とある双子の奔走劇   作:すぎざき凉子

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閑話:双子の誕生日①

 

 

 4月。どの学年だろうと入学式が終わるまで基本的に忙しいみっちゃんは、めずらしく金曜日に朝から学校に来た。

 曜日毎の出席率では最低値を毎週更新する金曜日に学校に来るのは、本当にめずらしい。

 これが新学期初登校ということに目をつむれば、なんだけど。

 

 どうやら仕事が落ち着いたらしく、スマホとタブレットは手放せないみたいだけど、ゆっくり昼食を楽しんでいた。

 

「……誕生日?」

「そう。今年のアンタたちの誕生日、土日でしょ?どうするの」

「あー……ウソでしょ、完全に忘れてた……」

 

 頭を抱えてしまったみっちゃんから手渡されたのは、手のひらサイズの小さな瓶に詰まったパフェ。

 

 横から見ると綺麗な層になっていて、フルーツの断面がきれい。金色の蓋を開けると、上に乗ったフルーツはナパージュされてキラキラしている。

 小さな宝石箱のような可愛いパフェは、リボンが巻かれていた。

 新商品らしい。

 

「道理でみんな連絡してくるわけだ。どーしよ、なんも考えてなかった。今自分に心底びっくりしている」

「アンタねぇ……」

 

 園子が呆れて半目になる。

 みっちゃんは頭を抱えたまま唸った。

 

「いや本当に忙しくて。十三回忌と確定申告と決算は本当にキツい。マジで移動中ほとんど寝てたのに、寝た気がしなかったくらいにはキツかった」

「大変なのはわかるけど、身体は大事にしてね。それでなくてもこの間倒れたんだし……」

 

 先生の結婚式のとき、みっちゃんは相当顔色が悪かった。

 あれから学校もなくて中々会えなかったけれど、久しぶりに今日顔を合わせて血色の良さに安堵したほど。

 

「そうだ、十三回忌。香典しか渡せなかったけれど、本当に良かったのかってパパが。お花くらい出したかったみたいよ?」

「あ、それお父さんも気にしてたよ」

 

 唸っていたみっちゃんは顔を上げて、少し唇をとがらせた。

 

「あー、お返し送ったときに一筆添えたんだけどな。気にしないでくださいって伝えといて。むしろ出させて悪いと思ってるくらいだし。ヤクザと繋がりがあるのは、外聞悪いだろ」

「アンタねぇ……娘の友達のご両親なのよ。それだけでしょ」

「そうはいうけどね」

 

 園子がそういうと、みっちゃんは眉間にシワをよせてガリガリと頭を掻いた。

 

「傍から見りゃ、暴力団に金銭渡すってことになるんだよ。本人がヤクザだったのは事実なんだ、繋がりが少しでもあるとマスコミが騒ぎ立てる」

 

 はあ、とため息をついたみっちゃんはウェットティッシュを取り出して手を拭き、個包装されたプラスチックの使い捨てスプーンを取り出した。

 わたしてくれた瓶の上に置く。

 

「アタシ単体だって今はまだ未成年で高校生って肩書が護ってくれてるけど、こうして話してるだけでも結構リスク高いんだよ。ましてやノコちゃんのお父さんは鈴木財閥の頭取だぞ。今はアタシも会社持って個人的に繋がりがあるからどうとでも誤魔化せるけど、アタシの背景は警察に知れてんだから痛くない腹でも探られるときは探られる。そうなったらマスコミは黙っちゃいないし、ご迷惑になるだろ。毛利のオジサマもそうだ。人気商売に近いとこあんだから、そうなりゃ閑古鳥どころの話じゃなくなる」

 

 みっちゃんは視線を合わせてくれなかった。

 

「疑惑ってのはさ、一度付くと一生付き纏う。それが取引先の迷惑になっちゃいけない。そうなりゃ多くの社員が露頭に迷うからだ。アタシのとこの社員はそれをみんな理解してくれてるが、ホントはそんなこと、絶対にあっちゃいけないんだよ」

 

 ……みっちゃんは、すごい。

 色々なことを考えて、色々なことを乗り越えてきてる。

 

「ごめん、軽率だったわ」

 

 園子が素直に謝ると、みっちゃんはく、と口元でわらった。

 

「ノコちゃんはあんまりそういう教育受けてないだろ。リラちゃんもそうだけど。普通の高校生ならわかんねーよ、こんなこと」

 

 きゅぽ、という音を立ててみっちゃんの手で3つ目の瓶が開けられる。全部で六種類あるらしい。全部一つずつ、六個持ってきてくれていた。

 

「気持ちは嬉しいよ、いつもありがと。こんなヤクザモンと友達でいてくれて、どんだけアタシたち双子が救われてるか、あんま理解して貰えねーだろうけどさ。本当にアタシたち、感謝してんだよ、二人に」

 

 淡く、本当にうっすらと微笑んだみっちゃんは優しげで。

 あんまりにも儚くて、桜が舞う風にとけるように、消えてしまいそうだった。

 

 

 

 

 結局、身内だけでパーティをするらしい。

 みっちゃんが魔改造ガレージと呼んでいる、みっちゃんたちの元々のご実家があった家でやるようだ。

 

 週明けの月曜日には招待状を渡された。

 

「すごい、結構本格的な招待状ね」

「デザインがとってもかわいい!みっちゃんたちの色だね」

 

 パステルな緑と黄色の斜めストライプで縁取られた招待状は、白い地にうっすらとピンクの桜が舞うようなデザインだった。

 春生まれの二人らしく、華やかで可愛い。

 

「こんな急に用意できるわけ、と思ったらほとんど用意されてたんだよね。谷岡が有能すぎて、たまにちょっと怖くなるよ。誰がデザインしたかも教えてくれなかった。たぶん社員だと思うんだけど」

 

 確かに。二日前の放課後から用意できたのはすごい。

 去年はパステルカラーのエメラルドが綺麗な地に、クリームイエローのエンボス加工で文字が浮き上がった、可愛いデザインだった。

 

「もしかしてこれ、取引先とかに送るために用意したんじゃないの?」

「たぶんそう。谷岡と昨日話した感じだと、企画自体はしてたらしいけどアタシに話が上がってくる前に潰されたっぽい」

 

 双子の誕生日は会社主催のちょっとしたイベントになることがある。

 レセプションパーティとしてリュナでやったときは「オッサンばっかりでつまんないから来ないほうがいいよ」と言われたくらいだ。園子がお父さんの代理で出席したそうだが、「本当にオジサンばっかりだった」と真顔だった。

 

「アタシも忙しかったけど、社内スケジュール的にも厳しかったと思う。年明けからドタバタしてたし、今は一息つけてるけど5月からまた忙しくなるんだ」

 

 確かに、2月にベネデッタとカシーの開店があった。

 特にカシーは貸衣装だから完全に新規事業だし、準備で1月は忙しかったんだろう。

 3月の頭に十三回忌があったから、そちらの準備も同時にしていたはず。

 

「みっちゃん本当に忙しそうだったし、仕方ないよ。でも誕生日にお休み取れたんだね、良かった」

「そこも谷岡が気を利かせてくれてた。誕生日忘れてることに気づいてたんなら言ってくれよって思ったけど」

「フツー忘れないでしょ。翠星は?来れるの?」

「もち、金曜日に拉致る」

「言い方」

「いやマジなんだって。去年までポチがリムジンで学校に乗り付けてポイってしてたから、傍目から見たら拉致だったんだよ。まあでも今年は恒次いるし、まだマシかな」

 

 こう、と謎の動きをしたみっちゃんに園子が「んな荷物みたいな」と呆れる。

 

「なんか会場決まったら、谷岡が招待客まで全部見繕ってさっさと送ってくれちゃったんだけどさ、どんだけ人が集まるかわかんないんだよね。でもほとんど二人が知らない人が来る予定だから、無理強いはしない」

 

 本当に嫌そうに顔を歪めたみっちゃんは、指折り数え始めた。

 

「少なくとも十数人くらいの集まりになる。三十まではいかないにしても、顔見知りだけでもどうするか聞いてきたのが多いから、2回に分ける予定。二人に来てほしいのは土曜の昼、夕方には解散予定」

 

 規模を小さくしたぶん回数が増えた、とため息をついた。

 

「日曜もやるってこと?」

「いや、そのあとの夜からやるんだけど、大人たちが来る予定なんだ。夜は主に親戚。昼間は未成年だけで、プライベートの友達呼ぶつもり。つっても、二人が知ってる顔は居ないと思う。趣味で知り合って仲良くなった人とか呼ぶから。ちょっと男ばっかりになるかもしれなくて、野郎どもばっかじゃつまんないからできれば女のコ来てほしいんだよね」

 

 みっちゃん顔が広いからなぁ……。

 

「イケメンがいるならあたしはいいわよ」

「もー、園子ったら……」

「はは、ツラだけはいいよ。保証する。そのかわりツラ以外は保証しないから覚悟しといて。どいつもこいつもクセしかねーよ」

 

 ははは、と朗らかに笑ったみっちゃんがそういうってことは、本当にそうなんだろうな、と覚悟した。

 

 

 

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