「俺ちょっと出かけてくるわ」
「あ?おいハギ」
初任補習のため警察学校に戻った俺たちは、また鬼塚教場の面子で集まっていた。
もちろん、陣平ちゃんもいる。
「最近付き合い悪くねーか、おまえ。何そんなに頻繁に外出してんだよ」
「ん〜……まぁ陣平ちゃんだからいいか。女の子搜してて」
「あ?女ァ?」
「うん、小学生なんだけど」
「待て待て待て待て」
完全に血の気が引いた顔をした陣平ちゃんに、やっぱり巻き込めないよなぁ、と思う。
いや俺だってヤベーと思ってんのよ。
「交番にいたときに仲良くなった子でさ、最後ちゃんと挨拶できなかったんだよ。だからどうしてるかなーと思って探してんだよ」
「いやおまえその……ダメだろ小学生は……」
「まーでもあの美少女がそこらへんの街中をふつーに歩いてるとは思えねえんだよな」
お嬢だし、さすがに送迎くらいはしてんだろ。
帝丹小学校に通ってんのは知ってるんだよな、教えてくれたから。でも出待ちするわけにいかねーし、どうすっかな本当に。
「ま、だから会えねーかなーって思いながらそのへんブラついてくるだけだよ。じゃあねー!」
「マジかおまえ!」
なんか今日は会える気がする!そういう勘って大事だよな。
最後に会った日もそうだったし。
下手な尾行してくる四人を放置して、俺は気の赴くまま散歩することにした。
陣平ちゃん何あいつら巻き込んでんだよ~。
☆
「みっちゃん、歌ってよぉ。いいでしょ?」
「いいよ、いいけど、学校じゃダメだったのぉ?リラちゃんさぁ、外でみぃと一緒にいないほうがいいってばぁ……。話聞いてよぉ」
「ダメ!今日は私と遊ぶの。みっちゃんそういって学校でも遊んでくれないじゃない」
「もぉ〜……ちょっとそこのサッカー馬鹿、ボールとお友達してないでリラちゃん止めて」
「ムダだろ、諦めろ」
「イッくんマジそーいうとこホントどうかと思うよ。まずボール蹴るのやめろ奪うぞ」
「は?やってみろよ」
「言ったなぁ?歌いながら奪ってやる。リラちゃんカバン持ってて、みぃちょっと本気出してくるね。歌何がいい?リクエストある?」
「えっ、もー!じゃあみっちゃんが得意なやつ!」
「激しいのでもいい?」
「いいよ」
「任せて、イッくんよりリラちゃん夢中にさせてみせるから」
「なんでそこでオレが出てくんだよ!」
「リラちゃんに絶対みぃのほうが格好いいって言わせる」
「ふっざけんなおまえ!オレを巻き込むな!」
サッカーゴールがある広い運動公園、俺たちもここで遊んだことがある。確か野球やったな。
風にのって聞こえてきた声は、聞き覚えがある。
「“One,Two,Three,Four,Five.We are countin' just like this.”」
「みっちゃんバングルも外すの?」
「げぇっ、マジで本気かよっ!」
「“ひ、ふ、み、よ、いつ。We are dancin' just like this.”」
「おいおいおいおいおまえそれマジか足のも外すのかよ!」
「あーあ、新一がみっちゃん煽るから」
「“One,Two,Three,Four,Five.We are countin' just like this.”」
「おわっ、はっや、体育の授業で手抜いてたのか!」
「そういえば足のバングル外してるの初めてみたかも」
「“ひ、ふ、み、よ、いつ。We are dancin' just like this.”いくよッ」
フェンス越しに見つけた蜜香ちゃんは、不敵な笑みを浮かべて男の子からボールを奪おうと接近する。
歌いながらでも軽やかに動き、男の子からのフェイントに引っかかることなく軽々とボールを奪って見せた。
奪い返そうとする男の子を交わし、ボールに一切触らせずリフティングの要領で持ち上げ、男の子の頭上を通過させたりしながらゴールへ持っていく。
そのままゴールを決めた蜜香ちゃんは、ラストを歌ってくるりと回転しお辞儀をした。
よ、余裕そ~。男の子めちゃくちゃ息切れてるけど蜜香ちゃんは荒げてすらいない。
「だァッ!蜜香ァ!おめー本当に次の体育覚えてろよッ」
「リラちゃん見てたー!?イッくんよりかっこよかったでしょ!」
「見てたよー!みっちゃん次可愛い歌歌って」
「エッ、あっ、はい」
「おわッ、ボール投げんな!サッカーボールなんだから蹴ろよ!」
ああ、学校でいつもお話しするお友達って言ってた子たちか。リラちゃんとイッくん、うん、そうだ。幼稚園から一緒なんだっけ。
「可愛い歌ってなに……?全然思いつか……あっ、わかった思いついた。リラちゃんに見惚れるイッくんやります」
「は?」
「え?」
「いくよーっ、断然、君に恋してる!」
「は!?」
蜜香ちゃん、完全に男の子からかって遊んでるなアレ。
なんだ、すげー楽しそうじゃん。良かった、笑ってる。
つーか歌上手い上に、踊れるのか。アイドルとか向いてんじゃねーかな蜜香ちゃん。
「すごーい、みっちゃん可愛い〜っ!」
「リラちゃんありがと♡」
「んで、なんでそれがオレなんだよ」
「一曲丸々ちゃんと見てくれたわりに感想がソレ?もっと他に言うことあるでしょ」
歌い終わって戯れ始めた子たちを見て、帰ろうかな、と振り向くと、同期たちが揃っていた。
「おい、萩原。おまえマジで小学生追いかけてたのか」
「ん?おお、やっと出てくる気になったの?」
「気付いてたのかよ」
「そりゃ気付くでしょ、おまえら隠れてる気あった?」
諸伏と降谷のペアと陣平ちゃんと班長のペアで分かれて行動してたからか、諸伏と降谷ペアは何回か女の子に声を掛けられてのが見えていた。
陣平ちゃんと班長は遠巻きにされてたから、それでもわかる。
「ま、いいや。俺が探してたのはあの子。今踊ってた子が蜜香ちゃん。可愛いでしょ、関東龍桜会清生一家の組長さんの孫娘なんだって」
「「「「は?」」」」
「はは、すげー顔。マヌケヅラ〜」
一斉に俺を見たコイツらは、蜜香ちゃんを二度見した。
俺も踊っている蜜香ちゃんを見る。
「あの子さぁ、犯罪被害者でもあるんだよ。両親を放火で亡くしてるんだ。火事で生き残ったのは、彼女と双子のお姉ちゃんだけ。そのお姉ちゃんは母方の親戚に引き取られて、仲良しの双子は離れ離れ。火事で思い出は全て焼けて、唯一残った思い出は家族で遊んだ公園だけ。で、その公園が」
「萩原が研修してた交番の区域だったわけか」
「なんでわかんのォ……」
降谷ちゃんが言葉を引き継ぎ、諸伏ちゃんが肩を叩いてくる。
「でぇ?萩原はそれであの子に出会ったのか」
「あー、ハギはそういうの引っ掛かるよなァ……」
「だからっておまえ……」
陣平ちゃんが半目で頭をかく。班長は呆れていた。
「わかってるよ、大丈夫。でもさ、あの子はまだ一般人だろ」
そう、まだ一般人なんだ。
蜜香ちゃんは、まだ。
「俺は、小学生の女の子の笑顔一つ護れないような警察官にはなりたくねーのよ」
ふ、と陣平ちゃんが笑う。
「またハギらしいっつーかなんつーか……」
「けんじクンのそーいうとこ好きだけど、心配になるよねぇ」
背後から聞こえてきた声に振り返ると、蜜香ちゃんがいた。
萩原研二は生きているか
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生存(健康)
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生存(植物状態)
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死亡