とある双子の奔走劇   作:すぎざき凉子

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摩天楼②

 

 

 

 そして5月3日。

 機械を通した声で、東洋化学からオクトーゲンを盗んだ犯人から電話がかかってくる。

 

 目暮警部には阿笠博士に電話してもらい、あとは、蜜香!

 センターボタンと電源ボタンを二回ずつ、3秒以内だったよな。緊急コールがつながったかわからないがそのまま叫ぶ。

 

「蜜香ッ!手を貸してくれッ!」

 

 阿笠邸から飛び出し、まずは緑地公園。事情をそのまま説明しながら向かう。

 ラジコン飛行機につけられていた爆弾はどうにかし、次にかかってきた電話でしくじって犯人に相手が子供だとバレてしまった。

 

 米花駅で時間をロスし、猫の入ったケースをおばあさんに持っていかれてしまう。

 スケボーで急いで追いかけるも、先程投げてしまったときにどこかにぶつかって壊れたらしい。

 

「くそっ」

「コナン!舌噛むなよッ」

「うぇっ!?」

 

 ブオン、とバイクのエンジン音が聴こえたと同時に腹をぐっと持ち上げて抱えられた。

 

「蜜香!?」

 

 振り返るとフルフェイスヘルメットでわかりにくいが、助けを求めた幼馴染だった。

 

「いーから、どの車?」

「あのタクシー!追いかけてくれ!」

「任せな、しがみついてろ」

 

 じゃあ腹側に乗せんなよ!

 慌てて跨りバイクにしがみついた。

 

「カーブの先で停める、オフロード持ってきて正解だったな」

「俺ノーヘルなんだけど!?」

「歯ァ食いしばりな!口開けてっと舌噛むぞぉッ」

 

 ガッと段差でウィリーして飛んだ蜜香は、ちょうどタクシーの前に飛び降りた。

 蜜香の体幹がしっかりしすぎてるのと馬鹿みたいな筋力のおかげで、俺にほとんど衝撃が来なかったのが怖すぎる。

 つーかこいつ、片手で飛んだのか。

 

「危ないだろ!」

「ごめんなさーい!アッ、お怪我ないですかぁ?」

 

 降りてきた運転手の気を蜜香が引いている間にタクシーに乗り込み、おばあさんから猫の入っていたケースを貰って確かめる。やべ、あと30秒もない!

 

「蜜香ッ!あと25秒!」

「叫ぶ前に寄越せよバカ!運ちゃんマジでごめんね!」

 

 走り寄ると首根っこをひっつかまれてまた乗せられる。

 あれ、タイマー止まった!?

 

「蜜香、タイマー止まった!今のうちに!」

「だぁから舌噛むから口開くなっつってんだろ!この先空き地だから突っ込むぞ!」

 

 走り抜けて着地し、バイクをそのまま転がした蜜香は俺を抱えてケースを投げた。

 

「耐衝撃体勢!」

 

 ぐっと抱え込まれ、俺も頭を抱える。

 爆風に煽られて転がった蜜香は、それでも俺を庇いきった。

 風が収まると俺を上側にした蜜香は、大の字に寝ころがった。ぴくりともしなくて、慌てて上から退く。

 

「蜜香、大丈夫か!?」

「……あー、マジで命いくらあっても足りねーだろこれ……」

「巻き込んでごめん」

「謝れなんて言ってねーよ、一人でなんとかしようと思わなかっただけ重畳。よく連絡してきたな」

 

 腹筋だけで起き上がった蜜香は、ヘルメットを脱いで少し頭をふると、俺の頭を雑に撫でてライダースからスマートフォンを出した。

 こいつ、俺が同級生なこと忘れてないか?

 

「目暮さーん、暴走したガキンチョ確保したら爆弾がボンした、バイク大破したから迎え来てー」

「もうちょっと言い方あるだろうがよ!」

 

 あっ、やべ普通に叫んじまった。

 まあでも、なんとかなったんだなと体から力が抜けた。

 

 迎えに来た目暮警部には無茶したことをすごく怒られたが。

 

「なあ、ごめんな、バイク」

 

 病院で一応検査をうけ、掠り傷の手当をしてもらう。

 蜜香が庇ってはくれたが、腕に擦り傷が出来ていた。

 

「ふふ、いい女だったろ?一目惚れだったんだ」

 

 そう言って目を細めた蜜香は、すごく優しく笑っていた。

 現場検証が終わったら、壊れたバイクを引き取るという。

 目暮警部が迎えにくるまで、ひしゃげてしまった車体を撫でて「ありがとう、おまえに会えてよかった」と告げていた姿を思う。

 

「あのコがアタシらを守ってくれたから、こんな軽症で済んだんだよ。だから、あのコに感謝してくれればそれで十分」

 

 蜜香も軽い打ち身で、あざが少しできる程度だと言った。

 アタシは大丈夫、と俺の診察を優先させて、軽い触診を受けた程度で終わらせている。

 

 その間、蜜香は事情を代わりに説明してくれたらしい。

 病院の中庭で事情聴取が始まった。

 

「で、イッくんにブチギレて説教しようにも、とりあえず先にコナンの安全確保でしょ?仕方ないから頑張ったわけですよ。おじちゃまぁー褒めてー」

 

 毛利のおっちゃんに向かって頭を差し出して撫でられ待ちをした蜜香に、おっちゃんがわしゃわしゃと犬を褒めるように撫でる。

 

「よくやった、蜜香は本当によくやった」

「やったー!ところでさぁ、なんでコナンがイッくんのスマホ持ってんの?」

「あーッ!それはね!?新一兄ちゃんが阿笠博士に預けててね!?」

「ふーーーーーん?へえ〜〜〜〜〜?」

 

 くっそ、仕返ししてきやがったこの女!

 完全に目が愉悦に歪んでやがる。

 

 子どもたちと目暮警部、それに阿笠博士まで集まっていた。

 

 俺は初めて会う白鳥警部補に挨拶し、ベンチに座っていた蜜香に近寄るとヒョイッと持ち上げられて隣に座らされた。

 

「……蜜香さんはお名前的に渡会のご出身でしょう。政界以外では珍しいですね、そこまで大胆に名を売られるのは」

 

 す、すげえ踏み込むな白鳥警部補……。蜜香の地雷ギリギリだ。

 

「母方の姓なんですよ。双子の姉がそちらに取られましてね、渡会を名乗るのは嫌がらせです。あの家のこと、大ッッッ嫌いなので」

「……では、あまりご親族とは仲良くないのですか」

「おや、渡会にご興味が?ああいった手合がお好みなら場を設けますよ。縁談がお望みで?」

「いえ、そういうわけでは。公卿と縁付けるほどの家格は白鳥家にありませんので」

「家格!家格ときましたか!ははっ」

 

 あ、蜜香のスイッチが入ったなこれ。

 白鳥警部補に向ける笑顔は完璧な営業スマイルだった。

 

「確かに白鳥という名は寡聞にして存じ上げませんね。新しいお家ですか?それにしては旧家を随分と敬ってくださる」

 

 白鳥警部補の口元がひくついた。

 この構文は聞いたことある。

 訳すとするなら「無名の成り上がりのくせに旧家の真似して恥ずかしくないのか」、あたりだろ。

 

 双子のよく言う『お上品で遠回しな悪口』って、実際に通じるもんなんだな。

 上流階級の出身者ほどよく効くって言ってたけど、本気にしてなかった。蜜香が喜々としてオヤジとやりあってる時もそんな感じだし。

 

 話は俺の解いた事件に移り、西多摩市の岡本市長の交通事故の一件へ。

 

「あー、アレか。イッくんから聞いたとき、なんでシガーソケットのことなんか高校生が知ってんだよって思ったな。車にあんま興味ないくせに、そういうビミョーなとこ知ってるよね。ねー、優作おじちゃまってタバコ吸うっけ?」

「知らん、俺に聞くな。……おまえは吸ってねえよな蜜香」

 

 おっちゃんのその言葉にギョッとした蜜香は首を振った。

 

「法令は遵守してますけどォ!?やめてよね、ただでさえ突かれやすい身なんだから!」

「ノーヘル」

「助けた人間に対していい度胸じゃねーかァ、このクソガキ」

「痛い痛い痛い!」

 

 ガッと頭を捕まれギリギリとアイアンクローをうけた。

 やめろおまえ馬鹿力なんだから!

 

 事情聴取も終えた子どもたちが帰り、白鳥刑事も調べ物のため立ち去る。

 

 そこに電話が鳴り、犯人から電話がきた。

 スピーカーにしておっちゃんが相手になると、工藤新一に執着している様子が見られる。

 『東都環状線の✕✕の✕』、なんだ……?

 

「うーわ、イッくん面倒なのに粘着されてんじゃん。だァから首突っ込むのはいいけど、引き際見極めろよって忠告してやったのに。バッカだねえ~」

 

 お、おい。まだ電話切れてねーんだけど。

 

『誰だおまえは』

「よ、ごきげんよう犯罪者ァ。こんな大胆なことするのはド素人サマだよなぁ?じゃ、アタシのことは知らねーかな。清生琥珀っつーんだけど」

 

 えっ?

 雰囲気のガラッと変わった蜜香は、全身から威圧感が漏れている。

 ニッ、と口角をあげて歯を見せて、獰猛に嗤う。

 

『清生琥珀……?』

「ああ、やっぱ知らねえか。龍桜会清生一家、若頭の清生琥珀だ。巷じゃァ龍桜会の死神とか御大層な名前で呼ばれてるな。アンタは誰に喧嘩売ったかご存知ねーようだから忠告するが、今回の件は龍の逆鱗に触れた。シマァ荒らすヤツにゃ容赦しねえ、それが龍桜会の流儀だからよォ。今日中にアンタのツラ拝ませてもらうから、首括る覚悟しときな」

 

 息が止まるかと思うほど重苦しい威圧感。

 これが、清生琥珀。

 

『ふん。それじゃあ頑張れよ、毛利名探偵、清生琥珀』

 

 すぐに電話は切れたが、蜜香の雰囲気は怖いままだ。無表情で不機嫌げな蜜香の視線はスマホに固定されている。

 目暮警部が蜜香に声をかける。

 

「お、おい蜜香くん……」

「清生を動かす。こんなときにサツもヤクザもねーだろ。東都環状線の爆弾はたぶん車内でも車体の下でもねーよ。5個も設置したなら、たぶん線路の方だ。設置されてた場所は後で詳しく教えてくれ。コナン、できるな」

 

 蜜香はちょうど来た西山さんを目に止め、立ち上がる。

 

「えっ!?蜜香ちゃん!どうして線路だと思うの!?」

 

 慌てて引き止めると、蜜香はく、と口の端をあげた。

 

「走行速度を時速60kmに指定してるなら、普通に考えりゃセンサーは車外だろ。車内じゃ速度を測るのは難しい。それに、車体に爆弾を設置するのは、専門知識がないと意外と難しいもんだぜ。なおかつ素人と考えりゃ、設置しやすく忍び込みやすい線路が妥当だろ。監視カメラもついてねーしな」

「それだよ蜜香くん、なぜ素人の犯行だと?テロの可能性もあるだろう」

 

 目暮警部を視線だけで捉え、スッと目を細めた。

 

「それはねーわ。用意は周到だが、素人特有の詰めの甘さがある。ヒントを出しすぎてるあたり、自信は透けて見えるが人殺しを楽しむようなタイプでもなさそうだ。殺しを楽しむようなのは爆弾なんて甘っちょろいもん選ばねーし」

 

 ば、爆弾を甘っちょろい……。

 

「それに、テロが目的ならもっと人を殺すように動くだろ。規模がちゃちすぎてハナシになんねーよ。あんだけのオクトーゲン盗んどいて、これっぽっちの被害規模だ。アタシがやるならもっと派手な花火にするね。主張するようなメッセージ性もねーし、そこに目的はない。ということは、本当に狙いは工藤新一とみていい」

 

 一つ一つ上げていく理由は、犯罪者側からの発言だ。

 

「あとは複数犯の可能性だけだが、東洋化学から盗んだのは単独犯だろうというのが清生の見解。これは詳しく聞くな、裏の伝手だ。一番手間がかかって難易度が高い窃盗が単独での犯行なら、今回の一連の過程は一人でやってるもんだろう。イマドキ単独犯で爆破なんて大それたことやるのは、素人サンだけなんだわ。プラスチック爆弾くらいなら素人でも作れるしな」

 

 ポチ、と呼びかけてその場で服を脱ぎ始める。

 俺たちは慌てて目をそらしたが、チラッと見えた肌の白さに顔が赤くなった。

 

「アーッ!?お嬢本当にちょっと、恥じらい覚えて!?」

「うるせー、今更でしょーが。アタシのハダカくらいでぎゃあぎゃあ言うんじゃねーよ、インナーくらい着てるわ」

「オレはいーけど周りがさぁ!ここ中庭!公共の場!あと南泉さんにオレが殴られる!」

「あっ、そうだね、にゃんくんこういうの怒るね。目暮サンたちには見苦しいもの見せてごめんね?もーいーよー」

 

 言いながらも着替えた蜜香に視線を戻すと、髪を結んでいた。

 

「さて、目暮サンは東都環状線のほうをどうにかしてもらうとして、イッくんには犯人どうにかしてもらうか」

「どこにいくのかね蜜香くん!」

「もう一箇所爆弾仕掛けられてる可能性がある場所、探してくるわ。あったら連絡するから、じんぺークンのスマホあけさせといて。今日出てたよな?」

 

 おもむろに立ち上がり、蜜香はひら、と手を振った。

 

「ど、どういうこと?蜜香ちゃんもしかして犯人の目星ついてるの!?」

「犯人はまだわかんねーけど、やりたいことはなんとなくわかるよ。蛇の道は蛇っていうだろ。素人の考えでも、ある程度は想像がつく」

 

 く、と口の端をあげた蜜香は、俺の頭をガシガシ撫でた。

 

「コナン、イッくんに言っといて。蜜香ちゃんマジギレしてるからら戻ってきたら肋骨二本貰うねって」

「え!?」

「おまえにアダムは早すぎる」

「待って待って待って!アダムなら取りすぎ!あと意味がわからない!」

「じゃ、環状線はよろしく頼んだよ。行くぞポチ」

 

 そう言って蜜香は出ていってしまい、目暮警部は慌てて電話をかけだした。

 

「蛇の道は蛇って……」

「好きにさせとけ、あいつなりに考えがあるんだろ」

 

 おっちゃんがため息をついて頭をかく。

 

「蜜香くん、本当に変わってしまったな……」

 

 阿笠博士が呟くのを、どこか心が痛くなりながらきいた。

 

 

 

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