とある双子の奔走劇   作:すぎざき凉子

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花嫁の悲劇②

 

 

 オレたちの中学三年間ずっと担任だった教師の結婚式ということで来たチャペルで、オレは油断していたスキに先生にメガネを取られてしまった。

 

「やっぱり!ボウヤ、工藤新一くんにそっくりだね!」

「だってよコナン。良かったなぁ、イッくんに憧れてんだろ?」

 

 

 そういう援護射撃だかフレンドリーファイアだかわかんねーチャチャ入れやめろよ!

 ちげーなこれ、油注いでるんだな?

 

 オレが先生にいじられているのをいつも楽しげに見ていた蜜香は、今も助ける気がないらしい。

 

「この顔見てるといじめたくなっちゃうのよねー!だって工藤くんって私の初恋の人にそっくりだったんだもの!」

 

 んにゃろ、初恋の人に似てるからって生徒イジるか普通。

 おい爆笑してんじゃねーよ蜜香。

 

「それで?その男の子、今も近所に住んでるの?」

「ううん、突然引っ越しちゃって行方知れずに。でもね、この話には続きがあって……」

 

 す、と蜜香が扉と先生の間に身体を入れて、オレも後ろに下がらせた。

 にわかに廊下から聞こえてきた声に、蜜香の脚から覗き込む。

 

「俊彦さん」

「いやー、小百合……きれいだねー……」

 

 バタン、と大きな音を立てて入ってきたのは新郎だった。

 蜜香はそのまま前に出る。

 

「新郎さんでしたか。ハジメマシテ、小百合先生の元教え子で株式会社アンブル・グリの代表をしております、渡会蜜香と申します」

 

 にこ、とお手本のように笑った蜜香はそのまま営業スマイルで話しだした。

 

「あ、はじめまして、高杉俊彦です。うちの両親がアンブル・グリのファンなんですよ、アンブルとリュナに何度も通うくらい。すごいな小百合、教え子に急成長した会社の有名社長がいるなんて」

「すごいのはこの子よ。とっても努力家なの」

「そういってくださるのは先生くらいですよ。ほとんどの人は運が良かったと仰るので」

「運も実力のうちでしょ。それに、寝る暇も惜しんで働いてたあなたのこと見てたら、そんなこと言えないわ」

 

 一瞬で会社社長の猫を被った蜜香は、そのまま小百合先生の教え子ではなく、株式会社アンブル・グリの代表としての態度を取り続けた。

 

「ありがとうございます。こんなふうにちゃんと生徒を見てくれていた先生の旦那さんになる方が心底羨ましいなと思っていましたが、高杉様のご子息でしたか。ご両親にはずいぶんご贔屓にしていただいております。どうぞこのご縁を機に、若いご夫妻もデートにご利用ください。心からおもてなしさせていただきます」

 

 綺麗な姿勢から音もなく折り曲げられた礼は美しく、自分の見せ方を知っている蜜香だからこそ視線を奪う。

 スーツ姿だろうが、ここが映画のワンシーンかと錯覚するような仕草だ。

 

 社長としての態度を取り続けているのは、新郎のご両親が贔屓にしてくれているからなのか……?

 

 こと、とテーブルに先生がレモンティーを置くと、新郎はそれを見とがめて手に取った。

 

「ん?おいおい、まだこんな貧乏っちぃ飲み物飲んでんのか?」

「え、ええ……」

 

 新婦の好きなものそこまで言うかよ。

 蜜香の笑顔が固定された。こえ〜……勘弁してくれ。

 

「先生、もどりました!みっちゃんありがと!」

「あっ、あーっ!あなた高杉グループの跡取り息子!」

「き、キミは鈴木財閥の……」

 

 ちょうど蘭と園子が帰ってきて、ラッキーだと思った。

 谷岡さんが新郎に向かって一礼し、無表情のまま蜜香を見る。

 

「社長」

「ああ。それじゃあ先生、披露宴までいられずに申し訳ありません」

「いいのよ、忙しいのに来てくれてありがとう」

「また改めてご挨拶に伺います。予約のお電話お待ちしてますよ」

 

 する、と腕を広げて先生と軽くハグをした蜜香は、頬を寄せようとして「おっと」と離れた。

 

「ごめんなさい、せっかくのお化粧を崩すところだった。今日は世界で一番綺麗な花嫁なのに」

「ふふ、相変わらずキザねぇ。あなたが男の子に生まれてたらどんなだったかしら」

「伊達光忠とかいう悪い例がいますよ、親戚に」

「あ、道理で似てると思ってたのよ!そうだったのね」

「あれは極端な例ですけどね」

 

 ああ……確かに光忠さんやりそうだよな……。インタビューとかたまに見てると、サラッと人を褒めていったりするから。

 

 先生から離れた蜜香は、オレの肩を掴んで引き寄せた。

 耳元で小声で囁かれる。

 

「嫌な予感がする。気をつけな」

「おまえのそれ、大抵はずれねーからな……」

「頼むぜ、リトル」

 

 ぽんぽん、と肩を軽く叩かれた。

 

「それ次言ったらはっ倒す」

「やれるもんならやってみな」

 

 睨みつけてもどこ吹く風だ。

 姿勢を戻した蜜香はヒラ、と手を振ると、芝居がかったお辞儀をした。

 

「本日は誠におめでとうございます。新郎新婦の良き未来をお祈りしております」

「ありがとう、蜜香さん」

 

 今度こそ蜜香は眉尻を下げて目元を緩め、蘭と園子に、また、と手を振った。

 

「お二人共、そろそろですよ」

 

 蜜香と入れ違いに控室を覗き込んだスタッフに声をかけられ、オレたちは新郎と一緒に外に出る。

 

「あ。買ってきたわよ、パンとミルク!お腹すいたでしょう、谷岡さんコンビニにも寄ってくれたの」

 

 そういえば朝メシまだだっけ、と蘭を見上げると、控室からカン!という高い音に続いて、ドサッと倒れる音がした。

 

 

 

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