とある双子の奔走劇   作:すぎざき凉子

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双子との距離感をはかりかねている潜入捜査官からみた姉のほう

 

 向かった先は、最初にオレが拉致された建物だった。

 周囲が暗いこともあるだろうが、どうみても普通の雑居ビルにしか見えない。

 

 はめ込まれた窓から見える屋内は、すべてフェイクなのだと教えられた。翠星ちゃんに。

 ということは、ここも蜜香ちゃんの個人的な持ち物か。

 清生所有のものは、蜜香ちゃんに教えられてないらしい。本人がそう言っていた。

 

 翠星ちゃんに言われるがまま走り、雑居ビルに近づくと人影が見えた。

 

 ビルの前でタバコをふかしていた西山が、車に気づいてげんなりした顔で携帯灰皿に吸いかけのタバコを押し付ける。

 

「なぁーんで来ちゃったんスか、姫さん」

 

 近寄ってきた西山は窓をノックし、身を屈めて姫さんを覗き込んだ。

 すんなり全開にしたのは、周囲に誰もいないことを示す合図があったからだ。

 

「あら、わたくしが必要かと思ったのだけれど」

「いやまあ来てくれてありがたいはありがたいんスけど、今マジでお嬢ヤバいッスよ。過去イチ酷ぇ」

「でしょうね。わたくしも落ち着かないもの」

 

 翠星ちゃんの返答を聞いた瞬間、西山は「うへぇ」と呻いた。

 角度的に見えなかったが、どうやら顔をさらに歪めたらしい。

 

「あーあ、せっかく部屋から逃げてきたのに……」

「残念だったわね、戻るわよ」

「へーい。お手をどーぞ」

 

 そのままドアを開けて翠星ちゃんを降ろした西山は、ハンドサインで「待ってる」と送ってきた。

 

 車を近くのコインパーキングに置き、ビルへ急ぐと中に入ったエントランスに西山と翠星ちゃんはいた。

 エレベーターの操作盤に隠されていたセキュリティシステムをいくつか解錠すると、上へ上がっていく感覚がする。

 地下じゃないのか。

 

「ポチが逃げたなんて相当ね、何があったの」

 

 翠星ちゃんの言葉に、西山が眉を八の字にして弱りきった顔をした。

 

「いやぁ、それがよくわかんないんスよ。集めてきた情報渡したらこうなっちゃって。ド地雷踏んだらしいことぐらいしか」

「ああ、それじゃ仕方ないわ。あの子意外と繊細だから、何が地雷かわたくしにもわからないのよね」

「姫さんにわかんねーもんがオレにわかるわけねーわ。なんでお嬢あんなキレてんです?空気重すぎてマジでツラい」

 

 はー、と肩を落としてあからさまなため息をつく西山は、しゃがみこんで項垂れた。

 

「そんなに荒れてるのか……」

「姫さん来たってことは演技じゃねーってことでしょ。オレ部屋から出たとき見逃されたから、演技かもって思ってたのに」

 

 あー、パフォーマンスでキレてる場合もあるからな蜜香ちゃん……。ん?

 

「姫さんが何か関係があるのか?」

「んぁ?あ、ちげーっスよ。双子のシンピ的なアレ」

「その説明でわかると思うの、あなた」

 

 あんまりな西山の説明に、翠星ちゃんは心底呆れたようなため息をついた。

 

 エレベーターがちょうど開いた。目的階らしい。

 最低限の蛍光灯しかない廊下を、迷いなく翠星ちゃんは進んでいく。慌てて西山が先導した。

 

「わたくしと蜜香はね、感情の動きが少しだけ繋がっているのよ。あの子の心が荒れればわたくしも気分が落ち着かない。反対に、わたくしが荒めばあの子もすぐにわかるの。だからあの子、わたくしが本家の汚泥に会うと電話をかけてくるでしょう」

 

 確かに渡会家の使用人からそれとわからないような丁寧な言葉での誹謗を受けたとき、蜜香ちゃんから翠星ちゃん宛の電話がかかってくる。そうか、それで。

 いや流しそうになったけど本家の汚泥ってすげえ悪口だな。

 翠星ちゃん涼しい顔してたけど、やっぱり腹に据えかねてたんだ。

 

「だから今回、姫さんは直接出向かれたんですね」

「普段は電話ですませるのだけど、今日のコレは覚えがあるのよ」

 

 翠星ちゃんは、口の端だけ持ち上げて笑った。

 

「忘れもしないわ、あの火事の夜と同じ」

 

 ひゅ、と息を吸い込むのに失敗した音がした。

 それが、オレだったのか、西山だったのかわからない。二人同時に立ち止まってしまったから。

 翠星ちゃんは立ち止まった西山にぶつからない位置で止まる。

 

「そ、れは」

 

 喉が張り付いたようだった。

 今思えばこの緊張は、進む先からのプレッシャーだったのかもしれない。

 それでも、このときはなんて言ったらいいのか、全くわからなかった。

 

 

「あの子はずっと、あの夜にとらわれている」

 

 

 そう囁くように呟いた翠星ちゃんは、胸元を抑えていた。

 美しいその(かんばせ)に、普段湛えているような微笑みはない。むしろ、こめかみには脂汗が浮いて、口元が引きつっている。

 

 

「だから、わたくしはずっと、夜明けを待っているの」

 

 

 それは、どんな気持ちなんだろう。

 オレは間接的にしか双子の事情を知らず、深く調べたわけではない。こんなことを直接聞けるほどの仲ではないし、彼女たちが素直に話してくれるとも思えない。

 

 踏み込みすぎては、オレが潰れる。

 冷静にブレーキをかけるオレと、アクセルを踏もうとするオレがいて、ずっと迷いながら彼女たちが用意したコースを走っていた。

 

 

 

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