花嫁の悲劇①
中学三年間担任をしてくれた小百合先生の結婚式、ほとんど同窓会のような様相だったわたしたちは、それぞれ進んだ高校の制服で参加していた。
そんな中に、一人、シンプルでパリッとしたスーツでみっちゃんは来た。
「さゆちゃんせーんせっ!お邪魔しますよォ」
「あら!蜜香さん来てくれたの?あなた、仕事で来れないからって、わざわざ電報も送ってくれたのに」
梅宮先輩が帰った直後、ノックのあとにひょこっと顔を出したみっちゃんは、本当に嬉しそうな笑顔だった。
「ちょっと時間が出来たからさァ、どうせならちゃんと顔合わせて言いたくて。ハレの日なんてなんぼ祝っても良いもんでしょ?おめでとう、小百合先生」
「ありがとう!本当に嬉しいわ」
みっちゃんは本当に仕事だったようで、会社のロゴマークがデザインされたバッジをつけている。
廊下を覗くと谷岡さんがいた。目があうと会釈をしてくださったのでこちらも頭をさげる。
「ドレス姿、綺麗だよ。直接見れて良かった。花束贈ろうかと思ったんだけどさ、たくさん貰うだろうから、プレゼントはコレにした」
「コレって……」
「アンブル・グリとスクレ・ドゥ・リュナの招待券。旦那さんと来てよ、待ってるから。今日はちゃんと祝えねーし」
控室に視線を戻すと、みっちゃんは小百合先生をみて眩しそうに目を細めていた。
小百合先生の手には薄いピンク色の封筒があり、チケットのようなものがある。丁寧にしまいなおして、封筒を机に置いた。
「ふふ、ありがとう。忙しいんでしょう、仕事。活躍は聞いてるわ」
「まぁね、お陰様で皆様にご愛顧頂いてますよ。アンブルもリュナも人生を彩る特別な日がテーマだから、さゆちゃん先生の特別な日も用意させてよ。すげー世話になったの、これでも感謝してるんだぁ」
「そうね、あなた成績は心配ないけど、そのぶん手のかかる子だったもの」
そういえば小百合先生はみっちゃんのことをずっと心配していた。
中学の頃、みっちゃんは本当に忙しかった。今でこそ安定して学校に来れているけれど、酷いときは一週間休んだり週に一度くらいしか来れなかったりした。
義務教育だから出席日数やばくても成績とれてれば平気、なんて言っていたけれど、来れた日だって休み時間はずっと仕事。
ほとんど寝る暇もなさそうで、案外真面目なみっちゃんが授業中寝ていたのを見たのは、後にも先にもその期間だけだ。
担任だったんだから、他の授業での様子も聞いていたはず。
「そりゃあスイマセンね。問題児だった自覚はあるけど、もう勘弁してくれ」
「ふふふ」
歌が上手なみっちゃんは小百合先生に指導されたそのままを表現するのが一番うまくて、みっちゃんらしさはないけれどお手本をやるのが得意だった。
ポップスも歌謡曲も、クラシカルなオペラも民謡も、そのままを披露できるみっちゃんは小百合先生に気に入られていたと思う。
「でも元気そうで良かった。入学したてのときからずっと忙しそうだったし、一時期はきちんと睡眠も取れてなかったでしょう。今は無理してない?」
「はは、心配かけてごめんね。ちゃんと人間らしい生活してるよ、授業も寝てない。たまにサボって仕事してるけど」
「それはサボるとは言わないのよ。……身体に気をつけてね」
「体調管理も健康管理もバッチリだよ。ありがとうさゆちゃん先生。あともう一個のプレゼント、やってもいい?」
そういってスッと片膝をついたみっちゃんは、祈りの姿勢で讃美歌を歌い始めた。
英語だから原曲なのかもしれない。綺麗な、透き通る声。
「……ありがとう、まさかあなたから讃美歌で祈ってもらえると思わなかった。ふふ、祝詞かと思って構えてたのに」
「あ、そーやって意地悪いうー。さゆちゃん先生そーいうとこだぞー」
くすくす笑い合う先生とみっちゃんは幸せそうで、今日来れてよかった、と思った。
この様子も映しておかなくちゃ。あ、あれ?
「いけない、ビデオの電池切れかかってる……」
「ウソぉ」
「確かこのあたり電気屋さんあったよね?」
「それバッテリー充電式じゃねーの?珍しいモン使ってんね。ちょっと待ってな」
みっちゃんが廊下に顔を出して呼んだのは、谷岡さんだった。
「谷岡、ビデオカメラの電池切れそうなんだって、車出してやってよ。まだ時間大丈夫でしょ?」
「まだ平気ですが、長居はできません。戻ったら出発します」
「わかった。レディのエスコート頼んだよ」
「かしこまりました。ではコチラへ」
「えっ、あっ、ありがとうございます!」
「ありがと蜜香!蘭、早く行こ。谷岡さんよろしくお願いします」
控室から出て谷岡さんの後を追う。
谷岡さんは背が高く脚が長いから、わたし達が小走りでも悠々と歩いているように見えた。
「どうぞ、お嬢様方」
案内された車は黒塗りの車で、高級車というのが一目でわかった。
社用車なのかな、みっちゃんが好きな車とは雰囲気が違う気がする。
「すみません、本当にありがとうございます」
「ごめんなさい、お忙しいのに」
「構いませんよ、ハレの日でしょう。社長は殊更、そういった冠婚葬祭を大事にされる方ですので。恩師の結婚式に参列出来ないことを悔しがっていましたから、これくらいは」
確かに、みっちゃんは仕事が入ったととても悔しげだった。
「今日はそんなに大事なお仕事なんですか?」
「少しお偉い方と会食が。本日しか時間が取れないとのことで急に決まりまして」
「そうだったんですか……」
「はー、大変だね社長業も……」
「設立して七年になりますが、社長の想定を超えて成長が早いので。嬉しい悲鳴というべきなのでしょうね」
つきましたよ。
あまりお話する機会に恵まれずにいたけど、谷岡さんはずいぶん淡々とした口調で話すのね。
話しかけると応えてくれるけれど、ちょっと取っ付きにくい印象を受けるかも。
イケメンだけど話しかけにくいのよね、と小声で話す園子に、確かに、と頷いた。
明日から1日2話朝夕で投稿します
続けば3日間やれると思う