とある双子の奔走劇   作:すぎざき凉子

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コナンくん視点です


閑話:双子の誕生日④

 

 

 少し肌寒くなってきたので場所をリビングに移した女性陣と加州さんに続いて俺も部屋に入る。

 

 外ではまだお腹に余裕のある男性陣が、3種類も仕込んでいたカレーの食べ比べをしている。

 蜜香、カレーのことになると本気出しはじめるんだよな。そのぶんめちゃくちゃ美味いんだけど。

 今日のカレーもどれも美味しかった。

 メインのエビしか入っていないエビカレーと、ヒツジの挽肉にしたというキーマカレー、それからマッシュルームとゴロッとした牛肉の塊のビーフカレー。

 俺の好みはビーフカレーだったけど、エビカレーは四方八方からエビが押し寄せる感覚がするほどエビの味がした。キーマカレーはちょっとクセが強いけど、それが妙にハマる味。

 

 コの字形の配置になっている、いわゆるお誕生日席の三人掛けくらいの大きさのソファーに翠星が座り、右側のソファーに千草さんと加州さんが座り、その真向かいに園子と蘭、それから俺の順番で腰掛けた。俺が一番翠星から遠い。

 

「っていうかさぁ、なんで夜と分けたの?いつもは昼間じゃん」

 

 西山さんが配る蜜香特製のレモネードを受け取る。

 先にグラスを受け取っていた加州さんが一口飲んでから、そう切り出した。

 

「酒盛りするっていうから」

 

 端的に一言だけそう返して、翠星の隣に座ろうとした蜜香の腿を、蜜香からホットレモネードを受け取った翠星が強かに打った。

 良い音したけど蜜香は平然としている。

 

「は?それだけ?長船のドンチャン騒ぎなんていつもじゃん」

「そんなわけないでしょう。身内と友人でわける必要があったのよ」

 

 加州さんの怪訝そうな返しに、翠星が呆れたように蜜香の脚をもう一度叩いた。

 む、と口を尖らせた蜜香が叩かれたところをさする。

 

「往生際が悪いわよ、蜜香」

「わかってるけどさぁ……」

 

 拗ねたように口を尖らせたままの蜜香は、翠星のマグをさらって一口飲んでそのまま返した。

 俺ももらったレモネードに口をつける。ハニーレモネードだ、蜂蜜の味がする。

 加州さんのはレモンスカッシュにしたらしく、炭酸で飾りのミントが揺れている。

 

「あなたねえ、自分で決めたことでしょう。みんなに伝えないのは、不義理だと思わないの?」

 

 翠星は完全に呆れた目で蜜香をねめつけ、あからさまにため息をついた。

 イヤイヤ渋々、といった感じで蜜香が立ち上がる。

 

「……ん。起こしてくる」

「あら、来てたのね」

「上で寝てる」

 

 蜜香は西村さんの肩を叩いて外を指差すと、そのまま指を上に向けてクイッと曲げる。

 みんなを呼び戻せってことか……?

 

「徹夜続きだったらしくて、アタシがここ着いたとき死んでた」

「ヒトを勝手に殺すんじゃねぇよ」

 

 ぱたんぱたん、とスリッパの足音が真後ろでしてびっくりして振り返ると、金髪の男が近づいてきていた。

 階段を降りてきた音に気づけなかった。

 

 金髪の男はチラッと俺を見て、「驚かせたか、スマン」と言った。

 ライトグリーンのツリ目は大きくて、なんだか寝癖?も相まって猫っぽい。

 

「お、南泉。おはよー、寝起きじゃん」

「おー、久しぶりだな加州。スマン、今起きた」

 

 ちょっと嫌そうに「うわ千草いる」と呟いた金髪の男に千草さんがにっこり笑いかける。

 翠星が蜜香によくやる「文句があって?」の顔だったんだが。

 千草さん、翠星に言動がよく似てる。さすが翠星の友達って感じだな……。

 

 どうもこのナンセンさんも千草さんや加州さんたちと顔見知りらしい。

 パーティの招待客の最後の一人と言っていた名前だ。

 

「おい蜜香、客が来る前に起こせっつったろ」

 

 蜜香がナンセンさんの側によると、流れるようにハグとチークキスをした。

 すんげえ自然だったぞ、完全にいつもやってる流れだった。

 そのままあまり身体を離さずに話しだした。光忠さんとより距離が近い。

 

「起こしたもん。ご飯は?」

「ホントかよ……あー、シャケ食いてえ、ある?」

「あるよ。お茶漬けにする?」

「出汁がいい。あ、ミツバはいらねえ」

「香草嫌い絶対なおしてやっからね」

「マジでやめろ。おい、入れんなよ」

「わかってマース」

「ントかよ……」

 

 蜜香がキッチンに行ったかわりに翠星の隣りに座った男は、西山さんからやはりレモネードを受け取って匂いを嗅いだ。

 

「ベッドありがとな啓佑。なぁ、これミントじゃねえか?」

「飾りぐらい我慢なさいな」

 

 ナンセンさんが翠星にグラスを差し出すと、翠星は呆れながらもミントをつまんでとる。

 あれ、翠星とは距離開けて座るんだな。

 

「鼻につくんだよ」

「スイマセン、それお嬢に渡すつもりだったんで……。あ、南泉さんが寝てたベッドはお嬢のですよ」

 

 西山さんがティッシュで翠星からミントを受け取ってそういうと、ナンセンさんは思いっきり振り向いた。

 

「は!?あいつ何、ここでも寝んのか!?おまえ一緒じゃねえよな!?」

「え!?ンな怖いこと言わないでくださいよ!置いてるだけッス!お嬢は一度も使ったことないんで、ほとんど客用になってます!」

「あー、そういう。睨んでゴメンな啓佑」

「ホントやめてくださいよ、めっちゃ焦った……オレ、外の皆さん呼んで来ますね」

「おー、悪ィな」

 

 すげー慌てっぷりだったな、西山さん。

 本当にホッとしたような顔をして外へ声をかけに言った西山さんをなんとなく目で追ってたら、翠星が口を開いた。

 

「園子さんと蘭さんとコナンさんは初めてよね。ごめんなさいね、この人ったら、初めましてのお客様相手に、寝起きのうえご挨拶もろくにしないなんて。蜜香も気が利かないわ」

 

 スパン、とナンセンさんの膝を叩いた翠星に、ナンセンさんがバツの悪そうな顔をする。

 蘭と園子の顔を伺うと、ぽかんとしていた。

 

「あー、嬢ちゃんたちは双子の幼馴染だっつう話だったか。オレはイチモンジ・ナンセン。漢数字の一に、南の泉と書いて(イチモンジ)南泉だ」

「何度聞いてもそれが本名なのウケる」

「うるせえよ加州。おまえらだって名前はまんまだろうが」

 

 くつくつ笑う加州さんの言葉でようやく刀剣の南泉一文字に気付いた。

 南泉さんの発言からすると、もしかしたら他の男性陣も、本名に刀の名前が含まれるからそう名乗ってるのかもしれない。

 

「こちらは鈴木園子さんと、毛利蘭さん。わたくしと蜜香の幼稚園からのお友達よ。写真くらいは見せたことあったかしら」

「おお」

「そちらの子が江戸川コナンさん。今は蘭さんのところに預けられている子よ」

「こんにちは……」

「さっきは驚かせて悪かったな、ボウズ」

「ううん、大丈夫」

 

 俺が首をふると柔らかく微笑まれて、ちょっとドキッとした。

 今日集まっている双子の友人達は、系統こそ違うけれど本当に容姿がいい。この人もそうだ。

 

「ああ、今日は特別だし、翠星が言うからあんたらの前に出てきたけどにゃあ。普段は外で見かけても声はかけずに、見なかったことにしてくれ」

「えっ?」

 

 まさか。

 翠星の顔を見ると、俺の視線に気づいたのかうっすら苦笑した。そのままキッチンへ視線をやる。

 俺もその視線を追って蜜香をみると、膳らしきお盆をもった蜜香がいた。

 

「にゃんくん、できたよ」

 

 にゃんくん!?!?

 聞き間違いかと思って蜜香をみた。平然としている。翠星をみた。平然としている。

 いやダメだ、蜜香は普段から人のこと変なあだ名で呼ぶから双子は参考になんねえ。

 

「おー、ありがとよ。おまえのぶん無くていいのか」

 

 南泉さん、そのあだ名許してるんだ……。

 蜜香がしつこくて諦めたパターンの人だろうか。俺がそうだし。

 

 丼サイズのお椀と、木さじと土瓶と小鉢がのったお盆は、この短時間で用意されたと思えないほど盛り付けが整っていた。

 焼おにぎりの上にほぐした鮭と細切りにされた海苔がのった丼、これに土瓶の出汁をかけて食べるのか。うまそう。

 さすが蜜香、食事に関してのこだわりがすごい。

 

「大丈夫、結構つまんでる。夜もあるし」

「その割に顔色悪ィな」

 

 そのまま翠星の反対側、南泉さんの隣りに座った蜜香の頬を、南泉さんが手で包むように親指で目の下を撫でる。

 

「クマ出来てる。寝てねえのか」

「ゲームしてちょっと夜更かししただけ。3時間は寝た」

「ちょっとォ?どうせ国広あたりと朝までやってたんだろ」

 

 うっぐ、と蜜香が変な声を出した。はは、バレてんじゃねーか。

 

「もー、いいでしょ。早く食べちゃってよ」

「図星じゃないの、蜜香。案外上手くやれそうね。その調子でこの子の監視、頼むわね南泉」

「おい、こいつの手綱を握ンのは本来おまえの役割だろうが、翠星。オレに投げてんじゃねえよ、にゃあ」

「これから一緒に生活するんだから、あなたのほうが適任でしょう?」

「おまえ龍の巫女じゃねーのかよ……」

 

 ……は?

 

「お、南泉来たじゃん」

「なんだ、身内枠じゃねーの?てっきり夜かと思ってた」

「久しぶりー」

 

 ちょうど外にいた男性陣が入ってきて、南泉さんに次々と声をかけていく。

 

 ……気のせいか?一緒に暮らすって言ったよな?

 

 

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