迷宮に果てを求めて   作:ジャッキー007

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話を練ったりコロナにかかったり、ディスガイアrefineでちまちまレベリングしてるうちに新年明けちゃった...



見えぬ未来に思いを馳せて

アイズ・ヴァレンシュタインにとって、強くなるということは、今までの人生の全てと言ってもよかった。

 

まだ幼い頃、父と母を奪った黒い龍。

 

それを討ち倒すことが、アイズの目的でもあり

そのために、強くなることに貪欲に生きてきた。

 

それが自分の生きる目的となっていた。

 

だから

 

フガクの放った言葉の意味を、最初は理解できなかった。

 

 

 

「私のやりたいこと、の…先?」

 

穏やかな風が吹くなか、アイズの呆けた声だけが響いた。

その言葉に小さく頷くと、フガクは不意に話を聞いていたベルへと視線を向ける。

 

「あぁ…。クラネル、お前さんは英雄になりたいって言っていたよな?」

 

「ふぇっ?!は…はい」

 

急に質問されたベルは驚くも、フガクの質問におずおずと頷いて見せる。

その様子を見ると、フガクは更に言葉を続けた。

 

「なら…英雄になった後、お前さんは何がしたい?」

 

「英雄になった後…」

 

「自分の目的を達してめでたしめでたし…なんて、本のように終わるわけじゃねぇ。人生は、それから先も…それこそ、自分が死ぬまで続く」

 

「英雄譚の登場人物だってそうだ。話はそこで区切られちゃあいるが、その先にゃ誰も語ってねぇ、その後の人生ってもんがあるだろう」

 

フガクの言葉を、誰もが黙って聞いていた。

その言葉に、誰もが確かに、と考えた。

 

人生とは、生まれてから死ぬまで続く。

自分たちが生きている「今」は、その長い人生の中のほんの一幕に過ぎないのだ。

 

だが、そんな人生を生きる者たちの中で。

目的を達した先のことを考えている人間が、どれだけいるだろうか?

 

「殤さんは、考えたことがあるんですか?自分の目的を遂げた、その先を…」

 

「あぁ。一度は考えたことがあるが…解らなかった」

 

「解らないって…」

 

ベルのその問いかけに、あっけらかんと答えたフガクの言葉に、唖然とした。

説教じみたことを宣っておきながら、当の本人は解らないと言うのだから当然だろう。

 

「そりゃそうだろう?強さの果てなんざ、誰も至ったことのないものを目指してるんだ。何年かかりゃ辿りつけるか…それどころか、生きてるうちに辿り着けねぇ可能性の方が高い」

 

「その道を極めようとするってのは、例えるなら広大な海原を小舟で進むようなもんだ。どれだけ進んでも終わりが見えやしねぇ…だから、俺の答えは『解らねぇ』だ」

 

フガクはその言葉を最後に話を切り上げ、その日は全員解散することとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の晩、場所は変わってロキ・ファミリアの拠点である黄昏の館。

 

「私の…したいこと…」

 

アイズは1人、中庭のベンチに座って空を眺めていた。

 

昼間のベルの特訓が終わってから、フガクの言葉が頭から離れない。

黒龍を討ち倒した先、自分がやりたいものと言うのが、アイズには想像することができなかった。

 

拠点に帰る途中、アイズは本屋に立ち寄った。

普段はあまり入ることがない店内に所狭しと置かれていた本の中から手に取ったのは、一冊の物語。

どこにでもある、ありふれた物語だ。

 

それを購入し、ベンチで読み…ちょうど今、それを読み終えたばかり。

 

感想、と言うものはこれと言うものはない。

昔、一度は読んだことのあるものだからそうだろう。

 

だが、物語を締めくくる言葉。

 

『こうして、彼女は幸せに暮らしていきました』

 

そう綴られた言葉から、目が離せなかった。

 

 

フガクは言っていた。

物語の登場人物にも、締め括る言葉の先には、語られていないだけでその後の人生が続いていると。

幸せに暮らしたとは書いているが、新たに自分のやりたいことを見つけ、そのために歩んだのだろう。

立ち塞がる困難を乗り越えたのかもしれない...あるいは、屈してしまったのかもしれない。

だが、それをアイズはおろか、読者は知る由もない。

なぜならば、そこから先の物語は描かれていないのだから。

 

それから、アイズはずっと考えた。

これから先、何がしたいのかと。

しかし、その答えはどれだけ考えても浮かび上がらなかった。

 

「アイズ、こんなところでどうした?」

 

「リヴェリア…」

 

そんなアイズに、リヴェリアが声をかけた。

杖を持っていることから、ダンジョンからの帰りなのだろう…そうアイズは思い、そして、思った。

知識の豊富なリヴェリアならば、何か糸口のようなものを聞けるのではないか、と。

 

 

 

 

「そうか…彼がそのようなことを…」

 

思い切って、今日あった出来事をアイズから聞き終えたリヴェリアは、小さく言葉を洩らした。

話を終えたアイズは、リヴェリアを見て問いかけた。

 

「リヴェリアは、世界を旅したいんだよね…」

 

「あぁ、ゆくゆくはオラリオを出て、私も知らない世界を見るために旅をするつもりだ」

 

「じゃあ、世界を見終わったら…リヴェリアは、何がしたい?」

 

アイズの問いかけに、リヴェリアは考える。

自分がエルフの里を出たのは、未知の世界を見て回ると言う理由のほかに、エルフの価値観に耐えられなかったと言うものがある。

そうして里を出たものの、こうして冒険者となっていることは当初の目的ではなかったが…世界を見て回りたいと言う思いは失っていない。

 

そして、世界を旅したあと…。

 

「解らないな」

 

「リヴェリアでも…?」

 

リヴェリアの言葉は、アイズにとって意外なものだった。

 

「先のことを考えることは確かに大事だ…だが、誰もがその時にならないと解らない。今はこれがしたいと思っていても、後になって違うことがしたくなった…など、よくあることだろう?」

 

「それは…そうだけど」

 

リヴェリアの言葉に、アイズは頷く。

その、どこか納得できないと言いたげな表情に小さく笑みを浮かべ、リヴェリアは優しくアイズの頭を撫でた。

 

「急いで考えることはない。これから時間をかけて、ゆっくりと見つけていけばいいんだ」

 

「…見つかるかな?」

 

「あぁ…いつか、見つかることを願っているよ」

 

ずっと強さだけを求めてきたアイズの、ほんの些細な、それでいて大きな変化。

脇目も振らずに歩みを続ける彼女が、わずかに視界を広げたことを祝福するかのように、2人の頭上には美しい満月が昇っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…柄にねぇ事を話しちまったな」

 

夜空に浮かぶ月を眺めながら小さく呟くと、フガクは手にしていた盃を傾ける。

 

剣の腕を磨き、その果てに到る。

そのために世界を回り、その道中でオラリオに訪れた。

 

自分自身が未熟でありながら、説教めいた話をしてしまった事を改めて反省する。

 

だが、悔いてはいなかった。

 

ベルたちに話をした日、フガクが見たアイズの目は、ただ一つの事に全てを賭ける者の目だった。

その手の人間はこれまで幾度か見てきたが、そのどれもが、己が全てを投げ打ってまで成し遂げたい事を終えたのち、燃え尽きたような空虚さを漂わせていた。

それこそが生きる糧であり、それを失い自ら命を絶った者も見てきた。

中には、自分よりもまだ若い、それこそ…これから先、まだ未来のある子供も居た。

 

だからこそ、放ってはおけなかった。

目的を成し遂げるのに、どれだけの年月が掛かるか解らない。

だが、それが終わっても人生は続くのだ。

 

過去につらい事、悲しいことがあったのだろう。

だが、その過去に決着をつけた者が未来に希望を見出さないのだけは、フガク自身許せるほど人間ができていなかった。

 

今はまだ解らなくたっていい。

手にしていた剣を手放し、鍬に持ち替えたって良い。

 

少しでも、その視線を先に向け、視野を広げれば。

一本にしか見えなかった人生は、無数の未来に枝分かれしているのだから。

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