そして迎えた4月20日土曜日。
朝から晴天で、予報では午後から曇り始めるけれど、それでも日中は暖かいようだ。すぅちゃんの誕生日には相応しい気がした。
12時くらいに来てね、と言われてコナンくんを連れて園子と待ち合わせて来たけれど、もう既にほとんど集まっているようだった。
賑やかな声が聞こえる。テラスからだ。
上を見ると、何人か背中が見えた。
「お嬢さんたち、坊ちゃんも、いらっしゃい。姫さんたちのために来てくれてありがとうございます」
「こんにちは西山さん。こちらこそお招きありがとう」
「こんにちは、本日はおめでとうございます」
「西山さんこんにちは!ボクも来てよかったの?」
玄関で出迎えてくださった西山さんは、髪を染め直したのかずいぶんビビットなピンクに変わっていた。最近は落ち着いたモーヴピンクだったはずだから、今日に合わせたんだろうか。
「姫さんの京都のお友達が距離の関係であんまり来れないんで、むしろありがたいッスよ。どうぞ」
玄関から中へ促されて、階段を上がった。
ちなみにこの家はほとんど土足だ。
「規模が小さいし今日は暖かいから、テラスでやることになったんですけど、寒かったら中入ってもらっても大丈夫なんで。ブランケットとかも用意したんで、遠慮せず声かけてください」
「わかりました、ありがとうございます」
2階のリビングは一面大きな窓で、その先がテラスになっている。
真下がガレージだからか広々としたルーフテラスで、確かに今日みたいな陽気のいい日は気持ちいいだろう。
テラスは元の家の時からあったようなのだけれど、外観は全く違うらしい。
建て直したときには設計図が残っていなかったそうで、これだけしか記憶に残ってないから、作ってもらったと言っていた。
「あ、いらっしゃーい。待ってたよ三人とも。来てくれてありがとう」
「こちらこそお招きありがとう、ってなんで主役がキッチンにいんのよ……」
リビングを通って行こうとしたところで、ダイニングの奥のキッチンからヒョコッとみっちゃんが顔を出した。
「ホスト側だからね」
「みっちゃん何か作ってるの?手伝おうか?」
あ、カレーの匂いがする。
やった、みっちゃんのカレー大好き。どのレシピも外れがないし、いつも新しいものが出てくるから楽しみ。
「一人で大丈夫だよ、ありがとリラちゃん。それより二人にはすぅちゃんを早く見てほしいな。今日のすぅちゃん、みぃの自信作だから。妖精さんだよ」
「オッケー、翠星が遊ばれたことだけはわかった。見てくる」
「手伝うことあったら言ってね!」
ひらひらと手をふってテラスに出た園子を慌てて追いかける。
複数人がけのソファがいくつかとダイニングテーブルが2つ出されているテラスには、もう人が集まっていた。
ほんとに知らない人ばっかりだ。確かに男の子が多い。
園子はまっすぐにすぅちゃんに近づいていた。
「園子さん、いらっしゃい。来てくださってありがとう。ああ、蘭さんもいらっしゃい」
すぅちゃんは男の子二人と女の子一人のグループに囲まれて談笑していた。
園子が声をかけるより早く、すぅちゃんの隣にいた男の子が園子に気づいて知らせてくれたようで、グループを離れてきてくれた。
園子の後ろにいたわたしにもすぐに気づいて、笑いかけてくれたすぅちゃんに手を振り、近寄る。
「ほとんど急に決まったようなものだったのに、来てくださってありがとう」
「言い出したのわたしたちだもん。すぅちゃん、誕生日おめでとう」
「そうよ。蜜香ったら、あたしたちが言うまで気づいてなかったのよ。十七歳おめでとう、翠星」
「ありがとう」
本当に嬉しそうにはにかんだすぅちゃんは、姿も相まって妖精さんのようだった。
春らしい柔らかいエメラルドグリーンの色のワンピースは、オーガンジーの透けた生地に色とりどりの小花の刺繍が可愛らしい。
すぅちゃんのためにあつらえたようにピッタリだ。
というかたぶんこれ、みっちゃんがデザインしたんじゃないだろうか。自信作って言ってたし。
「話し中ごめんね。翠星、これで全員そろった?それなら俺、ミツに声かけてくるけど」
別のグループで話していた男の子が一人寄ってきて、すぅちゃんの視界に入ってから声をかけてきた。
わざわざ少し遠回りしたのは、すぅちゃんを驚かせないためだろうか。
「いいえ、国広と大倶利伽羅がまだ。あと……ああ、南泉もいないわ」
「南泉?身内枠じゃないの、アイツ。夜だけだと思ってた」
真っ赤なマニキュアの印象的な可愛らしい男の子は、すっごく美人さんだった。
ほ、ほんとにイケメンだ。芸能人みたい。
「そうもいかないのよ。ああでも、最後だけ来るのかしら。いつ来るかは聞いてないけれど……」
「ふーん。国広と大倶利伽羅なら俺、連絡先わかるよ。電話しよっか」
「お願いできる?蜜香が嫌がるから連絡先知らないのよ」
「だろうと思った。アイツ、過保護が過ぎるでしょ。
言いながらその場で、真っ赤なケースのスマホで電話しはじめた。
みっちゃんだけじゃなくてすぅちゃんとも仲がいいんだ……。てっきりみっちゃんだけの友達なのかと思ってた。
それに、すぅちゃんが呼び捨てにしてる。
「もしもーし、国広?今どこ。あー、見えた」
テラスの外へ目をやり、手をあげた彼の視線を追うが、それらしき人影はわからなかった。
「わかった。ミツ?まだ気づいてないと思うけど。いやその距離は間に合わないでしょ。時間稼いでやるから走んなよ。がんばれ~」
「あら、二人とも一緒だったのね」
ヒラヒラと手を振るすぅちゃんはわかっているようで、電話した人以外もいることが見えたようだった。
「みたい。ギリ遅刻になりそうだって。どーせ二人して徹夜でゲームでもしてたんでしょ。んじゃ、俺はミツの気そらしてくる」
「ありがとう清光」
「オトモダチさんたち、邪魔しちゃってごめんね」
彼はひらっと手を振って、部屋の中へ入っていった。
「なんか、蜜香のトモダチってカンジ……キザ〜」
「スマートだったね……」
「そうかしら?よくわからないけど」
園子とわたしの言葉にすぅちゃんは首を傾げながら、わたしたちを空いているソファへ案内してくれた。
「そういえば、コナンさんも来ると仰っていなかった?」
「あ、そうだ。コナンくん……みっちゃんのところにいるみたい」
リビングのほうを覗くと、コナンくんと先程の男の子とみっちゃんが話しているのが見えた。
みっちゃんがこちらに気づいて、手を振る。いたずらげな顔をしていた。
「あら、清光ったら失敗したみたいね。国広と大倶利伽羅は罰ゲームかしら」
「罰ゲーム?」
「仲間内の定番なのよ、遅刻したら罰ゲームをするの。内容はそのときどきだけど、主催が決めていいことになっていてね。今回は余興になるわ」
くすくす楽しげに笑うすぅちゃんは、スマホを取り出して動画サイトを開いた。
選びましょ、と身を寄せてくるけど、動画の何を選ぶんだろう。
「翠星ーッ、今日の罰ゲームなに!?」
欄干を背もたれにニヤニヤ笑いながら外に視線を向けている男の子たちへ振り返って、すぅちゃんはみっちゃんそっくりな顔で笑った。
「アイドルソングよ。わたくしと蜜香から一曲ずつ。激しいの選ぶから、手伝ってくださる?」
おおっ、と場が湧いた。
「っしゃキタ任せろ!」
「一番やりたがらない奴らがひっかかったな!キラッキラのファンサ多いやつにしようぜ、嫌がりそうなやつ」
「蜜香ーッ!ダメだアイツ聞こえてねえ、ガラスいいヤツ使ってんな」
「蜜香ならあの二人にバラード選んでくるでしょ、コッテコテのラブソングとか」
「翠星ちゃん、あなたアイドルって誰なら知ってるの?有名どころならわかるかしら?」
「あら千草さん、わたくしにあの監獄でそのような娯楽が与えられると思って?」
「言うねぇ〜!それなら俺オススメ流してくわ、翠星これ、このリスト」
「おいあいつら走ってるぞ、形振り構ってねえな」
「がんばれ~、あと2分だけど蜜香気づいてるよ〜」
外を見ながら囃し立てる男の子たちと、構わずスマホを取り出して再生リストを流し始める子たち。
みんな仲が良さそうで、顔見知りのようだった。
「ふふ、騒がしいけど、みんな気はいいから。今日は楽しんでいって」
すぅちゃんが私たちにそう言って、本当に楽しそうに微笑んだ。