とある双子の奔走劇   作:すぎざき凉子

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閑話:清生琥珀の結婚について②

 

 

 

 先日、翠星ちゃんがかなり焦って蜜香ちゃんに連絡を取ろうとしていた。

 

 口の中で何事かを絶え間なく呟き続け、かきあつめた蜜香ちゃんからの贈り物の宝石たちを握りしめ、ずっと祈り続けていた。

 その汗の量は凄まじく、翠星ちゃんが倒れてしまいそうなほど。

 

 ちょうどその時刻、蜜香ちゃんは意識を失っていたという。

 谷岡さんからの折返しで漸く目を覚ましたことに安堵の息をはいて、それから翠星ちゃんは山奥のあの屋敷に来たいといった。

 着の身着のままといったように車に連れていき、できるだけ急いで屋敷に足を踏み入れる。

 

 翠星ちゃんはフラフラとした足取りで、水垢離のために井戸へ行き、濡れた身体を拭くのもそこそこに祈祷部屋に入る。

 オレの入室が許されていないその部屋から翠星ちゃんが出てきたのは一時間後のことで、ひどく消耗していた。

 

「あの子がこんな無茶をするなんて……夢見を悪くしてやろうかしら……」

 

 恨みがましいと言わんばかりに低い声で呟き、風呂で温まってから翠星ちゃんがいつも使う部屋で寝た。

 数時間後、その部屋の前で土下座している蜜香ちゃんを深夜に発見してオレが悲鳴を上げるまで、翠星ちゃんは寝続けていた。

 

 翌朝、蜜香ちゃんはやっぱり翠星ちゃんに頭を下げ続けていた。

 翠星ちゃんの激怒ぶりが効いたのか、オレにまでとりなしをお願いしてきた蜜香ちゃんはかなり顔色が悪かった。

 送ってきたらしい谷岡さんも、蜜香ちゃん相手に静かにキレていたので、なにか相当なことをやらかしたことしかわからない。

 

 日が昇る頃には西山と連れ立って南泉さんも来た。

 蜜香ちゃんが現実逃避するように朝食を作って、動揺が酷いのか8人前用意して玖龍さんに怒られている最中だったため、涙目で歓迎していた。

 

「おまえがいきなりそんな無茶するから翠星が怒ってるんだろうが。自分が危険だった自覚あるのか?」

「うん……すぅちゃんにだいぶ助けられたこともちゃんと気づいた……」

「反省してんならもうやらねえよな?」

「それはわかんない」

「そこで素直に頷かねーところがおまえだよなぁ……。声掛けて来るけど、あんま期待すんなよ」

「悪いのは私だしわかってる。にゃんくんもごめん、心配かけたよね」

「いつかやらかすとは思ってたからオレはいいよ。まあでも、これに懲りたら少し自重してくれ。オレだっておまえを失いたくない」

「うん、ごめん、ありがと」

 

 南泉さんが来てからというものずっと縋りついていた蜜香ちゃんが、頭を撫でられると手を離した。

 蜜香ちゃんは水垢離と祈祷をすると外に出ていく。

 

 南泉さんが来た時点で、玖龍さんは会社に戻ると帰っていった。

 南泉さんと玖龍さんは面識があるんだな。それはそうか。姪の許婚、だもんな。

 

「やっぱり双子のケンカは龍惺サンか南泉サン頼るに限りますね~。ぜってぇオレ巻き込まれたくねーもん、玖龍サンも怒ってるときは特に」

「ああ、それで南泉さん呼んできたのか……」

 

 西山のあまりにもあけすけな発言に少し失笑してしまったが、どうも双子の喧嘩が長引くととばっちりを受けるのが大抵西山だったらしい。

 

「玖龍サンが仲裁入ってくれる時は完全に姫さんが悪いとき。これはほぼ無い。どっちもどっちのときは龍惺サンか南泉サン。完全にお嬢が悪いときは南泉サン、たまにどうしようもないと龍惺サン。覚えといたほうがいいッスよ、たぶんツネさんとばっちり来るんで」

「え、マジ?」

「あの双子、ケンカしてる間はお互いクチきかないんですよ。連絡すら取らない徹底ぶり。だから伝書鳩にされるんス。ああでも、ツネさんが姫さんところにいるなら、オレとツネさん経由になるから移動距離少なくなるな」

「そういうこと!?」

 

 う、うわあ……そりゃ西山が大変になるわけだ。

 見かねた南泉さんが双子が喧嘩したらいつでも呼んでいいと言ってくれるまで、拗れると龍惺さんが仕事の合間に来ていたらしい。

 そりゃあ南泉さんのほうが学生だから、時間に融通がきく。

 

「オレ、龍惺さんと面識ないんだけど大丈夫かな……」

 

 そう、いまだに龍惺さんとは面識がない。

 どうも向こうはオレを知ってるらしいが、蜜香ちゃんも忘れてるのか資料すらくれないんだよな……。

 

「あれ、連絡先入ってますよね?大丈夫ッスよ、そのうち向こうからヒョコッて来てくれるんで。デカいヌイグルミ抱えて」

「え……なに?なんで?」

「龍惺サン、双子のことまだ幼女だと思ってるトコあるんで。仕事のストレスたまるとゲーセンでデカいヌイグルミとってココに持ってくるんスよ」

「あのヌイグルミ部屋、それで出来上がったのか……」

 

 洋館の方にやたらファンシーな部屋があるなと思ったんだよ。

 統一性のないそこそこ大きなヌイグルミが詰まってる部屋だから、贈り物の類だろうなとは思ってた。

 

「お嬢たちがそれで喜んじゃうからいけないんですけど。お嬢がココに定期的にきてヌイグルミ選んで帰ってるの知ってます?」

「姫さんが抱きまくらにしてるのは知ってる」

 

 翠星ちゃんがあそこから2つ選んでは2つ戻し、と部屋のヌイグルミを定期的に入れ替えて抱きまくらにしているのは知っている。

 渡会だとそういった私物は一切置いていないから、ここでだけの趣味なんだろうと思っていた。

 両手に大きいヌイグルミ抱えて満足そうにしている翠星ちゃん、いつもより幼くて可愛いんだよな。

 

「姫さんはココ以外に持ち出さないんでまだマシです。お嬢、出張は絶対に持ってくんで覚悟しといてください」

「あのデカさのヌイグルミを?」

「はい。だからバック一個増えます」

 

 そっかあ……。夏休みに蜜香ちゃんの付き添いでシンガポール行き、決まってるんだよな……。

 

 公安の仕事があるから西山を差し置いて行かせてもらうんだけど、出張についていくのは今までなかった。

 玖龍さんに色々聞いておいたほうが良いかもしれない。特に出張中の蜜香ちゃんの扱い。

 

 蜜香ちゃんが祈祷部屋へ行ってしばらく、昼食を作っているところに南泉さんが台所へ来た。

 

「啓佑、双子寝たからおまえ帰っていいぞ。蜜香はオレが連れて帰るから、おまえも休め」

「やった!ドライブデート楽しんでくださーい。オレ明日の朝までフリーでいいですか?」

「おー、そうしろ。とりあえず夜まで連れ回すわ。あいつ最近仕事ばっかで休んでねえだろ」

「まあクソ忙しそうにしてたんで、寝れてないのは確定」

「だからか……お休み3秒なんて久々に見た。あいつどっち気に入ってたっけ、車」

 

 西山と南泉さんで別の車を運転してきたらしい。

 夜だからか、所有車の中でも比較的に色の目立たない銀色のコルベットとソルスティスを選んできたようだった。

 

「どうせならソルスティスにすれば?天気良いし、ルーフあけて海岸線とか。ちょうど横浜通りかかるくらいの時間帯なら夜景見れるし、雰囲気いいんじゃない?」

「おまえなに、自分の女にそうやってんの?」

「いるわけねーでしょ!お嬢のお守りしてんのに!」

「うはは!悪いな、あいつの世話押し付けて」

「南泉さんが溺愛するからあんななるんですよ、責任取ってちゃんと世話して」

「どうせおまえもカノジョ作ったら似たようなことすんだろ」

「南泉さんほどヤバくねえ自信はある」

「言ったな、覚えとけよおまえ」

「ほぼ紫の上計画成功させてる男よりは絶対ヤバくねえだろ!」

 

 面白いなこの二人の会話。

 一応南泉さんのほうが立場が上だから敬語らしきものを西山も使っているけれど、遠慮がない。

 というか、西山、紫の上なんて知ってるんだな……。

 

「あいつは最初からオレの好みだった」

「それ生後半年で判断する?何言ってんのこの人」

「なんでソレおまえが知ってんだ」

「姫鶴さんに聞いた」

「忘れろ!」

 

 放置してたらじゃれ合いはじめてしまった。

 

「こらこら、包丁あるからここではやめなさい。というか、埃が立つ。お嬢に叱られるよ」

 

 ぴた、と動きをとめた二人はスンと真顔になって昼食作りを手伝い始めた。

 本当に面白いな。

 

「それで?南泉さんはお嬢を生後半年で見初めたわけだ」

 

 3人だけで先に軽く昼食をもらう。

 翠星ちゃんはなんだかんだ言って蜜香ちゃんの手作り以外はほとんど食べないので、本当に3人分だ。

 朝食はきちんと、人数より多い分を蜜香ちゃんが食べた。

 

「え、その話続けんの……?」

「そう、聞いてよツネさん!南泉さんやべーの、名前聞いて並んで寝てる双子見て、コッチが琥珀っつって抱き上げたんだって!んでそれちゃんとお嬢なの!」

 

 南泉さんが眉間にしわを寄せて顔をあげると、隣の西山が身を乗り出した。

 

「それはすごいな、本当に?生後半年の双子なんてパッと見じゃ見分けつかないだろうに」

「愛のなせる技なんで」

「言うねえ〜」

 

 思わず感心してしまったが、本当に初対面で見初めたのか。

 こういうの、運命とでも言うのかな。

 

「カーッ、甘ったるっ。なんでそんなお嬢のこと好きなんですか」

「考えてもみろよ、あいつ以上に出来た女なんかいるか?家庭的なこと一通りできて、仕事もバリバリできて、あの容姿で、甘えてくるんだぞ。かわいいだろうが」

「要素だけ並べるとめちゃくちゃ理想の彼女じゃん。でもオレは相手がお嬢の時点で遠慮したい」

「ふざけんな、やらねーわ。あれはオレの女」

「知ってるぅ〜」

「ふふ、仲がいいね」

 

 西山との掛け合いが面白くて思わず笑うと、二人は顔を見合わせた。

 

「オレら一回、川辺で殴り合ってるから。マンガばりに」

「川辺っつーか、清生本邸でな」

「えっ」

 

 喋りながら食事を続ける二人は、乾いた笑いで当時のことを語ってくれた。

 

「いきなりさぁ、おまえが琥珀が連れてきたっつーガキかって声かけられて。見たら同い年くらいなの。オレもそんときは院あがりだし、ケッキサカンだったわけ。そりゃケンカなるよね」

「オレはオレで琥珀が外から男ひろってきたってきいて、マジで気に食わなかったから容赦なく殴りいったしな」

「たぶんお嬢が仲裁に入ってくれなかったらオレ死んでたわ」

「こんなん護衛にして大丈夫なわけねーだろオレにも負けんだぞ!ってあいつに食ってかかったら、当たり前でしょ今から育てんだよ!ってキレられてさぁ」

「そこでお嬢と南泉さんのタイマン見て、オレお嬢にも勝てねえんだなって理解した。ガチめに殴ってんのわかるのにお嬢負けてねーんだもん」

「あいつガキの頃の方が容赦なかったからな。オレも普通に負けてたし。今見てみろよ、大人しいもんじゃねーか」

「確かに。オレ殴られる回数減った」

「手合わせ勝てるようになったか?」

「一生無理」

 

 真顔で言い切った西山に南泉さんは肩を震わせている。

 

 というか、蜜香ちゃんと南泉さん、5歳差あるんだよな?

 それで殴り合いの喧嘩する南泉さんに言いたいことはあるけど、負けない蜜香ちゃんもすごいな。

 

「あいつ最近、オレとはガチのやりあいしてくれねーんだよな。テンションぶち上がってるときの、瞳孔かっぴらいて薄く笑ってる顔すげー好きなんだけど」

「趣味わっる!死神スマイルじゃん、どこがいいのホント」

「そっから楽しくなって頬染めて恍惚とした顔すんだよ、あいつ。花が開くみたいにすげー綺麗に笑うんだけどさぁ、乙女っぽくて可愛いんだよな」

「わっかんねー!南泉さんドMだったりする?」

「それを捻じ伏せるのが楽しい」

「ドSだったわ」

 

 オレもそれはわかんないかな……。

 ここで訓練してたときに一回やられたことあるけど、背筋に怖気はしったし、殺されるかもしれないと思った事だけは覚えてる。

 

「夫婦喧嘩とかしないでくださいよ、家壊しそう」

「やんねーと思うけど、するときは外でやるわ」

「警察に通報されるフラグ見えた。ちなみにステゴロだと勝率どっち?」

「ギリ勝ってるかなくらい。ほぼ同率」

「お嬢に完全勝利できんのって誰がいるんです?」

「翠星か千草くらいじゃねーかな」

「そら姫さん方には勝てねーわ」

 

 うーん、千草さんって翠星ちゃんとよく連絡とってるお嬢さんだよな。一度会ったけど、女子高校生と思えないくらい色気のすごい美人さんだった。

 双子もよく人生を狂わせる顔って言われてるけど、千草さんはなんというか、世界を従わせそうな美貌、みたいな。悪女顔ではないし優しい顔立ちなんだけど、たぶん周りが狂いそうなんだよな。

 言動が翠星ちゃんとよく似ていて、姉妹と言われても納得しそうだったのは覚えている。あちらのほうが一つ年上らしいし、だから蜜香ちゃん勝てないのか。

 

「でも安心しました、南泉さんはお嬢のことが本気でお好きなんですね」

 

 オレがそう言うと、南泉さんは複雑そうにこっちをみて、それからため息をつくように肩を落とした。

 

「そー、べた惚れ。あいつ以外はホント、考えらんねえ。だから今、すげー幸せ」

 

 仕方なさそうに笑っている南泉さんは、照れているのか少し頬が赤かった。

 

 

 

 4月3日、大安吉日を選んで清生龍応と一南泉の親子盃は交わされた。

 清生一家に迎え入れられ、南泉さんと蜜香ちゃんの婚約がわかりやすく明示される。

 

 これにより、今後、裏社会の動きが活発になっていくことになる。

 

 

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