とある双子の奔走劇   作:すぎざき凉子

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妹のほうの仕事へのプライド

 

 結局、リュナの予約の時間もあって予定着数を大幅に抑え、蜜香は3着、光忠さんは2着だけの撮影になった。

 

「まあ和装と洋装、両方できたし及第点かな」

「す、スーツには自信あったのに……」

 

 和装まで撮り終えてヘアメイクを直した蜜香と光忠さんは撮った写真をモニターで確認していた。

 今は蘭と園子のメイク待ちなので、オレは邪魔にならないようモニター前に座っている。

 

「その自信が透けて見えるからダメでーす」

「手厳しすぎない!?」

 

 背後に立っている蜜香を見上げると、めちゃくちゃ冷めた目で光忠さんを眺めていた。

 こうしてると怒ってる時の翠星そのままだな。

 

「そのことでド凹みして帰ってきたくせして、なんでアタシからOK出るとおもったわけ?鶴さんよりアタシのほうがシビアだって知ってるでしょ。てっきり扱かれに来たと思ったんだけど」

「いや……うん、そうなんだけど……もうちょっと手加減とかさ……」

「手加減なんかしたら付け上がる筆頭にかける情けなんかねーわ。もしかしてまだ酔っ払ってんの?」

「夜中に起こしたこと根に持ってる……?」

「ンなこたァしょっちゅうだからどーでもいい。それより朝イチにオハヨウもなく、アタシに向かってなんて言った?」

 

 目が笑っていない蜜香が、ニコォと口の端を持ち上げた。

 サッと光忠さんが視線をそらす。

 

「……やっぱり僕が作ったほうが美味しいね、です」

「殺すって思った」

「本当にごめん……」

 

 食い気味の殺害宣言に、コッワ、と身震いする。というか怒りの余波きてんだよ、もうちょい抑えてくれ。

 それとオレを巻き込むな。

 

「ねえアタシ高級外食チェーンの社長やってんだけどね?自分の好みに合わせて作ったね?人に食わせる気のない料理をね?勝手に漁って食われるまでは許してもね?歌仙大先生に言われるなら許せてもその発言はちょぉーーーっと許せねーんだよなァ〜?散々食い漁っといて何文句つけてんだテメエ」

「ごめん蜜香!ホントにごめんね!許して!」

「ごめんで済んだら警察いらねーと思わない?ねえコナン」

「ボクを巻き込まないで蜜香ちゃん」

 

 よし言えた。

 

 まあでも、プライド激高の蜜香がド地雷踏まれてもこんなポーズだけの怒り方してるんだから、相当気心知れてるんだろう。

 話の流れから察するに、仕事のことで凹んで帰国した光忠さんのために、仕事を与えて叩き直そうっていう蜜香なりの激励のようだし。力技がすぎるとは思うけど。

 機嫌が悪いのは本当のようだが、それだってカモフラージュの可能性はある。

 

「はぁ……コナンくんには情けないところ見られちゃったなぁ」

「仕事意識の欠片もなく酒で浮腫んだ顔さらして来た時点で徹頭徹尾情けないでしょうに。世間様のご公評である『どこからみても格好良い伊達男』に泥塗る真似して恥ずかしくないの?いつもの口癖の『格好良くいきたいよね!』はどこいったわけ?」

「はい、本当にごめんなさい」

「大方アタシがいるから撮影前にマッサージすると思って、何もしないで寝起きに髭だけ剃って出て来たんだろ。ああ寝坊したの?寝癖もついてたね?それにしたってスキンケアの間に軽い浮腫み取りくらいできたろ。よくそれで表に出られたな」

「容赦がない……」

「容赦できるところがねーんだわ、イチから全て反省してくれる?」

 

 あ、この言い方だと仕事意識でも地雷踏んだのか。

 モニターの写真はもうマッサージとメイク後だからか浮腫んでるなんてわからないけれど、確かに店に入ってきたときより顔の輪郭がスッキリしているような気がする。

 

「でもありがとう、気分転換になったよ。勉強も出来たし」

 

 少し晴れやかな声で光忠さんがそういったので振り返ると、少ししょぼくれていたけど穏やかな笑顔だった。

 蜜香は依然として仏頂面だけど、はぁ、とひとつため息をついたら仕方なさそうに笑った。

 

「それは重畳。休みに来たのに仕事させて悪かった。エージェントにはこっちから連絡入れておくけど、写真は使わないし気にしなくていいよ」

「えっ、この写真せっかく撮ったのに使わないの?」

 

 蜜香の言葉に思わずそう訊くと、ふたりとも眉尻を下げた。

 

「今回の話は本当に急で、アタシの独断で連れてきたから未契約なんだ。その状態で撮影したものは会社として使えない。光忠個人は良いって言ってくれても、光忠とエージェント契約してるところが了承してないからね」

 

 ふーん、そういうもんなのか。

 

「蜜香ならそういうと思ったけど、僕からもう連絡してあるよ。今回は僕が勉強させてもらうためだからって、融通効かせるよう話してある」

「どちらにせよ撮影した分は支払うけど、あのブランドってファッション関係は専属契約じゃなかった?」

「あれ、鶴さんからは聞いてない?僕アンバサダーやめるから帰国したんだけど」

「は?」

 

 スンッと蜜香の表情が消え、それからゆっくり薄ら寒い笑顔を作った。

 

「まあいーや。今晩までは泊めてあげるけど、明日の朝には迎えが来るから荷物まとめといてね」

「え?」

「お宅の長兄様からお話があるそうなので、朝7時に来られるそうですよぉ?長船の、御当主様が、直々に」

 

 沈黙。

 

「待って兄さん来るの!?東都に!?あの岡山から出たくないって言って修学旅行まで拒否した挙句、家継ぐときも岡山から出たくないから襲名挨拶しないって揉めたあの人が!?本気で一歩も出たことない岡山から!?」

 

 どんだけだよ。筋金入りじゃねーか。

 

「めちゃくちゃ驚いててウケる。あの人徹底してるよねー。それはそれとしてこれはガチだから本当に荷物まとめてね」

「本当にくるの!?僕を連れ戻しに!?」

 

 にっこりと笑ったまま蜜香は頷く。

 

「今更なんで……」

「今だからだよ。大方、鶴さんが手ェ回したんでしょ」

「待って?鶴さんはわかるけど、その口振りだと蜜香と兄さん顔見知りなの?」

「ん?うん」

 

 あっけらかんと頷いた蜜香は、んー、と思い出すように首を回した。

 

「アタシが会社立ち上げて軌道に乗り始めた頃に、経済誌に取り上げられたじゃん?それを見たらしいお宅のお優しいオニーサマは、この明らかに長船の血を引くとわかる顔から絶縁した叔母の孫とわかったみたいでね。わざわざご連絡くださったよ、『いつも光忠が世話をかけているようで』、という枕言葉がついて」

 

 首を回したまま横にした状態で止めた蜜香は、そのままニコォとまた笑う。

 光忠さんはこめかみを抑えていた。

 

「嘘でしょ……それが本当なら5年は前じゃない……なんで黙ってたの」

「言う必要もタイミングもなかっただけだよ。家から飛び出してきた人に家と関わりがあること教えたらプレッシャー感じるでしょ」

「ああ、その気遣いはしてくれてたんだ……え、なんで今のタイミングで売られたの僕?そんなに怒ってる?」

「怒らない要素どこにあったァ?」

「ないね〜……今回は僕が全面的に悪いもんね……」

 

 完全に頭を抱えてしまった光忠さんに心配になってしまった。

 蜜香、機嫌損ねるとハチャメチャに長いのに。なんなら年単位で根に持つぞ。

 

 

 

 

 

 リュナに移動したオレたちは先程リュナに先行していた高橋さん永田さん松嶋さん、それからリュナの責任者の田村さんと蜜香の秘書の谷岡さんと合流した。

 ご機嫌とりのためにエスコートをしていた光忠さんの顔が輝く。

 

「会議室かココ。先週までのオフィスじゃん」

「自分から集めた癖して何を仰るんですか」

「いやまず谷岡なんで居るの?アタシがお願いしたのはデータの送付だけなんだけど」

 

 あっ、確かに。谷岡さん何でいるんだ?

 

「時間外労働の正当な手当を頂きたく」

「ハイハイハイどーせここはアタシの奢りだよ、盛大にやってくれ。未成年いるし部屋は分けるけど、お酒入れるならハメ外しすぎるなよ大人たち。光忠は谷岡いるしそっちでいいね?」

「うん!嬉しいなぁ玖龍くん来てくれて!」

「そのテンションのままで飲まないでくださいよ光忠」

 

 どうやら谷岡さんもリュナで食事をとるらしい。光忠さんともずいぶん親しげだ。そりゃ蜜香の親戚ならそうなのかな。

 園子が蜜香に近寄る。

 

「蜜香、人数大丈夫なの?」

「ああ、むしろ余りが出てるから平気。今日来なかったけど、モデルのぶんも含めてたんだ」

 

 そういうことか。

 ん?ってことは蘭と園子とオレのぶんも元々頭数に入れられてたってことか?

 

「乾杯はリュナのオリジナルカクテルでノンアルコールのものにしようと思うんだけど、どうかな。コナンは別のものにする?」

「ううん、同じのがいい」

「わかった。田村、オーブを全員に。あとは予定通りでいい。そちらは任せたよ」

「かしこまりました」

 

 女性のスタッフに案内されて、オレたち未成年と運転手の西山さん、それからアルコールは匂いも苦手らしい永田さんとバイクで来たという立花さんも席へついた。

 テーブルどころか部屋を分けることで、飲酒運転対策をしているらしい。

 

 たぶんこれ蜜香自身のためだろうな。

 蜜香は背景が背景であることと、社長が未成年ということでどうしてもつつかれやすい。そのため法令に違反しない、誤解を招かないよう徹底して気をつけている。

 

「本当は毛利のおじちゃまも呼びたかったんだけど、ガキが気ィ遣うなって断られたんだよねー。ホント、いい大人だよね。谷岡なんて容赦なくたかりに来たってのに」

「いやこれお嬢が悪いでしょ。谷岡さんあの様子だと完全プライベートだったんじゃないスか?」

 

 け、とでも言いたげな顔をした蜜香に西山さんが真顔で突っ込んでいた。

 

 確かに今日の谷岡さんはいつもよりカジュアルで、少し気怠げな雰囲気すらあった。髪型もワックスでかきあげただけだったし。ちょっと園子がきゃあきゃあしていた。

 ちなみにいつもは七三分けでピシッとスーツを着た、隙のない立ち振る舞いをする人なのでちょっとびっくりした。

 

「月曜は完全休養日にしてるからね、谷岡」

「あー、お嬢がアンブルに合わせてるからっスか」

「そ。だから月曜に仕事させるといつも機嫌悪いんだよね。今回は光忠に感謝だな」

「光忠さんと谷岡さんって仲がいいの?」

「あー、友達。あの二人ね、大学の同期なんだ。アタシが光忠と知り合ったのも谷岡経由。顔が似てるから親戚かもって連れてきてさ」

「へえ……あ、じゃあ同い年なんだ」

「そう、光忠と並ぶと谷岡の貫禄やばいよね。老けて見える」

 

 蘭の質問に蜜香が答えると、立花さんが身を乗り出した。

 

「俺すごく気になってるんですけど、社長って学校だとどんな感じなんですか?」

「あ、私も聞きたい。社長、学校だとお友達と遊べてます?」

 

 永田さんも身を乗り出す。西山さんもソワソワしだした。

 

「えっ、どうだろ。クラス離れちゃったし、わたしたちとは最近はあんまり。あ、でも、いつもみっちゃんは人に囲まれてますよ」

「逆にあたし達が会社での蜜香のこと聞きたいくらいですよ」

「こらこら面談始めるんじゃない、キミらはアタシの保護者か」

 

 自分のことで話に花を咲かせている5人におざなりにツッコみながら、蜜香はオレの世話を焼いていた。

 子供を相手にするのがずいぶん手慣れている。

 

「蜜香ちゃんありがと」

「どーいたしまして。椅子の高さ大丈夫?」

「うん、へーき」

「水はちょっと奥に置いたから、取るとき言ってね」

「はーい」

 

 コップを倒しても落ちない位置にサーブされたグラスを移動させ、子供用のエプロンを手にとって流れるように結んだ。

 

「あっ、コナンくんのことありがとう。任せちゃってたね、ごめん」

「いいよいいよ、様子は見てるから食事を楽しんで。せっかく連れてきたんだから、アタシの部下を自慢させて」

「社長さらっとそういうこと言う〜」

 

 ちょうど入室してきた男性スタッフが思わずといったように笑った。案内からずっと控えていた女性スタッフも控えめに笑っている。

 

「佐藤も仲田もなに笑ってんの、再教育だな」

「ごめんなさい、オーナー」

「オーナーが自慢に思ってくださるように頑張ります」

「どいつもこいつも、調子がいいなホントに。商談じゃないとはいえお客様のいる場で気を抜きすぎだよ」

 

 気軽い感じのやりとりに、店舗スタッフとも仲がいいのか、と感心した。

 

「行き渡ったかな?これは“aube”。フランス語で夜明けを意味する。中身はレモンとバタフライピー、それからちょっとした素敵なもの(スパイス)。まあそのスパイス部分がオリジナルなんだけど、以前からあるノンアルコールカクテルだよ。乾杯したら混ぜて飲んでね」

 

 サーブされたドリンクはロンググラスで、濃藍から赤紫へグラデーションして足元が明るい。上に花が飾られているけれど、食用花だろうな。

 蘭と園子が可愛いと絶賛している。

 

 す、と蜜香がグラスを持ち上げる。

 

「トラブルはあったけど無事に開店へこぎつけることができた。来週から永田はカシーへ移動になるけれど、オフィスに席はあけておくから松嶋育てて早く帰ってきてくれよ。立花もみんなもよく働いてくれた。今日は心ばかりだけれど食事を楽しんでいってほしい。それじゃあちょっと気が早いけれど、La face cachée開店を祝して、乾杯」

 

 

 





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