翻訳傭兵の旅物語   作:おたま

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プロローグ

 

 

急な揺れで目が覚めた。節々がいたい。

 

舷窓からの光でほこりが舞っているのがわかる。

 

一日しかたっていないのに本の上にはほこりが積もっている。

 

 

嫌な夢を見た気がする。服が汗に濡れ気持ち悪い。

 

…そうだ。俺はアルバスまでの船旅中だ。

 

時間はいつだろうか……。翻訳の仕事しないと。

 

太陽の位置を確認するために船上に赴く。扉を開くと潮のにおいが強くなる。慣れた匂いだ。

 

『おはようございます。船長さん。どこまで進みましたか。』

 

「おお。カルロさん。おはようございます。もうあと1時間もすれば陸が見えますよ。以前のハルク船に比べてこのキャラベル船は格段に速い。交易もやりやすいでしょう。積載量も多いので協商同盟さんもすごいのをつくりましたね。」

 

『ええ。本当に私としては舷窓が新しくついて、潮のにおいが軽減されてありがたいです。上司も儲かる儲かると笑みをこぼしていました。ちょっと上司の所に行ってきますね。陸が見えたら呼んでくれると助かります。』

 

「ええ。わかりました。報酬金の底上げは頼みますよ!頑張ってるんで!」

 

『伝えときますよ!』

 

そう言いながらキャラベル船後方の船長室に向かう。ノックを三回。

 

船長室の中に入る。部屋一つ分の室内には大きな机とドアが二個ある。机の上には我々が住む『大陸』の地図があり、航路が書かれている。私が所属している協商同盟の都市であるヴェネクトから早1か月。

巨大な内海であるエルゲ海を抜け、マイル島、サルデ島を抜けここ教皇国の首都であり聖地。『アルバス』に到着しつつある。

 

「カルロです。起床報告に参りました。」

 

「おう。きたかカルロ。いつもよりも早いな。なんだ、嫌な夢でも見たか。」

 

この人はアベーラさん。私が所属している協商同盟の商人で俺の直属の上司だ。

 

「はい。ちょっと夢見がわるくて。って、なんでわかるんですか。」

 

「ハハハ、お前が早く来る予感がしてな。で、船長からあと何時間くらいに着くかは聞いたか?お前しか話せる奴はいないからな。よろしく頼んだぞ。」

 

俺は頷く。この船を操縦しているのは雇った船員たちだ。我々が主に話す”フィア語”ではないので、意思疎通ができるのは『翻訳』の能力を持つ俺だけだ。

 

「……で、だ。悪いんだけど、商品のこの、ツボ。間違って割っちゃっててな…?……あー。申し訳ないんだが、直してくんね?」

 

顔に笑みを浮かべながらそう話される。この人は長い付き合いだ。かれこれ10年にはなるか。相も変わらず不器用なことだ。

 

ため息を喉にとどめ、ツボの破片に手をかける。集中すると飛び散った破片が一か所に戻っていく。目を開ければ、ツボが元に戻っていた。

 

「相変わらず便利なスキルだなぁ。時間戻しだっけ?お前の翻訳も便利な能力で羨ましいぜ。」

 

「ありがとうございます。後、船長さんが言うには1時間後くらいに着くらしいですよ。キャンベラ船ってこんなにも速いですね。」

 

「そうだな。早く仕事も終わるだろうからのんびりできる時間はあるだろう。いつも道理、翻訳と通訳仕事を頑張ってくれよ。」

 

「いつも道理頑張りますよ。」

 

船長との翻訳と通訳の仕事も終わり、陸につくまでは暇になった。

 

やることもないし外にいれば邪魔になるかもなので自分の部屋に戻る。

 

部屋に入ると自分のカバンから何度も読み、ぼろぼろになった伝承集を開いた。

 

 

~~ 防風『ベルハルザ』~~

 

第一紀630年

 

残虐なるアポーマーの本拠地である『アルバス』にて。

 

最初の反乱者『ザルーツ』率いる奴隷軍30万の大軍が大雨降るアルバスを攻め入ろうとした前夜。

 

指揮官の制止も聞かず防風『ベルハルザ』が40万のアポーマーが立て篭もるアルバスに単身で疾走を開始した。

 

白き髪、蒼い目。白き鎧を身にまとい、大剣を振りかざす『ベルハルザ』の走るところには暴風が起き、世界を制したアポーマの城壁でさえ立つことなどは無理であり彼の雄叫びは神話の龍の叫びの如くであった。

 

「見よ!我らが天使よ!我らが魔人よ!あなた方の加護でこんなにも憎きアポーマーを打ち払いました!我らの怒りを知れ!憎きアポーマーよ!この暴風は我らの怒りの表しである!」

 

城壁を抜けるとそこには荘厳な教会がある。白く美しいその教会にはそれに見合わない死骸が打ち捨てられてあった。人間種。エルフ種。ドワーフ種。オーク種。獣人種。ゴブリン種。

 

アポーマーの残虐非道の行為。奴隷の虐殺、そして骨を加工し、鳥を、犬を、豚を造る。「死骸芸術」があった。まだ熱がある。

この行いをしたものは近くにいるだろう。

 

『ベルハルザ』はその死骸を一つ残らず供養をしたのちに教会の奥に進む。行く先はその奥の邪神を祭る礼拝堂だ。

 

そこで祈る男が一人。黄金の鎧を身に着け、巨大な黄金の剣を掲げる。背は家よりも高くその声は低く貌は醜い。

 

虐殺の悦に浸るその男はアポーマ最強の戦士。軍団長『黄金のマンマゴル』

 

下卑た笑みを浮かべながらその男はいう。

「なぜ我らに抗う。なぜ我らに反抗する。お前たちのような醜く腐りゆく者は我らに飼われ芸術として死んでいった方がはるかに有益であろう。追放者よ。」

 

「我等の生はそんなものではない。我らには怒りがある。貴様らに殺された我が同胞の恨みがある。勝負せよ。『マンマゴル』よ。心醜きものよ。貴様に殺された者の恨みを感じながら死んでゆけ。」

 

風が吹いた。

 

黄金と白銀が衝突する。大剣が交差をし、火花が散った。

黄金が降りかかる。それを白銀が薙ぐ。白銀はその伸ばした腕を沈め、黄金に突く。

 

『硬質化』

 

そう言うと黄金の左腕は灰色となり白銀の大剣をつかんで止めた。

その腕をそのまま上にやり、白銀の大剣を押しとどめ、黄金の大剣で白銀の体を突き刺そうとする。

その瞬間に白銀から暴風が吹き黄金が吹き飛ぶ。

 

「これが憎き天使が与えた異能か。汚らわしい。」

 

「いやこれは祝福だ。」

 

黄金は叫びながら剣を振りかざす。何度も、何度も。

 

いなしていた『ベルハルザ』が途中、上段からくる大剣を腕で受け止めた。いや。大剣ではなく『マンマゴル』の腕を左手で受け止めたのだ。右腕を切り払うと

 

「我らの恨み!思い知れ!」

 

『ベルハルザ』の剣は『マンマゴル』の腹部に深く刺さった。痛みにうめくマンマゴルをしりめに腹を喉を顔を何度も貫いた。

 

マンマゴルは絶命した。

 

その瞬間。ベルハルザの背中に向けて矢が放たれる。アポーマの兵が辿り着いてきたのだ。

 

背中に矢が向かう。だがその瞬間に風が吹いた。

 

矢は教会の壁に突き刺さる。ゆっくりとベルハルザはアポーマーたちに向いた。

 

『ベルハルザ』は嵐の咆哮を放つとアポーマーに突撃した。

 

その後にはベルハルザが単身突撃をしたと聞き、追いかけて来た最初のミノタウロス『ツオン・オールド・リグ』は、山のように連なったアポーマーの死体の上にたたずむ『ベルハルザ』を見た。

 

恐る恐るツオンがベルハルザのに近づき肩をたたいても動きはしない。

 

『ベルハルザ』息絶えていたのだ。死んでもなおアポーマーに立ち向かわんとした防風『ベルハルザ』は奴隷反乱。

 

『氾濫戦争』において単身でアルバスを攻略した最強の英雄として1000年たった今でも永く語り継がれているのである。

 

 

 

 

 

 

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