とある双子の奔走劇   作:すぎざき凉子

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幼馴染に拉致られた少年からみた妹のほう

 

 

 校門前で仁王立ちする蜜香を見つけたとき、サッカーに誘われて遊んでいたオレはさっさと帰るべきだったと後悔した。

 

「Hi,Boy. 先日ぶりだねえボーヤ、キミのPrincessは預かったから今夜は付き合ってもらうよ!」

「は?」

「コナンくんその人だれー?」

「帝丹高校の制服ですね」

「蘭ねーちゃんの友達!オレこの人と帰るな!また明日!」

「そういうわけで子どもたち、Bye♡」

 

 ランドセルを剥がれ、身体を小脇に抱えられたオレに為すすべはなく、頭の中で仔牛が売られていくあの歌が流れる。

 心配させないように笑顔を作って子どもたちには手を振り、蜜香にはあとで説教しよう、と心に決めた。

 

 おめー自分があんだけ誘拐にあってて、連れ去り方が誘拐じみてるってわかんねーのかよ!

 

「というわけで小学生一名様ごあんなーい♡」

「ちょっ」

「あんたソレ手慣れすぎ」

「よく誘拐にあってただけあるね……」

「すげー不名誉!!!!」

 

 こいつ本当に容赦ねえしバカ。

 リムジンに連れこまれたオレは一度放り投げて転がされたが、きちんと座席に座らせられ、シートベルトまできっちりしめられた。

 手付きが流れるようだったあたりが、本当に手慣れすぎていて怖い。

 

「はいよレモネード、好きだろ?」

「好きだけどさぁ、その前になんかいうことあるでしょ」

「悪いね、他は炭酸入ったものしかないんだココ」

 

 そうじゃねーんだよ。オレ相手ならなんでもしていいと思ってやがる。

 

 渡されたレモネードを飲むと蜜香の自家製だった。

 くそ、相変わらず美味い。

 

「蘭姉ちゃんと園子姉ちゃんとどこいくの?」

「ボーヤにゃあちょっと退屈だろうけど、ドレスの撮影。そのあとご飯食べに行くからキミも連れて行こうと思ってね。テーブルマナーはできるよな?」

「うん、できるよ」

「よろしい。キッズサイズの服は用意してないから買おう。確かキッズブランドもテナントにあったはず」

 

 ああ、蘭が言ってた蜜香の会社の新事業。確かドレスの貸出だっけ。

 ふぅん、オレも着替えさせるってことはそのあとリュナに行くのか。

 

 

 

 

 リュナの入っている商業ビルにつき、オレと蜜香、蘭、園子と西山さんはテナントのあるショッピングフロアに入った。

 

 まずはキッズファッションのあるブランド店でオレの服を蜜香が十五分もしないうちに見繕う。

 こいつの即断即決すげーな、母さんにも見習ってほしい。

 

 靴は諦めろ、と囁いてくるのでそれ以外の博士の発明品はつけていていいようだ。

 

 そして。

 

La face cachée(月の裏)へようこそ」

 

 シャンデリアが飾られたフロントの奥は間仕切りのある待ち合いスペース。そこにはソファとローテーブル、ハンガーラックがあり、さりげなく視線が隠されるような配置になっている。

 

 その先はフィッティングルーム。ここは完全な個室。

 それからヘアメイクのためのスペースへと完全な動線ができている。

 

 ヘアメイクのスペースにはスタッフの方が揃っていた。

 

「紹介するよ。うちのマーケティング部の高橋、広報部の立花、営業部の石川。この三人と今日来てない企画部の笹森がここの立ち上げの立役者。それからここのフロントにはいる山崎、佐藤、中尾。ヘアメイク担当で太田、荒木、福井。裏方に永田と松嶋。全員アタシが面接して直接とった」

 

 紹介された社員さんもスタッフは、全員20代に見える。

 それよりも蜜香が普通に名前を呼んだことに感動した。おまえ変なアダ名つけなくても呼べるんじゃねーか。

 

「意外とちゃんと社長業やってんのね蜜香……ごめん、谷岡さんに投げてると思ってた」

「ノコちゃんさぁ、そういうの黙ってていいんだよ?」

 

 ははーん、やっぱ園子もそう思うよな。

 その場にいたスタッフまで笑っている。

 

「まあでも、お友達にそう思われてても仕方ないですよね。オレもこのチームに入るまで社長のことお飾りだと思ってました」

「言ったな~?次の査定に怯えろよ石川ァ」

 

 ニヤ、と笑った蜜香は石川さんをからかい始めた。高橋さんと立花さんの顔が「また始まった」と言わんばかりで、どうもいつものことらしい。

 

「思ったことなんでも言っていいって言ったじゃないですか!」

「そういうこっちゃねーんですぅ。まあでも今回は頑張ってもらったから特別ボーナスだすよ、臨時臨時」

「やったぁ社長太っ腹!美少女!天才!」

「はーっ、本当に調子いいな。キミみたいなの大好きだから扱いてやろうね」

「アッ、結構デース」

 

 ドッとその場が笑いに溢れる。

 どうやら石川さんは蜜香にも絡める強心臓のお調子者らしい。こりゃ確かに営業向きだな。

 

「ところでモデルは?誰もいねーけど」

「それが社長が指名した男性以外は今日来れないと先程連絡があって、代理も無理だと……」

「あらまあ、随分舐めてくれたこと。その事務所の名前控えておいて、今後一切取引はしなくていい」

 

 永田さんが代表して答えると、蜜香は溜息をついた。

 

「そんな気はしてたんだよなぁ……」

「どうするの、みっちゃん」

「どうとでもできるよ、そんな心配しなくても大丈夫。ありがとリラちゃん。ちょっとバタつくけど、まあ見てって」

 

 パンパン!と響くように手をうち、蜜香はまっすぐ立った。

 

「さ、仕事の時間だ。組み立てなおすぜ。まずは石川と立花。会社にそれぞれ連絡、モデル変更を伝えて。谷岡にはアタシから話すからそこは除外していい。高橋、永田は松嶋とリュナに行って今後一週間の顧客情報を手分けして漁って、来店者の中に今日の事務所関係者いないか調べて今後一切断らせろ。今日リュナの田村がいるはずだから、そこに話しつけて。データは谷岡に送らせる。それからフロントの三人は撮影機材準備続けて。福井、今書くメモにあるもの買ってきて。使うのは私だけどキミの好みでいい。ポチ!アタシの使ってる基礎化粧品わかるだろ、買ってこい。荒木はドレス、太田は着物の用意してくれ。小物はそれ見て考える」

 

 蜜香が指示を出し始めると全員すぐに動き出す。

 はー、本当に社長してるんだな。指示なれしてるのは知ってたが、ここまで揃うのは信頼されているのか。

 蜜香は振り返って真剣な顔で言う。

 

「悪い、キミらにも動いてもらっていいか?リラちゃんは水道でタオル濡らして絞ったものをレンチンしてほしい。それを五本。ノコちゃんは太田の手伝いしてやって、着物は嵩むから。コナンは荒木に、髪飾りなんかはそっちにある」

 

 普段は表情をわざと繕ってでも無感動にならないようにしているが、本来蜜香の相貌は冷たく感じる類のものだ。

 それを豊かな感情表現で覆い隠しているが、取り払ってしまえばその美しさは近寄り難く、気圧される。

 知らず、生唾を飲み込んだ。

 

「わかった」

「了解」

「蜜香はどうするの?」

 

 ちょうど蜜香をはさんで反対側の入り口に人影が見える。

 

「モデルが今から来るからそっちにかかりきりになる。相手するのがアタシじゃないと機嫌損ねかねないからね」

 

 さきほどの真剣さはなんだったのかと言いたくなるほど嫌そうな顔で、蜜香は溜息をついた。

 ずいぶんと背の高い男が入ってくる。

 

「はは、僕の扱いがよくわかってるようで何よりだよマイディア」

「えっ、えっ、嘘」

「ええっ」

 

 蘭と園子が興奮したように一歩下がる。

 オレも驚いて、口をポカンと開けてしまった。

 

 する、と蜜香の腰を当たり前のように抱き、愛おしい恋人をみるような目で見つめる男は、並ぶと蜜香によく似ていた。

 

 

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