とある双子の奔走劇   作:すぎざき凉子

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閑話:双子の誕生日⑤

 

 絡まれながらも蜜香の用意した膳を食べる南泉さんは、どうも獅子王さんたちより年上らしい。

 獅子王さんが南泉さんの肩を後ろから掴んで揺らす。

 

「南泉おまえ大学来いよな~」

「行ってるっつの。会わねえだけだろ。獅子王は進級出来たのかよ」

「みんなして失礼だな!出来たわ!」

 

 はは、挨拶のように進級の心配されてら。獅子王さんそんなにやべーのかな、成績。

 

「やりゃあ出来んのに真面目にやらねえから言われんだろ」

「獅子王くん、何か初めたら一直線だもんねー。あ、そういえば言ってなかった。格ゲー大会優勝おめでと」

「え、蜜香知ってたのか。ありがとな!」

「そりゃあね、チェックしてるよ。次は海外戦で日本代表でしょ?頑張って」

「おーよ!」

 

 へえ〜、獅子王さんそんなゲーム強いんだ。日本代表ってすげーな。eスポーツ選手ってやつか?

 

 入ってきた男性陣は、ソファにくる人もいればダイニングテーブルの方へ行く人もいる。

 堀川さんと大和守さんはソファへ来て、大和守さんは加州さんに無理やり身体を押しつけて端っこの席を奪っていた。

 千草さんは笑いながらズレて、加州さんはため息をつきながらも場所をあけてあげている。仲いいんだな。

 堀川さんはそれを見て苦笑しつつ、余裕をもって千草さんの隣へ座った。

 

「学年違うと会いませんよね。僕、南泉さんに会ったら聞きたいことあったんですよ。2年次って授業どう組んでました?」

「オレのときはおまえらと違って単位制限なかったから、たぶん参考になんねえぞ。つーか履修登録に間に合わねえだろ」

 

 堀川さんと獅子王さんが同じ大学に通っていることは、今までの会話からなんとなくわかった。

 どうも南泉さんはその大学の先輩のようだ。

 

「2年で粗方詰めちゃいたいんですよ。それでも良いのでお願いします。来年の参考にするんで」

「ん?あ、堀川は今年入学か。てっきり獅子王と同い年かと思ってた」

「久しぶりに会うと皆さんそう言うんですよね。先月まで高校生でしたよ」

 

 堀川さんが眉を八の字にして困ったように笑う。

 

 そうすると学年的には、南泉さん、獅子王さん、堀川さん、千草さん、で俺らと他の男性陣が同学年の順番なのか。

 南泉さんは3年生か4年生……院生もあり得るか。

 ちょっとした推理は楽しい。

 

「今年の履修登録はどうしたんだ?」

「文系共通のモデルケースままにしました。でも2年次はそうもいかないみたいで」

「獅子王は?学部違うけどよ」

 

 翠星の真後ろくらいにあるダイニングテーブルつきの椅子に座った獅子王さんが振り返る。

 

「俺はほとんど必修科目で埋めた。選択は外語だけにしてある」

「それ単位取れなかったら悲惨だぞ……テストのこと忘れんなよ?」

「一応は大丈夫なように組んだよ。さすがにそこ疎かにはしねーって。せっかく大学入ったしさ、学費無駄にできねえし」

 

 へえ、大学生は自分でカリキュラム組まなきゃいけないから大変だな。

 

「まァ、学部一緒だし俺の方が参考になるか。蜜香ァ、手帳どこしまった?」

「ダンボールのどれか。でも大学の時間割ならデータで残してあるよ。堀川くんにあとで送っとく」

「なんでそんなん作ってんだよ……」

「にゃんくんとやりとりするのに授業と被ったら悪いから作った。役に立ってるんだからいいじゃん」

「そんなん気にせずに送ってくりゃあいいだろ」

「秒で返信来るってことは授業中にスマホ見てるんでしょ。授業ちゃんと受けて」

 

 図星だったのか南泉さんが黙る。

 ああ、そりゃ蜜香が怒るわ。謎にそういうとこ真面目なんだよな。

 

「堀川くん、PDFファイルでいいよね?」

「うん、ありがとう蜜香さん。ごめん、手間かけちゃうね」

「それくらい大丈夫。メールで大丈夫?クラウド共有のほうがいいなら一時的にグループつくるけど」

「メールで大丈夫、パソコンのアドレスは変わってないけど、教えなくて平気?」

「一応見て、これであってる?」

「うん、これだよ」

 

 いいながらスマホを堀川さんに向かって放った蜜香に、堀川さんは難なくキャッチして確認すると投げ返した。蜜香もキャッチしてそのままスマホを弄り始める。

 蜜香のこの雑なスマホの取り扱いを見たのは初めてじゃないが、まさか西山さんと谷岡さん以外にもやると思わなかった。

 

「ごっそーさん、美味かった。シャケ、いいヤツ使ったのか?」

「はーいお粗末さまでした。そんな高くないやつだよ、近所のスーパー。きれいに脂のってて美味しそうだったから買っちゃった。当たりだったね」

「まだあるならこれ、夜も出してくれ」

「ん、わかった」

 

 南泉さんの膳をもって蜜香が立ち、キッチンへと消える。

 

「ねえ、南泉。おミツとどうなったの?」

「あっ、俺も聞きたい!今日のミツ、南泉に合わせてるでしょ。アクセサリーの色が翠星の色より南泉寄りだし」

 

 大和守さんがそういうと、加州さんが身を乗り出す。

 

「おー、かわいいよな。あいつそういうとこ本当に律儀なんだよにゃあ」

 

 蜜香のピアスについたカラーストーンは確かに、翠星の目の色よりも南泉さんの目の色に近いライトグリーンに見える。

 というか、さらっとなんかすごいこと言ったな?

 

「なんだ、正式に決まったのか?」

 

 ダイニングテーブルの、比較的ソファに近いところにいた御手杵さんがそういうと、南泉さんが頭をガシガシかいた。

 翠星がにこにこ笑う。

 

「その話するために南泉を呼んだのよ。ほら南泉」

「おー……。蜜香、ちょっとこっちこい」

 

 キッチンに向かって南泉さんが声をかけると、蜜香がそろそろと顔を出した。めちゃくちゃ複雑そうな顔をしている。

 

「嫌そうにしてんじゃねーよ、にゃ」

「アタシからお願いしたことなのに、嫌なわけないでしょ。でもなんか、友達に言うのってこう……違うじゃん?」

「そう言ってズルズル先延ばしにしてここまで来たんだろうが。おまえが頭下げたんだから、オレにもケジメくらいつけさせろ」

 

 南泉さんがわざわざ蜜香をキッチンから引きずり出しに行き、蜜香もあまり抵抗せずに出てきた。

 

 今気づいたが、園子と蘭の目が輝いている。俺も察した。

 

 南泉さんは少し居心地悪そうに息を吐いたあと、俺たちの方を少し見回した。

 

 

「あー、悪いなおまえら。ちょっと巻き込ませてくれ」

 

 南泉さんが来ていたパーカーのポケットから青い箱を取り出す。

 

「……え、なに?」

 

 蜜香に向かいあうと、蜜香が完全に虚をつかれたのかぽかんとした顔をした。

 あんな顔してるの、小学生以来久々に見たな。

 

「蜜香、おまえが何を思ってオレを指名したのかはよく知ってる。そうなるように仕向けたし、オレはガキの頃からおまえとこうなるつもりしかなかったから、その事自体に思うところはねえ。でも正直、自分の不甲斐なさに腹が立つ。おまえに頭下げさせちまったのも、オレ自身が選ばれた理由じゃねえのも、すげえ気に食わねえ」

「え、あ、ごめん……?え?」

 

 あきっぱなしの蜜香の口から完全に呆けた声が出た。

 狼狽えているのか、現状が受け入れられてないのか、どちらにせよ蜜香がこんな状態なのは、本当に珍しい。

 

 南泉さんはそんな蜜香にちょっとだけ笑って、一つ深呼吸した。

 

「だからこそ、今ここでケジメつけさせてくれ」

 

 片膝を着く。

 どこからか小さく悲鳴のような声が上がった。

 

「おまえが背負ってるモン、おまえが叶えたい夢、全部ひっくるめて、オレが一番、おまえの隣に相応しいと思ってる。改めて、おまえがオレを選んでくれ」

 

 南泉さんが真剣な顔で蜜香を見上げ、青い小箱を開く。

 ダイヤモンドが輝く指輪がみえた。

 

「結婚しよう、蜜香」

 

 一瞬の静寂。

 みんなが二人を見つめていた。

 

 蜜香が、は、と息を吐いた瞬間。

 

「えっ、なに、何で泣いてんだおまえ!?」

 

 ボロボロボロと、水栓が壊れたように、蜜香の目から涙が落ちていった。

 南泉さんが焦って立ち上がり、慌てて蜜香の目元を拭う。

 

「お、おい、化粧崩れるぞ、せっかく綺麗にしてんのに」

 

 呆然とした表情で、ポロポロと涙だけを流した蜜香が、う、と顔を歪めた。

 

「だ、だって、だってこんな、びっくりする……」

 

 ぎゅ、と胸元で両手を重ねて握る仕草は、翠星が隣にいないとき、不安になった蜜香がよくやっていた仕草だった。

 

「みっちゃんが泣いたとこ、幼稚園以来初めてみたかも……」

 

 蘭のつぶやきに、そうだ、と思い出す。

 幼稚園の頃、双子が引き離されたとき。あれが最後だった。

 

「おまえの夢は、オレが全部一緒に叶える。そう約束しただろ」

「そうだけど、それでなんで、こんな、リングだって、ゆいのうとちがうやつ」

「あんなゴテゴテしたやつ、普段つけられねえだろ。話し合いのときはまだ、こっちの指輪の用意できてなかったんだよ、にゃ。だからさ、プロポーズ、オレからはしてねえし。こうやって指輪見せてもらうの憧れるって、前に言ってたから」

 

 涙を流したまま、蜜香はきょとんとして首を傾げた。

 あいつキャパオーバーして幼児返りしてないか?

 

「いつのはなしをして……え?だってそれ、アタシ、え、だって、うそ、いちどしかそれ、なんで?おぼえてたの?」

 

 大混乱しているのか、ぎゅうぎゅうと手を握る。

 

「……おまえなに、気づいてねーのにオレのこと『にゃんくん』なんて呼んでたのか?さすがに怒るぞ」

 

 蜜香の涙を拭いながら、南泉さんが呆れたようにため息をつく。

 

「にゃんくんだったらいいなって、おぼえててくれないかなって、だって、にゃんくん、いままでずっと、いちども、よびかたでおこんなかったぁ……!」

「あー、そう来たか。っていうかマジで、なんで泣いてんだおまえは」

 

 ぐずぐず泣き続ける蜜香の頬を、南泉さんは指で拭いきれなくなって伸ばした袖で拭いていた。

 箱でうまっていた片手をあけようとしたのか、ポケットにしまおうとしたのを、蜜香が掴む。

 

「にゃんくん、ほんとうにあたしとけっこんしていいの?」

「……おまえほんとさぁ」

「なに」

「ちゃんと聞いてたか?オレは、おまえに、選ばれてえんだけど」

 

 ズズッと音をたてて鼻をすすり、蜜香は自分で涙を拭いて顔を上げた。

 何も持っていなかった方の南泉さんの手を両手で包み、祈るように額にあてる。

 

「選ぶよ。私だけの刀になって。私に力を貸して。ずっと隣りにいて、私の唯一でいて」

 

 囁くように、それでいて響く。

 舞台のワンシーンのように、宗教画の一つのように。

 

「私にはもう、あの頃みたいに無鉄砲に無敵でいられるほどの使命感も立場も権力もないけれど」

 

 蜜香が顔を上げて、今まで見た中で一番キレイに微笑んだ。

 

「私がまた突っ走って、ひとりにならないように、隣で見張っててよ。今度は私の一番近くで、私と一緒に」

 

 泣きそうな顔で、眉毛を八の字にして。

 ……久しぶりにみた、心からの笑顔で。

 

「……今度はちゃんと、オレを道連れにしてくれるか?」

「もちろん!地獄のてっぺんとろうね、にゃんくん!」

「おう、任せとけ。浮気すんなよ」

 

 

 ああ、良かった。蜜香は大丈夫。

 いつもどこか悲壮に見えた幼馴染は、幸せそうに笑った。

 

 






 これもしかして萩原夢期待されてたんじゃないかって今気づいた。蜜香の相手は南泉くんです。
 もしかしたらいるかもしれない支部でご存じの方にも一応言っておくと、檜木くんでも燭台切でも伽羅くんでもないです。南泉くんです。
 ちゃんとそこまでやります。
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