────月曜日。
「お邪魔するよー」
「あー蜜香だ。ねー修学旅行の食事であんたんとこ行きたい」
「先生に言って組み込んでよ蜜香」
みっちゃんが堂々とB組に入ってくると、みんな口々にみっちゃんに声をかける。
「無理言うなよー!さすがに学年全員入れる店ねーわ!」
「ケータリングでいいじゃん」
「ホテルにめちゃくちゃ嫌がられるからヤ!」
「そこは社長頑張ってよ!」
「やだよ取引先無くしたくねーもん。リュナのディナーとは言わんでも、ソレイユかグワルフメイのランチくらいなら小遣いで来れるでしょ!バイトしろ!働け!」
「学生の本分は勉強なんですぅ〜」
「はあ〜?そういうことはアタシに学年順位で勝ってから言ってくださーい」
そういえばみっちゃん、学年順位いつも5位以内なんだよね。
「ねえマジな話いつ勉強してんの?」
「スキマ時間と学校でしかしてねーよ、大抵は仕事してるもん」
「やばー、社長すげー」
「そーでしょ、崇め奉れ」
「チョーシのんな〜!」
「事実才色兼備の天才様でしょーが!調子のって何が悪い」
「悪役令嬢のモノマネやったら許す」
「ッんでだよ、オーーーーーッホッホッホッホ!この美しさと才能と家柄を兼ね備えたわたくしのまえに平伏すがよいわ!愚民ごときが頭が高いですわよッ」
「やってくれたwwwww」
「無駄にクオリティ高くてウケるんだけど」
「ちょうど昨日そういうウェブ小説読んだ」
「あんたのどこにウェブ小説読む時間あるわけ?」
「息抜きくらいするよぉ!?」
わたしたちの席に近づくまでに色々と話しかけられたみっちゃんは、苦笑いしながらようやく辿り着いた。
「お疲れ様みっちゃん」
「なんなのキミらのクラス、ウチのクラスより無茶振りしてくるんだけど」
「アンタがノるからでしょーが」
みっちゃんは二年進学時の文理選択で理系を選んだから一人クラスが離れてしまったけれど、こうしてたまに顔を出すからB組では割りと見慣れた光景だった。
それにみっちゃんがいるところはいつも賑やかなんだよね。
今日もみっちゃんいるなーってよくわかる。
「ところでLadies、ドレスの撮影見に来るかい?」
「あっ♡本当に行っていいの?」
「えっ、なになに?なんの話?」
ちょうどテスト期間に入ったから部活はない。
園子の予定が無ければ一緒にいきたいな。
「新規事業でドレスの貸出やんの。ほら、リュナって格式高くてドレスコードあるじゃん?」
みっちゃんがリュナと呼ぶレストランはスクレ・ドゥ・リュナという正式名称で、フランス語で月の秘密と直訳するらしい。
予約がないと入れないと評判で、芸術的で美味しい料理と細やかなサービスが高級店らしいお店だ。
確かにドレスコードがあって、夜会的な雰囲気が強い。
普通のスーツだと断られるらしく、略礼装で来てくださいとお店のホームページに書いてあるくらいだ。
「ああ、あたしたちは気にしないけど一般的に入りにくい部類にはいるのか」
「ノコちゃん話がはやーい。それでドレススーツ貸し出したらどうかって会議で出て、アタシが悪ノリして企画通した」
「悪ノリだったの?」
「じゃなきゃ全部オリジナルで当店でしか借りれませーん!なんてやらねーわ。急な話だからデザイナーも確保できなくて自分でやる羽目になったんだし。縫製だけは確保出来てよかったよ、じゃなきゃもっと地獄みてたな」
「社長業お疲れ様」
はーっ、とわざとらしくため息をついて紙パックジュースを飲むみっちゃんは、鞄から出した同じいちごミルクをわたしと園子にも渡した。
同じメーカーの紙パックのものしか飲まないから、みっちゃんのマンションの部屋にはいちごミルク専用の冷蔵庫あるんだよね。学校にくる鞄にも大抵5本は入ってる。
「ってなわけで出来上がった商品の撮影があんの。ノコちゃんもおいでよ」
「あんた、最初の店は?毎度確認しに行ってるじゃない」
あ、確かに。
みっちゃんが最初に開いたお店は会社と同じ名前のアンブル・グリという。
そっちは完全にみっちゃんプロデュースで、その日毎にメニューも違うから味の確認に行っていたはず。
「ああ、今日月曜だから定休日」
「定休日あったんだ。また行きたいなぁ、お父さん予約とってくれないかしら」
「あたしもしばらく行ってないわ、抽選当たんなくて」
わたしも園子も新一も、家族で招待されてプレオープンの日にみっちゃん自ら調理したフルコースを出してもらった。
一日限定五組だけだから、今じゃ予約の取れない店として有名らしい。
「あれ、そうなの?んじゃノコちゃん希望の日言ってよ、谷岡に伝えとく」
ずぞっと空振った音を立てた紙パックを丁寧に折りたたんでいったみっちゃんは、わたしをみてニヤッと笑った。
「リラちゃんはエリおばちゃまと連名にしたら優先組込してあげるよ」
「あんたそれ職権乱用でしょ蜜香。でも最高」
「でしょー?」
イェーイ、とハイタッチする二人。
「もー二人とも!それで園子、今日行けそう?」
もうっ!園子もみっちゃんも二人して!
鞄を持って立ち上がると、園子も続いた。
「モチロン行く行く!どんな感じの撮影するの?」
「物撮りは終わってるはずだからモデル撮影だけ。っていってもトータルコーディネート写真だけだから、こんな感じでスタイリングしますって一例にあげるためのもので着数は少ないよ」
「スタイリングもしてくれるの?」
新しい紙パックにストローを指したみっちゃんは、首を傾げた。まだ飲むの?
「あ、ちゃんと説明してなかったのか。事前予約でリュナで着るときだけスタイリング込みにできるプランがあるんだよ。リュナ以外にも使えるようにネットで郵送貸出もするんだけど、基本はリュナで使ってほしいから」
「へえ、それじゃあサロンみたいな感じってこと?」
「そうそう、プロのヘアメイクでオールプロデュースができるってわけ。リュナのコンセプトは人生を彩る秘密基地での特別な日だからね」
へえ、ドレス選べるだけじゃなくてスタイリングまでしてくれるんだ。
髪もセットしてくれるなら本当に特別な日って感じ。
「ま、詳しいことは車でね。今日親爺がどこも行かないっていうからリムジン取り返してきた!今日の運転ポチだから女子会しよー」
「出たあの改造リムジン。なんであんたのやつ個人所有のくせにバーカウンターなんてつけてんのよ」
「リムジンなんて改造してなんぼでしょうが!バーカウンターのあるリムジンは夢だろ!?」
みっちゃん本当に自分の趣味にかけるお金の使い方はハチャメチャだからなぁ……。
すぅちゃん苦労するだろうな、これ。
「そういえばみっちゃんこないだ大丈夫だったの?また勝手に車買って怒られてたじゃない」
「あーッ、今その話出さないでマジですぅちゃんから毎晩お叱りの電話来てるからッ」
「あんたまたやったの?今度は何買ったのよ」
ひぃん、といいながら頭を抱えるみっちゃん。頭抱えたいのすぅちゃんの方だと思うよ。
みっちゃんの車好きを知ってる園子も呆れ顔だ。
「すぅちゃんに日産スカイライン買ったのがバレて、ついでにポチからバイク二台買ったのバラされて、フェラーリ1台とドバイに家買ったのも白状したら、芋蔓式にランボルギーニ買ってたのもバレたし、それをイタリアに置いてたのもバレた」
「罪状増えてるじゃない!」
「相変わらずバカ……。あんたはどうしてそうなの」
もー、本当にみっちゃんしょうがないんだから……。