とある双子の奔走劇   作:すぎざき凉子

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花嫁の悲劇③

 

 

 蜜香の嫌な予感が当たりやがった!

 

 

 ノックの返事がなく慌てて扉を開けると、松本先生は血を吐いて倒れていた。

 

「松本先生!先生!」

「蘭ねえちゃん!すぐに救急車呼んで!蜜香ちゃんも呼び戻して!早く!」

「あ、う、うん!」

 

 先生が飲んでいたレモンティーの缶の口が腐食しはじめてる。なのにストローは変化がない。まさか、苛性ソーダ?

 

「コナン!容態は!」

「蜜香ちゃん手伝って!」

 

 すぐに走ってきた蜜香が先生を横にする。吸収を遅らせるために左を下にするあたり手慣れている。

 やっぱり蜜香を呼んでもらって正解だった。良かったまだ居てくれて!

 

「何かわかるか?」

「苛性ソーダだと思う」

「じゃあ吐かせないほうがいいな、そしたら牛乳……いちごミルクでもいけっかな」

 

 蜜香は胸ポケットからチーフを抜き、先生の口周りを拭きながら先生の体制を整えた。吸収を遅らせるために右を上にしている。

 

「牛乳ならあるよ!蘭ねえちゃんもってた」

「ナイス!とってこい、飲ませる」

 

 急いで手渡すと蜜香は一気に口に含み、先生を持ち上げて口づけた。

 バッ……!

 

「アホか!二次被害出るだろ!」

「出ねーよ、んなヘマするか。ストローで飲んでたんならそんなに吐き出してねーでしょ」

 

 うまく飲んでくれたらしい先生に蜜香はもう一度同じことをし、先生が咳き込む兆候を見せたらすぐに離れていた。

 

「そうだおまえ仕事は?」

「今キャンセルさせてる。相手も理解あるから大丈夫なはずだ。少し計画が遅れるくらいどうってことない」

「計画?」

 

 そうか、今日は人と会う約束だからズラせなかったのか。

 

「出店計画。向こうさんから持ちかけられた話のわりに、相手もアタシも忙しくて中々予定が合わなくてな。急遽突然決まった会合だったから、流しても問題ねーだろ」

「あるだろ、会社の損失になったらごめん」

「人命より優先されるものがあってたまるかよ。社員もそれくらい弁えてる」

 

 やっぱり、蜜香のこういうところは“人間”らしい。

 

 集まってきた蘭や松本警視を見て、そういやこいつどんだけ早く駆けつけたんだと蜜香を見たら、こめかみに汗をかいていた。

 普段、体育で持久走走っても男子のトップ勢と並んでおいて涼しい顔してるやつが。

 

「誰か盥に水張って手ぬぐいかタオル貰ってきて、先生の肌についたものも綺麗にしないと。あったらゴム手か使い捨て手袋もほしい」

「あ、わたし行ってくる!式場の人に聞けばわかるよね」

「アタシ手袋探してくるわ、メイクさん持ってるかも」

「お願い!谷岡ァ、そこいるよな?アタシのいちごミルク出してくれ、念の為もう一本くらい飲ませておきたい」

「はい、社長。……苛性ソーダですか?」

 

 鞄からいちごミルクを取り出して渡した谷岡さんを二度見する。蜜香おまえ仕事でもいちごミルク飲んでるのかよ。

 

「だろうよ。報告は?」

「言われた通り先方には人命救助のためキャンセルと伝えてあります。先生には快くまた連絡すると仰って頂けました」

「元々は僧侶だった方だ、そう返すだろ。先生にはお詫びにいつもの羊羹とうちのギフト贈っといて」

「かしこまりました、手配します」

 

 蜜香は揃えさせたもので先生の口から溢れたミルクや血液を拭い、テキパキと処置していった。

 ときどき先生の意識を確認し、救急隊員が駆けつけたときには意識レベルから脈拍数まできちんと答えていた。

 

「どなたか同乗される方は?」

「そ、それじゃあ僕が」

「オメェさんはダァメ」

 

 蜜香が高らかにハイヒールを鳴らし、高杉さんに肩を組む。

 は?あいつハイヒール履いてたのかよ。

 今はじめて気づいた。足音どうしてたんだ。全然気にならなかったし、全力疾走してきたんだよな?

 

「早く運んでやってよ、処置はしたが応急でしかないから一刻を争う。見た通り出血がひでぇんだ、接種してる毒物の同定も済んでないのに悠長にしてる時間ねーぞ。さっさと行け」

「は、はい」

 

 蜜香はヒラ、と手を振り救急隊員を追い出した。

 

 にっこりと笑った蜜香は、高杉さんの肩を放して耳元で一言呟いたようだった。

 高杉さんの顔色が悪くなる。

 

「さて、それじゃあ犯人探しかな?先生が倒れるまで入室しなかった谷岡とコナンは除外するとして、アタシら全員容疑者なわけだが」

 

 コツ、とわざと足音を立てて中央に躍り出た蜜香は、腕を広げた。

 

「蜜香ちゃんも違うでしょ?レモンティーに一度も触らなかったもん」

 

 オレがそういうと、蜜香は首を横にこてんと倒した。

 

「そりゃ鑑識さん方が指紋の検出してくれねーと証明にならねーことだよ。んじゃ、リラちゃんが撮ってたカメラの映像でも見ながら、情報が出揃うのを待とうか。さて、刑事さん方。パソコンはお持ちかな?なければ用意させるけど」

 

 ピッと蜜香が指先で出したのは、ブラックのクレジットカードだった。

 こいつ、財力にモノ言わせやがる……。

 

 

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