トロールの襲撃から早2週間。
ドラゴニアは目前だ。
あの後はベルハルザがさらに二匹倒し、レーアさん率いる若騎士10人がトロールを倒した。
最後に放った銃弾のほとんどが命中。膝をついたトロールに若騎士たちが押し寄せてトロールは倒れた。
脅威は去ったので俺たちはほっと一息。
だがレーアさん達はベルハルザの余りにも凄惨な戦いぶりに挙動不審になっている。
挙動不審というか、遠巻きでベルハルザを監視しているというか、観察しているというか。
当のベルハルザは何食わぬ顔をしている。いや気づいてないのかもしれない。
呑気だなあ。
まあ、あんな闘い方を目の前で見たら挙動不審になるのも無理はない。
グロッキーになっている騎士達もおり、戦っている最中は興奮しているからまだなんとかなっていたが戦闘が終わり冷静になったとたんに何人かは茂みに隠れていっていた。
俺らは馬車の中に隠れていたので死体は目視していないので吐くことはなかったが、臭いだけもえげつなかった。
一つ気になるところがあったとすれば俺とアベーラさんが臭いでグロッキーになっていた時アリシアだけが臭いを感じても何もないように絵に集中していたことだ。
一つのことに集中するタイプなのかもしれないが、あそこまで濃厚なにおいに気づかないのは可笑しい気がする。もしかして、血の匂いに慣れているのかもしれない。
本当アポーマーの元にいたのなら死体なんて慣れているだろうし、信ぴょう性が増しているような気がする。
「ねえねえ!カルロ!ドラゴニアってどんなとこなの!?」
「…ん?あぁ、すまん。考え事してて。もう一回言ってくれ。」
「だから、ドラゴニアって何があるの!?」
思考が返答の方に移り変わる。
まあ、この子は凄まじい集中力のある子だからな。そういうことにしておこう。
ドラゴニアかぁ。あそこは娯楽と言える娯楽はないんだよな。
住んでいる住民のほとんどはドワーフと竜人でドワーフは鍛冶仕事に夢中だし、竜人は竜人で鍛錬に夢中で娯楽施設なんて酒場くらいしかない。
「んー、ドラゴニアは昔に住んでたって言われてるアズマキシの文化があってな。今までない建物とかがたくさんある。リュウジンゴショや、ウンリュウ広場。後はドラゴニア神殿かな。」
「ドラゴニア神殿?」
「うん。ドラゴニアの真ん中にあるとてもでかい神殿で、伝説によれば龍神が神殿の中で眠りについているらしい。」
龍神。第一紀において東に逃げてきた奴隷たちに対して祝福を施した存在。
太古の昔から存在しており文献もほとんど残っていない。
龍神の寝所には大神官しか立ち入れないと言われており、その大神官達も龍神ついては何も語らない。
世界を消滅させれるとか、実はもういないとか。勝手な憶測もされている。
「はえ〜、龍神、様?ってどんな感じなの?」
「どんなか〜いろいろ言われてるけど、赤くて山のようにでかいとか。目覚めたら世界が崩壊するとか…。」
「えーっ!そんなのいるの!?目、覚めちゃったら大変じゃん!神殿行けないよ!」
この子は相変わらずリアクションが無邪気で可愛いな。
「大丈夫だよ。ずっと目覚めてないらしいし、俺たちが行ってもなにもないって。」
「ならいいけど…。じゃあ、他は!」
「他かぁ…。うーん。」
本当にドラゴニアには大衆的な娯楽施設はないんだよな。
「じゃあメザメイワはどうだ?」
「アベーラさん。」
「メザメイワ?」
「あぁ。メザメイワ。ドラゴニアの東の山の上にある奇岩だ。めちゃくちゃでかい岩なんだが、真ん中にぽっかり大穴が空いていているんだ。それで、朝になると朝日がその穴に入るんだ。
それがまあキレイでな。俺のおすすめスポットだ。」
「え〜、なんか微妙。」
「俺のときだけそんな反応かよ…。本当にきれいなんだぞ!こう、ボケ〜って見てると入った光が徐々に動いてな!」
「ジッとしてるのやだ〜!」
じゃあ、もうドワーフの工房くらいしかないぞ。」
「ドワーフ?なに?」
「ドワーフは俺等よりもちっちゃい種族でな、鍛冶仕事が得意なんだ。ベルハルザの鎧を直しに行くから、なんか面白いことがあるかもしれんぞ。」
「面白いことって?」
「…さあ?」
さぁってナニさ!と、アベーラさんとアリシアがじゃれ合っている。二人がなにか言い合いをしている最中もベルハルザはボケーっと外を見ている。いや寝てるのかもしれない。
いやはや。うるさい。
「皆さん!ドラゴニアが見えました!」
そうレーアさんが外からいう。ベルハルザの肩に手を置き身を乗り出す。
まず見えるのは一本道とドラゴニア神殿。そして山だ。山の名前は分かりやすく東山、西山、真山。
三つの山のふもとにあるドラゴニアの正面には大道りがありその先。真山の麓にドラゴニア神殿がある。
ドラゴニア神殿は世界でも珍しい木造で作られている神殿だ。しかも釘も使われていないという。
周囲に四角い城壁に囲まれており真ん中に本殿で、龍神が眠っているとされる龍神殿。鐘楼。巨大な大門等々。
今までにはない美しい神殿が遠くから見える。残念ながら敷地内には入れないが入り口から見るのも乙なものだ。
他には過去のアズマキシがいたころの建物を再現したアズマ旧市街だ。美しいアズマシキ建築で建造された旧市街は白黒、時々赤の風情ある風景が楽しめる。
その旧市街ではドワーフの鍛冶場が多く、歩いているとカンカンといった鉄を打つ音が至る所から聞こえるらしい。
俺は何度かここには訪れているがすぐに出発していたのでしっかりと観光したことはない。
楽しみだ。
『…重い。』
「皆様!長旅お疲れさまでした!ここで一週間の滞在の後、ヴェネクトに帰還いたします。では!」
商売相手に荷下ろしも終わり、協商連合の支部にも報告を終えた。
あとはフリーの時間だ。
そうレーアさんが言うと若騎士達は宿舎の方に向かう。ベルハルザも。
「ベルハルザも休むのか?」
『…いや、彼らがな。鍛錬に付き合ってほしいと言うのでな。少し付き合う。』
「へぇ。お前が教えられるのか?」
『…無理だが…。頼まれたからな。観光はお前らだけで行ってこい。どちらにせよこの見た目じゃ怪しまれるだけだからな。』
「そっか。大怪我はさせるなよ〜!」
そう俺が言うとベルハルザは左手を振る。
鎧脱げばいいのに。
それにしてもベルハルザがねぇ。
若騎士達がちょくちょくベルハルザを見ていたのはまさか教えを請うためとは。
しかも受けるとは。あいつもだいぶ変わったものだ。
「おーい!カルロ〜!ベルさんは〜!」
「ベルさんは騎士さんたちと一緒に鍛錬だって!」
「そっか!まだ昼だから、夕方になるまで辺り見に行こ〜!」
「鍛錬ね。へぇ珍しいこともあるもんだ。じゃあ早く行こうぜメザメイワ!」
「行かないよ!そんなとこ!」
「酷くない!?」
血生臭さが酷い。暗く、静かなところで人型は2つは会話をする。
『宝石騎士殿。リーアとドラゴニアの襲撃準備が終わりました。』
『そうか。やっとか。ようやく復讐が始められるということだな。』
えぇ。と相槌を打つ。
愉悦を顔に含んで嗤う人型は赤かった。赤の鎧を身にまとう人型だ。
手には人の大きさほどの戦鎚を持ち近くにある死体に振りかざす。
『あぁ!あぁ!我らの帰還の時だ!邪神様に復活させていただきこの様な美しい体にしていただいた!
供物を用意しなくてはいけないな!』
えぇ。その通りです。とそちらの人型も愉悦を押し殺すことは出そうにはない。
『供物はもお前に任せる。リーアの街を任せるぞ。私はドラゴニアに行く。』
赤の人型は身を反転させ入り口に赴く。
かしこまりました。ともう一つの人型は逆方向に歩みを進める。
歩く度に赤の人型からは肉が腐り落ちる。その度に内から肉が生み出されまた落ちていく。
『あぁ。私の体からはよい匂いがする。素晴らしい。奴隷共に啓蒙しなくては。この美しさを!身の程を!』