とある双子の奔走劇   作:すぎざき凉子

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まだ双子の本質が見えていない少年からみた姉のほう

 

 

 車は環状線へ向かう。

 

「それで、持っている情報の開示でしたわね」

 

 翠星はポーチからコンパクトケースを取り出し、化粧直しを装って口元を隠す。

 

「組織に名前はない、といいたいところだけれど烏丸グループがフロント企業になっていることから、わたくしと蜜香の間ではカラスと呼んでいるわ」

「烏丸グループ……」

「組織を立ち上げたのは烏丸の会長だった烏丸蓮耶だと思われます。その後の後継者までは探れなかったようだけれど」

「それだけ探れてりゃ十分だろ、その情報は警察から?」

「いいえ、蜜香自ら取ってきたわ。この情報自体は6年前に既に持っていたの」

 

 そこで翠星はひとつ息を吐きながら、肩を落とした。

 

「あの子、当時荒れてたでしょう。憂さ晴らしというわけではないけれど、清生の敵対組織の掃討してたのよ。これはついでのつもりで漁ってきたのね」

「ああ……蜜香の一人称が変わった頃だよな。そのあとすぐ落ち着いて会社立ち上げてたけど」

 

 6年前。その前年から荒み始めた蜜香は、表面上はいつもと変わらなかったがずっと刺々しい雰囲気が抜けなかった。

 つーかあいつそんなことしてたのか。掃討って。

 

「そう。あのとき本当に大変だったのよ。それは置いておくとして、以降はカラスと呼称します。カラスについては、蜜香が度々気にしていてね。どうも清生のシマを荒らされたのが腹に据えかねていたようで、拝島を使って構成員を減らしていたそうなの。拝島はわかるわね?」

「ああ、覚えてるよ。小さい頃に蜜香の迎えに来てた、中林組の組長だよな。世話係の」

 

 蜜香はオレたちを会わせないようにしていたが、遠目に見かけたことくらいはある。火傷痕が残る顔の背が高く大柄な男だ。

 

「そう。だから実質的に動いていたのは中林組よ。ちょうどその頃、何も知らなかった父の異母弟が就職活動中で烏丸グループの製薬会社に入社してしまったの。慌てた蜜香は会社を立ち上げてヘッドハンティングの形を取ろうとしたんだけれど、叔父はいくら言っても頷いてくれなくて。事情の説明までしたけど説得できなかった。逆に情報を探るのにいいだろうって残ることにしてしまったのよ」

「じゃあ私のことをお嬢に伝えたのは」

 

 ツネツグさんが思わずといった表情で口を挟む。

 

「そう、叔父よ。会社で秘書をやっている谷岡の弟。今は烏丸製薬でシステムエンジニアをしているわ。あなたの薬の情報はそこから。あの人、パソコン強いのよ。クラッキングができるくらいに。ああ、これはオフレコにしてくださるかしら。一応社内のこととはいえ違法行為ですもの」

「谷岡さんの弟……」

 

 蜜香の秘書の谷岡さんといえば、きっちりした七三分けに銀フレームの眼鏡をかけたいかにも仕事が出来ますといった風体の人だ。実際にハーバード大学卒でかなり頭がよく、蜜香の秘書業務だけでなく経営にも携わっているようだ。

 あの四角四面で真面目な谷岡さんの弟。

 

「その叔父があるとき突然情報を蜜香に流してきたの。日本警察からカラスに情報が流れている可能性がある、一人殺されるかもしれない。どうする、と。それがカラスに潜入して、コードネームまで貰っていた恒次よ」

「ツネツグさんコードネーム貰ってたの!?」

「ええ、一応」

 

 ってことはかなり組織に食い込んでいたはずだ。

 

「恒次のことを知った蜜香は裏工作をして捕獲。恒次は清生が殺したことにして、公安に協力を申し出て取引をしたの。我々が提供するのは龍桜会と渡会家が持つ情報。そのついでに唯野恒次という人間をつくりあげ、保護すること。蜜香がわたくしの護衛を欲しがっていたから、恒次のことはちょうどよかったわ」

 

 確かに蜜香は常々、翠星の傍に人を置きたがっていた。そのために最適な人材が確保できないと、中学時代にさんざん頭を悩ませていたのも知っている。

 

「見返りは?」

「それを聞いてどうするの。あなたには関係のないことよ」 

 

 いや、それはそうだろうけど。これ以上踏み込むなってことか。

 双子は……というか、翠星はかなりそういった線引が厳しい。たぶんこれは蜜香の動きを邪魔しないために、自分に課しているのだろう。

 

 

 コンパクトケースをポーチにしまうと、翠星はまた何かを取り出した。

 す、と翠星がオレのいまの手のひらくらいの携帯電話を渡してくる。

 

「これ緊急用、江戸川コナン名義にしておいたそうよ。電源が入っている間はGPSが入るようになっているけれど、文句は言わないで頂戴。それから、センターボタン2回、電源ボタン2回の順番で3秒以内に押せば緊急コールがかかるわ。画面が消えたまま通話状態になるけれど、蜜香からの音声は操作しなければ聴こえないわ」

 

 ポカン、と間抜けにも口を開けてしまった。

 翠星が手首を一度だけ揺らして、受け取るよう催促してきたので慌てて掴む。

 

「あ、ありがと。小さいなコレ」

「対衝撃性を考えて海外製のものを輸入して中身を入れ替えたそうよ。スライド式テンキー付。OSは独自のものだけど、ほとんど一般流通のものと変わらないわ。でもあなた、阿笠博士にスマートフォン貰ったんでしょう。普段はそちらを使いなさい」

「わかった」

 

 確かにスライド式だ。文字盤が小さいし数字とアルファベットしか表記されていない。

 本当に海外製品を輸入したんだろうか、知らない会社の名前だ。後で調べよう。

 

「入っている電話番号は蜜香、わたくし、啓佑、恒次、阿笠博士で全部よ。追加登録は自由。でも緊急連絡先は変えられないわ。あくまで緊急用と思って、必ず身につけるように。これはホルダー、サスペンダーにつけられるようにしてあるわ。ホルダーに小細工はないから、やるなら阿笠博士に頼んで頂戴」

「十分だ、ありがとな」

 

 サスペンダーにホルダーを通し、受け取った携帯電話を入れた。

 

「それから、これが一番確認したかったことよ」

 

 す、と翠星の目が細まる。

 

「今回蜜香が気にしていた目だけど、工藤邸にカラスが腑漁りに来たわ。やられる前に蜜香が普段動かしている清生一家の構成員が気がついて難癖つけたそうだけど、やり方が悪くて一人重症。相手が拳銃を持っていたようで、黒いロングコートに銀髪の男ときいたのだけど、覚えは?」

「オレを襲ったやつだ」

「恒次」

「ジンですね。カラスの中でも古くからいる構成員らしく、かなり重要な実行部隊員です。過激派で目撃者や裏切者はすぐ消す男でした」

 

 ジン。烏丸グループ。組織の情報に一歩近づいた。

 

「そう。命拾いしたわね、新一さん。度々工藤邸に様子をみにいっているようだけれど、蘭さんが鉢合わせなくてよかったわ。あなたに言っても無駄でしょうけれど、あまり危ないことに首を突っ込まないように」

「はは、はーい……」

「つきましたよ」

 

 恒次さんが車を停めて外に出る。ちょうど店についたようだ。

 翠星が車から降りたのに続いてオレも車を出る。

 

「ようこそアックア・ベネデッタへ、コナンさん」

 

 ふわ、とコーヒーの良い香りがする。

 蜜香のことだから豆もこだわっているはずだ。

 

「えへへ、ごちそうになりまーす」

「あら可愛らしいこと」

「うっせ」

 

 くすくす笑う翠星に、そういやこっちのほうがタチ悪ィの忘れてたな、と肩を落とした。

 

 





今夜に間に合ったということにしてほしい
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