とある双子の奔走劇   作:すぎざき凉子

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映画第一弾


巻き込まれる双子
摩天楼①


 

 

 

 建築家、森谷帝二から工藤新一宛の招待状を受け取った俺は、毛利家に代理を頼み江戸川コナンとしてガーデンパーティに参加した。

 

 蘭が森谷さんから食事をすすめられ、用意された軽食すべてが手作りときいて驚いていたところだった。

 

「てーじせーんせっ!ご無沙汰しておりまーす!」

「おお、蜜香くん、谷岡くんも。来てくれないかと思ったよ」

「やだなー、遅れるって先にご連絡したでしょ?てーじせんせーのお誘いを無碍にしたりはしませんよ」

「遅れて申し訳ありません」

 

 えっ、蜜香?

 森谷さんと軽くハグと挨拶のキスを交わすのは、俺たち幼馴染一番の問題児、渡会蜜香だった。

 後ろに秘書の谷岡さんもいるってことは、今日は仕事での招待か。

 

「これお土産。いーいダージリンのファーストフラッシュ手に入ったの!紅茶、お好きでしたよね?」

「また高価なものを持ってきてくれたましたね。何がおねだりしたいんだい」

「せんせーってば、いっつもそれぇ!好意くらい素直に受け取ってくださいよォ」

「はは、ありがとう。嬉しいよ」

 

 随分と親しげに話しているが、顔見知りだったのか。

 

「みっちゃん!」

「え?リラちゃん?」

 

 蘭が声をかけると、蜜香が珍しく本気で驚いた顔をした。

 

「おや、蘭さんは蜜香くんと知り合いかね」

「あ、幼馴染なんです。新一……工藤くん含めて」

「幼稚園から高校までずっと一緒なんですよ。リラちゃんはどうしてここに?」

「新一が招待されてたんだけど、代理で行ってくれって頼まれて」

「イッくん?」

 

 蜜香は、ちら、と視線を泳がせて俺を視界におさめると森谷さんに視線を戻した。

 

「ふーん?せんせー、工藤新一と面識あったんですか?」

「ふふ、いやなに、噂の青年と御近付きになりたいと思ってね。そういえば蜜香くんと同い年だったか。世間は狭いな。いや、蜜香くんの交友関係が広いと言うべきかな?」

「アタシが普通の高校生より特別、精力的に動いてるのは認めますよ。これでも一国一城のヌシですからね。まあでも、この場合は世間が狭いんでしょうねー」

 

 ははは、と軽く笑い合う森谷さんと蜜香の横で、谷岡さんは蘭に会釈すると毛利のおっちゃんに声をかけにいった。

 谷岡さん、おっちゃんとも顔見知りだったか。

 

「さて、お客様も揃ったことだし余興でもどうですか」

「余興?」

「そう、クイズです」

 

 そういって森谷さんから配られた紙を、蘭と一緒に覗き込む。

 制限時間は3分、とのことでみんな一緒に解き始めるが、わからないと投げる人が多い中で、「はーいわかった!」「私も」と二人手が上がった。蜜香と谷岡さんだ。慌てて「ボクも!」と俺も手を挙げる。

 

「おや、3人も。ではせーのでどうぞ」

「せーの」

「「「モモタロウ」」」

「おお……正解です」

「いえーい」

 

 蜜香がハイタッチを求めてきたのでグーパンで返した。

 こいつ俺が解けるタイミング狙ってやがったな。くそ、負けた。

 

「では正解者の方にはご褒美を。私のギャラリーにご招待しましょう。蘭さんもどうぞ」

 

 案内されて屋敷の中にはいると、蜜香のテンションが上がりはじめたのがよくわかった。わかりやすくソワソワしている。

 

「やっぱりせんせーだから内装もこだわってるよねえ。いいなぁ、この絨毯」

「ああ、蜜香くんの洋館に似合いそうですね。いいですよ、ダージリンファーストフラッシュに免じて業者を紹介しましょう」

「もー!せんせーすぐそうやってからかう!それはそれとして紹介してほしいです!屋敷にはもう敷いちゃったけど、新しくするときに使わせてもらいますよ」

 

 洋館?屋敷?こいつまた家建てたのか?

 いや、海外の別荘のことかもな。確かハワイとイタリアとイギリスとオーストラリアにそれぞれあるはず。

 去年シンガポールに行ってたのは確か出店しただけで、部屋は買わなかったって言ってたから。

 

「おや、それは残念。ああ、また別荘に伺ってもいいかな。キミのローズガーデンは素晴らしいから参考にしたい」

 

 別荘、ローズガーデン。やっぱりイギリスの別荘のことか?

 確かに蜜香のイギリスのローズガーデンは綺麗だった。

 豪華な感じじゃなくて、こじんまりした温かい家庭で、丁寧に手入れされている民家のローズガーデンって感じの。

 蜜香は「せっかくイギリスなんだから、妖精の庭にしたい」とかファンタジーなこと言ってて、蘭と園子から賛同受けてたな。翠星は珍しく肩を震わせて爆笑していた。

 

「せんせー、ローズガーデンもつくるんですか?あんな辺鄙なところでいいなら、いつでもどうぞ。でも、折角いらしてくださるなら、洋館の方ばっかりじゃなくて母屋も見てって下さいよォ。年末に新しい襖を描いたんで、見ていただきたいんです。結構自信作だから」

「それはそれは、是非とも伺わなければ。キミは本当に多彩だから羨ましい」

「節操なしって言ってくださって結構ですよー」

 

 母屋に襖……?じゃあ違うな。蘭に訊けば知ってるか?

 つーかこいつ美術が好きなのは知ってたけど、襖まで自作してんのか?すげーな、いつそんな時間あんだよ。

 

「本音を言えば、本格的に建築においでと言いたいんですがね」

 

 そういえば蜜香は、建築にも造詣が深い。

 自分の店を建てるときに、図面をひいたあとで建築士に見せて確認したときくくらいだ。

 もしかして建築の師事を森谷さんに受けたことがあるのだろうか。

 

「せんせーにお誘い頂けるとは光栄だな。会社を谷岡に任せたら弟子入りさせてください」

「だそうですよ、谷岡くん」

「冗談はよしてください、社長。私ではあの癖しかない社員をまとめるのは無理です」

「社長からしてクセしかないからねー!」

「自分で言いますか」

 

 テンポのよい会話と内容から、やはり蜜香と森谷さんは、谷岡さんも含めてそれなりに親しいようだ。

 蜜香が別荘にまで招待してるとなると相当なんだろう。

 

「どうぞ、こちらがギャラリーです」

「うわー!すごい、せんせーの作品がずらっと」

「コナンくん見える?」

「うん」

「よろしければ抱き上げましょうか、坊や」

「だいじょーぶ!」

 

 谷岡さんからの好意をちょっと恥ずかしいので断り、ニヤついている蜜香をとりあえず睨みつけて森谷さんの作品写真をみる。

 ときどき説明をうけながら眺めていると、先日行った黒川邸と蘭に誘われた米花シティビルがあった。

 

 あ、やべ。誕生日のこと忘れてた。

 蘭に押し切られて映画を観に行く約束しちゃったんだよな……。

 

 蘭と森谷さんの話を器用に片眉だけ跳ね上げて聞いていた蜜香と目が合う。

 ぜんっぜん、目が笑っていない顔で、にんまりと口の端だけあげられた。

 わかってるよちゃんと断るよ……。

 

 なんか余計なこと言い出しそうだから別の話題にしよう。

 

「蜜香ちゃん」

「んー?」

 

 話しかけるとしゃがみ込む。

 

「蜜香ちゃんもこういうお屋敷、建てたことあるの?」

「ん?ああ、来たことないか。岐阜の山の中にね。山一帯全部私有地だから、普段はそこで車乗り回してんの。今度コナンもおいで、何もないところだけど景色だけは保証するよ。こだわったからな」

 

 あー、しばらく海外行ってねえのにどこで車乗ってんのかと思ったら私有地。……は?

 

「蜜香ちゃん、もしかしてまだあれ以上に車持ってるの!?」

 

 間。

 

「ないないないないない!やめてくれそのすぅちゃんに怒られそうな勘違い!岐阜に恒常で置いてるのはレディだけ!あとは全部あの魔改造ガレージにある!」

「ああ……びっくりした……フェアレディZ、どこに置いてあるのかと思ったらそこだったんだね」

 

 二人して焦ると、後ろから笑い声が聞こえた。

 森谷さんと蘭が笑っている。

 谷岡さんは真顔。整った顔の真顔は怖い。

 

「蜜香くんはコナンくんとも相当仲がいいのだね。こんな小さな子にまであのコレクションが知られているのか」

 

 やっぱり蜜香のあの車好きは知られてるよな。

 蜜香の趣味を上げると、真っ先に食べ歩きと車が出てくるから。

 

「いやぁ、コナンだけですよ。本当に勘弁してくれ、この間の一件からずっと怒られ続けてるんだから……」

「おや、また車を買ったのかい?」

「いえ、親戚から乗り潰す用にって国産車……スカイラインと、海外の別荘用にフェラーリを貰ったんですけど、姉に言ってなかったのがバレて……」

 

 パワーワード過ぎないか、乗り潰す用に国産車。魔改造ガレージも大概だが。

 そっか、フェアレディZは乗り潰す用なのか。確かに珍しく国産車だなと思った。

 蜜香はロボット映画に出てくるアメ車が好きで集めてるようなもんだしな。

 だからって塗装まで合わせるのはさすがにどうかと思うが。

 

「スカイラインどこに置こうかなって悩んでんだよねー……」

 

 ほれ、と俺を抱き上げて蜜香が上からジオラマを見せてくれる。

 へえ、すげー。綺麗な左右対称だ。

 

「Zと一緒に置いておかないの?」

「うーん、にゃんくんがマンションに置いとけばって言ってて」

 

 ああ、南泉さんは免許持ってるのか。

 まあ蜜香の趣味に合わせたらそうなるよな。

 

「南泉さんは車持ってるの?」

「めっちゃ白いレクサスのスポーツクーペ乗ってる。良い車なんだけど、にゃんくん乗ってるとなぁんか厳ついんだよねー……」

 

 それは乗ってる人が南泉さんだからそう見えるだけでは?

 南泉さん、見た目金髪だし、細身だけどしっかり鍛えてる身体してたし。服装の好みにもよるだろうけど。

 

「スカイラインも大して変わらないと思うよ。クーペってことは二人乗りなの?」

「うん」

「じゃあスカイラインは4人乗れるだろうし、お友達と遊ぶ時用にマンションに置いておけば?」

「そうしよっかな。つーかキミ、そんな詳しかったか?車あんまり興味なかったよな」

 

 見終わったと判断したのか、蜜香は俺をおろしてまたしゃがんだ。

 

「最近覚えた」

「へえ、なに、興味出てきた?乗りにくる?」

「絶対に蜜香ちゃんの運転する車とバイクには乗りたくない」

「なんでよ、そんな危ない運転しないんだけど」

 

 ホントかよ。おまえ絶対かっ飛ばして遊ぶタイプだろ。

 

「蜜香ちゃんわざとドリフトしそう」

「は!?隣にヒト乗せてそんな危ない真似するわけねーでしょ!下手すりゃ首いわすのに!不名誉!」

 

 ギョッとした顔で本気で驚いている蜜香に、マジでやらないのか、と首を傾げる。

 

「蜜香ちゃんドリフト走行好きそうなのに」

「できるけど滅多にしねーわ。そこまで運転に自信ないし、普通に走らせてあげるだけで満足だよ。第一そんな振り回してたら車が可哀想でしょ。ただでさえあのコたち、部品の輸入に手間取るから、万一不具合出てもすぐに治せないのに。可哀想すぎて無理」

「あ、そっか。蜜香ちゃんはそうだよね」

 

 痛そうな顔で首を横に振る蜜香に、そういえばモノは長く大切にするタイプだったな、と思い出した。

 名前つけて可愛がってるくらいだし、そりゃ蜜香はやらねーか。

 

「もしかしてだけど、おたくのお母さまがそういうタイプ……?」

 

 小声でなんとも言えない顔をしてきいてくるので、頷く。

 

「マジか、そうなんだ。こわ、一生乗らんとこ」

 

 はわ、みたいな声を出して痛そうな顔をする蜜香に、本当にこいつモノへの思い入れが強いなと眺める。

 

「みっちゃん、どうしたの?」

 

 蜜香があまりにも嫌そうな顔をしていたからか、蘭が顔を覗きにきた。

 

「コナンに濡れ衣きせられた……」

「語弊!ごめんね!」

「でも確かにあんなスポーツカーばっかり集めて乗りまわしてたら誰だってスピード狂かドリフト魔だろうなって思うよね……」

「おねがい蜜香ちゃんガチ凹みしないで、蜜香ちゃんが安全運転なの納得したから」

 

 ちょっと肩を落とした蜜香が、ふらふら立ち上がって谷岡さんの手を握りにいき、あれマジで凹んでんな、と翠星に怒られることを覚悟した。

 

 

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