とある双子の奔走劇   作:すぎざき凉子

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誕生日会の話、ラストです。


閑話:双子の誕生日⑥

 

 

 改めて指輪をはめた二人に、おめでとうの声がかけられる。

 

「あー、さすがに顔洗ってくるわ……」

「おー」

 

 蜜香が席を外し一階の水場へ消えていくと、南泉さんが突然座り込んだ。

 

「あっははははははははは!!!!!崩れ落ちてやがる!」

「なんせーーーーん、やったじゃーーーん!」

「おーっし、今度から蜜香のことはぜーんぶ南泉が引き受けてくれっぞー」

 

 指さして笑う和泉守さんと、バンバン音をたてて背中を叩く大和守さん、獅子王さんには頭をかき混ぜられて、されるがままになっている南泉さんは項垂れていた。

 

「南泉もよく耐えたよなぁ。据え膳状態のくせに蜜香はなんにも気づいてなくて、ずっと生殺しだったろ」

「そうだよなぁ。おい大丈夫か?幸せすぎて死んでねえ?息してる?」

「してるわ、いま死んでたまるか」

 

 御手杵さんの言葉に獅子王さんが南泉さんを覗き込む。

 ようやく顔を上げた南泉さんは、深い溜め息をついた。

 

「あー、ド緊張した……」

「南泉、ずーっと蜜香ちゃんにお熱だったものねえ」

「泣き出した時めちゃくちゃ焦ってたじゃん。そんな自信ないもん?あんだけ囲っておいて、ねえ」

 

 加州さんがニヤニヤと堀川さんに話を振ると、堀川さんもニヤニヤと応じる。

 

「僕らへの牽制、すごかったですもんね〜。兄弟はわかりますけど」

「あいつは俺と大倶利伽羅のことを、家族か兄弟だと思ってる節あるだろう。俺たちも大概そんな感じで扱ってしまっているが」

 

 山姥切さんの言葉に、ああ、あいつそういうとこあるよな……と俺も幼少期を思い出した。身内判定すると距離が近いんだよな。

 

「南泉、心配しなくても蜜香ならきちんとおまえに向き合う。そういうところは蔑ろにしない。気持ちには気持ちで返すことができる女だ。それに、俺らはあいつをそういう目で見ていない」

「言われなくてもわかってんだよ、ンなこと」

 

 恋愛対象にはならない、と首を横に振る大倶利伽羅さんを半目でみて、南泉さんは頭をかく。

 

「おまえらはそうやって言えるだろうけどなぁ。あいつマジでオレのこと、叩くと音がなるデカいヌイグルミかなんかだと思ってるぞ」

「さすがにそれは翠星だけだろ」

 

 同田貫さんがそうつっこんで翠星をみる。

 

「あら失礼な。せいぜい向こうから歩いてくるエンタメコンテンツくらいよ」

「翠星おまえオレ相手だとド失礼だな!?」

 

 否定しねーのかよ。本当に失礼だな。

 真顔で翠星は続ける。

 

「あなた相手に遠慮することなんてあって?わたくしから蜜香を奪っていくくせに」

「あいつがオレと結婚すんのはおまえのためだぞ」

「そんなのわかってるわよ」

 

 ああ、やっぱりそうか。

 イチモンジ、どこかで聞いたことがあると思った。

 南泉さんは、指定暴力団一文字組に連なる人なんだ。

 清生のことを調べたときに、少し出てきたからわかる。

 蜜香は、一文字の後ろ盾を得たくて南泉さんと結婚するのか。

 だから、南泉さんはあんなプロポーズをした。

 

 でも。

 

「それでも、これで、わたくしと蜜香で、家族で暮らせることはなくなるってことでしょう」

 

 翠星の言葉に、考え込んで俯いていた顔をあげる。

 翠星を見ると、少し苦しそうな顔をしていた。

 

 蜜香の夢。翠星の夢。少しずつ食い違う、将来図。

 

「翠星、血縁だけが家族じゃないよ。そんなの、きみが一番よく知ってるだろ」

 

 大和守さんが、まっすぐに翠星をみる。

 少し、意外だった。そういうことを言うように思えなかったから。

 

「……そうね。言い過ぎたわ、南泉。ごめんなさい。あなた、新しく家族になるのよね」

「あー……あ、まあ、そうだな。義妹(いもうと)か。今までと変わんねーだろ。別に気にしてねーよ」

 

 南泉さんは座り込んだまま翠星を見上げて、仕方なさそうに笑った。

 

「ふふ、それなら素敵な誕生日プレゼントだわ」

 

 蜜香とそっくりな、泣きそうな笑顔で翠星は微笑んだ。

 

「わたくし、ずっと家族が欲しかったの。蜜香はやっぱり最高の妹ね」

 

 

 

 

 

 蜜香が戻ってこない中、西山さんがデザートを配り始めた。

 もうそろそろいい時間だ。このあとのこともあるから、食べ終わったら解散だろう。

 

 ごめんなさい放置しちゃって、と翠星が蘭と園子に向き合った。

 

「ね、ねえ……気になってたんだけど、南泉さんて、バンドやってたりしない?」

 

 園子がそういって、スマホを取り出して動画を流した。

 

「これ、このカンヤライってバンド、インディーズだけどすごい人気があって」

「ええ。このボーカル、南泉よ」

「やっぱり!?」

 

 翠星が覗き込んで、頷く。

 園子が興奮して声が裏返るのを、こいつ本当にミーハーだな……と眺めた。

 

「……あれ、このバンド……」

「あら、蘭も知ってるの?珍しいわね、蘭がこういうの興味あるって」

「あ、ううん、私じゃなくて。みっちゃん、もしかしてこのバンドに関わってたりする?」

 

 蘭も?と思って見上げると、でも居ないよね、とちょっと自信なさげに首を傾げていた。

 蜜香が?

 

「おー、耳良いな、嬢ちゃん。そうだぜ、蜜香が作曲やってる。足りない音とか録音したりな。ほとんどサポートメンバーみたいなもん」

 

 絡まれていたのから抜けてきた南泉さんが翠星の隣に座り、蘭の言葉にこたえた。

 

「あ、やっぱり。流れてるバイオリン、みっちゃんの音ですよね?」

「へえ、本当に耳が良いんだな。たしかに、このときは蜜香のバイオリンを録音したやつ流してる」

「そうだったの?てっきり南泉が弾いたのかと……。わたくしにはわからないわ、すごいわね蘭さん」

 

 翠星が驚いて目を見開く。

 へえ。蘭、すげー特技もってるな。

 

「なんとなくだよ。ほら、みっちゃん、新一にバイオリン教えてたことあったじゃない?」

 

 はは、あったな。あいつ音楽は厳しいから、めちゃくちゃ怒られたわ。

 義務で弾くな、弾くんだったら音楽を楽しんでやれ!って。

 

「ああ、だから覚えていたのね。でもすごいわ。わたくしも蜜香の作った曲はよく聞くけれど、どれが蜜香の音かわからないもの」

「手癖が出る演奏者は珍しくないけど、蜜香はドラムとギターだけだと思ってたにゃあ。バイオリンはそんなに気にしたことなかった」

「蜜香、ドラムもギターもできるんですか?」

「あいつ、楽器なら相当特殊なもんじゃないかぎり、一通りはできるぞ。キーボードもベースも蜜香が作ってからアレンジしてる」

「あの子、何ができないの?」

 

 園子の呆れ声に、はは、と乾いた笑いが出た。

 本当に何ができねーんだ、アイツ。

 

「プログラミングだけは合わねえっつってたにゃあ」

「それはよく言うわね」

 

 真顔で南泉さんと翠星が頷く。

 

「つーか、なんでオレのバンドの話?」

「ああ、園子さんが南泉のこと知ってたんですって」

「へえ?ありがとな。ライブの動画とかか?」

「え、ええ、そうです。それでみて」

「ふーん、やっぱ集客効果あるのか、あれ。夜だから来づらいとは思うけど、蜜香とでも来てくれよ」

「いいんですか!ありがとうございます」

 

 坊主、ちょっとこっちこい、と南泉さんに呼ばれて近寄ると、おもむろに抱き上げられた。

 

「蜜香がガキの頃に使ってたバイオリンを、おまえにって言っててな。今日持ってきたんだ」

「えっ?」

 

 坊主借りてくぜ、と蘭に言って、そのまま運ばれる。

 

「オレと蜜香のお下がりで悪いけど、バイオリンなら新品育てるよりも音が鳴りやすいはずだ。やってたんだって?」

「う、うん。ちょっと前まで」

 

 触んないと腕落ちるよ、とは蜜香に常々言われてたが、まさかこの姿になってまでやれると思わなかった。

 俺がこの姿ぐらいのときのは、もう家にもないから諦めていたし。

 

「オレと蜜香が使ってきたから、ちょっとクセついてるかもしれねーけど、この年頃ならまあまだ大丈夫だろ」

 

 3階にあがり、たぶん南泉さんが寝ていたのだろう部屋へ入ると、階下の音が全く聞こえなくなった。防音部屋なのか。これじゃ、あれだけ騒いでも起きてこないはずだ。

 普通のものより一回りか二回り小さなケースから、バイオリンと弓を出す。

 

「構えてみ」

「うん」

 

 構えると、大きさがちょうどいいのかしっくりくる。

 

「大きさはいいな。そのまま何か弾いてみるか。いくつか試しの譜面も持ってきたけど、いるか?」

 

 差し出された譜面のタイトルを見ると、有名曲ばっかりだ。

 

「じゃあこれ」

「おう、好きにやってみろ。譜面ここで見えるか?」

「大丈夫!」

 

 これならわかる、と蜜香に散々練習させられたタイスの瞑想曲を選ぶと、見やすいように南泉さんが置いてくれる。

 しゃがんだまま俺を見て、やってみろとばかりに顎でしめされた。

 

 一つ呼吸をして、弓をあてる。

 伸びやかに、穏やかに、一音を大切に、しっかりと。それから、楽しんで。

 蜜香に言われたことを思い出しながら弾く。

 ちょっと運指が間に合わず間違えたけれど、弾きおわると南泉さんが優しく笑っていた。

 

「これだけ弾けるなら十分。これから身体が大きくなってサイズが合わなくなるだろうけど、とりあえずはそれで凌げるだろ」

「本当にもらっていいの?」

「おう。オレたちじゃ手入れはできても、使ってやれないからな」

 

 俺が持つバイオリンのボディを、南泉さんが指先でなぞる。

 蜜香がよく、モノを長く大切に使う様を思い出した。

 

「ありがとう、大切に使うね」

「そうしてやってくれ。音を鳴らせたほうが、そいつも喜ぶ」

 

 ああ、この人もそうなのか。

 蜜香も翠星も、モノには心が宿ると言っていた。使っていた人の想いが、募るのだと。

 

「一通りこの中に手入れ道具はいれた。練習用の譜面もいれておくけど、音楽なんて楽しまなきゃ意味がない。好きにやれよ」

 

 バイオリンケースとは別のトートバッグを開いて見せてくれて、使い方はわかるか?と言われたので頷く。

 バイオリンを丁寧にしまって、ケースとトートバッグを渡されると、部屋を出てからまた抱え上げられた。

 

「ここの階段、急すぎてガキには危ねえんだよな。寝惚けてると落ちそうになるし。それ、ちゃんと抱えてろよ」

「う、うん」

 

 それで抱き上げられたのか。

 確かに段差が大きい割に足の置き場が短く、急だ。

 

 あいつ何考えてこんな階段つくったんだ……とぶつくさ文句を言う南泉さんの顔をみる。

 金髪だし吊り目だからパッと見はちょっと怖い印象を受けるけど、やりとりを見てると面倒見が良い人なんだろうな。

 

 階段を降りると、ちょうど戻ってきたらしい蜜香と鉢合わせた。

 

「ああ、バイオリン。忘れてた。大きさ合ってた?」

「おー、今でぴったり」

「そう。ちゃんと弾きなよ、コナン」

「うん、蜜香ちゃんも南泉さんもありがとう!」

 

 ふ、と少し目元の赤い蜜香が笑う。

 俺をおろした南泉さんは、俺の頭を撫でて、それから蜜香にポケットから何か投げ渡した。

 

「こないだ忘れてったリップ」

「ん、ありがと。どうせ引っ越すんだし、その時でも良かったのに」

「それお気に入りだろ。限定色とか言ってなかったか?」

「なんでそんなの覚えてんの」

「いつも使ってりゃわかるだろ」

「ね、ねえ、蜜香ちゃんと南泉さん、一緒に暮らすの?」

 

 そうだ、それが気になったんだった。

 見上げると、二人は顔を見合わせた。

 

「あれ、さっき言ってない、ね?」

「そういやそうか。明日から蜜香んとこにオレが転がり込むんだよ。そっちのほうがセキュリティしっかりしてるし、駐車場あるから」

「にゃんくんの部屋、大学は近いけどちょっと手狭だったし、防音がね」

「そもそもオレの部屋、単身者向けだしな。これから子ども仕込むならッテェ!」

 

 良いボディーブローが入った。蜜香の顔が赤い。

 

「子どもの前でそういう話やめてくれる?でもごめん、手加減できなかった」

「照れ隠しにしては凶暴すぎるだろ……」

 

 いや、今のは南泉さんが悪いと思う。俺もちょっと頬が熱い。

 

「結納と結婚式の話はするから、とりあえず先に戻ってて」

「う、うん……」

 

 蜜香に促されて、痛がってうずくまる南泉さんを残してリビングへ急ぐ。

 

 しばらくもらったバイオリンについて蘭に話していると、南泉さんと蜜香が揃って戻ってきた。蜜香の耳がまだ赤い。

 

「あー、明日から蜜香と一緒に住む。結納は来月、大安の日を選んで2日にわけてやる。仲人は長船がやってくれるらしい。入籍は来年の蜜香の誕生日に予定してるけど、早まるかもしんねえ。そのかわり結婚式は、身内とこいつの会社の関係と、仲間内とで3回やること確定してるから」

 

 もうそこまで話がすすんでるのか。

 

「はぁん、それで今回の誕生日、長船と仲間内でわけたのか」

「そういうこと」

 

 きゃあきゃあと結婚式の話題で女性陣が最後まで盛り上がっている。

 明るい雰囲気のまま誕生日会はお開きになって、南泉さんは最後に俺の頭を撫でた。

 

「翠星の誕生日、祝ってくれてありがとな」

「こちらこそ、バイオリンありがとう。蜜香ちゃんにはまた改めておめでとうっていうね。ご婚約おめでとうございます」

「おう」

 

 この人が優しい人なら良い。蜜香が好きで、仲間内にからかわれても否定しないこの人なら、蜜香のことを幸せにしてくれるだろうから。

 幼馴染の未来の幸せを願うくらい、今なら許されるはずだから。

 

 

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