とある双子の奔走劇   作:すぎざき凉子

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双子の親戚だとかいう男との仕事に巻き込まれた少年からみた妹のほう

 

 

 黒のジャケット、白いVネックカットソー、黒いスラックス、黒い革靴。

 そこに挿し色のように金のドッグタグをつけてシンプルにまとめた男性は、伊達男の通り名が相応しいものだと納得する。

 

「や、はじめまして。僕は伊達光忠。といっても芸名なんだけれどね」

「ほ、ほんとにっ、ほんとに伊達光忠っ!?あの!?」

 

 オレもちょっとびっくりした。

 今は世界で活躍するモデルで、海外ブランドの日本アンバサダーを務めているから街頭広告やCMでよく見る顔だ。

 

「信じ難いことに親戚なんだわ、この男」

「えっ、うそ!蜜香と!?」

「そーなの。だからノコちゃん、仕事手伝ってくれるね?」

「わかったわっ!着物持ってくればよかったのよね!」

「そーそー」

 

 おーおー上手く園子を転がしてやがる。

 張り切って出ていった園子を見送り、オレも衣装室へ走った。

 

 

「光忠って呼んでよ、もう何年も海外にいるからラストネーム呼びに慣れなくて。それに、そっちは芸名だから」

 

 改めて全員集まり紹介したところで、慌ただしく撮影は始まった。

 

 まずは光忠さんの撮影をすることとなったが、用意していた別のモデル用のコーディネートでは蜜香が納得せず、全て選び直すことになった。

 そのため光忠さんのサイズに合うものを全てハンガーラックに集めるところからスタート。

 その間に光忠さんはメイクをするらしく、蜜香から顔面に向かってホットタオルを投げられていた。

 

「コナンくんには少し退屈かな。蜜香、僕の鞄にルービックキューブあるよ」

「だってさ、やる?」

「痛い痛い痛い」

 

 蜜香が光忠さんの顔をマッサージし、ついでとばかりにこめかみをぐりぐりと圧していた。

 

「ううん、ボクここで見てる!」

「そっか、興味を持ってもらえるのは嬉しいな。じゃあお兄さんもお仕事頑張るね。蜜香、痛い、それマッサージじゃないよ」

「そうだよ嫌がらせですよ」

 

 柔和に笑ったその人は、広告でみる野性的な男性という印象とは裏腹にとても優しかった。

 小学生サイズのオレと話すときは必ず屈んでくれるし、何かするときちんとお礼を伝えてくれる。偏見で悪いけれど、オレですら知ってる人気モデルに驕ったところが一切ないのは意外だった。

 

「オニーサンってトシかよ」

「蜜香ちゃん?」

「なんにも言ってませーん」

 

 いやそれは無理あるだろ。

 それと、蜜香がオレの猫被りを見て何も反応しなかったのが怖くて仕方ない。

 

「トシのこと言わないでよ、ちょっと気にしてるんだから」

「へぇ?気にしてるんだぁ。ふぅーーーーん?」

「コナンくん、蜜香のご機嫌がなおるまでお姉さんたちの方に行っておいで。今日これ長引くと思うから」

「う、うん」

 

 ちょっと蘭がキャーキャー言ってたから嫉妬してたんだが、そんなの馬鹿らしくなるくらい良い人すぎて一周回って羨ましくなってきた。

 

 光忠さんのメイクをしながら、蜜香は次々組み合わせを指示する。

 

「その色はダメ、ネクタイに赤持ってくるとこの男は夜の雰囲気が強くなりすぎて見ようによっては下品になっちゃう。そっちのダークオレンジにしよ」

「ああ、それなら目の色とも合うね。タイピンどうする?」

「シンプルでもいいでしょ、暗めとはいえオレンジじゃそこまで目立たない」

「髪は?」

「片側だけかきあげようよ、ちょぎくんがこの間それやってて格好良かった」

「待って蜜香、僕に格好いいなんて一言もいったことないのに長義くんには言うの!?」

「は?同じ顔に格好いいもなにもないだろ」

 

 しかし本当に蜜香とよく似てるな、瞳の色なんかそっくりだ。

 一見すると冷たく見える美貌が表情のつくりで柔らかく印象を変えるあたりまで似ている。

 

 ってことはこの人清生の関係者なのかな。ヤクザには見えねーけど、言われたら納得するかもしれない。

 あ、でも双子は父親似で、その父親は清生に嫁いできた母親似だったはず。

 じゃあ双子の祖母の関係者だから、ヤクザには関係ないのか……?

 

「なんでこの男と血の繋がりがあるんだろう、じゃなきゃ一生関わりたくなかった」

 

 ドレスに着替えた蜜香は自分の髪を荒木さんにセットしてもらいながら、福井さんに爪を磨かれて太田さんに化粧されていた。

 ちなみにこれは光忠さんが撮影された写真をモニターで確認しながらおもむろに放った一言である。

 

 おめー、唯一まともそうな親戚に向かって。

 

「ひどいなぁ、こんなに可愛がってるのに」

「可愛がり方が頭おかしいんだよ、貢ぐにしても限度ってモンがあるでしょ。車三台同時にアタシの名義にしないで。フェアレディZのときもそうだけど、事前に言ってほしかった」

「もしかしてまた僕からのプレゼント、自分で買ったって言ったの?それじゃ翠星ちゃんにすごく怒られたでしょ、大丈夫だった?」

 

 あ、全然まともじゃなかった。

 

 珍しく趣味じゃねえ車だと思ったんだよなぁ。

 こいつ、昔からアメ車ばっかりで他には見向きしなかったから。

 その代わりバイクは逆に国産ばっかりだった。

 

「絶賛怒られ中。直前に黙ってバイク買ってたから今ちょー修羅場。あとすぅちゃんに着るもの送りつけるの本気でやめろ、邪推されないように毎度工作するの大変なんだぞ。洋服や着物はアタシ名義で贈ったことにして、同じくらいの値段のアクセサリーをアタシに一緒に贈ってるってことにしてあるから」

「ああ……それはごめん、僕の配慮が足りてなかった」

 

 ははーん、確かにそりゃ服はアウトだ。

 だからこいつあんなに頻繁にアクセサリー類買ってたのか。

 

 しかし、プロだな。

 喋りながら撮っているが、繋がれたモニターに表示される写真は自然で、なおかつ服が引き立てられている。

 

「みぃ、そろそろ交代しない?それかこっち来てよ、相手いないの割と大変なんだけど。これコンセプトはデートでしょう?」

 

 あ、本当に親戚なんだな。しかも割と仲がいいのか。

 親類縁者の中でも特に気を許した人間にしか呼ばせない、愛称呼びをした。

 

「プロがなに甘ったれたこといってんの?」

「キミほど上手くないよ。お手本みせて」

「喧嘩売ってる?煽ればのると思ってんでしょ」

「売らないよ、本当にお手本が見たい。キミの撮影はいつも勉強になるから」

 

 ちょうどヘアメイクが終わったらしい蜜香は立ち上がり、思いっきりため息をついた。

 

「……その、アタシがモデルやってたみたいな言い草やめてくれない?」

「わかってるよ、でもそうだろう?誰よりも輝くエトワール、舞台の女神のご帰還じゃないか。僕らはずっと待っていたよ」

 

 する、と流れるように手をとって口付けるさまは映画のワンシーンのようだった。

 その瞬間から、蜜香のまとう雰囲気がガラリと変わる。

 

「使い古された台詞回しで面白くもなんともないな」

「そりゃ僕らの本質は変わらないからね。ところで僕は必要?」

「いらない」

 

 いつもより攻撃的な口調なのに、気心知れた信頼関係がわかる。

 すれ違いざま、蜜香は光忠さんの胸をコツンと叩いた。

 

「ご要望どおりお手本見せてあげるよ。真似できるかは知らねーけど、盗みたいなら盗んでみれば?」

 

 そこからの蜜香は凄かった。

 

 カメラは中尾さんが構え、ライティングは佐藤さんと山崎さんが担当していた。

 

「佐藤、ライトの位置そこからあと二歩下げて。そこ。山崎、あと右手を5度調節、少し傾きを開いて、もう少し、そう。中尾、ファイブカウントでシャッター切って、カウント任せる」

「はいっ。5.4.3.2.1」

「もう一枚いくよ、山崎傾き少し上げて、そこ。中尾、ファイブカウント」

「はい!5.4.3.2.1」

「佐藤、ライトの位置もう少し首上げれる?そう、そこ。山崎、位置ずらすよ。そこから半歩左、そうそこ。傾き少し開いて、あー、右手を少し前に、そうその角度」

 

 人を自在に動かし、モニターをチェックしながら撮った写真は全て蜜香だとは思えないほど表情が違う。

 

「次行くよ。ヘアメ変えなくていいからドレスワンピ15番に、七分丈のベージュのボレロ持ってきておいて。中尾、あと20センチだけカメラ後退させておいてくれる?」

 

 ドレスに自然と目が行くが、ドレスが最も美しく映えるように撮られているだけあって肌の露出などは気にならない。

 だが写真を見れば実際に着たときどこまで露出するのかわかるし、着用した際のイメージに近いものがわかるという徹底ぶり。

 

「ほーんと、勉強になる。そうか、ライティングをそう使う」

「それよりもアンタは表情でしょ!光忠の武器は目だろうが、使い方間違えるな。それと服の全体構造、わかりやすい角度、ワンポイントの位置、全部把握してないとどう動けばいいかわかんないでしょ。着る前に見ろって言うのはそういう意味」

 

 確かに、蜜香の写真を見るとドレスにあるワンポイントのコサージュが見える。

 反対側から撮っているのに体勢に無理がなく自然なのは、表情と動きでストーリーが見えやすいからだろう。

 光忠さんのはただ格好良く見えたが、蜜香のほうは今にも動き出しそうな躍動感がある。

 

「モデルなんて服の添え物、だもんね。あー、そうすれば腕が自然に見えるのか。蜜香あとでメンズも着てよ」

「アンタの仕事なくなっていいの?視線一つで人間籠絡するのなんてこの顔の得意分野でしょうが、フィルム通したくらいで出来ないとは言わせない。全身で惹き付けろ、話はそれからだ」

「それが出来るのみぃとすぅだけだよ」

「残念ながら小竜もできますー。言い訳しないでくださーい。休憩もういいでしょ」

 

 い、色々とツッコミてぇ……。

 くい、と顎で指し示し、またカメラの前に立たせてライトの位置を調整した蜜香は、中尾さんの肩を叩いてカメラを代わった。

 

「スリーカウントでいく。今からアンタは年上の友達にこっ酷く怒られて謝罪のために頭を下げにいきます。はいサン、ニー、イチ」

「ねえ、嫌がらせ?」

「本当のことだろうが、ちったぁ反省しな!ほらカメラのこと鶴さんだと思って謝れ!」

「やっぱりそれ嫌がらせだよね!?僕なにも言ってないのになんで知ってるの!?」

「その鶴さんから連絡来て『光忠そっち行っただろスマン』って言われたんですぅー!未成年が一人暮らししてる他人の家で管巻くくらいなら外で飲んでくんない?邪魔!」

 

 その人親しい親戚じゃねーのかよ、他人って。

 

「あ、昨日のこと根に持ってる!?突然押しかけてごめんって言ったじゃない!だから仕事引き受けたんだろう!?」

「ド深夜も丑三つ時にインターホンで叩き起こされた身にもなれよ、こっちは学生だぞ」

「ごめんってば蜜香〜!僕が日本に部屋ないの知ってるでしょ!?」

「だからってホテルも取らずに衝動的に帰国して来ないでくれる?そもそも飛行機乗る前に連絡するとかあっただろうが、自分の顔と身体が売り物の自覚あんの!?」

「ある!あります!ごめんね!心配かけたね!」

「心配なんか欠片もしてませんが?」

 

 ああ、これは紛うことなく血縁だわ。

 翠星に縋り付いてるときの蜜香まんまじゃねーか。

 

 つ、と見上げると蘭と園子もそう思ったのか、間違いなく親戚だね、と口にしていた。

 

 

 

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