とある双子の奔走劇   作:すぎざき凉子

11 / 44
警察学校二度目の卒業式を迎える警察官からみた双子

 

 

「聞いて!今日さぁ!」

「知ってる、みぃちゃんが卒業祝ってくれるんだろ」

「は?みぃちゃんって呼んでいいのは俺だけなんですけど」

 

 陣平ちゃんに反射的に言い返すと、ゲンナリした顔で班長を見ながら指をさしてきた。失礼でしょ!

 

「松田、おまえ逃げたほうがいいんじゃないか?」

「なんで俺ハギと友達になっちゃったんだろうな」

「陣平ちゃんひどい!!!!」

「ねえもうオレめちゃくちゃ萩原怖い、助けてゼロ」

「ごめんなヒロ、手遅れなんだ……」

 

 あれから一ヶ月、初任補習も終わり今日は二度目の卒業式。

 昨日みぃちゃんからメールが来てお祝いに声掛けに来てくれると連絡があり、伊達班のメンツには伝えていた。

 

「ねえちょっとちゃんと聞いてよ!みぃちゃん今日お姉ちゃんと来るって!みんなに言う……祝い?これなんて読むの降谷ちゃん」

 

 漢字は易しいけど読めなくて降谷ちゃんに画面を見せ、ここと示すと間髪入れずに返ってきた。

 

「コトホギ」

「お姉ちゃんとコトホギにいくねって書いてある」

「ずいぶん難しい言葉知ってるなあの子」

 

 降谷ちゃんがそのまま画面を覗き込んで感心している。

 蜜香ちゃん時々すげー難しいこと知っててびっくりするんだよな。

 

「というかどこに来るんだ?関係者じゃないから入れないし、学校の前とかマズいだろ」

「お姉ちゃんと二人で門の前で待ってるから来てね。待て、確かお姉ちゃんってあの子と顔そっくりなんだよな?」

 

 諸伏ちゃんの言葉に、降谷ちゃんがそのまま文面を読んだ。

 サッと血の気が引く。

 

「もしもしみぃちゃん?誰か一緒に大人のヒトいる?いなそうだなその反応、今から行くから動かないでね!なんなら門の中入っていいから!」

 

 良かった電話番号訊いといて!マジで良かった!

 

 

 

 

 あいつらが追ってくるころには、蜜香ちゃんの機嫌は過去最低値を叩き出していた。

 

「だから、みぃ悪いことしてないのになんで制限されなきゃいけないの!」

「みぃちゃんホント頼むよ、心配なんだって〜!」

「けんじクンのお祝いに来たのに!」

「それはありがとう!嬉しい!着物超似合う!今日の為に選んでくれたの?けんじクン嬉しいな~!」

 

 本当にご機嫌取り抜きにマジで似合う。

 光が当たると青にも赤にも見える宇宙のような黒髪に、琥珀色の瞳に合わせたのか黄色から裾に向かって橙に染まっていく色の振袖はよく似合っている。

 

「かわいい?」

「みぃちゃんはいつでも可愛いけど今日はマジで特別可愛い」

「ふふん、そうでしょ。すぅちゃんとお揃いなの」

「やめなさい蜜香、あなたったら本当にもう」

 

 隣に並んでいる翠星ちゃんのほうもアースカラーの瞳に合わせたのか、水色から深いエメラルドグリーンに変わる振袖だった。柄が同じなので本当に色違いのお揃いなのだろう。

 

「お姉ちゃんもありがとうね、はじめまして萩原研二です」

「いつも蜜香がお世話になっております。蜜香の姉の渡会翠星と申します。蜜香、あんまり我儘言わないのよ」

「ワガママじゃないもん!」

「じゃあ駄々こねない」

「駄々じゃない!なんですぅちゃんみぃの味方してくれないの!?」

「蜜香。いい加減になさい。今日は言祝に来たんでしょう?それで務まるの」

「……落ち着く」

「そうね。深呼吸して。合わせて」

 

 しかし、本当に雰囲気の違う双子だ。容姿だけは瓜二つなのに、表情や言動が違うだけでこうも受ける印象がガラッと変わるのか。

 

「……わかりやすくお姉ちゃんだな、しっかりしてる」

「あんだけ騒いでりゃ誘拐は無理だろ。二人とも着物で目立つし」

「いや逆に着物じゃ何かあったとき逃げられないだろ。このあと俺達は式だぞ、あの子ら二人だけにして大丈夫なのか?」

「さっき来るとき教官に知らせておいたよ。正解だったな、まさか着物で来るとは」

 

 ようやく近くに来たらしい同期達の声に振り返ると、蜜香ちゃんは身体をずらして俺越しに覗き込む。翠星ちゃんは軽くお辞儀をした。

 

「おにーさん達こんにちは。本日はおめでとうございます」

「こんにちは、本日はおめでとうございます。渡会翠星と申します。蜜香がいつもお世話になっているようで、本日は御祝のお言葉だけ贈らせていただきたく参じました。少しお時間くださいな。お名前お伺いしても?」

 

 俺が紹介しようと立つと、けんじクンはダメ、と蜜香ちゃんに袖を握られた。

 それぞれ名前を名乗らせると、翠星ちゃんは頷く。

 

「ごめんなさいね、本人に名乗ってもらうことに意味があるの」

「こういう儀式は正しい手順で行ったほうがいいからね。すぅちゃん壽歌六分あるけどあと十分程度でいける?」

「アカペラだもの、前後がないし巻けるでしょう」

「じゃあ祓詞と遥拝詞も巻きだね」

「方角はわかるかしら」

「いつもどおりでいいならあっち。神楽鈴だけどいいかな」

「わたくしたちが揃っているのに不足なことないでしょう。手順さえ守ればあとはわたくしたちの腕よ」

「そうだね。まあ音のいいもの選んできたから霊振りには充分かな。みぃ鈴振り苦手だからすぅちゃんやって」

「あなたうまく鳴らせないものね。いいわ」

 

 しゃんしゃんと五回、細かく翠星ちゃんが鈴を鳴らす。

 

「本日の佳き日に言祝がせていただきます」

「渡会が末裔が奏上を務めます」

 

 す、と同時に頭を下げた二人は直ると、揃って同じ方角を向いた。二礼、パンパンパンパンと拍手、一礼、そして。

 

「「掛けまくも畏き伊邪那岐の大神筑紫の日向の橘小戸の阿波岐原に御禊祓へ給いし時に生り坐せる祓戸の大神等諸諸の禍事罪穢有らむをば祓へ給ひ清め給へと白す事を聞し召せと恐み恐みも白す」」

 

 もう一度鈴が細かく鳴らされる。

 

「「度会の宇治の五十鈴の川上の下つ磐根に大宮柱太敷き立て高天原に千木高知りて鎮り坐す掛けまくも畏き天照坐皇大御神大御前を遥かに拝み奉りて恐み恐みも白さく、萩原研二、松田陣平、諸伏景光、伊達航、降谷零の八方除を願い、大御神の広き厚き御恵を辱み奉り高き尊き神教のまにまに天皇を仰ぎ奉り直き正しき真心をもちて誠の道に違ふことなく負ひ持つ業に励ましめ給ひ家門高く身健に世のため人のために尽さしめ給へと恐み恐み白す」」

 

 四礼、四拍手、二礼、それからまた、鈴。

 

「“あからひく朝、霞立つ春の初め、花細し桜を愛でる”」

 

 合図もなく呼吸が完全にあった歌声。

 一つずつ握った二つの鈴がしゃん、と鳴るのを、どこか神聖な気持ちできいた。

 

「“めでたや”」「“めでたや”」

 

 歌い終わりやはり細かく鈴を鳴らして、一礼。

 

「どうぞ皆様方の行先が幸いでありますよう」

「どうぞ皆様方の日々に笑みが増えますよう」

「どうぞ皆様方の未来が望みとなりますよう」

「どうぞ皆様方の意志が花咲き実りますよう」

「「心より御祈り申し上げます。本日は誠におめでとうございます」」

 

 は、と気がつくと、涙が流れていた。

 身体の中心が柔らかい暖かさに溢れていた。

 

「ありがとう、みぃちゃん、翠星ちゃん。俺絶対このことわすれない」

「神事みたいだったな。神楽にしては言祝の意味が強そうだけど、力になったよ。ありがとう」

「すごいなキミたち、その年で祝詞奏上できるのか。ありがとう、祝福された気分だ」

「お嬢ちゃんたち、本当にありがとう」

「ありがとな、ちび共」

 

 俺たちが礼を言うと嬉しそうにくふくふ二人で笑う。

 

「すぅちゃん呼んだ甲斐あったねぇ、良かったぁ」

「わたくしたちでこれだけしっかり祈祷したのだもの、きっと皆様の先に良い未来があるわ」

 

 卒業式いってらっしゃい、と手を振る彼女たちを守衛と教官に任せ、俺たちは卒業式へ参加した。

 

「渡会って名字、どこかで聞いたことがあると思ったんだ。有名な神職の家系だったんだな」

 

 総代殿がそんなことを式に向かう道中に発言して、俺はめちゃくちゃ驚いた。

 降谷ちゃんなんでそんなことまで知ってんのぉ……?

 

 

 

 

 なんだか嫌な予感がずっとしていた。

 ずっと身体の芯が冷えるような感じがしていて。

 だから、あのときみたいな暖かさが欲しくて。

 でも、思い出すのは、初めて逢ったときの、

 

『“散る、一片、一片。同じ、命は、ない。己も────”』

 

 みぃちゃん。

 

 

 

「ハギ!ハギィーッ!」

 

萩原研二は生きているか

  • 生存(健康)
  • 生存(植物状態)
  • 死亡
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。