ……というかもう一人であの公園行くのやめなよ、危ないだろ」

 

 ね、と言うと眉間にシワを寄せ、蜜香ちゃんは首を振る。

 湯川さんが何度も止めたみたいだけど、蜜香ちゃんは頑なだ。

 

「ヤ。みぃは悪いことしてないのに、なんでみぃが制限されなきゃいけないの」

「でもみぃちゃんに何かあったらヤダよ俺。せめてお家の人と一緒に来るとかさ」

 

 蜜香ちゃんはまた首を振り、キュッと唇を噛んで、それからもう少しで震えそうな声で口を開いた。

 

「拝島以外は信用できない」

「拝島さんって中林組の組長さんだろ、いつも迎えに来てる。その人以外は信用できないってどういう」

 

 確かに、湯川さんから蜜香ちゃんは中林組の組長以外の迎えを拒んでいると聞いていた。

 それは蜜香ちゃんがその組長と仲がいいからとか、甘えているのだと思っていたけど、理由がある?

 

「けんじクン、ダメだよ。みぃのこと気にしすぎちゃダメ。言われたでしょ、湯川のおじちゃまに」

「でもみぃちゃん」

「ダメ。けんじクン、約束してくれたんじゃないの?」

 

 まっすぐに見つめてくる蜜香ちゃんは、泣きそうな顔をしていた。

 アレ、本気だったのか。

 

「みぃちゃん、ねえ、何する気なの?俺じゃ助けてあげられないこと?」

「ダメ、教えられない。みぃにとってけんじクンは大事な最後の手段だから」

「そうじゃない、そうじゃないんだよみぃちゃん、その前に頼ってほしくて俺は」

「離れて、けんじクン。もう日が落ちる。拝島が来ちゃう」

「みぃちゃん!」

「けんじクン、お願いだから」

「おい萩原」

「落ち着け」

 

 いつの間にか蜜香ちゃんに詰め寄り過ぎていたらしい。陣平ちゃんと降谷に肩を抑えられて漸く気づいた。

 一度深呼吸する。

 

「みぃちゃんに頼れる大人はいる?拝島さんなら頼れる?」

「……拝島はね、みぃのお爺ちゃんのことは裏切らないよ。だから、みぃのお爺ちゃんがみぃを見限らなければ、拝島はずっと味方」

「……そっか。それだけ聞ければいいよ」

 

 肩の力が抜けて少し笑うと、蜜香ちゃんは眉尻をさげて、泣きそうな顔で笑った。

 

「でも、みぃちゃんが助けてって言ったときには、絶対に駆けつけるから。俺でもいいなら、呼んで」

 

 手帳のメモに電話番号とメールアドレスを書いて渡す。

 

「絶対だよ。助けてって、ちゃんと言える?」

 

 蜜香ちゃんは両手で受け取って、胸に当てるように抱えて微笑んだ。頷きはしない。

 

「……わかった。メル友になろうよ、それくらいならいいよね?」

「うん」

 

 ようやく頷いてくれた蜜香ちゃんに、安心する。

 頬にかかった髪を耳にかけてあげると、くすぐったそうに笑った。

 

「連絡待ってる。みぃちゃん、今日も歌ってよ。拝島さんが近くに来るまででいいから」

「わかった。バイバイ、けんじクン。おにーさんたちも」

「またね、みぃちゃん」

 

 行こう、と四人に声をかける。

 困惑したまま続いてくれた四人に、あとでちゃんと説明するから、と小声で告げた。

 

「“始まるから終わる”」

 

 歌声が聞こえてきて、その声がやたら寂しく聞こえて、奥歯を噛んだ。

 

「“終わったら始まる”」

 

 運動公園を出たところで、黒塗りのベンツが見えた。拝島の車だ。

 俺たちが離れるのを待っていたのか。

 

「あっ、おい萩原」

 

 班長の静止は聞こえていたが無視した。

 窓を叩く。パワーウインドウが下がって、あの火傷痕の残る顔が出てきた。

 

「頼む、みぃちゃんを一人にしないでやってくれ。あの子にはアンタしか頼れる大人がいないんだ」

 

 拝島は俺を一瞥したあと、鼻から息を吐いた。

 

「あまり深入りするなと忠告されなかったのか」

「わかってる。でもアンタは、アンタならあの子のことどうにかしてやれるだろ」

「は、アレがそんなタマか。退いてろ」

 

 く、と口の端を上げるだけの皮肉な笑い方をした男は、パワーウインドウを閉めた。直後ドアがあき、拝島が出てくる。

 

「“水清ければ、月宿る、そうだろう?”」

 

 初めて近くで見る男は、俺よりも身長が高く2メートル近くあった。

 

「何をアレに吹き込まれたか知らんが、アレは父親以上のバケモノだぞ。オヤジが抑えつけておかなければ、アレは今頃一人二人どころではなく人を破滅させていただろうよ」

「……は?何言ってんだアンタ。みぃちゃんは子どもだろ。守ってやんなきゃあの子は」

「もうとっくに狂わされていたか。可哀想に」

 

 片腕で俺を退かせ、拝島は入口へ近づく。

 

「あの魔性をどうこうできるくらいなら、樫村も瑩龍を殺さなかっただろうな。俺から言えるのはこれくらいだ」

「ハギ、行こうぜ」

 

 陣平ちゃんに腕を引かれ、車から離れる。

 

「“水清ければ魚棲まず、それでいい”」

 

 拝島が蜜香ちゃんの元に立って、歌が止まった。

 

「──────────…………」

 

 蜜香ちゃんは、俺を見て手を振る。

 俺も手を振り、陣平ちゃんの腕を叩く。

 陣平ちゃんは俺の目を見て、ため息をついて離した。

 

 陣平ちゃんにすげー心配かけちゃってんだな。反省しなきゃ。

 

 離れた場所から車が発進するのを見送る。

 

「エイリュウ……はみぃちゃんのパパの名前、カシムラ……」

「萩原、何がそんなに気になってるんだ?」

 

 諸伏が俺の顔を覗き込む。

 ああ、そうだ。説明するって言ったよな。

 

「あの子の家、放火で焼けたんだ」

「ああ、さっき言ってたな」

 

 完全に日は落ちて、あたりは街灯と店の明かりのみ。

 ガタイのいい男5人で並んで歩くには少し歩道は狭い。

 

「事件当時、家には龍桜会清生一家十四代組長の清生瑩龍と、その内縁の妻、4歳の子供が二人、それから、普段から頻繁に出入りしていた清生瑩龍の運転手がいた。犯人は敵対関係にあった港会系の二次団体の浜口組に所属していた男で、事件後すぐに捕まってる。その後、龍桜会と港会はこれを切掛に対立抗争が起きて、特定抗争指定暴力団として指定を受けてる。解除されたのは2年後だった。まあこれは前提」

「おう」

「さっき拝島は、カシムラがみぃちゃんのパパを殺したって取れる発言をした」

「うん、そう聞こえたな」

「俺、刑事実習が暴力班でさ、龍桜会のことも港会のことも一通り調べたんだよ」

「それで?」

「カシムラって名前で目ぼしい人物は港会の重要そうな人物にはいない。放火犯の名前はサワダだった」

「出入りしてた運転手ってのは?」

「マキって名前だな。この人は子どもたちを守って外へ出たけど、運び込まれた病院で息を引き取ってる。拝島の顔の傷は子どもたちを運ぶマキに倒れてきた家具から庇って出来たものだったらしい」

「じゃあカシムラってのは結局誰なんだよ」

「龍桜会系二次団体、樫村組四代目組長のことだと思う。名前は樫村春隆」

 

 この樫村はすごくきな臭かった。

 清生瑩龍が死んでから勢力をかなり広げているのもそうだが、金の流れが不自然すぎる。

 そこまでは警察でもわかっているが、証拠がほとんどない。

 

「龍桜会系……ってことは、身内の裏切り」

「内部抗争か、厄介だな」

「拝島もみぃちゃんもそれを知ってるんだ、だから俺に」

「やめとけ萩原、これはもう俺たちでどうこうできる問題じゃない。それが本当なら、その樫村って男と浜口組に関連があることから裏付けを取らなきゃいけない」

「だからあのお嬢ちゃんもさっきの男も深入りするなって言ったんだろ」

 

 わかってる。わかってんだよそんなこと。

 

「でもそしたらみぃちゃんが!蜜香ちゃん俺にいつか逮捕してくれって言ったんだぞ!」

「萩原……」

「一番に気づいてって……迎えに来てくれって……そんなの、そんなの聞かされて、俺はあの子が犯罪者になるのを見てなきゃいけないのか?ただあの子が傷付くのを黙って見てろっていうのかよ!?」

 

 そんなの、そんなのは嫌だ。

 

「俺はあの子に笑っててほしいだけなんだよ……」

 

 それだけのことが、こんなに難しい。

 いつのまにか、学校についていた。

 

「ハギ、おまえ刑事課に希望出せ。機動隊にいるより動きやすいはずだ」

「陣平ちゃん」

 

 陣平ちゃんと俺は既に、機動隊の爆発物処理班に配属されることが決定していた。

 

「そうだな、それが一番近道だ。暴力団関係であれば情報が一番集まるのはそこだろう」

「そのカシムラの動きを探って、火事のことじゃなくて別件でパクっちまえ。そしたらあのお嬢ちゃんは手出しできないはずだ」

 

 諸伏と伊達がそう言う。

 

「それに庁内で目立ちにくい。暴力団関係者だから調べていたで説明がつく。あの子の目的がそのカシムラへの復讐じゃなくても、すぐに気がつけるだろ」

 

 降谷の言葉で、そうか、目をつけられたら動きにくくなるな、と冷静になった。

 

「みんな……ありがとう。わかった、そうする」

「すんなり希望通りゃいいけど、機動隊に配属されたら最低でも3年は動けねえはずだ。それだけは覚悟してろよ」

「ああ」

 

 陣平ちゃんの言葉に頷いて、震えたケータイを開く。

 

「それまではメールでやりとりするさ」

「おっ、来たのか?」

「あの様子じゃスルーすると思ってた」

「俺も」

「みぃちゃんは約束したことは守ってくれるけど、約束出来ないことは絶対に頷かないんだよなー。律儀っていうかなんというか」

 

 みんなで文面を覗く。

 

“みぃだよ。メアドありがと!これでいつでもけんじクンとおはなしできるね。いっぱいみぃとおはなししてね!”

 

「……はーッ、かわいい」

「キモ……なんでそんな入れ込んでんだよ」

「流石に傷付くんですけど!?めちゃくちゃいい子なんだよみぃちゃん。天性のアイドル。あのビジュアルで歌上手くてどうしてヤクザの娘なんだろ、それさえなければ芸能界のトップ狙えてた」

「ただのファンじゃねーか」

「拝島って男、あの子のこと魔性って言ってたけどマジっぽそうでオレ怖くなってきた。萩原こんなやつだったっけ」

「あの子警察官に誘拐されたって言ってたよな、これが行き過ぎるとそうなるんじゃないか?」

「一緒にしないでぇ!?」

 

 というか一歩下がるな!引くなよ!

 

「おまえらもみぃちゃんと仲良くなったらこうなるんだぞ」

「引きずり込もうとするな」

「新手のホラーじゃねえか」

「鳥肌立ったー……」

「おまえだけだろ、それこそ一緒にするな」

 

 くっそ〜……全員みぃちゃんの沼叩き込むからな……。

 

 

萩原研二は生きているか

  • 生存(健康)
  • 生存(植物状態)
  • 死亡
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